企業法務戦士の雑感 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2009-12-02

[][][]最高裁の叡智はどこへ?

政党ビラ配布のためにマンションに立ち入ったことが住居侵入罪にあたるかどうかが争われていた事件で、最高裁高裁判決を維持し、被告人側の上告を棄却した。


平成19年12月の東京高裁における本件の逆転有罪判決(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20071211/1197471861)、昨年出された立川防衛庁官舎ビラ配布事件の最高裁での有罪(上告棄却)判決(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20080417/1209978729)と、ビラを配る側にとっては厳しい判決が続いていたから、今回の結果もある程度予想できた話ではあるのだが、それにしても・・・という思いは残る。


最二小判平成21年11月30日(H20(あ)13号)*1


本件で問題になったのは、マンションの共用部分に被告人がビラ配布のために立ち入った行為であった。


最高裁は、判決文において、本件マンションの構造や玄関出入口の状況について、以下のように認定している。

「本件マンションは,東京都葛飾区亀有2丁目所在の地上7階,地下1階建ての鉄筋コンクリート造りの分譲マンションであり,1階部分は4戸の店舗・事務所として,2階以上は40戸の住宅として分譲されている。1階の店舗・事務所部分への出入口と2階以上の住宅部分への出入口とは完全に区分されている。」

「2階以上の住宅部分への出入口としては,本件マンション西側の北端に設置されたガラス製両開きドアである玄関出入口と,敷地北側部分に設置された鉄製両開き門扉である西側敷地内出入口とがある。住宅部分への出入口である玄関出入口から本件マンションに入ると,玄関ホールがあり,玄関ホールの奥にガラス製両開きドアである玄関内東側ドアがあり,これを開けて,1階廊下を進むと,突き当たりの右手側にエレベーターがあり,左手側に鉄製片開きドアである東側出入口がある。東側出入口から本件マンションの敷地内に出ると,すぐ左手に2階以上に続く階段がある。」

「玄関出入口付近の壁面には警察官立寄所のプレートが,玄関出入口のドアには「防犯カメラ設置録画中」のステッカーがちょう付されていた。」

「玄関ホール南側には掲示板と集合ポストが,北側には同ホールに隣接する管理人室の窓口があり,掲示板には,A4判大の白地の紙に本件マンションの管理組合(以下「本件管理組合」という。)名義で「チラシ・パンフレット等広告の投函は固く禁じます。」と黒色の文字で記載されたはり紙と,B4判大の黄色地の紙に本件管理組合名義で「当マンションの敷地内に立ち入り,パンフレットの投函,物品販売などを行うことは厳禁です。工事施行,集金などのために訪問先が特定している業者の方は,必ず管理人室で『入退館記録簿』に記帳の上,入館(退館)願います。」と黒色の文字で記載されたはり紙がちょう付されていた。これらのはり紙のちょう付されている位置は,ビラの配布を目的として玄関ホールに立ち入った者には,よく目立つ位置である。」(1〜2頁)

立川の旧防衛庁官舎が、防衛庁関係者が居住する特殊なエリアとしての性格を帯びていたのに対し*2、本件で問題になった建物は、どこにでもありそうな普通の集合住宅である。


管理組合名義で張り出されていた「張り紙」等の中身にしても、ありふれたものに過ぎない。


それにもかかわらず、裁判所は、被告人・弁護人側の主張にほとんど耳を貸すことなく、原審の有罪判決を維持した。


確かに、本件での被告人の行為は、

「被告人は,平成16年12月23日午後2時20分ころ,日本共産党葛飾区議団だより,日本共産党都議会報告,日本共産党葛飾区議団作成の区民アンケート及び同アンケートの返信用封筒の4種(以下「本件ビラ」という。)を本件マンションの各住戸に配布するために,本件マンションの玄関出入口を開けて玄関ホールに入り,更に玄関内東側ドアを開け,1階廊下を経て,エレベーターに乗って7階に上がり,各住戸のドアポストに,本件ビラを投かんしながら7階から3階までの各階廊下と外階段を通って3階に至ったところを,住人に声をかけられて,本件ビラの投かんを中止した(以下,この本件マンションの廊下等共用部分に立ち入った行為を「本件立入り行為」という。)。」(2〜3頁)

というもので、巷で良く見られるような「玄関ホールの集合ポストにビラを投函した」というレベルにとどまるものではない。


内容がどんなものであれ、私的空間としての性格が強い共同住宅の廊下部分で見知らぬ人間がビラを配っていたら、誰でも警戒するだろうし、勘弁してくれ・・・という思いになるだろう。


その意味で、

「以上の事実関係によれば,本件マンションの構造及び管理状況,玄関ホール内の状況,上記はり紙の記載内容,本件立入りの目的などからみて,本件立入り行為が本件管理組合の意思に反するものであることは明らかであり,被告人もこれを認識していたものと認められる。そして,本件マンションは分譲マンションであり,本件立入り行為の態様は玄関内東側ドアを開けて7階から3階までの本件マンションの廊下等に立ち入ったというものであることなどに照らすと,法益侵害の程度が極めて軽微なものであったということはできず,他に犯罪の成立を阻却すべき事情は認められないから,本件立入り行為について刑法130条前段の罪が成立するというべきである。」(3頁)

という本判決の結論が不合理である、とまでは言えないように思う*3


だが、最二小判平成20年4月11日をなぞるような以下のくだりは、やっぱりどこか引っかかる。

「確かに,表現の自由は,民主主義社会において特に重要な権利として尊重されなければならず,本件ビラのような政党の政治的意見等を記載したビラの配布は,表現の自由の行使ということができる。しかしながら,憲法21条1項も,表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく,公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものであって,たとえ思想を外部に発表するための手段であっても,その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されないというべきである最高裁昭和59年(あ)第206号同年12月18日第三小法廷判決・刑集38巻12号3206頁参照)。本件では,表現そのものを処罰することの憲法適合性が問われているのではなく,表現の手段すなわちビラの配布のために本件管理組合の承諾なく本件マンション内に立ち入ったことを処罰することの憲法適合性が問われているところ,本件で被告人が立ち入った場所は,本件マンションの住人らが私的生活を営む場所である住宅の共用部分であり,その所有者によって構成される本件管理組合がそのような場所として管理していたもので,一般に人が自由に出入りすることのできる場所ではない。たとえ表現の自由の行使のためとはいっても,そこに本件管理組合の意思に反して立ち入ることは,本件管理組合の管理権を侵害するのみならず,そこで私的生活を営む者の私生活の平穏を侵害するものといわざるを得ない。したがって,本件立入り行為をもって刑法130条前段の罪に問うことは,憲法21条1項に違反するものではない。このように解することができることは,当裁判所判例(昭和41年(あ)第536号同43年12月18日大法廷判決・刑集22巻13号1549頁,昭和42年(あ)第1626号同45年6月17日大法廷判決・刑集24巻6号280頁)の趣旨に徴して明らかである(最高裁平成17年(あ)第2652号同20年4月11日第二小法廷判決・刑集62巻5号1217頁参照)。所論は理由がない。」(3-4頁)

これだけ読むと、「住宅の共用部分であり」「そのような場所として管理していた」場所に、「管理組合の意思に反して立ち入る」行為は、いかなる場合であっても、刑法130条前段の罪に問われることになりそうだし、その場合に、それが憲法21条1項に違反することはない、ということになりそうである。


だが、表現の自由の行為の一態様といえるビラ配布を、住居侵入罪で処罰することが憲法適合的、といえるのは、本件のような、プライベート性の強い領域に立ち入った場合に限られる、というべきで、いかに「ビラ投函禁止」という張り紙が貼られていたとしても、通常の郵便物が投函されるような「玄関ホールの集合ポスト」にビラを入れる程度の行為まで安易に処罰されることになれば、やはり弊害は大きいと言わざるを得ない。



先の衆院選の際に、追いつめられた前・政権与党が、ほとんど誹謗中傷に近いような小冊子を筆者の住むマンションにポスティングしていたのは記憶に新しいところだし、決して、現政権与党に好意的な感情を持っていなかった自分でさえ、そのような小冊子がポストに投げ込まれた時は、かなりの不快感を抱いたものである。


だが、だからといって、それが「集合ポストへの投函」の域を出ていない以上は、被害届を出して、そのような行為をした者に対して刑事罰を求めるような真似はすべきでないだろう。そしてそれは、政党のビラだろうが、ピザ屋のチラシだろうが、同じことである。


今回の判決が、ポスティングの世界にどのような影響を与えるかは分からないが、本来の射程を超えて、人々を過度に萎縮させるようなことにはくれぐれもならないように・・・と願っている。

*1:第二小法廷・今井功裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091130111736.pdf

*2:ゆえに建物の構造如何にかかわらず、そこで多くの関係者と相反する思想に基づくビラを配布すること自体が問題とされる余地がある。

*3:これまでの報道等では、上記のようなマンションの構造や、実際のビラ投函態様について十分に伝えられておらず、「マンションへのビラ配りが住居侵入罪になった!」という抽象論だけが独り歩きしていたように思う。

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