企業法務戦士の雑感 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2010-12-31

[]2010年12月&通年のまとめ

そんなこんなで、今年も間もなく終わり。

23時時点の数字では、12月の月間ページビューは34000件弱、ユニークユーザーは20000人強。

そして、年間のページビューを合計すると、38万4000件強、対前年比1万9000件プラスくらい、という数字で、今年も大変多くの方々にご覧いただけたことに、まず感謝申し上げないといけない。

<検索語(単語)ランキング・12月>

1.→ 企業法務戦士 292

2.↑ 裁判 151

3.↓ 企業法務 144

4.圏外スチールプランテック 106

5.圏外高橋大輔 105

6.↓ 弁護士 82

7.↓ 商標 77

8.↓ 企業内弁護士 70

9.↓ 著作権 67

10.↓ 法務 64

スチールプランテックについては、控訴審の判決も出ていたのだが*1、まだアップしていないのが申し訳ないところ。

なお、例年、通年の検索語ランキングをやろうとして、履歴が残っておらずガッカリ・・・ということが多かったので、今年は既に1月から手を打っていた(笑)(ランキングは以下のとおり)。

<検索語(単語)ランキング・2010年>

1.企業法務戦士   4735

2.企業法務     1360

3.弁護士      1053

4.法務        933

5.商標        823

6.企業内弁護士    713

7.著作権       708

8.企業法務戦士の雑感 644

9.猪狩俊郎      574

10.裁判        555

8月、9月だけでベスト10に入った故・猪狩俊郎弁護士

それだけ、不慮の逝去のニュースが衝撃的だった、ということなのだろう。

それ以外は見なれたキーワードが並ぶ。

来年もブログのコンセプト自体を大きく変える予定はないので、引き続きご愛読のほどを・・・。

それでは、また来年。

[][]ターニングYear

傍からは順調のように見えても、(心情的には)山あり谷ありだった「2010年」が間もなく終わる。

一昨年、昨年と、人生の節目、区切りになるような大きな出来事が立て続けにあったことを考えると、今年は決定的なインパクトに残るような出来事はなかったように思うし、一見、大きな「変化」のように見えることでも、実際には、それ以前から予定調和的に定まっていた道の上を歩いているだけ、だったから、そこに“10月の奇跡”や“3月の涙”*2のような、ドラマティックな感動を求めるのは、ちょっと無理があった。


もっとも、一つ挙げるとすれば、今年、名実ともに“管理職”という立場になったことは、それなりに大きな変化だった、と思う。

勤務時間の縛りがなくなった*3、とか、給与面が(多少なりとも)良くなった、ということはさておき、それ以上に、

「これまで、自分のテクニックで切り抜けることで評価されてきたような場面でも、誰か部下を絡ませてそいつを育てながら・・・という形で処理していかないと、評価されなくなった」

というのが一番大きかったところ。

これまでも、効率的に仕事を片付ける上で、適度に周囲に“ボールを散らす”というのは、それなりにやっていたのだけれど、ややこしい話になると単独で強行突破してしまった方が早かった、という現実もあったわけで、それが物理的にも*4、“あるべき論”としても許容され難い環境になったときに、どうやって、これまでと同じような仕事量と効率をキープするのか*5、というのが、今年一番頭を悩ませていたことだった。

もちろん、「法務」という部門を背負って*6、“子分”を引き連れて他の部署に乗りこんでガンガンやり合ったり、会社という巨大組織を動かす綱引きを差配したり、というマネジメント層ならではの面白さもあるし*7、チーム内での担当者との距離感も、時間が経つにつれて、少しずつ掴めてきたかなぁ、と感じているところでもある。

ただ、それまで、担当者として遮二無二やっていた時はそんなに気にならなかった「組織の限界」*8を、立場が変わったがゆえに、ちょっとずつ意識せざるを得なくなっているのも事実。

自分がゴールを狙える位置にいるのに、あえてパスを出すことが推奨されるもどかしさや、自分の力を最大限発揮できるポジションはここではない、と分かっているのに、チーム全体のバランスを考えて、収められたポジションの役回りに徹することを余儀なくされるがゆえの不完全燃焼感。

今年の後半の数カ月は、自分が理想とするパフォーマンスと、現実とのギャップとのギャップにさいなまれながら過ごした、といっても過言ではなかっただろう。

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[][][]今年の紅白は・・・

とにかく副音声が面白い(笑)。

元々、台本通りで面白みもなんもない“表”のMCの堅っ苦しさを、こういう形で中和するとは考えたなNHK・・・。

しかも、演歌歌手が歌っている時間帯もチャンネル変える気を失せさせる、この巧みな視聴率確保戦術。

これは率直に称賛しなければなるまい。

まぁ、今年の音楽界の潮流如何にかかわらず、定番の演歌歌手もAKB48も、同じ時間の枠の中で勝負させているあたりが、相変わらず、って言えば相変わらずなんだけど*9

P.S. 小林幸子の今年の豪華なセットは、今年から出られなくなった人の予算まで吸収したがゆえ、のものなんだろうか・・・?

*1:しかもその結論がまた面白いのだが・・・。

*2:あくまで自分の中だけで使ってるフレーズなので、読者の方には何のことやらわからんと思いますが・・・すみません。

*3:その割には、悪しき“管理職たるもの・・・”精神のおかげで、会社に束縛される時間はかえって担当者時代よりも長くなったような気もするのだけど。

*4:担当する仕事の範囲が広くなっている上に、会議等に取られる時間も増えている分、管轄の仕事を全部自分一人でさばき切るのはかなり難しい、というのは事実。

*5:社内のクライアントは、それまでと同じような処理の質とスピードを期待して自分のところにお願いに来てくれるわけだから、最低限失望させない程度のクオリティと迅速さは維持しなければならないし、それができない言い訳として、「部下の出来の悪さ」を理由にするわけにもいかない(そもそも「部下の出来の悪さ」は、イコール「上司にマネジメント能力・教育能力が欠けていること」の裏返しに他ならない)。

*6:といっても、部長の代理の代理くらいのポジションでしかないのだが。

*7:もっとも自分の場合、ヒラ担当者の頃から、遠慮なく物は言ってたから、やっていることはそんなに変わっていないのだけれど・・・(むしろ守ってあげないといけない担当者がいる分、ちょっと守備的になっているところもあるかもしれない)。

*8:ここには、自分がいる会社が抱えている「限界」も含まれるし、そもそも、「組織」として大量の人間と共同歩調をとってやらないといけないがゆえの「限界」もある。

*9:聞きたいアーティストの曲に関しては、どうしても聞き足りなさが残ってしまうから、後で「YouTube」のプロモでも見ないと収まらん・・・。

2010-12-30

[]2010年の裁判アーカイブ

ブログ開設以来、毎年年末になるとこの手の企画をやっているのだが、今年はダメダメだった昨年に輪をかけて、個別判例の分析検討にまで手が回っていなかった(特に後半)*1状況なので、少なくとも今の時点での資料的価値は乏しいものにならざるを得ない*2

昨年のエントリー時の予告と同様、追って書き加えるものもあると思うので、半年後くらいにはもう少しましなものになっている・・・と思いたいところではあるのだけれど。

(なお、例年同様、↓で挙げるのは、実際に判決文そのものに接した事件だけである(報道からの憶測エントリーは含んでいない))

知財関連判例

◆オートバイレース写真職務著作事件

水戸地裁竜ケ崎支判平成21年6月26日(第一審)

知財高判平成21年12月24日(控訴審

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100124/1266069557

和光純薬工業職務発明事件

東京地判平成21年12月25日

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100202/1272739244

◆「ベロマーク」商標登録取消決定取消請求事件

知財高判平成22年1月13日

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100118/1264204448

◆「招福巻商標権侵害事件

大阪高判平成22年1月22日

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100201/1265034448

富士屋ホテル関係書籍著作権侵害事件

東京地判平成22年1月29日(第一審)

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100204/1265525229

知財高判平成22年7月14日(控訴審

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100715/1279423405

韓国楽曲カラオケ配信著作権侵害事件

東京地判平成22年2月10日

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100316/1282537272

北見工大研究報告書著作権侵害事件

東京地判平成22年2月18日(第一審)

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100812/1281938855

知財高判平成22年8月4日(控訴審

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100814/1281965388

韓国著作物貸与権侵害差止等請求事件

東京地判平成22年2月26日

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100409/1272821493

◆人材派遣業違法引き抜き事件

東京地判平成22年3月4日

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100429/1272787603

◆スチールプランテック競業禁止等請求事件

東京地判平成22年3月24日

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100506/1273163490

◆競業避止義務違反に基づく損害賠償請求事件

最一小判平成22年3月25日

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100327/1269799205

◆「シダモ」商標無効審決取消請求事件

知財高判平成22年3月29日

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100402/1271679899

◆写真無断貸出事件

東京地判平成22年3月30日

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100417/1273145791

◆「CLUBHOUSE」商標不使用取消審決取消請求事件

知財高判平成22年4月14日

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100415/1273141646

ラーメン「我聞」パブリシティ権侵害事件

東京地判平成22年4月28日

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100511/1273753683

◆鑑定証書添付用絵画コピー著作権侵害事件

東京地判平成22年5月19日(第一審)

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100705/1278344294

知財高判平成22年10月13日(控訴審

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20101018/1287418764

◆「やわらかい生活」シナリオ出版妨害禁止等請求事件

東京地判平成22年9月10日

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100923/1285478416

◆「切り餅」特許権侵害事件(追記H23.1)

東京地判平成22年11月30日

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20101201/1293983864

その他の注目裁判

◆パチンコ店営業妨害事件

札幌高判平成21年7月10日(最高裁差し戻し前の高裁判決)

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100723/1280891215

インターネット書き込み名誉棄損事件

最一小決平成22年3月15日

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100317/1268848765

◆NTTドコモ発信者情報開示請求事件

最一小判平成22年4月8日

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100413/1271503233

◆KDDI発信者情報非開示に対する損害賠償請求事件

最三小判平成22年4月13日

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100413/1271503233

◆日本IBM会社分割に伴う転籍無効確認請求事件

最二小判平成22年7月12日

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100713/1279471801

[]年末年始休暇ほど「休暇」らしくないものはない。

毎年思うことだけど、一年の終わりと初め、という、いろいろ慌ただしい時期に、まとめて「休暇」をもらったところで、有意義に使うのは難しい。

何となく部屋を片付けたり、手帳を整理したり、意味もなく大掃除してみたり、ブログの年間総集編を作ってみたり・・・そして、そのついでにドラマの総集編やら、歌番組やらバラエティ番組やら・・・を見ていたりすると、あっという間に一日一日が過ぎ去ってしまう。

年が明けたら明けたで、神社に行けば一日潰れる。

これならいっそのこと、中華圏の国のように、年末年始はギリギリまで仕事を入れるようにして、旧正月あたりにまとめて休暇を取れるようにしてもらった方が、いいんじゃないかと思ったり*3

ま、まとまった休みがあるからこそ、できること、したくなることも多いわけで、それに費やす時間も有意義な時間だ、と思えばいいのだろうけど、貯まっている仕事を片付けるには明らかに向いていないなぁ・・・と持ち帰った仕事の山を目の前にして思う。

こうなったら、きれいさっぱりあきらめて、腹をくくるしかないのかなぁ、と*4

*1:正確に言うと、分析している裁判例はあるのだが、それをブログモードで書き起こす余裕がない。

*2:第一審判決まではカバーできても、今年の後半に出された控訴審判決まではフォローできてない、なんてものも多い。

*3:少なくとも日々接している人々に年賀状を出す必要性は完全に失われるから、それだけでも“仕事”の効率化になるはず。

*4:一文字違うだけでエライ違いだ(苦笑)

2010-12-29

[][]果敢な挑戦者か、無謀な侵害者か?

年末も大詰めのこの時期に「自炊の森」なるレンタルスペースが秋葉原に仮オープンした、ということで、ネット上での議論もなかなか盛り上がっているそうである。

http://akiba-pc.watch.impress.co.jp/hotline/20101228/etc_jisui.html

いわゆる“自炊”用機材(高速スキャナ等)を店内に設置するだけでなく、裁断済み書籍も店内で提供し、対価を取って利用者に“自炊”させるサービス、とくれば、正常な感覚を持ったビジネスパーソンであれば、「著作権大丈夫か?」という危機感を抱くはずだが、今回の「自炊の森」が面白いのは、わざわざ、

知的財産権に詳しい弁護士と相談し、問題ない仕組みと判断した」

と公言して、自らの正当性をアピールしているところ。

しかも、自らのビジネスモデルの正当化根拠として、著作権法30条(私的複製)、同条1項1号に関する附則5条の2(「自動複製機器」の例外規定)と具体的な条文まで示して(いわば手の内を晒して)、あちこちから飛んでくるであろう批判と“打ち合う”姿勢を見せているものだから、またネット住民たちが盛り上がるわけで・・・。

まぁ、それなりの需要があるのは確かだろうし、“聖地”秋葉原に敢えてこのような店を設け、「適法性」を主張して、著作権業界の議論に一石を投じようとする勇気は、一応買ってあげても良いかな、と思う。

だが・・・

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2010-12-28

[][]だから言わんこっちゃない。

この年末になって、著作権実務(というか、録音録画補償金実務)に極めて大きな影響を与えるような判決が、東京地裁で出された。

「デジタル放送専用のDVDレコーダーなどの録画機器を巡り、著作権団体の私的録画補償金管理協会が東芝を相手取り、録画機の売り上げに応じて著作権料(私的録画補償金)約1億4千万円を支払うよう求めた訴訟の判決が27日、東京地裁であった。大鷹一郎裁判長は「メーカーが著作権料を集めて協会に支払うことは、法的強制力を伴わない抽象的義務にとどまる」として請求を棄却した。今回の判決を著作権政策全般に影響を及ぼしそうだ。」(日本経済新聞2010年12月28日付朝刊・第9面)

今年はフェアユースをめぐる議論の陰に隠れて、そんなに話題になることもなかった録音・録画補償金問題だが、思い返せば昨年著作権業界で一番ホットだったのは、この話題。

地デジ移行前年、ということで、対応テレビとともにDVDレコーダーもバカ売れしていただけに、SARVH(私的録画補償金管理協会)としては何としても勝ち戦にしたかったのだろうが、結果は案の定・・・である。

この訴訟が始まる前、このブログでは、著作権法の明文の規定を越えた解釈論を主張するSARVH側の姿勢を散々皮肉ってきた。

「本当にやるらしい」(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20091103/1257267467

東芝は日本でも戦っている」(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20091009/1255268806

「拳を振り上げるのは自由だが・・・」(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090511/1242057836

SARVHの強気の姿勢の背景には、訴訟の一つの大きな争点だった、

「「デジタル放送専用録画機」が補償金の対象機器かどうか」

という点に関して、文化庁課長の“お墨付き”があったことが大きかったのだろう。

だが、それ以前の問題として、そもそも著作権法104条の5の解釈上、メーカーが法的な補償金支払義務を負うのか、という点はかなり怪しかった、・・・というか、制度趣旨からしても、法令の文言上も、SARVH側の請求が認められる可能性は限りなく低かった。

もし仮に、「デジタル放送専用録画機」が「補償金の対象機器」であることが認められたとしても、そもそもメーカーに補償金支払いを法的に強制できない、という結論が出されてしまえば元も子もなかった*1わけで、いきなり裁判に訴える、というやり方は、やはり稚拙だったとのそしりを免れえないだろうと思う。

記事によれば、あの高名な久保利英明弁護士が、

「制度が形骸化すれば、権利者が個人から補償金を取り立てなくてはならなくなる」

と今回の判決を批判する趣旨(?)のコメントをされているようだが、実際の制度がそういうことになっているのだから、それは仕方ないだろう、というほかない*2


ちなみに、記事を読む限り、「対象機器」該当性については、

「デジタルDVDレコーダーは、利用者が著作権料を負担すべき機器に該当する」

という判断が示されているようだから、勝訴した東芝としても手放しで喜べるような状況ではないのだろうけど、SARVH側が控訴すれば、またもう一ラウンド争える可能性は出てくるわけで、その辺も含めて今後の展開が見どころである。


*なお、年末ということもあって判決文はまだ最高裁HPにアップされていないようなので、年明け以降、またキャッチアップしていきたいと思う。

*1:SARVH側としては、消費者に対して直接請求をかける、という非現実的な策を採らざるを得なくなるし、その範囲は「デジタル放送専用録画機」に限られない極めて広範囲な機器に及ぶことになる。

*2著作権法30条、104条の4が存在する限り、立法論としてはともかく、解釈論としては、「個人から取り立てることが制度趣旨に反する」という結論は導きようがないわけで、賢明な久保利弁護士らしからぬコメントだと思う。

2010-12-27

[]美しくない責任の押し付け合い

郵便料金不正事件における大阪地検の大失態の責任を取る形で、大林宏・検事総長が就任後約半年で辞任。

後任には来年早々に定年を迎えるはずだった、笠間治雄・東京高検検事長が就任、という話を聞くと、「人生どこで何が起きるか分からない」というありきたりなフレーズが思わず頭に浮かんでしまう*1

だが、24日に公表された最高検察庁の「いわゆる厚労省元局長無罪事件における捜査・公判活動の問題点等について(公表版)」というペーパーを見ると、検察組織が抱える問題の根っこは、トップの首をすげ替えたくらいでそうそう解決されるものではないのだなぁ・・・ということをしみじみと感じさせられる。

それも、ペーパーで指摘されている「問題点」そのものからではなく、“ペーパーのスタンスそのもの”からそう感じるのだから、何とも皮肉なことだ。

公表されたペーパー↓

http://www.kensatsu.go.jp/kakuchou/supreme/img/kensyou.pdf

メディアでは、今回最高検がこのような形でペーパーを公表したことについて、一定の評価を与えるむきもあるようだが、個人的な印象では、(短期間でまとめられたことを差し引いても)このペーパーが高い評価を与えられるようなものだとは思えない。

この辺は、企業の「第三者委員会報告書」とも共通する問題なのだが、ある不祥事の調査をするときに、「協力者」サイドからだけ積極的に情報を取って、組織と「敵対」する関係にある者*2からの情報収集をサボると、どうしても情報が偏り、一面的な分析しかできなくなってしまう。

今回の件に関しては、そもそも前特捜部長、副部長が、「否認中の被告人」という検察組織と真っ向から対決する立場にある人物だけになおさらその傾向が強いのかもしれないけれど、客観的な目で見れば、この調査結果、分析結果で収めてしまって良いのか・・・ということは、やはり誰しもが思うことなのではなかろうか。

新聞記事等でも取り上げられているが、上記ペーパーには、今回の前田検事の証拠改ざんの背景事情として、

「前田検事は、平成21年4月下旬頃、本件の主任検察官として捜査を始めるに先立ち、大坪部長から、「何とかA氏(注:村木氏)までやりたい。」、「前田君、頼むな。これが君に与えられたミッションだからな。」などと言われ、A氏を検挙することが最低限の使命であり、これを必ず達成しなければならないと感じた」(21頁)

というくだりがある。

さらに、このペーパーには、「大坪部長が」で始まるくだりが異常に多い。

「この捜査の当時、大阪地検特捜部では、本件の端緒となった郵便法違反事件の関連事件の捜査を並行して行っており、人員に余裕がなかったことから、検事正らは、他の検察庁からの応援を求めることを検討したが、大坪部長がこの体制で捜査を進めることができる旨述べたことから、応援を求める手続を採らなかった。」(17頁)

「大坪部長は、大阪地検特捜部長就任後、供述調書の写しは届けさせていたものの、主要な証拠物を自ら検討することはなかった。また、検察官を集めて捜査会議を開くこともほとんどなく、副部長には、実質的な関与をさせず、自ら主任検察官から直接報告を受けて指示を与えるなどしており、重層的ないし組織的な検討やチェックをさせていなかった」(22頁)

「大坪部長は、・・・特捜部所属の検察官が消極的な意見を述べることを好まず、その意向に沿わない検察官に対し、「特捜部から出て行ってもらう。」などといった理不尽な叱責を加えることもあり、そのことが、大坪部長に対し、消極証拠の存在や問題点を指摘したり、異なる観点からの捜査の実施を進言したり、捜査の継続に疑問を呈するなどの大坪部長の意向に沿わない意見を述べることを事実上困難にしていたものと考えられる。」(23頁)

といったようなところで・・・。

おそらく大坪前部長は、最高検の調査にも一切協力はしていないのだろうから、まさに“死人に口なし”状態なのだろうけど、それにしても組織的な問題について、ほぼすべての責めをこの前部長に負わせるというのは、いくら何でもやり過ぎだろうと思う*3

以前の本ブログのエントリーで、結局最高検は、大破綻した“村木元局長有罪ストーリー”に代わる新しい“ストーリー”を作っているだけではないか、と書いたことがあったが*4、このペーパーを見て、なおさらその思いを強くした。

また、ストーリーといえば、このペーパーでは、無罪となったA氏(注:村木氏)については、かなり慎重な表現を使っているものの、現在公判中のC氏に対しては、これまた“ストーリー“に則った記述がなされている。

「Cには、通常想定される中央省庁の係長の人物像とは異なる行動傾向があったことにも、注意を払う必要があった」(11頁)

とし、それに続けて、C被告人の「(ネガティブな)人物像」を記載した上で、(A氏の処分を決める上で)十分な吟味・検討をすべきだった、としているのだ。

内容の一部は、C氏自身が公判等で供述している内容に基づくとはいえ、これでは・・・という思いに駆られたのは自分だけではないはずだ。


「調査」である以上、何らかの結論を出すことは必要だと思う。

だが、一つの結論を導き出すためにストーリーを紡ぎ出そうとすれば、見過ごされてしまう何か、も必ず出てきてしまうのであって、それをいかに見落とさずに本質に近付くか・・・ということが何よりも大事になる。

今回のペーパーから、本質に近付く気概を少しでも感じ取ることができたなら、もう少し検察組織の未来に希望を感じることができたのだけれど・・・・

*1:昨年の白木・東京高裁長官の最高裁判事就任といい、最近の法曹界はこの種の話題に事欠かない。

*2:不祥事を起こした当事者やその関係者

*3:“理不尽な叱責”をする上司なんていうのはいくらでもいるが、だからといってそのような組織で常に不祥事が起きるというわけではない。むしろ、物分かりが良くて皆に愛されている上司だからこそ、大事な場面でかえってものが言いにくい、ということだってある。要は上司のパーソナリティに左右されず適正に職務を遂行できる組織を作るためにはどうすればいいのか、ということを考えないといけないわけで、今回のペーパーのように管理者の人格能力を批判したところで何の解決にもならない。

*4http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20101004/1286767344

2010-12-26

[][]雌伏の時を経て。

全日本フィギュアの女子シングルは、予想通り、というか、テレビ局やスポンサーの思惑通り、というか・・・

鈴木明子選手の逆襲にかすかな期待を抱いていた一視聴者の期待空しく、至極穏当な結果に収まってしまった。

“波乱”と言えば、浅田真央選手が、見た目には綺麗な流れで*1、最後まで会場の空気を支配していたにもかかわらず、いつものような爆発的スコアを叩き出すことなく、2位にとどまったことくらいか*2

まぁ、今大会に関して言えば、安藤美姫選手のフリーの出来が一番よかったのは間違いないところで、モロゾフコーチの“チャリンチャリン”方式的プログラム*3に辟易している自分が見ても、浅田選手より低い点を付けるわけにはいかないな、という印象だったから、その結果にも大して驚きはしなかったのだけれど。

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[][]ブエナビスタの悲運。

ローズキングダムの出走取り消し、というアクシデントもあり、ブエナビスタが人気を一身に背負って臨む形になった今年の有馬記念

最後の直線で、いつも以上に豪快な、上がり33秒台の強烈な末脚が繰り出された時は、今年の締めくくりにふさわしいフィナーレを目撃できると思ったのだが・・・・無念のハナ差2着。

勝ったのは、曲がりなりにも今年の皐月賞馬で中山コースは2戦2勝、凱旋門賞にも参戦し、JCでも3着と一応結果は残してきたヴィクトワールピサ

とはいえ、力でねじ伏せた、というよりは、超スローな展開で出し抜け的に仕掛けたデムーロ騎手の技が勝った、という評価がしっくり来るようなレースだっただけに、2戦続けて2着に泣いたブエナビスタの悲運さがより際立っていた。

振り返れば、今年はドバイシーマクラシックで2着、宝塚記念でも2着、そして勝ったはずのJCで2着に降着の憂き目を見て、さらに最後のレースでもハナ差届かず。

年間を通じてこれだけコンスタントにG1・2着を連発する牝馬というのも、なかなか珍しいだろう(しかもその間に2つのG1タイトルをきっちり取っている)。

デビュー以来全てのレースで3着以内、この1年に限れば連を外したことがない、という特筆すべき安定感を誇りつつも、「優等生」的な印象ではダイワスカーレットに一歩劣り*4、かといって「一発」の魅力では、ウォッカに遠く及ばない*5

世代が比較的近いところに、インパクトの強い牝馬が2頭もいたがゆえに、残した実績ほどの印象が伴わない・・・その辺りに、この馬の悲運さを感じるわけで・・・*6

もちろん、来年、ドバイあたりで殊勲の星を挙げてくれれば、壁を突き破れるんじゃないか、と思うのだけれど、そこまで辿りつけるのかどうか。

年が変われば、悲運が幸運に変わる、と信じたいところである。

*1:ジャンプのミスはいくつかあったが、流れを途切れさせるような致命的なミスはなかった。

*2:技術要素点については、今シーズン序盤から不振続きだったことを考えると、ある程度理解できるところもあったのだが(元々無難な構成に収めていたところに、3回転ルッツのエラーエッジと、サルコウジャンプのダウングレードが響いた模様)、演技構成点でも2位にとどまってしまったあたりに、“風向き”の微妙な変化が感じられた。

*3:ジャンプを跳ぶたびに、スーパーマリオのコインを獲ったときの音が聞こえてきそうな(笑)プログラムで、そうでなくても無機的に見える安藤選手の滑りが余計に味気なく見えてしまう。

*4:3歳時の牝馬G1を取りこぼしているあたりが、印象を悪くしているのかもしれない。

*5:ついでに言えば、中途半端にG1タイトルを取っている分、カミノクレッセステイゴールドのようなポジションにも立ち得ない。

*6有馬JCか、どっちかを取っていれば確実に取れたはずの年度代表馬の座も、これで分からなくなってきた。

2010-12-25

[][]終わってみれば何とやら。

かつては高橋大輔選手と織田信成選手の“2強”。小塚崇彦選手が台頭してきてからもせいぜい“3強”で手堅く代表枠を分け合ってきたフィギュアスケート日本男子陣だが、今年はジュニア世界チャンピオンの肩書を引っ提げて乗り込んできた羽生結弦選手が、一瞬「どうなるか分からない」という気分にさせてくれた。

特に、ショートプログラムでの高橋大輔選手のこれまで見たことないような出来の悪さ*1と、羽生選手のほぼ完璧な演技を見たときには、“大混戦”という言葉が頭をよぎったものだが・・・。

終わってみれば、順当なワン・ツー・スリー。

小塚崇彦選手に関して言えば、素人目にも一つひとつの技の美しさとスピード感が際立っていたし、2強時代に飽きた人々の「そろそろ世代交代を・・・」というムードにも綺麗に乗っていたように思う。

ほぼノーミスで滑ったSPはともかく、4回転と終盤のジャンプで大きなミスが出たフリーでも相当な高得点が出たのは*2、やり過ぎ(?)の感もあったが、現時点での完成度に期待賃を込めれば、優勝という結果も十分理解できるところ*3

高橋大輔選手には、悪いなりに何とかしなくては・・・という強い思いが感じられたし、曲がスローテンポだったこともあって、SPに比べれば悪さは目立たなかった。

いくら競争が激しいからといって、この狭い島国日本で、前年度チャンピオンが地元開催の世界選手権に出られない、というのもちょっとどうかと思うので、無事3位入賞を果たして、ホッと胸をなでおろした関係者も多かったことだろう。

だが・・・

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*1:これまでの実績がモノを言う演技構成点でトップの数字を出したおかげで最終グループ(4位)に何とか踏みとどまっていたが、技術要素点だけ見れば、SP9位の中村健人選手をも下回る数字。ジャンプは決まらないし、得意のステップにすらキレが見られないし(それでもレベル3は取れていたのが不思議なのだけど・・・)、とかなりひどい出来だったと思う。

*2:2日続けて、滑った本人自身が首をかしげるようなコメントを残している。

*3:ついでに、「初の親子2代」というおまけも付いた。

2010-12-24

[]弁護士ランキング2010

いろんな意味で、“毎年恒例”になってきたこのランキング。

今年も例年と似たような傾向の結果が並んでいる。

<2010年に活躍した弁護士ランキング・企業法務部門>

1.小舘浩樹  アンダーソン・毛利・友常 35票

2.玉井裕子  長島・大野・常松 23票

3.太田 洋  西村あさひ    20票

4.岩倉正和  西村あさひ    18票

5.中村直人  中村・角田・松本 18票

6.久保利英明 日比谷パーク   15票

7.菊地 伸  森・濱田松本   14票

8.葉玉匡美  TMI総合    14票

9.片山英二  阿部・井窪・片山 13票

10.郷原信郎  郷原総合     13票

相変わらず全体の得票数が少ない上に、企業票0票とか1票の弁護士がランキングしていることや、分野が特定の分野に偏り過ぎていることなど*1、まぁいつもの通りだなぁ・・・というのが素朴な感想だ。

満足できるような回答率を確保できないのであれば*2インターネットを活用するなり何なり、できることはあるだろうに・・・と思う。

なお、今回初めて実施した「外国法部門」(企業票のみでランキング構成)では、射手矢好雄弁護士(森・濱田松本)がトップ。

名前が挙がっている弁護士の中には、別に「外国法」というカテゴリーに入れなくてもいいんじゃないのかなぁ・・・という方もいらっしゃるのではあるが*3、こちらの方がまだ何となく納得感はあるランキングだと思う。

[]クリスマス

ちょっと油断している間に、12月もあっという間に大詰め。そして、気が付くとクリスマス

正直、クリスマス・イブがどうのこうの、なんて話は、失われた20年の間、度重なるバブル崩壊を繰り返すうちに、半ば都市伝説になってしまったんじゃないか・・・、と思うのだけれど*4、それでも小田和正の「クリスマスの約束」と明石家サンタを連チャンで見ていると、この日がなんだか特別な日に思えてくるから不思議である(笑)。

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*1会社法(M&A、株主総会)、コンプライアンスといった“雑誌に載りがち”なミーハー分野の弁護士ばかりで、企業法務の現実の業務に密接にかかわるフィールドの弁護士の名前が相変わらず出てこない。

*2:企業票は40%にとどまっており、弁護士票は67%、とはいえ、僅か238人の回答しか得ていない。

*3:普通に国内法関係の事件で、「企業法務部門」に名前が挙がっている同じ事務所の弁護士より遥かにクオリティの高い仕事をしている先生もいらっしゃるから・・・。

*4:最近の若い世代の社員は、こんな日でも普通に夜遅くまで仕事してるし。バブルめいた風習を反発半分/憧れ半分で眺めていたのは、自分くらいの世代が最後なのかもしれない。

2010-12-23

[][]驚愕の社説

最初に読んだ時、思わず“ポカーン”状態になってしまった、そんな驚くべき社説が、日経紙に掲載された。

題して、

「「公正」かたる著作権侵害許すな」

日本経済新聞2010年12月23日付朝刊・第2面)

先日のエントリーでも触れたとおり*1文化審議会著作権分科会の方針を伝える記事と並んで、「日本新聞協会」ら4団体の「反対意見書」が提出されたという記事も載っていたから*2、新聞社の公式論調がある程度後ろ向きなものになることは予想できたのだが、それにしても、これは凄い。

どれだけ凄いかと言えば・・・

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2010-12-21

[]ほんの一かけらの前向きさ

最近、身の周りのいろいろなエピソードを見ていて、客観的/主観的を問わず、どんなに厳しい状況に追い込まれても、心のどこかに前向きさを持ち続けていられる人間には、必ずチャンスが訪れるものなんだなぁ・・・ということをしみじみ感じている。

ネガティブな発想からは、何も生まれない。

そんなことは、自分自身のこれまでの経験からだけでも、嫌というほど分かっているつもりなんだけど・・・。

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2010-12-20

[][]ここまで来た“お膳立て”

「営業秘密保護による国内企業の競争力強化」というお題目の下、ここ数年間、不正競争防止法上の刑事罰強化等、拙速と言われても不思議ではないようなスピードで、数々の手が打たれてきた。

そして、遂に、最終到達点に達したんじゃないか、そう思えるようなニュースがこの年末に来て報じられている。

経済産業省法務省は企業が自社の営業秘密を守れるよう、秘密を盗まれた企業が裁判でその内容を隠せる新ルールを導入する。」

「来年の通常国会不正競争防止法の改正案を提出、成立を目指す」

日本経済新聞2010年12月20日付朝刊・第3面)

昨年の通常国会では、立法化を断念せざるを得なかった刑事訴訟手続上の手立ての整備*1に関し、経済産業省が満を持して法務省を巻き込み、「営業秘密保護のための刑事訴訟手続の在り方研究会」を立ち上げたことは既に報じられていたのだが、僅か3回の開催であっという間に「要綱(骨子)」が結論としてまとめられるとは・・・*2

http://www.moj.go.jp/content/000059958.pdf

憲法上「裁判の公開原則」が定められている、とはいっても、性犯罪事件で被害者の氏名等の情報を秘匿する、なんてことは、今でも頻繁に行われているし、公判期日外の証人尋問も(目的は違えど)現行刑訴法に一応規定が存在する以上、極端に異質な政策とまではいえない。

ただ、「その他」の章で、さらっと書かれている、

検察官又は弁護人は,証拠開示に当たり,営業秘密の内容が明らかにされることにより,被害者,被告人その他の者の事業活動に著しい支障が生ずるおそれがあると認めるときは,相手方に対し,営業秘密の内容が,犯罪の証明若しくは犯罪の捜査又は被告人の防御に関し必要がある場合を除き,関係者(被告人を含む。)に知られないようにすることを求めることができるものとすること。ただし,被告人に知られないようにすることを求めることについては,営業秘密の内容のうち起訴状に記載された事項以外のものに限るものとすること。」(強調筆者)

というのはどうだろう。

「被告人」とされる者にとって、公判準備のために最も重要であるはずの「検察官請求予定証拠」の開示が受けられない、となると、ことは重大というほかない。

実際に「営業秘密」の要件該当性が争われるような事件であれば、その内容を知ることが「被告人の防御に関し必要がない」なんてことになるはずもないから、理屈の上では上記のルールが適用されることは考え難いのだが、そうなると、「被害者」の思惑と食い違ってきて、ますますややこしいことになってしまうような気もするし・・・。


まぁ、もしかすると、“行き過ぎたお膳立て”とも言えるこの改正の動きを見て、一番焦っているのは、これまで訴訟手続上の諸問題をあれこれと理由に挙げて、自社の営業秘密をめぐるトラブルを刑事手続に載せることを避けてきた会社の人たち、なのかもしれない。

その辺も含めて、今後の動きに注目してみたいところである。

*1http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090323/1237851132

*2:おそらく、既にほとんど話がまとまった状況で、ある種の“セレモニー”として研究会が立ち上げられたのだろう。第3回の議事概要(http://www.moj.go.jp/content/000059957.pdf)を見ると、あえて「要綱(骨子)」に賛成しなかった気骨のある委員も1名だけいたようだが・・・。

2010-12-19

[][]“ポスト・サンデー”不在を象徴するような結果。

競馬の世界って、普通の世の中よりも世代がめぐるサイクルが早い。

ついこの前まで現役バリバリで走っていた、と記憶していた馬の息子、娘たちが、いつの間にかデビューしている、なんてことも良くあるわけで、そうやって歳月の流れを感じていくのが、競馬ファンの習性であり、悲しい性であったりもする。

・・・で、今年は夏頃から、“あの”ディープインパクト産駒がデビューを迎える、というのが最大の話題になっていた。

そして、父親の現役時代の名声に応えるかのように、初年度であるにもかかわらず*1新馬戦、未勝利戦で“ディープ産駒“が続々と勝ち上がっていく、という状況も確かにあった。

だが、年末が近づき、今年の2歳馬のトップを決める戦いの段になってみると、必ずしもディープ産駒がトップクラスの存在感を発揮できているわけではない・・・ということに気づく。

先週の阪神JFでは、上位5頭の中にディープ産駒が食い込むことはできなかったし、今日行われた朝日杯FSでは、2着、3着にディープ産駒が食い込んで意地は見せたものの、勝ち鞍自体は「サクラバクシンオー」産駒(!)が持って行ってしまっている*2

思えば、90年代後半から、サンデーサイレンスの血をひき、父親越えを目指そうとした種牡馬はたくさん出てきたが、コンスタントに走る馬を送り出してきている反面、“父親越え”を果たすほど強烈な実績を残した種牡馬はそんなにはいない。

若干晩成型の傾向もあったディープのことだから、1〜2年目の頃のサンデーサイレンスのように、来年クラシックシーズンになって産駒が大暴れし出す、という展開も期待できなくはないのだが、少なくとも年内のレースを見ている限り、そこまで期待するのはちょっと酷かな。とも思っているところで、その辺は実際に春になってみないと分からないだろう。

種牡馬のバリエーションは増えていくのだが、どの種牡馬もタイプが似通っていて、産駒もこれといって一歩抜けだすような力を持った馬はいない・・・そんな風説を裏付けるような状況にならなければいいが・・・というのが自分の率直な思いである。

*1:もっともディープの場合、初年度から繁殖牝馬の質にはかなり恵まれていたのではないかと思う。

*2:人気薄のバクシンオー産駒をきっちりこの本番の大舞台に合わせてくるあたりが、矢作調教師の腕あってこそ、だと個人的には思っているのだけれど。

2010-12-18

[]疲労感。

そこはかとなく感じる疲れが積み重なっていく日々。

別に昔に比べて、仕事の量がそんなに極端に増えているわけでもないし、人生の大きなイベントを抱えているわけでもない。

夜中家に帰ってから机に向かわないといけないような生活も脱却した。

なのに、ぐったりと疲労感にさいなまれて、週末になってもアクティブな気持ちがそんなに湧いては来ない、という状況はどうなんだろう。

仕事量が極端に多くはなくても、土日あまり関係ないメリハリのない生活をしている、というのが要素としては大きいのだろうし、20代〜30代前半のような、「24時間仕事できます」的な底なしの体力とバイタリティがなくなってきているのも事実だと思うのだけど、毎週毎週こんなにグダグダしていると、いい加減自分でも嫌になる。

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2010-12-17

[]企業は「二の足」を踏んでいるのか?

日経紙の夕刊に興味深い記事が載っている。

「会社の中で弁護士としての専門知識や経験を生かす「企業内弁護士」の採用について、企業の9割以上が消極的なことが17日までに、日弁連の調査で分かった。」

「調査は昨年11月、上場企業を中心に5215社に実施。1196社から回答があり、このほど発行した弁護士白書で紹介している。」

「うち、企業内弁護士を採用しているのは47社で、「募集中か採用予定」の25社を合わせても1割以下にとどまった。残りの大半にあたる1112社が「消極的」「関心はあるが具体的検討はしていない」「予定はないが検討中」と答えた。」

「理由として、4社に3社が「顧問弁護士で十分」を挙げ、「法務部などで十分」「報酬が問題」「やってもらう仕事が

ない」が続いた。」

日本経済新聞2010年12月17日付夕刊・第14面)

見出しにもあるとおり、「企業が二の足を踏んでいる」というムードがプンプン漂ってくるこの記事。

だが、この記事を見ただけでも、「そうか・・・?」と思えるところはいくつかある。

例えば、採用、採用予定以外の「1112社」のうち、「予定はないが検討中」と回答した会社の中には、

弁護士」という資格に特化した採用はしていないが、採用候補者の中に優れた有資格者がいれば迷いなく採用する」

という会社も相当数あるはずだ。

「具体的検討はしていない」という会社だって、採用の機会に際して、目の前に有資格者が現れれば採用する会社は決して少なくないだろう(というか、そういう会社は結構ある)。

そういった会社をまとめて、「消極的」というカテゴリーに分類するのはいかがなものか、と思う。

また、この記事は、弁護士の採用ないし採用予定の会社が72社にとどまったことをもって、「企業の理解がない」という結論を導こうとしているように見えるのだが、そもそも資格の有無にかかわらず、

「法務部門専属の担当者の採用」

を行っている会社が、調査対象となった5215社(アンケートに回答した1196社)の中にどれだけあるというのだろう?

相当規模が大きく、誰でも名前を知っているような会社でも、新卒や中途採用の枠で「法務」という職種を限定して、採用を行うケースはそんなに多くない。

グローバル展開している大手メーカーや商社ならともかく、国内市場に重点を置いて事業を行っているような会社だと、幅広いローテーションを経験し、何年か経ったところで初めて法務専任者のポジションに就く、というパターンの方がむしろ一般的だし、規模が小さい会社であれば業種を問わず専任担当者がいなかったり、稀少な固定メンバーで長年回していたりするから、誰かが抜けない限り、「法務」の求人を行うタイミングはめぐって来ない。

そのような状況で、全ての会社が「弁護士資格保有者」に特化した採用を、直ちに行えるはずもなかろう*1

自分が知る限り、法務部門がコンスタントに募集をかけているような会社は、せいぜい200社あるかないかくらいだから、「70社以上」も採用ないし採用を予定している、と回答している、というのはむしろ(多いという意味で)驚きの部類に入るし、ここ最近の動きを見ていると、まがりなりにも「法務部門としての人事運用」が一応定着しているような会社では、かなりの割合で現に弁護士を採用している、という状況もある。

これで「二の足」・・・なんて言われてしまうと、企業サイドとしても困ってしまうだろう。

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*1:クローズな世界で生きている日弁連の人々には、「弁護士資格」を持っていれば水戸黄門の印篭のごとく企業の門をくぐれるはず、という思い込みがあるのかもしれないが、会社の人事(採用)はそんなに単純なものではない。外資系企業ならまだしも、国内企業の場合は、百人規模の法務部を抱えていても採用権限は人事部が握っている、というパターンがほとんどなのだから。

2010-12-16

[]ダブル・スタンダード

今年二度目となる「二回試験」の結果が発表された。

最高裁は15日、司法修習を終えた2039人を対象にした卒業試験(考試)で、1949人が合格したと発表した。」

「今回の考試で不合格になったのは90人で、受験者数に占める割合は約4.4%。最高裁は「真に必要な能力を測った結果」と説明している。」(日本経済新聞2010年12月16日付朝刊・第42面)

最高裁のコメントが約4ヶ月前のそれとほとんど変わらない(というか、常に変わらない)のはご愛敬、といってしまって良いのだろうか。

もし本当にコメントで述べられていることがその通りだったとしたら、不合格率約12.6%だった夏の受験者より、「4.4%」と大幅に改善された冬の受験者の方がレベルが遥かに高かった、ということにもなってしまいそうだが、そんなはずがないのは、当の修習生たちが一番よく分かっているはず。

結局のところ、修習のプロセスも出口の選考基準もブラックボックスの中に閉じ込めて、外に向けた説明責任を一向に果たそうとしない最高裁司法研修所)の姿勢こそが、この国の法曹養成システムを実りなきものにしている、最大の元凶なんじゃないかと、個人的には思うところである。

天下の日経紙には、「弁護士数が3万人を越えた」などという意味のない数字*1に飛び付く前に、その辺の暗闇を解き明かす方に心血を注いでほしいところなのであるが・・・。

*1:登録している弁護士の数=実際に機能し得る弁護士の数、ではないのだから、前者の数字だけを取り上げて騒いだところで大した意味はない。

2010-12-14

[][]これがファイナル・アンサー?〜「権利制限の一般規定に関する報告書」より

今年の1月に、「ワーキング報告書」が公表されて以降、どんな議論が展開されるのか、とちょっとだけわくわくしながら見ていた「フェアユース」規定導入問題だが、結局、そんなに大きなブラッシュアップがなされることもないまま、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の「(最終)報告書」がまとめられるに至った。

文化審議会の著作権分科会は13日、他人の著作物を許可なく利用できる範囲を定める一般規定を著作権法に導入するよう求める法制問題小委員会の最終報告を大筋で了承した。年明けにも報告書を文化庁長官に提出。文化庁は早ければ来年の通常国会著作権法の改正案を提出する」(日本経済新聞2010年12月14日付朝刊・第42面)

大筋で了承された報告書(案)がこれ↓

http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/bunkakai/32/pdf/shiryo_3_2.pdf

肝心の「利用の類型」については、

ア 著作物の付随的な利用

A その著作物の利用を主たる目的としない他の行為に伴い付随的に生ずる当該著作物の利用であり、かつ、その利用が質的又は量的に社会通念上軽微であると評価できるもの

イ 適法利用の過程における著作物の利用

B 適法な著作物の利用を達成する過程において合理的に必要と認められる当該著作物の利用であり、かつ、その利用が質的又は量的に社会通念上軽微であると評価できるもの

ウ 著作物の表現を享受しない利用

C 著作物の種類及び用途並びにその利用の目的及び態様に照らして、当該著作物の表現を知覚することを通じてこれを享受するための利用とは評価されない利用

の3類型となっており、ワーキングチーム報告書、中間まとめを経て、ちょっとずつ表現は変わっているものの、実質的には同じ路線を踏襲した形になっている。

今年の1月当時のエントリーで指摘した*1、ワーキングチーム報告書の中の“意外”とも思えた箇所についても、「(これまでの裁判例等に)個別権利制限規定の解釈上の工夫や民法上の一般規定の活用等の手法により、妥当な結論を導いたと考えられる事案が一定程度存在する」という評価がほぼそのままのカタチで維持されていたり、「非営利性要件」に対する消極性や、著作者人格権との調整等に関する記載の不十分さ、といった点がそのままだったりして、結局どこまで詰めた議論ができたのかなぁ・・・という思いも若干あるのだが、

「著作物の利用に関する社会通念や、また、今後も確実に予測される社会の急速な変化及びそれに伴う著作権を取り巻く環境の変化に対し、適切かつ迅速に対応していくためには、我が国の社会や法体系等を十分に踏まえた上で、著作権法の中に新たに権利制限の一般規定を設けることにより、個別権利制限規定で定めていない著作物の利用であっても、権利者の利益を不当に害さない一定の範囲内で著作物の利用を認めることが適当であり、このことは、1条が規定する著作権法の目的にも合致するものと考えられる。」(報告書17頁)

という結論がこの段階で明示されたことの意義は、やはり大きいだろう。

気になるのは、「刑事罰との関係」をめぐる指摘について、各類型について「基準が明確であるとは言い難く、明確性の原則から問題がなお残る」という意見が未だ残っていることや、上記A〜C類型の要件として、

「社会通念上著作権者の利益を不当に害しない利用であること」

を追加すべき、と提言していることで、これらの事情が、実際に条文化されるまでどんな規定になるか分からない、という危惧を若干抱かせてくれたりもするのだが、その辺は見るまでのお楽しみか。


正直言って、フェア・ユースに関する一般規定導入が本格的に議論され始めた頃の、華やかなりし時代の記憶が残っている人々(自分も含め)にとっては、今回の“たった3類型”の「一般規定」はいかにも物足りなく映るだろうし、今回予想される改正がさらなる一般規定拡充に向けた一里塚になるのか、それとも、他の類型の「フェアユース」主張を封殺する方向に機能するのか、今の時点では何とも言えないところはある。

だが、

「長年動かなかった岩がほんの僅かでも動いた」

ということの重みは、しっかり受け止めるべきなんじゃないかな、というのが現時点での自分の感想なわけで。

後は、改正案を提出するタイミングで、国会がきちんと機能していることを願うのみである。

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2010-12-12

[][]“エース”不在の重さ

昨日放映されたフィギュアスケート、グランプリファイナル。

五輪の翌シーズンということもあって、去年までに比べると今年はそんなにGPシリーズをじっくり見ていたわけではなかったのだが、さすがに“ファイナル”ということになると見ずにはいられず、フリーは全滑走録画視聴。

男子で“マイケル・ジャクソン”を使うのが今年の流行なのかなぁ*1とか、採点方法が変わったせいか、何となくジャンプよりスケーティングの方が重視されるようになってきたのかなぁ*2、といった発見もあり、出場選手の実力が拮抗していたこともあって、順位争い的にも比較的面白かった。

とはいえ、男女シングルとも、最後の6人の中に日本人が3人、となると、国際大会としての面白さは欠いていたのも事実*3

しかも、結果から見れば、日本勢は男女とも優勝を逃し、来年の世界選手権に向けて一歩抜けだすような強烈なインパクトを残すこともなかった・・・という点で、なかなか評価が難しい大会だったのではないかと思う。


例えば男子シングル。

SPで首位に立っていた織田信成選手がそのポジションを守り切れなかったのは“いつも通り”のことだとしても、巻き返しが期待された小塚崇彦選手がフリーだけでパトリック・チャン選手に15点離されてしまう状況では、世界選手権に向けての期待も薄れる、というもの。

他の選手に比べて積み重ねてきた実績が乏しいがゆえに、演技構成点をさっぴかれるのは仕方ない面もあるが*4、要素点でも差を付けられている*5のはちょっと悔しい。

そして、さらに深刻だったのは高橋大輔選手の方で、フリーの得点で言えば最下位。“世界チャンピオン”の格があるゆえに、演技構成点の“貯金”で何とか恥ずかしくない順位に踏みとどまってはいたが、昨シーズンのプログラムが良すぎただけに、物足りなさと覇気のなさが気になった。


一方、女子の方は男子に比べれば見せ場は作ったと思う。

SPで5位と出遅れた安藤美姫選手は、すべてのジャンプをノーミスで決めて、珍しくガッツポーズまで見せる会心の出来。

鈴木明子選手も実質2シーズン目で、昨シーズン以上に伸び伸びと滑っていたように見えたし、村上佳菜子選手も前半のフリップジャンプのミス(3回転→1回転)で萎縮することなく、最後まで上手にまとめた。

フリーだけのスコアを見れば、安藤選手は1位、村上選手は2位、と堂々の結果だ。

だが、それでいてSP上位のアリッサ・シズニー選手、コストナー選手を逆転するには至らない・・・*6

GPファイナルで何度かメダルを取った実績のあるコストナーはまだしも、シズニーとなると2005-06年シーズン以来の出場*7アメリカの女子選手らしからぬスケーティングの優雅さやスピン、スパイラルのレベルの高さ*8には定評があるものの、肝心な場面での勝負弱さゆえ、来年の世界選手権に出られるかどうかも怪しい選手である。

にもかかわらず、SPでのビハインドを跳ね返せないあたりに、“エース”不在の状況で臨むことの限界があるような気がして仕方がない。

安藤選手は、高難度のジャンプを決めても加点がイマイチ付かない上に、スピンのレベルも取れない。

鈴木選手は、フリップジャンプで2度のエラーエッジが痛かった。

そして、鈴木選手、村上選手ともに、国際大会の実績不足ゆえに、演技構成点が見た目よりも低く出てしまう。

たら、ればは禁物だが、もしここに浅田真央選手が出場していて、平均レベルの演技をしていれば・・・と思うと、いろいろと考えさせられることは多かった。


皮肉にも、GPファイナルでずば抜けた結果を残した選手がいなかったがゆえに、日本選手権での一発勝負で浅田真央選手が代表選出される可能性も出てきたわけで、4季前の“チャルダッシュの逆襲劇”の再来を期待するファンとしては*9、それが一つの希望なのだが・・・。


まずは日本選手権

24〜26日に繰り広げられる、ビッグハットでの勝負の行方に注目したい*10

*1:いきなり最初の2人の滑走者(アモーディオ選手、ベルネル選手、ちなみにどちらも欧州人)がマイケルの曲で滑りだした時はどうなるかと思った。個人的にはエキシビジョンならともかく、公式試合で使うのはどうかなぁ・・・と思っているのだが。

*2:今回出場した選手(特に女子)がたまたまそうだった、のかもしれないが。

*3:トップ選手のレベルの平均値を取れば日本が上位に来るのは疑いようがない事実だとしても、上位6人の中に3人入るレベルか、と言えば疑問もあるわけで、一流選手が軒並みGPシリーズを回避する五輪翌シーズンならでは、のメンバーだったのは間違いない。

*4:この日のフリーでは全体で4番目のスコア

*5:特に冒頭の4回転ジャンプだけで5.5点差。

*6コストナー選手と村上選手のスコア差は僅か0.01点だから、あと一歩、だったのも事実だが・・・。

*7浅田真央選手が優勝した大会で最下位。

*8:フリーでもスパイラルのGOEが+2.14、終盤のスピンでレベル4、GOE+1.43連発、と下手なジャンプよりもスコアを稼いでくる。

*9:というか、あんな展開にならずに、すんなり逃げ切ってくれた方が心臓にはいいんだろうけど・・・。

*10:ちなみに過去長野で開催された全日本フィギュアでは村主選手が2勝、2位・2回、と猛烈な強さを誇っている。さすがに今回は厳しいだろうけど、かすかな期待はかけてもいいだろう。

2010-12-11

[]裁判員の良心

一部ではいろいろと批判も多い裁判員制度だが、少なくとも、「死刑判決を抑制する」という点と、「証拠が薄い事件で安易に有罪認定することを避ける」という点では、当初の(特に弁護士会側の)目論見どおり、うまく機能しているのではないかと思う。

10日夜から11日にかけてメディアを賑わせたこのニュースもそうだ。

裁判員裁判として死刑求刑の被告を初めて無罪とした10日の鹿児島地裁判決は、状況証拠の評価について最高裁が4月に示した考え方を踏襲したうえで、「検察側が積み重ねた状況証拠に、被告が犯人でなければ合理的に説明できない事実は含まれていない」と断じた。裁判員裁判での立証に厳しいハードルを課した形で、捜査のあり方にも影響を与えそうだ。」(日本経済新聞2010年12月11日付・第35面)

今年の4月に出された最高裁判決で、「状況証拠」に基づく事実認定について、従来の裁判所基準よりも厳しめに思える判断が下された、という影響ももちろんあるだろう。

だが、それ以上に、裁判官裁判員の方々が、証拠に基づく事実認定と、そこから導かれる推認過程を緻密に検討し、「疑わしきは被告人の利益に」という原則を愚直なまでに順守したことが、今回のような判断につながったのは間違いないだろうと思う。

本件では被告人の供述の中に、明らかに客観的事実と反するものもあったようで、裁判官だけの法廷であれば、“建前”は理解しつつも根本的な心証はそのあたりから取って、それに合わせて結論を導く、なんて裏技もできたかもしれない。

しかし、一市民に過ぎない裁判員にはそんな器用な芸当はそもそもできないから、40日間の審理の過程で、基本的なルールを一つひとつ積み重ねて、結論に向かっていった。

そもそも、日本の刑事裁判の多くは、情状以外に争いもなく、1回の審理で終わってしまうようなものがほとんどだから、公判に出てくる証拠も、良く見ると結構荒っぽいものが多い*1

さすがに裁判員対象事件になるような重大事件となれば、その辺はそれなりにきちんとしたものが出てくるのだとは思うけど、地方の警察や小規模庁の検事がいくら頑張って着飾ろうとしても、限界はあるわけで・・・

本件の裁判資料を見たことはないし、自分の目に触れるような機会も一生ないだろうとは思うのだが、そういった様々な要素が重なった結果が、この重い「無罪判決」につながったのではないかな・・・と個人的には思うところである。

*1:だから、軽めの犯罪の否認事件で、暇な修習生が荒探しをすれば、いくらでも無罪起案がかけてしまう。

2010-12-10

[][]駒込大観音事件の決着

観音像製作をめぐって、著作者人格権侵害の成否が争われた、通称「駒込大観音」事件。

ここ2年の間に出された東京地裁判決と知財高裁判決それぞれにおいて、著作者人格権侵害に基づく名誉声望回復措置の具体的内容について判断が分かれたこともあって、一度きちんと整理して記事にしておきたいと思っていたのだが、もたもたしている間に、最高裁の決定が出てしまった。

「観音像の頭部を無断ですげ替えたのは著作権侵害に当たるとして、制作した仏師の遺族が寺に対し元の頭部に戻すよう求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は9日までに、遺族側上告を退ける決定をした。仏像の原状回復は認めず、経緯を説明する新聞広告の掲載を命じた二審・知的財産高裁判決が確定した。」(日本経済新聞2010年12月10日付朝刊・第43面)

「名誉回復等の措置」(著作権法115条)として、どこまでの措置を是とするかというのは、議論し始めるとなかなか奥が深い話だと思うのだが、法解釈の問題というよりは、認定された事実に照らして“どこまでやらせるか”というレベルの問題なので、最高裁に判断させるには馴染まないかな・・・というのは、かねてから思っていたところ。

そして、結果として最高裁自身も、上告不受理決定という形で本件を収束させることになった。

知財高裁の判決において、回復措置の内容を変更した論理過程があまり細かくは明示されておらず*1、それゆえに、最高裁で分かりやすい理屈を考えてくれれば・・・ということも、少しは期待していたのだけれど、まぁこれは仕方ないか。

いずれにせよ、早いうちに遡及的に地裁高裁両判決へのコメントができれば、と思っているところである。

*1:もちろん、前提とする事実の列挙はなされているのだが、ベースにしている事実が原審のそれとは大きく異ならない、という状況で、評価を変えた背景については、判決ではあまり詳しく論じられていない。

2010-12-09

[][]“争議”は“葬儀”の一里塚。

経営再建に向けて青息吐息状態のJALだが、危機的状況においても会社の“風土”は依然維持されているようで、(いまどき珍しく元気がいい)組合のニュースも、相変わらず紙面を賑わせている。

で、先般の争議権確立投票をめぐる労使の攻防が遂に労働委員会に持ち込まれたとのこと。

日航の管財人の企業再生支援機構らが整理解雇に対する争議権の確立を妨害したとして、操縦士でつくる「日本航空乗員組合」と客室乗務員でつくる「日本航空キャビンクルーユニオン」が9日までに、東京都労働委員会に救済を申し立てた。申し立てによると、争議権確立の投票期間中だった11月16日の労使交渉で、支援機構は「争議権が確立した場合、撤回されるまで、更生計画案で予定されている3500億円の出資はしない」などと発言した。」(日本経済新聞2010年12月9日付夕刊・第16面)

確かに、いくら経営危機に陥っているからといえ、使用者側が何をやっても許される、というわけではないから、報道されているような発言が事実であれば、組合側の憤りも一応は理解できるし、労働委員会レベルで救済命令が出される可能性がないともいえない。

だが、高コスト体質の経営を続け、半ば自業自得的に現在の状況に陥った会社の“戦犯”の一つと目されている人々が、今さら整理解雇に反対してスト、なんて言ったところで、果たして世の中の共感をどれだけ得られるというのだろう・・・。

一連の同社の争議系のニュースを聞くたびに、そのあたりの世間感覚のズレは如何ともし難いなぁ・・・という思いに駆られてしまうわけで、ここに、今の状況に陥った最大の元凶があるんじゃないかと思わずにはいられない。

今のような航空業界の環境激変期においては、いかに“昔の名前”があるといっても、再び会社がパンクするリスクは十分にある。そして、会社が潰れてしまえば、労働者の権利もなんもあったものではない。

争議を繰り返したあげく、文字通り歴史から葬り去られてしまった会社(公法人含め)なんて、世の中にはいくらでもあるわけで、管財人サイドの“横暴“に反発するにしても、他にやり方はいくらでもあるだろうに・・・と個人的には思うところである。


なお、本件では、「言った言わない」の話に加えて、「再生支援機構」が「使用者」に該当するか否か、という解釈論議も一応出てくる場面だとは思う*1

もちろん、「再生支援機構」が使用者としての責任を負うとしても、それはあくまで「管財人」としての地位に基づくものと考えられるから、労働委員会が命令を出す前に再生手続終了ないし二次破綻してしまうようなことになると、ちょっとややこしいのかな、と。

*1:もっとも、労働組合法上の「使用者」は広義に解するのが通説的見解であり、少なくとも労働委員会レベルでは、再生支援機構が「使用者」として救済命令の名宛人になる、という結論は揺るがないだろうと思う。

2010-12-08

[]エースの緊急登板?

ちょうど一年前に、涌井紀夫最高裁判事の現職でのご逝去(現職では21年ぶり)の報を記したばかりだというのに*1、またしても今年の11月21日、近藤崇晴最高裁判事ご逝去という悲報が舞い込んできた。

それだけ最高裁判事の職も激務になってきた、ということなのか、それとも単なる悲しい偶然なのか、は分からないが、こう毎年毎年続くと、中の人も大変だろう・・・と同情を禁じ得ない。

・・・で、こういう突然の出来事が起きると、そこで運命が変わる人もさらに出てくるわけで。

涌井判事ご逝去のときは、定年間近だった白木勇・東京高裁長官が急遽“昇格”という事態になり、それが一つの話題を呼んだ*2

そして、今回の後任人事もまた驚きである。

政府は7日の閣議で、11月21日に死去した近藤崇晴最高裁判事の後任に、寺田逸郎広島高裁長官を任命することを決めた。27日付で発令する。」(日本経済新聞2010年12月7日付夕刊・第2面)

昭和49年判事補任官の62歳、今年の2月に高裁長官に就任したばかり、というのは、最近の裁判官出身者としては異例の若さ、といえるだろう*3

どちらかと言えば、裁判官、というより、も数々の法改正のたびにお名前が出てきた、「法務省の人」としての印象が強い寺田氏が、“現場復帰”からわずか3年で最高裁判事になる、ということのインパクトも強い。

経歴や元最高裁長官の子息、という血筋からすれば、遅かれ早かれ・・・というところではあったのだろうが、突然の訃報さえなければ、最高裁裁判官の構成は今年6月の堀籠氏の退官以降、しばらく変わらない見通しだった*4から、今回の就任にはアクシデント的要素が決して小さくない、ということができるだろう。

突然訪れた運命の悪戯。

順当に行けば、平成30年1月まで、約7年にわたって最高裁判事の職に就くことになる寺田・新判事が、最高裁の歴史にどのような足跡を残されるのか、見守っていくことにしたい。

*1http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20091218/1261240126

*2http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100113/1263399855

*3:今年の6月に就任された大谷剛彦氏よりもさらに2期下、ということになる。

*4:平成23年中の定年退官予定者はゼロ。平成24年に入っても、那須弘平、宮川光治といった弁護士枠の裁判官の退官が続く予定で、裁判官枠の交代は、同年8月の千葉勝美裁判官の定年時まで予定されていなかった。ちなみに、亡くなられた故・近藤判事は、平成26年退官予定であった。

2010-12-07

[]ここから新しいドラマは生まれるのか?

世の中には、よく自分が受けてきた試験の分析を、受かった後も熱心にやっていて、そのまま趣味が高じて(?)“対策講座の講師”みたいなことをやっている人もよくいるのだが*1、自分は性格的に、一度通り過ぎてしまうと、その後は通り過ぎたものにはほとんど関心を持たなくなってしまうタチである*2

なので、この話題にも、元々そんなに大きな関心をもっていたわけではないのだが・・・

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*1:例えば、大学受験や資格試験の世界で予備校の講師や問題作成者になってしまうような人。

*2:元々そんなに綿密に計画や対策を立てて試験ものにチャレンジするタイプでもないので(とにかく“来た球を打てば何とかなる”って思ってやってきたので)、やろうと思ってもできない、という方が大きいのかもしれないが。

2010-12-05

[][]アンケートを書きながら思ったこと。

某人気法律雑誌の「今年買った本」のアンケートの締め切りが間際に迫っている(締切は12月6日!)ことに気づき、慌てて作業をしているところである。

Excelファイルにざっと並んだ「今年の新刊本」リストを見ると、この1年だけでもずいぶんと法律書が世に出たものだなぁ・・・と改めて思うとともに、これを地道に打ち込んだ編集部の方々のご苦労に頭が下がるのだが、それはともかくとして、自分がしみじみ思ったのは、

「最近、法律書をすっかり読まなくなったな・・・」

ということ。

自分のいる会社は、それほど熱心に計画立てて法律書籍を購入するようなところではないし、そもそもコンスタントに本を買い揃えられるような予算も持っていない、ということもあって、元々は仕事と趣味を兼ねて、自腹で結構あれこれ揃えることが多かった。

また、買いはしないまでも、定期的に大書店の法律書コーナーに立ち寄って、あれこれ物色しながら目利きをするようなことは、毎週のようにやっていたので、それなりにこの業界の出版動向にも通じていたつもりだったのだが・・・

続きを読む

2010-12-03

[][]公取委の困惑が透けて見えるような・・・

元々そんなに大きな問題になるとは思えない中身なのに、なぜか日経紙を中心に外野が盛り上がってしまった、ヤフーグーグル提携問題。

これまでの経緯については、

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100729/1280900592

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100816/1282146297

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20101020/1287844763

などもご参照いただければ、と思うのだが、ここに来て、これまで表向きには沈黙を保ってきた公取委が遂に重い口を開いたようだ。

「米グーグルが日本のヤフーインターネット検索エンジンや広告システムを提供する提携について、公正取引委員会は2日、現時点で独占禁止法上の問題はないとの調査報告を発表した。」(日本経済新聞2010年12月3日付朝刊・第9面)

公取委のプレスリリースは↓

http://www.jftc.go.jp/pressrelease/10.december/10120202.pdf

記事でも紹介されているが、公取委のスタンスは、

「本件技術提供は,ヤフー株式会社が、(米ヤフー社から検索エンジン技術の提供を受けられなくなったため)検索エンジン等のユーザーとして,米グーグル社の検索エンジン等を自社に最適なものとして選択するものであり,また,本件技術提供の実施後も,インターネット検索サービス及び検索連動型広告に係る相談者間の競争は引き続き行われるものであるので,直ちに独占禁止法上問題とはならない。」

というものであり、少なくとも今回当事者が公表している情報からすれば、これが至極妥当な判断であると思われる。

公取委としては、マイクロソフトやら楽天やら日経新聞やらがあまりにうるさく騒ぎたてるものだから、

「俺らもちゃんと調査してるんだぞ、ごらぁ!」

というのをアピールする必要に迫られたのだろうが、正直技術提供に関する契約書の内容にまで踏み込んだ「調査結果」を発表するのはそれなりに勇気がいっただろうし、関係者にとっては迷惑な話だっただろう。


当の日経新聞は、まだ納得がいっていないようで、記事の中で、

「国内の検索サービスではグーグルが約9割のシェアを握り、独走態勢が一段と強固になる。成長市場のネット分野で、技術革新による競争のダイナミズムを保てるか、今後の課題となりそうだ」

「注目すべきは、もう一段深いところにある。検索技術の革新の担い手としてグーグルが圧倒的な存在になるということだ」

などと、今回の「提携」があたかも業界の“脅威”となるかのような喧伝をしているのだが、そもそも

「検索サービスでグーグルが約9割のシェアを握る」

という表現自体が、明らかにおかしい*1

検索サービスにしても、検索連動型広告サービスにしても、サービス自体が各事業者のオリジナルで行われる、ということは最初から言われているわけで、日経紙の論調は、独禁法の議論をするうえでの大前提となる「市場画定」という作業を全く捨象してなされた、感情的に過ぎるものと言わざるを得ない。

用いている“部品”が共通していたとしても、最終的に提供される“製品”に至るまでの過程で、各社が協調行動を取ることなく、それぞれのオリジナリティを発揮した味付けを施しているのであれば、そこで十分な競争は成り立ちうる、と自分は思っているし、公取委もそう判断したゆえに、今回のような発表に至ったのだと思う*2


なお、公取委も外野の声に少し遠慮したのか、

「既存の相談・申告の窓口に加え,本件技術提供に関する情報を専門に受け付けるメールアドレス(kensakukoukoku@jftc.go.jp)を設け,今後とも,積極的に情報収集を行う。」

という興味深い対応を行っているが、筆者としては、公取委のせっかくの好意が、一部の論者たちの“青年の主張”のはけ口にならないことを願うのみである。

*1公取委の発表を前提にするなら、「提携」という表現自体がミスリードとなる要素をはらんでいるのだが・・・。

*2:逆に、日経紙の理屈を推し進めるなら、米ヤフーからの技術提供を打ち切られた日本のヤフーは、自分で頑張ってオリジナルな検索技術を一から開発するか、それとも使い勝手の悪い検索技術をあえて選択するか、という決断を迫られることになるが、それが常識に照らしてまともな議論なのかどうか、ちょっと頭を冷やして考えてみる必要があるだろう。

2010-12-02

[]寂しさ

このブログを書き始めた頃にご紹介したことのある自分の「恩師」*1が亡くなった。

会社員のキャリアとしては終わりに近付いていた年頃、しかも、今年の春ごろからは、闘病生活に入っていた、とはいえ、一年前の今頃は、まだ飲み会で普通に話ができていたくらいお元気だった方だ。


人にはいつか別れの時が来る。

たとえ元気であっても、血がつながっていない、会社の同僚や上司・部下といった程度の関係のつながりであれば、職を変わったり、退職したといったきっかけを機に、顔を合わせなくなったとしても不思議ではない。

だが・・・


自分に、「法務」という仕事と真正面から向き合うきっかけを与えてくれた尊敬すべき心の師が、また一人この世からいなくなってしまったこと、そして、あの頃から10年経って、今こうして自分が会社の法務の看板を背負って戦っている姿を、最後の最後で見ていただくことができなかった、ということが、自分をどうしようもなく寂しくさせる。

今はただ、ご冥福を祈るほかないのであるが・・・。

2010-12-01

[][]人騒がせな審査官

日経紙に、珍しいジャンルの特許権侵害請求事件の記事が掲載されている。

「切り餅がきれいに焼ける技術に関する特許権を侵害されたとして、越後製菓新潟県長岡市)が「サトウの切り餅」で知られる佐藤食品工業新潟市)を相手取って製造差し止めと賠償を求めた訴訟の判決が30日、東京地裁であり、大鷹一郎裁判長は請求を棄却した。」(日本経済新聞2010年12月1日付朝刊・第38面)

記事によれば、原告である越後製菓の特許は、「餅の周囲に切り込み(スリット)を入れることで焼いたときに餅がきれいに膨らみ、形崩れを防ぐ」というもののようであるが、こんな単純な特許で何でまた訴訟にまでなってしまったのか、判決を見ながら考えてみることにしたい。

東京地判平成22年11月30日(H21(ワ)7718号)*1

原告:越後製菓株式会社

被告:佐藤食品工業株式会社

原告には代理人として末吉弁護士ら、潮見坂綜合法律事務所(旧・末吉綜合法律事務所)*2弁護士等が付き、被告側代理人には島田康男弁護士らが付く、という、特許訴訟の分野で名高い代理人同士の戦いでもあるこの事件。

問題になった特許は、発明の名称を「餅」とする特許第4111382号*3で、特許請求の範囲には以下のような記載があった。

【請求項1】

焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け,この切り込み部又は溝部は,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として,焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成したことを特徴とする餅。」(4〜5頁、太字筆者)

これに対し、「争いのない事実」として認定されている被告製品の構成は、

a 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が直方形の小片餅体である切餅の

b1 上面17及び下面16に,切り込み部18が上面17及び下面16の長辺部及び短辺部の全長にわたって上面17及び下面16のそれぞれほぼ中央部に十字状に設けられ,

b2 かつ,上面17及び下面16に挟まれた側周表面12の長辺部に,同長辺部の上下方向をほぼ3等分する間隔で長辺部の全長にわたりほぼ並行に2つの切り込み部13が設けられ,

切り込み部13は側周表面12の対向する二長辺部に設けられている

d 餅。

(5頁)

というもの。

もし仮に、原告特許の請求項の記載が、「切餅の側周表面のみに切り込み部を設ける」というものになっていたとしたら、側周表面だけでなく上にも下にも切り込みが入っている被告製品は、非侵害だ、という結論が比較的あっさり出ただろうし、訴訟にまでもつれ込むこともなかったのではないかと思う。

だが、上記のとおり、原告特許の請求項の記載が、「載置底面又は平坦上面ではなく・・・側周表面に」という日本語として微妙に解釈が分かれうる表現になっていたことが、すっきりとした解決を妨げることにつながった。

そして、何よりも以下のような登録審査時の審査官とのやり取りが、原告により強硬的な姿勢を取らせる一因となったものと思われる。

すなわち、原告は出願後、平成17年5月27日付けの拒絶理由通知に応答して、同年8月1日付けの手続補正書等で、いったん、

「小片餅体の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の側周表面のみに」(斜体が補正部分、太字は筆者)

と構成を限定したにもかかわらず*4、その後の平成17年9月21日付け拒絶理由通知において、

「「「小片餅体の上側表面部の側周表面のみに,」(補正後の請求項1)は願書に最初に添付した明細書又は図面(以

下「当初明細書等」という。)に記載されていない。当初明細書等には「小片餅体の・・・上側表面部の側周表面に,」との記載(請求項2)及び「小片餅体1の・・・上側表面部2の側周表面2Aに,」との記載はあるものの(発明の詳細な説明の段落0011),記載された事項から「のみ」であることが自明な事項であるとも認められない。」

と、上記補正が要旨変更に当たると指摘され、それに対応した平成17年11月25日付け意見書で、

「切り込みが側周表面にのみ存するとの点については,審査官の要旨変更とのご指摘を踏まえて,元通り「のみ」を削除し,この「のみ」であるか否かは出願当初どおり請求項には特定せず,本発明の必須の構成要件でなく出願当初通り「のみ」かどうかは本発明と無関係と致しました。」

「この切り込みを形成する小片餅体は,先回の補正と同様に焼き網に載置して焼き上げて食する小片餅体(丸餅あるいは切餅)であって,この上側表面部の側周表面に前述のように切り込みを設けて焼き上げるに際して膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成した点を明確に特定致しました。」

「この点に真に本発明の画期的な創作性があるのです(尚,この最中サンドのように膨れて持ち上がるように焼き上がることが本発明の最も重要な必須の発明ポイントであり,この発明ポイントが重要なのであって,勿論見た目が悪くなっても構わなければ平坦上面にも更に切り込みを追加しても構わないことは言うまでもないことです。)」

と述べ、「のみ」を削除する等、最終的な請求項の記載とほぼ同じ形に補正することによって、本件特許の登録を受けることができたのである*5

「審査官が限定してはダメといったから限定しなかった」

     ↓

「その結果登録できたのだから、「側周表面に切り込み部を設ける」という構成に限定して解釈すべきではない」

という理屈は、一応理解できなくもない。

その結果、被告に対する製造等差止め、及び14億8500万円という巨額の損害賠償金の支払いを求める訴訟へと発展したのであるが・・・

裁判所が出した結論

結論として、裁判所は、明細書に記載されている本件特許発明の作用効果等を参酌しつつ、

「本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び前記(イ)の本件明細書の記載事項を総合すれば,本件発明は,「切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に,焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化でき」るようにすることなどを目的とし,切餅の切り込み部等(切り込み部又は溝部)の設定部位を,従来考えられていた餅の平坦上面(平坦頂面)ではなく,「上側表面部の立直側面である側周表面に周方向に形成」する構成を採用したことにより,焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に,「切り込み部位が焼き上がり時に平坦頂面に形成する場合に比べて見えにくい部位にあるというだけでなく,オーブン天火による火力が弱い位置にあるため,焼き上がった後の切り込み部位が人肌での傷跡のような忌避すべき焼き形状とならない場合が多い」などの作用効果を奏することに技術的意義があるというべきであるから,本件発明の構成要件Bの「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,・・・切り込み部又は溝部を設け」との文言は,切り込み部等を設ける切餅の部位が,「上側表面部の立直側面である側周表面」であることを特定するのみならず,「載置底面又は平坦上面」ではないことをも並列的に述べるもの,すなわち,切餅の「載置底面又は平坦上面」には切り込み部等を設けず,「上側表面部の立直側面である側周表面」に切り込み部等を設けることを意味するものと解するのが相当である。」(47頁)

と、「切り込み部」の部位を「側周表面」に限定する、という解釈を採用した。

そして、クレーム解釈に関する原告の主張を一通り退けた上で、出願経過についても、

「上記認定事実によれば,原告は,本件特許の出願過程において,積極的に「(切餅の上下面である)載置底面又は平坦上面ではなく,切餅の側周表面のみ」に切り込みが設けられることを主張していたが,その主張が,平成17年9月21日付け拒絶理由通知(甲9)に係る拒絶理由によって認められなかったため,これを撤回し,主張を改めたものというべきであるから,本件発明では切餅の上下面である載置底面及び平坦上面に切り込みがあってもなくてもよいことを積極的に主張し,その結果,本件発明について特許すべき旨の審決がされたとの原告の主張は,その前提において失当である。」

「このように,原告が主張する前記a?の点は,本件特許の出願人である原告が,特許庁に提出した意見書等の中で,本件発明の構成要件Bに関して原告主張の解釈に沿う内容の意見を述べていたということ以上の意味を有するものではなく,このような事情が,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の解釈に直ちに結びつくものとはいえない。」(66頁)

と原告側の主張を一蹴したのである。

当初、「のみ」を付して構成を積極的に限定しようとしたのが原告の方だった、という事実が、裁判所の心証に大きく影響しているのは間違いない。

また、本件では無効論にまで踏み込んだ判断はなされていないものの、「餅に切り込みを入れるかどうか」というシンプルな発明である以上、仮に、原告が主張するような解釈を採用したとしても、容易想到性の観点から、特許無効の抗弁がピタリとはまる可能性は高かったのではないかと思われる。

だが、出願経過において、審査官が“あえて”構成を限定させずに登録に導いた、という事実は重いわけで*6、原告としても、今回の結論に対して、いろいろと思うところは多いのではないだろうか。

約15億円の請求の落とし前をどうつけるのか、今後の展開に注目したい。

*1:民事第46部・大鷹一郎裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101203173939.pdf

*2:ちょうど1年前に名称を変更されたようである。今回初めてそれを知り、恐縮した次第・・・。http://www.stwlaw.jp/ja/overview.html

*3:平成14年10月31日出願、平成20年4月18日登録。

*4:ちなみに、出願当初のクレームの記載は、「角形の切餅や丸形の丸餅などの小片餅体の載置底面ではなく上側表面部に、周方向に長さを有する若しくは周方向に配置された一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設けたことを特徴とする餅」というものであった。

*5:個人的には、「のみ」を削除してもなお限定しているように読めてしまう記載をそのまま放置して登録を認めてしまったあたりに、この種の審査にありがちな“イージーさ”を感じざるを得ないのであるが・・・。

*6:しかも、曖昧なクレームを放置したまま・・・。

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