企業法務戦士の雑感 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2011-01-20

[][][]知的財産権独禁法の交錯領域

小さい記事だったので、思わず読み飛ばすところだったが、日経紙の社会面の片隅の方に興味深いニュースが載っている。

群馬県の要請を受けて県内業者が開発した道路用の特殊な側溝「GBX側溝」を巡り、コンクリート製造業者ら16社でつくる事業協同組合群馬県GBX工業会」(前橋市)が製造・販売の権利を加盟社のみに制限していたのは、独占禁止法(事業者団体の禁止行為)に違反する恐れがあるとして、公正取引委員会は19日、同会に警告した」(日本経済新聞2011年1月20日付朝刊・第34面)

公取委のプレスリリースは、http://www.jftc.go.jp/pressrelease/11.january/11011901.pdfに掲載されているが、決して先例が多くない事業者団体による競争の実質的制限を規制する「8条1号」(旧8条1項1号)類型であることに加え、知的財産権(特許権、意匠権商標権)の権利行使が独禁法に抵触するおそれがある、と指摘された点においても意義のある事例と思われる。

具体的に見て行くと、公取委が指摘した「群馬県下の暗渠側溝の販売分野における競争を実質的に制限している疑いのある行為」は、

ア GBX工業会が管理するGBX側溝に係る知的財産権の実施権の許諾についてGBX工業会の組合員であることを条件とした上で,当該実施権の許諾の範囲をGBX工業会を介した取引に限定し,製造されるGBX側溝の全量がGBX工業会を通じて販売されるようにすること

イ GBX工業会の組合員等の間においてGBX工業会からGBX側溝を購入して建設業者等に販売すべき者を決定させ,また,GBX工業会の組合員等が販売するGBX側溝の建設業者等向け販売価格の目安となる価格を決定すること

の2つ。

このうち、イの行為が限りなくクロなのは疑いのないところだろう。

問題はアである。

群馬県GBX工業会」のHP*1を見ると、「製品紹介」のコーナーに、一連のGBX側溝の製品群にかかる特許、意匠等の登録番号が誇らしく掲げられており、IPDL等で確認する限り、これらの特許等の権利者が「工業会」であることもはっきりしている。

このような前提の下で、上記アのような条件を付して実施権を許諾することが独禁法に抵触することなのかどうか、独禁法21条の存在や、「知的創作や努力のためのインセンティブ確保」が「正当化理由」とされていること*2との関係でも議論する余地はあるように思われる。

特許権等を取得した製品の開発が、工業会ないしその会員の負担で行われたものなのであれば、投資回収のためにライセンス先を会員に限定し、販路を工業会に利益をもたらすスキームに限定することにも一応の合理性はあるだろう。

また、施工に際して相応の技術力を有するような特許製品、工法等であれば、一定の技術力が保障された工業会の会員*3にのみ製造・施工を認める、というやり方も一概に否定することはできないように思われる。

本件で公取委が「警告」に値する、と判断した理由がどの辺にあるのか、“薄い“プレスリリースのペーパーからだけでは何とも読み取れないところはあるのだが*4、個人的には、

「員外業者がライセンスを受けられないため,GBX側溝の製造販売ができない。」

ということを、何の説明もなく「競争の実質的制限」おそれを疑わせる一根拠とするのはどうなのかな・・・と、若干疑問に思っているところではある。


なお、特定のメーカーが開発した特許製品が、多くの地方公共団体の採用する製品規格になってしまったがゆえに問題となった「下水道用鉄蓋」事件*5では、

「特定の下水道用鉄蓋製造販売業者が保有する知的財産の実施を要する型式を仕様として定めることへの懸念を示し、性能規定の導入に向けての積極的な検討を行う」

という方向で改善が図られたようであるが、本件は、むしろ自治体が先導して特許製品を開発したような雰囲気も見え隠れするだけに、どういう形で収拾を図るのか、にも注目したいところである。

[][]暗い影

おとといの「まねきTV」に続いて、「ロクラク2」でも最高裁でサービス事業者側敗訴の破棄差し戻し判決が出された。

昨年、最高裁での弁論が開かれた、というニュースを聞いた時点で、こういう展開は十分予想できてはいたのだけど、結論だけ聞くと、放送業界関係者以外に一体誰が喜ぶんだ・・・?という思いになってしまう。

「ロクラク2」事件の場合、少なくとも地裁では放送局側勝訴の判決が一度書かれているし、原審である知財高裁の判決に“余分なことを言い過ぎ”感もあったから*6、「まねきTV」に比べると、意外感はさほどでもない。

それに、最高裁の判決の中で、わざわざ金築裁判官が補足意見を書かれるなど、「まねきTV」を担当した第三小法廷と比べると、比較的趣旨が分かりやすく説明されている、というのも、フラストレーションをあまり感じさせない一因だろうか。

とはいえ、これまで数々の裁判例を通じて定着しかかっていた、「間接侵害」型事例における著作(隣接)権侵害の成否をめぐる基準が、ここに来てあとかたもなく吹っ飛ばされたことに変わりはない。

週末にかけ、「まねきTV」判決と合わせて分析していこうと思っているが、読めば読むほどタメ息が出てしまう・・・そんな作業になってしまうような気がする。


(追記)

まねきTV事件のエントリーの際の引用に倣って、ロクラク事件の過去エントリーのリンクも張っておくことにする。

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20070407/1176050387東京地裁決定)

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20081222/1230031960東京地裁判決)

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090226/1240120292知財高裁判決)

*1http://www.chuokai-gunma.or.jp/gbx/gbx/gbx-products.html

*2白石忠志『独占禁止法』(有斐閣、2006年)93頁以下。

*3:これは、あくまで「工業会」がそういった一定の基準を満たした事業者によって構成されている、という前提が必要になる考え方ではあるが。

*4:(1)対象となっているのが、「暗渠側溝」という必ずしも高度な技術的がなくても製造できそうな製品だった(ただし、道路に用いられる製品であり、いい加減なものを作ると歩行者等の事故にもつながりかねない、という点では必ずしもこうは言い切れないかもしれない)、(2)実際の開発を主導したのが自治体群馬県)であり、製品自体も公共的用途に使われるものであることから、知財権の行使による恩恵を「工業会」が受けるのは不当だと評価された(工業会が設立されたのは平成18年9月であるが、本件製品に係る特許権は同年5月に、商標権は同年3月に出願されている)、(3)そもそも、工業会が「会員である製造業者の価格競争からの保護」ということ以外に、制限的ライセンス方針を取る理由を挙げられなかった(いくら地方の業界団体だとはいっても、さすがにそこまでお粗末ではなく、ある程度の理論武装はしていたんじゃないかと思いたいが・・・)、といった理由が想像できるが、実際のところはどうだったのだろう。

*5http://www.jftc.go.jp/pressrelease/06.december/06121203.html参照。

*6:大上段から振りかぶりすぎ・・・、ともいうべきか。

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