「抜かずの宝刀」を抜いたツケ

2年続けて年末のビッグイシューとなった、「私的録画補償金」訴訟の判決。

昨年の暮れに出た第一審では、最大の争点であった「アナログチューナー非搭載機器の(課金)対象機器該当性」の争点でメーカーの主張が退けられながらも、「協力義務違反による不法行為は成立しない」という思い切った理屈で原告の請求が棄却される、という展開となり、年明けにかけて、大いに盛り上がったものだった。

メンツをつぶされたSARVH側はもちろん、メーカーにとっても、JEITA等がこれまで唱えてきた「対象機器該当性」の争点で負けたのは決して小さな話ではなく、知財高裁で双方が巻き返しに向けて激しく争ったのは、容易に想像がつくところである。

個人的には、地裁判決の論理には、突っ込みどころが多いようにも思えただけに、結論が逆転することもあるかな、と内心思っていたのであるが・・・。

「デジタル放送専用のDVDレコーダーなどの録画機器を巡り、著作権団体の私的録画補償金管理協会が東芝を相手取り、機器の売り上げに応じた著作権料(私的録画補償金)を支払うよう求めた訴訟の控訴審判決が22日、知的財産高裁であった。塩月秀平裁判長は「デジタル専用機器は補償金徴収の対象に当たらない」として、請求を棄却した一審判決を支持、協会側の控訴を棄却した。協会側は上告する。」(日本経済新聞2011年12月23日付け朝刊・第11面)

企業総合面の下の方にある目立たない記事で、分量も多くはないのだが、上記太字部分のインパクトは相当強烈だ。

まだ判決文はアップされていないが、この記事のとおりだとすれば、これまでデジタル専用機器の補償金課金問題でメーカー側が唱えていた主張は、ほぼすべて認められ、一方で、SARVH側の主張には全く理がなかった、と判断されたことになる。

2009年に、この訴訟が起きそうだ、という話になって原告側の人々があちこちで快気炎を上げていた頃、このブログでは、「本当にやるんかいな?」と何度も疑問を呈していたし、“1勝1敗”的な一審判決が出された時も、↓のとおり、安易な訴訟戦術に対して「ほれ見たことか・・・」という記事を書いたのだが(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20101228/1293734645)、今回はSARVHにとって、もっと事態は深刻であるはずだ。

(第一審の頃から変わっていなければ)原告代理人は、ここ数年、最高裁を舞台とした戦いが得意なはず(笑)で、即座に上告(受理申し立て)した、となると、まだどうなるか分からないところはある。

だが、このまま判決が確定してしまえば、後に残されるのは、「現在の制度上は、デジタル専用機器から録画補償金を取ることができない」という結論のみ。安易に訴えを起こさなければ、「訴えるぞ!」(世論にも裁判所にも)というブラフを背景に、有利な立場で交渉を進められたはずのSARVHは、一転して「メーカーの同意を取り付けない限り、録画補償金が先細りになる」という不利な状況に追い込まれることになる。

元はといえば、文化庁課長が「アナログチューナー非搭載機器も補償金の対象だ」なんて、おかしな回答を行ったのが、ことが大きくなってしまったきっかけの一つなのだから、SARVHがまさかの行政訴訟・・・!なんて展開も考えられなくはないが(苦笑)、いずれにしても権利者側にとっては苦難の道*1


「抜くべき刀と抜いてはいけない刀を見分ける」ということがいかに大事か、ということを、あらためて思い知らされる。

*1:元々、最高裁レベルで、行政庁の見解を正面から否定するような判断が下されることは少なく、本件においてもそこに逆転の契機がないとはいえないのだが、文化庁の場合、「存続期間延長問題」で見事に公権解釈が否定された、という前科等もあるから、これもSARVH側にとっては余り期待できない材料なのかな・・・と思う。

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