「集団的消費者被害回復に係る訴訟制度」をめぐる思惑

今月の上旬に公表された「集団的消費者被害回復に係る訴訟制度の骨子」。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000082083

パブコメ募集の締め切りまであと数日。内容的には結構コンパクトにまとめられた完成度の高い「骨子」だと言えるし、先日は、大々的な説明会まで開催されたようだから、おそらく意見の多寡にかかわらず、今公表されている内容で法案化の作業も進められていくのだろう。

なので、本来であれば、じっくりと検討して意見を書くべきところなのだが・・・

多くの企業法務人にとっては、そうでなくても忙しいこの時期にそんな余裕などあるはずもなく、加えて、「どうせ消費者庁に意見言ったところで・・・」というあきらめムードもあってか、あまり盛り上がっていないように思われる。

コアとなるべき「対象となる権利」については、これまでの産業界の要望等を反映する形で、

特定適格消費者団体は、消費者(個人(事業を行う場合におけるものを除く。))の事業者(法人その他の団体及び事業を行う個人)に対する以下の請求権(金銭の支払を目的とするものに限る。(3)(4)については、契約の目的に生じた損害に係るものに限るとともに、人の生命・身体に損害が生じたときの当該損害に係るものを除く。)について、事業者に対し、相当多数の消費者と事業者との間に共通する責任原因の確認を、訴えをもって請求することができることとし(以下、この訴えを「共通争点の確認の訴え」という。)、個別の対象消費者の請求権について判断するために必要な事実に関する争いで主要なものが別に存在する場合はこの限りでないこととする
(1)消費者契約(消費者と事業者との間で締結される契約)が不存在若しくは無効又は取消し若しくは解除(クーリングオフを含む。)がされたことに基づく不当利得返還請求権
(2)消費者契約に基づく履行請求権
(3)消費者契約の締結又は履行に際してされた事業者(消費者契約の相手方又は相手方になろうとする事業者のほか、勧誘をする事業者、勧誘を行わせる事業者、当該消費者契約の内容を定めた事業者、当該消費者契約の締結について媒介又は代理をする事業者、履行を補助する事業者をいう。)の民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権
(4)消費者契約に債務不履行がある場合の損害賠償請求権又は瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権

とある程度の絞りがかかっているし、既判力が及ぶ消費者の範囲も、

「二段階目の手続において請求権を届け出た消費者」

に限定されていて(オプト・イン型)、悪名高い“クラス・アクション”のようなダイナミックさとは程遠い*1

さらに言えば、一段階目の「共通争点の確認の訴え」の既判力は「他の特定適格消費者団体にも及ぶ」ということだから、企業としては一度完膚なきまでの勝利を収めれば、同じ争点に関しては“集団的アクション”の脅威は免れることができる*2

「個人情報漏洩」の類型が含まれるのか、とか、「特定適格消費者団体」の認定基準をどこまで厳しくするか、といった、局地的な議論の種はあっても、全体的に話が盛り上がってこない背景には、こうした事情もあるのだろう。

*1:「あわよくば、一回的解決を!」と願っていた野心的な法務担当者にとっては、この辺はちょっと物足りないところもあるのかもしれないが(笑)、裁判所の判断がブレがちな最近の傾向に鑑みると、この辺が落ち着きどころとしては穏当、というべきなのだろう。

*2:もっとも、一段階目の裁判における「争点」の設定の仕方如何によっては、実質的に集団訴訟の“蒸し返し”といえるような状況が頻発するおそれはあるし(そもそも消費者との取引というのは、皆同じように見えても、一人一人微妙に状況は異なるものだから、「共通の争点」を絞り込んで審理を進めること自体、そうそうたやすいことではない)、先述したとおり、個々の消費者には既判力が及ばないから、結局個別の訴訟の舞台を移しての戦いはさらに続くことになる。何より、消費者団体側が地裁、高裁判決の段階で自ら白旗を上げるような事態は考えにくく、結局最高裁での確定待ち、ということになると、足元が落ち着くまでの間に相当な時間を要することが、容易に想像できるわけで・・・。

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