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2011-12-27

[][]冬休みに読みたい「バイブル」的問題作。

「BUSINESS LAW JOURNAL」で定評のあるレクシスネクシス・ジャパン社が、新たに「BUSINESS LAW JOURNAL BOOKS」シリーズを出すことになったようだ。

第1号のネタは、先に紹介したBLJ2月号*1でも誌上連動企画が掲載されている「暴力団排除条例」。

噂を聞いて、早速書店で手にとってみた。

正直、この分野に関しては、あちこちで俄か仕立ての無料セミナーが開かれて大量の資料が配布されていたし、条例や対応に必要な契約条項の書式だって、インターネットで検索すれば容易に手に入れることができるから、わざわざお金を出して情報を買おう・・・という気はなかったのだが*2、ページを開いて見た時のレイアウトの体裁の良さや、巻末の「各都道府県の暴力団排除条例における特徴的な規定」一覧に魅かれたこともあって、思わず買ってしまった。

簡単に感想を述べるならば、

「本書は冬休みの間に買って読んでみる価値がある“超”問題作」

ということになるだろうか。

以下、ざっと気付いたことを挙げてみる。


まず、一番評価できるのは、ページレイアウト、構成が工夫されていて、非常に読みやすいということ。

一般的な法律解説書にありがちな、「文字の海」に埋もれて読み進む意欲をそがれる・・・という事態は、少なくともこの本に関してはありえない。合間合間にQ&Aを入れたり、図表等も交えるなどして、飽きさせない工夫がふんだんに凝らされている。

しかも、実用書にありがちな“薄っぺら”さとも無縁だ。

他の類書と比べると、条例の解説等のボリュームは控えめに押さえているが、その一方で、実務的な知恵、テクニックはふんだんに盛り込まれていて、十分に読み応えのあるものになっている。

導入部分の第1章、第2章を危機管理コンサルの方が執筆されている、というのが全体的な読みやすさに大きく貢献しているのは間違いないところで、「大事なポイントをうまく抽出して、シンプルな表現で伝える」というコンサルのノウハウが、彼らの執筆部分にそのまま活用されているがゆえに、冒頭から一気に読み進めることが可能になっている。

また、彼らの担当する章で、スルガコーポレーションの事例や、未公表事例などを適宜織り交ぜつつ、生々しい実務の姿を伝えている、というところにもこの本の大きな特徴があり、類書と比較した場合の優位性があるのも間違いない。

冷静に眺めて見ると、書かれていることは、一般的な「内部統制、コンプライアンス」の話と共通しているところが多いし、ふんだんに盛り込まれている「チェックポイント」「チェックリスト」も、与信管理等で用いられるそれと、そんなに大差ないように思えるから、元々、不正取引のチェックに目を光らせてますよ・・・という読者にとっては、そんなに真新しさは感じられないかもしれないが、それでも、「暴排」という切り口で頭を整理するには、この辺の記述は有用だと思う(研修のネタ本としても非常に役に立つ(笑))。

次に、中盤で登場するのは、TMI総合法律事務所の弁護士の方々が担当されている「暴力団排除条項」等の解説部分。

ここは、そんなに真新しい記述があるわけではなく、書かれていることは、弁護士会等の解説ともそんなに大差ないのでは、と思う。

中には、「約款の中に一方的変更を行う旨の規定があれば、約款内容を一方的に変更して暴排条項を導入することも可能」と言いきっていたり*3、「自動更新条項の廃止」というあまり現実的ではない方法が「契約上の工夫」として記載されていたりするなど*4、「ん?」と思うところもあるのだが、その辺はご愛嬌。

英文版の誓約書や暴排条項が盛り込まれているところなど、渉外系も手掛ける事務所ならではの“特典”もあるし、上場審査にスポットを当てた章を設けているところも、らしいな、と思うところである。


さて、いろいろ書いてきたが、ここまでは「実用的法律書」として、一応想定できる範囲内のものだと思う*5

だが、最終章の「暴力団排除条例の解説」は、ちょっと想像を超えている。


何といっても書いているのが、若手警察庁キャリアの方。そして、遠慮してフラットな筆致に収める、などと小さくまとまることなく、「完全に警察の人目線」で50ページにわたって書き下ろされている・・・その内容が凄い。

特に、この著者のキャラが凝縮されている「Q&A」から一部引用してみる。

Q1「『社会対暴力団の構図』というが、警察が本来やるべき暴力団対策を市民、事業者に押し付けているのではないか?」

A1「たしかに治安の確保は警察の任務であるが、警察だけが治安対策をすればよいということはない。飲酒運転防止のため飲食店はドライバーに酒類を提供すべきではないし、空き巣にあわないよう誰でも自宅に鍵をかけて外出している。暴力団が怖い存在であるとしても、社会的な責務を果たすため、自己防衛のために、警察のみならず、社会のすべての登場人物がそれぞれ治安に一定の役割を果たすべきである(ただ、一定の役割とはどの程度かというのは、最終的には価値観の問題であろう)。」(279頁)

Q10「どんな取引が『暴力団の活動を助長』するか、『暴力団の運営に資する』のか、線引きが難しく判断ができない。条例の規定は問題があるのではないか?

A10「(前略)ある取引Aが『暴力団の活動を助長』するならば条例違反だから取引はしない、という意志があるのなら、ぎりぎり条例違反にはならないような、それに類似する取引A’も、暴力団排除の観点からは行うべきではない。その意味で厳密な『線引き』はまったく重要ではない。(中略)なお、わいせつな文書等の頒布は犯罪であるが、何が「わいせつ」かは刑法にはまったく規定されていないし、判断基準も時代によって変遷してきた。こうした例は枚挙に暇がなく、法令には大なり小なり解釈の問題は付きまとうのであり、暴力団排除条例の規定が特に問題ということは、まったくないと考える。」(292頁、強調筆者)

本文の中で示されている条例の解説は、至ってスタンダードなものだと思うし*6、都条例のみならず、他道府県条例も含めて、その趣旨から適用(されると思料される)範囲まで、分かりやすく解説されているあたりに、当局の担当者としての矜持が感じられるところではある。

だが、暴排条例に関する本質的な問題は、

「公には一定の枠の中で活動が規制されているに過ぎない「暴力団」*7について、当局がリスクを負うことなく、もっぱら民間事業者側のリスクとコストによって、「事実上の排除」という政策目的を達成しようとしている」

ように見えてしまうところにあるのであって、その点についての真摯な説明が当局から示されていないこと*8が、様々な批判の背後要因になっている*9

それにもかかわらず、上記に引用したような、“問いの置き換え”という高度なディベート技術を駆使してまで反論する最終章著者のこの強気や如何。

バイブル」としての価値がある一冊ながら、自分がこの本を“問題作”と評する理由は、この最終章の存在ゆえである。

Q27「暴力団排除といっても結局暴力団はなくならないのではないか?一般人が暴力団と交際しただけで制裁をされるのは行き過ぎではないか?」(一部略)

A27「(前略)暴力団と交際をすれば即制裁、という規定は存在しない。もしこの問いが、条例の制定を契機とする社会全体の雰囲気や、契約からの排除のような社会の暴力団排除の取組み全体を指すものであれば、社会が行き過ぎだと思うのであれば行き過ぎだろう。しかし、行き過ぎだと思わないからこそ、あるいはこれまでの暴力団対策が不十分だったとのコンセンサスがあるからこそ、現在の取組みが行われているのではないだろうか。」(322頁)

何という潔さ。

読む人の立場や思想によって、様々な読後感を抱くであろうことが予想される本書であるが、いずれにしても読み物としては面白いので、このテーマの実務で悩んでいる人もそうでない人も、まずは書店で手にとって、これまでご紹介してきたような感覚を味わっていただくことをお勧めしたい。

*1http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20111224/1324835138

*2:そもそも、一連の「反社」キャンペーン自体に、当局のご都合主義的な胡散臭さを感じているだけになおさら・・・。

*3:131頁。

*4:137頁。

*5:本書レベルのクオリティを維持できている書籍は少ない、とはいえ。

*6:ただ、「弁護士が暴力団の活動に関連して暴力団員の民事訴訟の代理人を務めること」について、「弁護士の社会的職責の重さを考慮するとしても、暴力団員の義務に応じる義務はないから、「正当な理由がある」とはいえない」とコメントされているあたりについては、いろいろと議論もあるところだと思う(著者ご本人も「見解は分かれている」と認めておられるが)。

*7:ゆえに、暴力団の存在やそこへの加入そのものが違法とされているわけではないし、暴力団に加入している連中の基本的人権が法的に制限されている、というわけでもない。

*8:本来であれば、立法によって現在の暴力団対策をより強化し、暴力団そのものや構成員の基本的人権の制限にまで踏み込んだ措置を講じた上で(当然、憲法訴訟にまで発展するリスクは当局が負うことになるが)、当局のリソースを使った掃討作戦と、民間の「自助」の両面から攻めていくべきのが本筋だと思われるが、今回の一連の条例は、民間側の「自助」だけが際立つものとなっており(しかも、民間事業者がそれを遂行する上での法的な「担保」は、何ら存在していない)、法律家としては当然そこが引っかかってくる。

*9:ちなみに、BLJの最新号(2月号)の巻頭言では、「『紙』ベースでのコンプライアンス対策」が厳しく批判されているが、各種契約書への暴排条項の導入を“努力義務”として事実上事業者に課している条例の規定などは、まさに、「紙」ベースでの対策を強いるものに他ならないわけで(無催告条項をわざわざ入れなくても、通常の会社であれば、相手が暴力団関係者だと分かった時点で取引を打ち切る。相手が暴力団関係者であることについて確実に立証できる材料があれば、一般的な解除条項によっても契約解除することは可能だし、それにより裁判で負けるリスクも少ない。にもかかわらず、一律的に紙ベースの対策を強いるのが今の暴排条例だと自分は思っている)、それにより膨大な契約書類を抱える企業の担当者が被る労苦を、当局の人々はどれだけ理解しているのだろうか・・・。ちなみに先の「巻頭言」を書いているのは、これまた警察庁キャリア。何たる皮肉か。

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