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2012-01-06

[][]踏んだり蹴ったりのTBS

TBSといえば、最近あまり華やかなニュースもなく、注目されたことといえば、何年か傘下に置きながら、まるで結果を出せなかった横浜の某お荷物球団を売却した・・・ということくらい。

自分が子供の頃は、「ドラマといえばTBS」などと言われていたこともあったのだが、それも今は昔。

昨年は、『金八先生』、『渡る世間は鬼ばかり』といった一時代を築いた人気シリーズも相次いで看板をたたみ、挙句の果てには『水戸黄門』すら終わってしまう・・・という何とも言えない状況。

そして、昨年最高裁HPで公表された知財判決により、唯一の看板ドラマ枠である『日曜劇場』をめぐっても、実にみっともない著作権トラブルに直面していた・・・という事実が発覚してしまった。

題して、

「へんしんふきごま」折り図著作権侵害事件

結果的には完璧に勝利しているとはいえ、昨夏に知財高裁で判決が出された『愛の劇場』オープニングテーマ事件*1ともども、何だかなぁ、と思ってしまうような事件の当事者として登場することになってしまったこの気の毒なテレビ局に同情の意を表しつつ、昨年に出された地裁高裁判決を振り返ってみることにしたい。

東京地判平成23年5月20日(H22(ワ)第18968号)*2

原告:A(折り紙作家)

被告:株式会社TBSテレビ

本件は、被告が「平成21年6月28日から同年7月7日にかけて、被告の制作に係るテレビドラマ「ぼくの妹」の番組ホームページにおいて、本件ドラマで用いられた「吹きゴマ」の折り紙の折り方を説明した被告折り図を掲載した」ことに端を発している。

ぼくの妹」というのは、平成21年4月19日から6月28日まで、日曜日の21:00〜21:54という『日曜劇場』枠で放送されたオダギリジョー長澤まさみ主演のテレビドラマ。

Wikipediaによると、視聴率の方は、「日曜劇場枠最低」を更新してしまうような惨々たるものだったようだが*3、そうはいっても、テレビ局としては、熱心に見てくれた数少ない視聴者へのサービスは必要、と思ったのだろう。ドラマ終了直後に、劇中で用いた折り紙の折り図をHPにアップした*4

だが、「へんしんふきごま」という折り紙作品を創作していた原告(日本折紙協会、日本折紙学会の会員である)が、それを見つけてしまったことで、ことは悲劇となった(掲載5日目の7月2日には、原告からメールで削除するよう抗議を受けたことが認定されている)。

原告は、主位的に、被告折り図が、原告折り図の複製又は翻案であり、折り図の作成及び番組ホームページへの掲載行為が折り図についての著作権、著作者人格権の侵害にあたる旨を主張するとともに、予備的に「法的保護に値する利益の侵害」による不法行為の成立を主張して、285万円の損害賠償請求及び謝罪文の掲載を求めたのである。

請求額がそんなにバカでかい、というわけではないし、争点もシンプルな事件ではあるのだが、それでも、当のドラマとそのHPの運営にかかわったスタッフにしてみれば、トラブルの末に訴訟にまで至ってしまった、というのは、泣きっ面に蜂&痛恨の極み、とも言うべき出来事だったのではなかろうか。

なぜなら、そもそも本件には、被告制作サイドの“チョンボ”が問題を引き起こしてしまった・・・という一面もあるからなのだが、その辺は追ってみていくことにしたい*5

裁判所の判断

さて、東京地裁は、メインの争点である原告折り図の「著作物性」について、以下のような判断基準を示した。

「折り紙作品の折り図は,当該折り紙作品の折り方を示した図面であるが,その作図自体に作成者の思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該折り図は,著作物に該当するものと解される。もっとも,折り方そのものは,紙に折り筋を付けるなどして,その折り筋や折り手順に従って折っていく定型的なものであり,紙の形,折り筋を付ける箇所,折り筋に従って折る方向,折り手順は所与のものであること,折り図は,折り方を正確に分かりやすく伝達することを目的とするものであること,折り筋の表現方法としては,点線又は実線を用いて表現するのが一般的であることなどからすれば,その作図における表現の幅は,必ずしも大きいものとはいい難い。また,折り図の著作物性を決するのは,あくまで作図における創作的表現の有無であり,折り図の対象とする折り紙作品自体の著作物性如何によって直接影響を受けるものではない。」(22頁)

過去にも、設計図面等、「図面」の著作物性について争われた事例は多くあるが、「図面」の作図方法それ自体が、誰が書いても同じような、スタンダードなものに収まる性質のものであることから*6、著作物性についてはネガティブに解されることが多い。

東京地裁は、続けて、

「そこで検討するに,(1)「へんしんふきごま」の折り方は,32の折り工程からなるところ,本件折り図は,この折り方について,1ないし10の手順に分解した説明図及び完成形を示した説明図を基に説明したものであるが,32の折り工程のうち,どこからどこまでの折り工程を一つの手順にまとめて何個の説明図を用いて説明するかについては選択の幅があること(略),(2)本件折り図は,別紙1のとおり,最初の折り工程から完成形に至るまでの折り工程について,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,紙の表と裏を色分け(赤色と無色)した各説明図において,折り筋を付ける手順を示す矢印,折り筋を付ける箇所及び向きを示す点線(谷折り線・山折り線),付けられた折り筋を示す実線,折った際に紙が重なる部分を予測させるための仮想線を示す点線によって折り方を示すことを基本とし,これらの折り工程のうち矢印,点線等のみでは読み手が分かりにくいと考えた箇所について説明文及び写真を用いて折り方を補充して説明したものであること,(3)本件折り図に従えば,「へんしんふきごま」の折り紙作品を特段の支障なく作成できることによれば,本件折り図を全体としてみた場合,上記説明図の選択・配置,矢印,点線等と説明文及び写真の組合せ等によって,「へんしんふきごま」の一連の折り工程(折り方)を見やすく,分かりやすく表現したものとして創作性を認めることができるから,本件折り図は,著作物に当たるものと認められる。」(23頁)

と述べることにより、一応、本件原告折り図の著作物性自体は肯定したが、これに続く「複製ないし翻案の成否」という争点において、「被告折り図が本件折り図の複製又は翻案に当たるか否かを判断するに当たっては,被告折り図において,本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができるかどうかを検討する必要がある」という(ある意味当たり前の)前提を挟むことにより、侵害が成立する途は事実上断たれることになった。

なぜなら、被告折り図と本件折り図とで共通しているのは、

「(1)32の折り工程からなる「へんしんふきごま」(吹きゴマ)の折り方について,10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)によって説明している点,(2)各説明図でまとめて選択した折り工程の内容,(3)各説明図は,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,折り筋を付ける箇所を点線で,付けられた折り筋を実線で,折り筋を付ける手順を矢印で示している点等」(25頁)

だけであり、その一方で、

「被告折り図は、折り工程の大部分を矢印や点線等といった図に示した記載に加え、説明文を大幅に付している。」

「被告折り図では写真を用いておらず、紙の表裏の色分けもしていない」

といった表現上の相違点があるほか、

被告折り図の7番目の説明図における折り筋(折り目)を示した点線の位置が,本件折り図の手順7の説明図に示された正しい位置と異なるため,被告折り図に従って折り進めても,完成形に至ることはできない」(26頁)

という致命的な相違点(笑)があったからだ*7

その結果、

「以上のとおり,被告折り図と本件折り図は,前記(イ)の相違点が存在することから,折り図としての見やすさの印象が大きく異なり,分かりやすさの程度においても差異があるものであって,前記(ア)の共通点を最大限勘案してもなお,被告折り図から,「へんしんふきごま」の一連の折り工程(折り方)を見やすく,分かりやすく表現した本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができるものとは認められない。」(26頁)

として、複製、翻案の成立が否定されることになったのである。

予備的請求についても棄却され、被告としては、やれやれ、の結論。

しかし、「見やすさ、分かりやすさで原告作品に劣る」ことを暗に指摘された上に*8、制作内容の「誤り」までしっかり認定されてしまった、というのは、あまり手放しで喜んで良い話でもないわけで*9、被告のスタッフとしてはさぞかし複雑な思いだったことだろう。

知財高判平成23年12月26日(H23(ネ)第10038号)*10

地裁判決に対して原告が控訴したことにより、舞台は知財高裁に持ち込まれたが、控訴人(原告)側の期待空しく、著作権侵害については、第1審とほぼ同じ理屈により請求が退けられている*11

一方、(著作権侵害以外の)不法行為の成否についてはどうだったか。

原審の東京地裁は、

「被告が,本件折り図と同一又は酷似した被告折り図を,本件ドラマの番組宣伝活動の一環として原告に無断で本件ホームページ上に掲載して利用した行為は,創作折り紙作家である原告が長年の研究・試行錯誤・努力の結果,最終成果物として作成した本件折り図を,何らの対価も支払わず,かつ,折り図を作成するまでの人的資源,時間等の負担を全く負わず,原告の努力の成果をかすめ取るものである」

「被告は,原告が創作した「へんしんふきごま」の折り紙を,無断で本件ドラマで使用し,被告折り図を本件ホームページに掲載することによって,ドラマの視聴率を高め,ひいては広告収入等の増加という効果を得ており,このように原告が研究・工夫して作製した「へんしんふきごま」とその折り図に視聴者・読者の誘引力が認められる以上,それらの管理及び利用について許諾を与えることによって得られる利益は法的保護に値するのであって,この利益を蔑ろにして収益を上げた被告の行為は違法性が高い」

「一般に他者の出版物の無断転用は禁じられているというのが出版業界及び放送事業界で確立された商慣習であって,被告の行為はこのような商慣習を全く無視する,いわゆる「フリーライド(ただ乗り)」行為にほかならず,社会に多大な影響力を有するメディアの一社として知的財産権等の保護に努めるべき社会的責任を負う被告が,かえって他者の権利侵害を助長する行為に及んだという点からも,一層違法性が高い」

「それゆえ、被告が被告折り図を作成し,これを本件ホームページに原告に無断で掲載した行為は,公正な自由競争として社会的に許容される限度を超えるものであって,原告の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成する」

といった原告の主張に対し、「原告の法的利益が具体的に侵害されたことを認めるに足りる証拠はない」(32頁)と述べた上で、被告が誤った図面を掲載したことについても、被告側で誤認混同防止措置に一定の対応を行っていることを認定し、「被告折り図と本件折り図を誤認混同したり、原告が被告折り図を作成したかのような誤解が生じることはなかった」として、原告の請求を棄却していた。

そして、知財高裁は、上記のような原審の判断をすべて是認した上で、「折り紙作品が番組内で使われたこと」や「被告が原告が抗議した後、相当期間が経過するまで被告折り図を放置したこと」を不法行為とする控訴人の追加主張に対し、以下のような判断を下している。

「証拠(略)によれば,原告は,平成21年9月5日の被告PRセンター担当者宛てメールで,作品を番組の中に登場させるのに許可は必要だとは思っていない旨回答しており,同年10月20日の被告宛て「通知書」でも,「へんしんふきごま」という折り紙作品が番組で放映されたことについての抗議はしていない。そうすると,原告は,「へんしんふきごま」という折り紙作品がテレビ番組において放映されることについては,事後的に許諾を与えたと認められるか,又は,少なくとも社会通念に照らして容認したものと認められるから,被告による上記放映によって原告の公衆送信権が侵害されたとはいえない。」

「また,被告が,原告から許諾を得ることなく,被告折り図を被告のホームページに掲載し,原告が平成21年7月2日に抗議したにもかかわらず,同月7日まで放置する行為をしたとしても,被告折り図が原告の著作権ないし著作者人格権を侵害しないものである以上,被告の上記行為が不法行為を構成するとはいえない。また,前記の事実経過に照らし,被告の行為によって,原告の法律上保護される利益は侵害されていない。」(10頁)

元々、控訴審の舞台が、「顧客吸引力」云々といった理屈で不法行為の成立を認めるとは思えない飯村判事の合議体だけに、こういう結論になることも当然に予想されたところではある。

ただ、テレビ放映云々の話はともかく*12、指摘を受けた後5日もそのままにしていた、というのは、(結果的に違法とはされなかったとはいえ)一流会社の対応としてはどうなのかなぁ・・・と思えるところで*13、これまた、被控訴人(被告)側の不名誉さに拍車をかけるようなエピソードになってしまっているのは間違いない。


以上、結果的には、第一審、控訴審ともに、原告(控訴人)の請求が退けられ、本来ならば、被告のTBSとしては「完全勝利」と胸を張りたい事件のはずなのに、透けてみえるお粗末さゆえ、そうもできない悲しさ。

年が変わった今となっては、様々な厄を全部落として、名門復活に向けて邁進されることを願うのみであるが・・・。

ぼくの妹 DVD-BOX

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*1http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20110810/1325274055参照。

*2:第46部・大鷹一郎裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110525174516.pdf

*3http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%BC%E3%81%8F%E3%81%AE%E5%A6%B9

*4:良くあるパターンとして、ついでに関連商品の宣伝等もしていた・・・のかもしれない。

*5:もちろん、そうでなくても期待を裏切る低視聴率で社内で白い目で見られていたところに、こんなトラブルが起きてしまった・・・というのも、当事者にとってはダメージが大きかったことだろう。

*6:そうでなければ、その図面から正確に物を作ることは困難だろう。

*7:厳密に言えば、被告作品に“誤り”があったとしても、原作品の表現上の本質的特徴が感得できるのであれば、それをもって直ちに複製・翻案が否定される、ということにはならず、この「点線の位置の誤り」も、複製、翻案を否定する要素といえるのかどうかは微妙なところだと思うが・・・。

*8:この辺は、掲載するページの制約上、やむを得ないというべきなのかもしれないが。

*9:ちなみに、この被告制作内容の誤りは、原告による著作者人格権侵害の主張の中でも散々指摘されているものであり、一歩間違えると大負けにつながりかねなかった、被告側の大きなミス、といえるのではないかと思う。

*10:第3部・飯村敏明裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111227153902.pdf

*11:第一審では「本質的特徴を直接感得できること」のみを否定したのに対し、控訴審ではそもそも「本件折り図の有形的な再製には当たらない」としたこと、また、控訴人が追加したと思われる「32の折り工程のうちどの折り工程を選択して表現するか、何個の説明図を用いて説明するか、という点も表現である」という主張を失当であるとして片づけたこと、などに控訴審の特徴がある。

*12訴訟提起前の被告とのやり取り等からすれば、原告のこの主張は、さすがに無理筋で強引に過ぎたように思う。

*13リスクがあると思えば、適法違法の判断を待つまでもなく、すぐさま対応をとるのが本来のカタチだろう。

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