数日前の日経紙の1面に「政府が消費税還元セールを禁止へ」という記事が掲載されて仰天したばかりだったのだが、18日付の日経法務面で、早速そのネタが取り上げられている。
「政府は2014年4月の消費増税の際に、中小企業が円滑に増税分を価格に上乗せできるようにする法案を今の通常国会に提出する。大企業が強い立場を利用して仕入れのときに転嫁を拒否することを禁じるなど、中小企業がしわ寄せを受けないよう配慮したのが特徴だ。」(日本経済新聞2013年3月18日付朝刊・第17面)
記事によれば、政府・与党が考えている対策は、
「中小企業が増税分を転嫁する際に、取引先が拒否することを禁じる」
「中小企業などのグループが増税分の上乗せなどを決める価格転嫁カルテルを容認する」
という2本柱、ということで、これだけ見ればなんてことはない。
後者については、現在の独禁法を形式的に読めば「クロ」になる可能性もあるので*1、立法措置を講じる、というのは理解できるところだし、前者については、そもそも新たな立法措置を講じなくても、現在の下請法の規律の中でカバーできるところも多いと思われる*2。
だが、問題は、上記の規制目的を達成するために、禁止される具体的な行為の内容そのものにある。
これまで報じられているところによると、政府は、
『消費税還元セール』など増税分を上乗せしないことをうたう特売そのものを禁止する」
というところまで規制することを意図しているようなのだが、当局の担当者は、「還元セール」において、常に納入業者側が一方的にコストを押しつけられている、というような実態が果たして存在するとでも、本気で思っているのだろうか・・・。
小売店サイドが一切汗を流さずに、納入される商品のメーカーサイドに一方的に負担を押し付ける、というやり方では、そもそも長期的な取引関係を維持できないのであって、仮に、全体で利ザヤを削る、というスキームになったとしても、小売店、メーカー双方が、原価割れにならないレベルで協力し合って、合理的な利ザヤを残したうえで、販売のボリュームを稼いでより多くの利益を得る、というのが、本来の「セール」の在り方であろう。
そうでなくても、消費税が導入されることによって、見かけ上の店頭価格は上昇し、消費者の財布の紐が固くなることが予想されるのだから、その紐を緩めるために、ちょっとでも“お得感”を演出して、最終的により多くの利益を稼ぐ・・・というのが、「還元セール」の趣旨なわけで、それが一切禁止される、となると、小売店は売り上げが伸びずにジリ貧になる状況を甘受せざるを得ない、ということになってしまう。
そして、当然ながら、メーカーにしても、商品の売り上げが落ちれば、どんなに利ザヤを稼げる価格設定としていたとしても、結局、利益の総和を減らすことになってしまうのは、火を見るより明らかだ。
今年の夏には、選挙を控えている政府、与党、特に中小企業を自らの権力基盤としてきた自民党にしてみれば、そうでなくても評判が悪い消費税導入のマイナスイメージをちょっとでも軽減するために、「中小企業に配慮した」という実績を何としても残したいのだろう。
だが、やり方を間違えると、かえって中小企業の経営に影響を与えてしまうことになりかねない。
個人的には、今回取り沙汰されている政策が、単なる思い付きのように思えてならないだけに、舵取りを誤らないように、もう少し熟考してくれないものかなぁ・・・と、願うばかりである。