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2013-05-04

[]現在の原発賠償紛争解決のシステムに足りないものは何か?

既に震災から2年以上が経ち、「アベノミクスバブル的な事象すら巷では散見される中で、ともすれば忘れられてしまいそうな「原発事故」だが、本格的な解決にはまだ程遠い、という状況が報じられている。

「東京電力福島第1原子力発電所事故を巡り、裁判以外の紛争解決(ADR)を行う政府の「原子力損害賠償紛争解決センター」での和解仲介が進んでいない。申し立てから1年以上たっても具体的な話し合いに至らないケースもあり、取り下げや提訴に踏み切る被災者もいる。同センターは人員を増強するなどして改善を急いでいる」(日本経済新聞2013年5月4日付け朝刊・第30面)

この件に関しては、ADR機関の発足直後から、一部の弁護士会の全面バックアップもあって、若手弁護士を中心とした調査官が大量にかき集められているし*1、身近なところで関わっている方の話を聞くと、中にいるスタッフがいかに心身をすり減らして業務にあたっているか、ということも伝わってくる。

当初掲げられた「3ヶ月程度での紛争解決」という“看板”の無茶さゆえに*2、記事に上がっているような失望の声もあふれてしまうことになるのだろうが*3、同じスタイルで裁判所に訴えを提起すれば、それこそ一審段階で和解案提示に至るまでに2〜3年要しても不思議ではない話だけに、今のADRに問題があると言い切るのは早計だろう。

とはいえ、本年2月の「活動状況報告書」(http://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2013/03/05/1329118_010.pdf)の時点で、申立件数は既にジリ貧傾向。

件数が減少している原因が、「ADRに行かなくても、東電から支払が受けられるようになった」といった前向きな要因にあるのであれば、そんなに心配しなくても良いと思うのであるが、“時間がかかることによる諦め”とか、“最初から訴訟へ”という不効率な心情が要因になっているのであれば、放置するわけにもいかないはずだ。

記事の中では、「センターの人員不足」、「東電による回答先延ばし」、「本人申し立て事件における主張の整理」といった問題が「処理遅延」の原因として指摘されており、ADR機関側でもそれらを解消するための努力を行っている、ということが伝えられている。

だが、個人的な印象としては、

ADRで時間をかけて打ち出された解決基準が、東電自身の賠償方針に十分反映されていない」

ということが、ADR申立案件の蓄積&滞留の決定的な要因のように思えてならない。

もちろん、ADRの場で出された解決基準のうち、様々な事例に共通する重要な基準は、「総括基準」として公表されているし(http://www.mext.go.jp/a_menu/genshi_baisho/jiko_baisho/detail/1329129.htm)、少なくともADRの場においては、東電側にも尊重されているはずであるが、それが「賠償の一般的な基準」として取り込まれておらず、東電の賠償窓口に対してそれに則った請求をしようとしても、東電の基準で撥ねられてしまう(結局、「これで納得できないならADRを申し立ててください」と言われて、被災者側が余計な手続きを強いられることになってしまう)、という実態はあちこちで見聞きするところである。

そういった前提を踏まえるならば、今必要なのは、現在の紛争解決制度にかかる負荷を減らす、という観点から、ADR機関が示した紛争解決基準を「原子力損害賠償紛争審査会」そのものの指針として取り込んだうえで、それを東電の賠償基準に直ちに反映させる、という仕組みを設けることではなかろうか、そして、「ADR機関の体制増強」という、将来的な副作用が懸念される方策に依存するよりも*4ADRに申し立てるまでもなく、被災者が十分な賠償を受けられる仕組み」を構築することこそが、制度に対するフラストレーションを減らす最良の方策ではないだろうか、と自分は思うのであるが・・・。

個人、事業者ともに、避難指示区域内の不動産賠償等も本格化して来ている中、賠償に関する話題が過去のものとなる日が来るのは、まだまだ遠い先のことだと言わざるを得ないのだが、せめて一年後のこの時期には、もう少し前向きな話題が世に出ていることを、筆者としては祈るのみである。

*1:記事によると、4月1日現在で153人、今後約210人に増員するとのこと。

*2:おそらく裁判所が行っている労働審判や他の専門系ADR等を意識した期限目標だったのだろうが、裁判所のように常勤のスタッフが対応できる環境ではなく、かつ、他のADRとは相対的に多量な件数を捌かなければならない(しかも、原発事故に関しては基準となるような裁判例の蓄積等があるわけでもない)、という状況では、あまりに無理な目標設定だったのではないか、と言わざるを得ない。

*3:記事で取り上げられているのは、平成24年4月に申し立てを行ったにもかかわらず、第1回の口頭審理が申し立てから半年後となり、1年経っても未だに和解に至っていない、と肩を落とす米生産販売業者や、平成24年3月の申し立て後、一度も口頭審理が開かれることがないまま、約1年が経過し、和解と並行して集団訴訟に参加することになった避難者など。

*4:仲介委員はともかく、調査官に関しては事実上フルタイムで稼働させている状況だと思われるだけに、大量に採用したは良いが、その後は・・・?という問題が、将来的には必ず出てきてしまうような気がする。

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