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2013-08-09

[][]「著作権」の重さを改めて感じる一事例〜ディスプレイフォントの使用をめぐって

パッと見た限りでは、それなりに創作性がありそうで、何らかの形で投資インセンティブを保護する必要性もあるように思われるのに、判例上は「著作物」として認められておらず、それゆえに著作権法の保護も受けられない“コンテンツ”は、決して少なくない。

「印刷用書体がここにいう著作物に該当するというためには、それが従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であり、かつ、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならないと解するのが相当である。」

という最高裁判決(最一小判平成12年9月7日)の下、事実上ほとんどのものについて、著作権法上の保護が否定されることになった「文字フォント」などは、その典型ということができるだろう。

この判決に対しては、当然ながら異論も出されたところであり*1、それが未だにくすぶっている面もあるのだが、最高裁判決が出た今となっては、そういった“異論”も、個々の文字の書体に対して著作権による保護を認めよ、という方向よりも、「一組の書体の集合体たるタイプフェイス」についての権利主張であったり、著作権法の枠外での立法的解決を求める主張に向かわざるを得ないのが実情といえる。

そんな状況下で、フォントベンダーが、自らの製作したフォントを番組テロップに用いたテレビ局と番組制作会社に対して損害賠償請求訴訟を提起する、という事件が起きたようで、第一審の判決が最高裁HPにアップされている。

著作権法による保護を求めるものではない」という前提の下で争われたこの事件(ゆえに請求原因も一般不法行為で構成されている)は、“保護されない知的創作物”について議論する上でいろいろ興味深い内容も含んでいるように思われるので、ここで紹介しておくことにしたい。

大阪地判平成25年7月18日(平成22年(ワ)第12214号)*2

原告:株式会社視覚デザイン研究所(フォントベンダー

被告:株式会社テレビ朝日株式会社IMAGICA

判決冒頭で示された概要から引用するならば、本件は、

フォントベンダーである原告が,テレビ放送等で使用することを目的としたディスプレイフォントを製作し,番組等に使用するには個別の番組ごとの使用許諾及び使用料の支払が必要である旨を示してこれを販売していたところ,原告が使用を許諾した事実がないのに,前記フォントを画面上のテロップに使用した番組が多数制作,放送,配給され,さらにその内容を収録したDVDが販売されたとして,番組の制作,放送,配給及びDVDの販売を行った被告テレビ朝日並びに番組の編集を行った被告IMAGICAに対し,被告らは,故意又は過失により,フォントという原告の財産権上の利益又はライセンスビジネス上の利益を侵害したものであり,あるいは原告の損失において,法律上の原因に基づかずにフォントの使用利益を取得したものであると主張して,主位的には不法行為に基づき,予備的に不当利得の返還として,原告の定めた使用料相当額の金員(主位的請求には弁護士費用が加算される。)の支払を求めた事案」(2-3頁)

ということになる。

元々、原告は、平成7年〜平成10年までの間にいくつかのタイプフェイスを制作し、それをデータ形式にしたソフトウェア(旧フォントソフト)を販売していた。

そして、旧フォントソフト購入者との間で締結した使用許諾契約においては、使用期間や用途等の制限は存在せず、ソフトを正当に購入したものは、旧フォント及びフォント成果物を自由に使用することができ、テレビ放送等に旧フォントを使用する場合でも、別途料金を支払うことを要しない、とされていた。

ところが、原告は、「使用料」を「新たな収益源とするビジネスモデルへの転換」を考えたようで、平成12年5月15日付け書面で、被告テレビ朝日を含む放送事業者に対し、

ソフトウェア使用に関する同意書」,及び旧フォントの購入状況や外注先のテロップ製作業者について回答書の提出を求め,同意書を提出した場合には,特例として,旧フォントを無料で使用できることを通知」(22頁)

した。

皮肉なことに、上記の書面を出した約4か月後に、残念な最高裁判決が確定することになってしまったわけだが、それでも原告は、

平成14年ころ フォントソフトの販売とは別に、デジタルフォントのアウトラインデータの一文字単位での販売も開始

平成15年3月3日 同日付書面で、放送事業者に対し、3年間にわたって実施してきた無料サービスを終了すること、同年4月1日以降、テレビ番組等の映像媒体で原告が製作したフォントを使用する場合には、所定の手続と商用使用料金の支払が必要となること等を通知

と、着々と自らの“ビジネスモデル”構築の布石を敷き、さらに、平成15年5月には、上記タイプフェイス(旧タイプフェイス)の一部に変更を加えた新たなフォントソフトを販売し、その際、使用許諾契約において、

「本件フォントをテレビ放送等に使用する場合には、本件使用許諾契約と別に、個別の原告の許諾及び原告への使用料の支払が必要である」(5頁)

という条件を定めるに至ったのである。

原告はデザイン会社らしく、「書体見本」付きの華やかなHPを開設しているが(http://www.vdl.co.jp/)、そこでも、「テレビ番組・映像製作」向けのリースフォントのサービス説明ページへのリンクが目立つところに貼られており*3、この分野を強く意識したビジネスを行っていることは間違いない。

著作権の保護は受けられなくても、いや、保護を受けられないからこそ、「契約」によるビジネスモデルの構築が、この会社の目指すべき道だったはずで、旧タイプフェイス時代から、テレビ番組のタイトル等に原告の製作したフォントを使っていた放送局が、この誘いに応じてくれれば、万事OK、になるはずだった。

だが、そこは、権利関係については百戦錬磨(?)の大手放送局のこと、被告テレビ朝日は、原告の度重なる書面通知に対して、

「字種を組み合わせて用いることに対し,フォントベンダーが権利を行使する余地はなく,正当な方法で入手したタイプフェイスに含まれる字種を組み合わせることは使用行為であり,原告の要求はこれを越えるものである」(25頁)

と書面で敢然と反論する。

判決に表れているところによれば、テレビ局側でも本件フォントのような派手な文字を使った「番組のテロップ」の作成は、外部の専門業者に委託することが多かったようであり、放送局側で使用するフォントの選択等を明確にコントロールすることは難しかったようだ。

それゆえ、テレビ朝日側で「トラブルを避ける趣旨」で、「テレビ番組の制作担当者らに,原告のフォントは使用せず,ノートパソコン等に原告のフォントインストールしないよう,注意喚起をした」にもかかわらず、現実にはいくつかの番組のテロップの文字に本件フォントが使用されてしまったこと(そしてそれを原告が目ざとく発見したこと)がきっかけで、不幸にも本件訴訟が提起されることになったわけだが、そもそも、原告と被告テレビ局側とで、「フォントの使用行為」に関する認識が全く異なっており、かつ双方とも自らのビジネスモデルを維持したままフォント販売/番組制作を続けていた以上、紛争が燃え上がるのは時間の問題だったように思われる。

裁判所が課した高いハードル

さて、それでは、裁判所は原告の主張に対してどのような判断を下したのか。

まず、裁判所は「不法行為についての判断」の冒頭で、以下のように述べて、「本件フォントそれ自体」に係る法的な保護に値する利益の存在を否定した。

著作権法による保護の対象とはならないものの利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解されるが(最高裁平成23年12月8日第一小法廷判決・民集65巻9号3275頁参照),本件フォントを使用すれば,原告の法律上保護される利益を侵害するものとして直ちに不法行為が成立するとした場合,本件タイプフェイスについて排他的権利を認めるに等しいこととなり,このような主張は採用できない」(33〜34頁)

一昨年、北朝鮮映画著作物の著作権侵害事件で最高裁が示した、一般不法行為の成否に関する規範は、当初、最高裁判決を見た時の印象を大きく超えて裁判実務に浸透しつつある印象があるのだが*4、本件も例外ではなく、ここはばっさり、である。

以前は、フォントのデッドコピーであれば不法行為を認める余地もあるかのような考え方も示されていたことを考えると*5、原告には若干気の毒な気もするが、本件では「契約違反」に係る故意・過失の有無が主戦場となっていた面もあるように思われるため、この点についてはやむを得ない、というべきだろうか。

そこで、続いて判決を追っていくと、裁判所が使用許諾契約違反に係るテレビ局の故意・過失について、以下のような説示をしているところに行きつく。

「被告らが,本件フォントについて,原告と本件使用許諾契約を締結したとは認められず,そのため,前記(1)のような原告の主張する利益との関係において,その侵害につき被

告らの故意があったというためには,少なくとも,被告らにおいて,フォント成果物の納品元であるテロップ製作業者等が,原告との間で本件フォントの使用に制限を課す本件使用許諾契約を締結しており,かつ,これに違反している旨知っていたことを要するものと解される。」 (35頁)

「原告の上記主張に関しては,以下の(ア) ないし(エ) の点を指摘することができるのであって,これらを総合すると,フォント成果物であるテロップ画像を取得して本件番組の制作,編集に使用する被告らに,テロップ製作業者等による本件フォントの使用につき,原告の正当な許諾があったかを確認し,許諾がないのであればその使用を中止すべき義務があったにもかかわらず,これを怠ったとの過失を認めることはできない。 」

「(ア) 原告から旧フォントを購入した者は,旧使用許諾契約を締結していたとしても,特段の制限を受けず旧フォントをテレビ番組等で自由に使用できたのであるから,原告がその者に対し,今後は,放送等への使用には別途許諾が必要である旨を通知したとしても,このような一方的な通知によって,上記のような法的地位を変更することはできない。したがって,原告が本件フォントを販売した後も,契約上の制約を受けることなく旧フォントを使用し得る者が存在したといえるが,現に前記1(6) のとおり,一部の番組では,新フォントと旧フォントの混在が認められ,被告IMAGICAはもちろん,テロップ製作の発注者である被告テレビ朝日としても,従来から使用されている旧フォントと,ごく一部が変更されたに過ぎない本件フォントを区別することは,実際上極めて困難であったといえる。」

「(イ) 多数のフォントベンダーによる多数のフォントが流通しているが,無償で使用し得るもの,有償で正当に取得すれば使用に特段の制限のないもの,使用態様に制限があるもの,使用態様の制限はないが,期間制限があり更新が必要なものなど,その使用制限の有無,態様は様々であり,契約の当事者でない者が,これを区別することは極めて困難であるから,仮に,フォント成果物としてテロップを取得した者が,それを使用するにあたり,テロップの製作者におけるフォントの使用に正当な権限があるかを確認しなければならないとすれば,非常な困難を強いられるおそれがある。」

「(ウ) タイプフェイスあるいはフォントが,一定の財産的価値があるものとして有償取引の対象となっていることは原告主張のとおりであるものの,これらは歴史的,文化的に形成されてきた文字との同一性の範囲内にあるものとして流通しているのであるから,フォント成果物の流通過程において,前者の使用権限の有無を確認すべき義務があるとすれば,その流通に制約が課されることとなり,文字を使用した情報伝達やコミュニケーション自体を阻害するおそれが生じる。」

「(エ) 本件番組は,別法人である放送事業者,編集担当者,番組制作業者及びテロップ製作業者などが,業務を分担する形で制作されているが,このような場合,一般には,各人が受注した範囲で権利の処理を行い,必要な許諾を得るものとされており,特段の理由のない限り,それを前提として各人の業務を遂行することが許されると解される。」

(35-36頁)

「故意」については、著作権等による物権的な保護が認められず、「第三者の使用許諾契約に関する債権侵害」という構成になってしまった時点でハードルが高くなるのはやむを得ないし、「過失」についても、挙げられている規範は、いずれも納得感のある内容になっている、と自分は思う。

特に、(エ)の要素などは、テレビ番組の制作現場の実態を踏まえたもの、ということができるのみならず、あらゆる“分業”型の仕事において応用できそうな意義深い説示になっている、といえるだろう。

また、原告にしてみれば、「フォントの無断使用をやめるようたびたびテレビ局に通知していた」にもかかわらず、結果的にそれを看過するような形で、テレビ局が番組で本件フォントを用いた、ということ自体が許しがたい行為のように映るのかもしれないし、一部の番組について、本件訴訟を提起してその中で原告から指摘したにもかかわらず、しばらくの間本件フォントの使用が継続された、という点などに、“突っ込みどころ”を見出したところがあるのかもしれないが、前者については、

「被告らは,上記通知を受け,本件フォントが原告の許諾なく使用されている可能性を認識した後は,本件使用許諾契約に基づく原告の利益を損なうことがないよう速やかな対応をとったものといえる。」(40頁)

とされているし、後者についても、

「同番組は,番組制作会社が権利処理業務も含めて制作を請け負っており,被告テレビ朝日は完成された番組の納品を受ける立場にあったため,上記ロゴGが旧フォントでなく本件フォントであったとしても,被告テレビ朝日の意思で本件フォントの使用が開始されたとはいえないし,本件フォントを一見してそれと識別することが困難であることは,既に述べたとおりである。 」(40頁)

と、裁判所は、これらが不法行為の成立原因になりうる余地を消してしまった。


これまでのフォント/タイプフェイスに係る裁判所の判断傾向や、不法行為責任の成否をめぐる議論に基づくならば、本判決の結論にはさほど違和感はないし、実務的にも(原告以外には)この判断によって大きな影響を受ける者は出てこないのではないかと思う*6。。

だが、もし、原告のフォントが、著作権法で保護されていたならば、被告が原告との契約の当事者であろうがなかろうがダイレクトに権利を及ぼせるはずの利用行為なのに、そういった保護が及ばないゆえに、直接の契約がない被告らとの間で、迂遠な方法でしか責任追及をすることができず、しかも、そこで責任を認めさせるためのハードルは極めて高い・・・ということになってしまう。

「著作権」というのはそういうものだ、と言ってしまえばそれまでなのだが、原告のHP上に掲載されている良く整った美しいフォントの数々を見てしまうと、若干複雑な気分になることも事実。

たとえ、結論が変わらないとしても、個人的には、もうあと一審級くらいは、判断を仰ぐ機会があっても良いのではないかな、と思うところである。

*1:例えば、日本タイポグラフィ協会なる団体のhttp://www.typography.or.jp/act/morals/statements.pdfなど。

*2:第21民事部・谷有恒裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130808100539.pdf

*3:この「TVリースフォント」については、本判決の中でも言及されている(23頁参照)。

*4http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20130110/1358140684参照。

*5特許庁から出された、http://www.training-jpo.go.jp/en/uploads/text_vtr/pdf/Protection%20of%20Type%20Face%20(2009)(jp).pdfの26〜27頁などを参照。

*6:逆にここで被告がほんの一部でも損害賠償請求を認められるようなことになってしまえば、同じ業界のみならず、影響を受ける範囲はかなり広くなったのではないかと思われる。

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有斐閣 中山信弘
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