新しい年の新しい動き。

年も改まった、ということで、昨年のうちに届いていた法律雑誌の「新年号」に目を通してみた。

まずは、毎年恒例、新しい年の「ビジネスローの展望」を特集に掲げるNBL誌(1016号、2014年1月1日号)から。

宣言されたリミット 〜いよいよ正念場となった「債権法改正」

基本的にこの企画は、所管官庁のそれなりの立場の方が書かれる記事、ということもあってか、毎年、法改正動向の簡単な概要の紹介に留まることが多く、資料価値は認めうるものの、“読み物”としてはそんなに期待できる代物ではない。

たが、今年は、冒頭の「債権法改正の動向」*1から、「おっ?」と思わせるコメントが登場する。

まず、今後の進行について、「部会での改正要綱案の決定は、おおむね来年1月ころに行われる」見通しであり、それに先立って「本年7月末までに改正要綱仮案を取りまとめることが予定されている」という方針が公に示され、「改正要綱仮案は、この段階で実質的な改正内容を固めることを意図するもの」であることが、参事官のコメントとして明確に示されたこと*2

法制審部会周りでは、既に当然の「既定路線」として受け止められていたスケジュールではあるが、これまで「期限を決めずにじっくり審議する」というのが“公式見解”になっていたことを考えると、こういう形で当局のコメントとして“リミット”が活字になり、公にされた、ということには、大きな意味があると個人的には思っている*3

また、「改正要綱案の取りまとめに向けて」(6頁)という章で述べられている内容も、今後を占う上では大変興味深い。
特に、以下の部分は。

「最終的な改正要綱案を確定させる前に3回目のパブリック・コメントの手続を実施すべきであるという意見も寄せられているが、今後さらにこの手続を実施することは、基本的に想定されていない。法制審議会で得られた成案は、その後に法律案として国会に提出され、国民の代表である国会の審議を通じて国民の声を反映することが予定されているからである。」
「もっとも、この意見は、さらに時間をかけてよりよいものを目指すべきであるという趣旨にも理解することができ、それは立法作業の一つのあり方として傾聴に値する。しかし、他方で、一定の合理的な審議期間の中で、それぞれの論点項目について大方の賛同を得ることのできる成案を得られるかどうかを見極めるという観点も、立法作業においては必要である。」(6頁)

要するに、いろんな意見があるのは分かるけど、もうそろそろ纏めに入るので“見極め”のプロセスに協力してくれ・・・ということなのだろう。

これに続けて、「部会資料や議事録に対して意見を寄せていただくことは常に歓迎」だとか、「部会の内外での意見交換を十分に図りながら審議を進めることを心掛けていきたい」といったコメントも出てくるので、無茶苦茶な進め方にはならない、と自分も信じたいところではあるが、昨年末のアドバルーン記事の一件といい*4、そろそろ水面下のいろんな動きが出てこないとは限らないわけで、今年もやきもきしながら審議会内外でのプロセスを見守っていくことになるのだろう、と思っている。

消費者裁判手続特例法ほか

さて、その他のビジネス法令の動向については、会社法知財等を含めて、これといって特筆すべきものはないのであるが、強いてあげるとすれば、今年前半、BtoCビジネスを営む会社にとって、一番の悩みの種になりそうな「消費者裁判手続特例法」の話だろうか。

この点については、消費者庁の担当課長が書かれている記事*5よりも、特集記事の後ろに掲載されている「第28回民事紛争処理研基金設立記念講演会」の講演概要記事*6の方が、より踏み込んだコメントもあって、より読み甲斐があるのではないかと思う。

あと、「ビジネスロー」というよりは、もっと広い範囲に影響が及ぶ話だと思うのだが、相続法制に関して、非嫡出子相続分差別規定の廃止に伴い、「相続法制全般について見直しをする」ためのワーキングチームを設置する、という動きについては、個人的には興味深いところであった*7

独禁法の時代の本格的な訪れを前に。

一方、もう一つのメジャー雑誌、ジュリストの方に目を移してみると、目につくのが独禁法関連記事の多さである。

まず特集が「国際カルテル規制の最前線」ということで、神戸大の泉水教授と、独禁法分野の第一人者として活躍されている多田敏明弁護士、長澤哲也弁護士の3人による鼎談など、多くの紙幅が割かれている*8

そしてさらに、新企画として、「企業法務独禁法事例コレクション」の連載が開始され、白石忠志教授の企画趣旨の解説(「連載開始にあたって」)に続いて、島田まどか弁護士の「競争事業者間の情報交換」についての事例解説が第1回として掲載されている*9

奇しくも、先ほどのNBLの特集の中で、公取委の担当官が、「平成26年においても・・・競争政策の積極的な展開に取り組んでいく」と高らかに宣言している*10ことからも分かるように、近年、独禁法周りのリスクは国内外で、“机上のコンプライアンス”を超えた現実的な脅威となりつつあるのだけれど、実際に摘発事例に直面した企業や、その事例を担当した弁護士がまだまだ一部に限られている(さらに言えば、公取委の命令を超えて審判や裁判所で争われる機会が少ないため、審決例、判例の形で違法性判断のプロセスが明確になることも多くはない)ということもあって、どうしても正確な実態を伝える情報が、表に出にくい状況があったことは否めない。

それゆえに、本格的な独禁法規制の嵐が吹く前に、「有益な素材が一段と増えて議論が活性化し、以て一般読者の利益が確保され、独禁法の民主的で健全な発達が促進される」ように、という白石教授のご配慮は、実務サイドとしても大変ありがたいところであり、一読者に過ぎない自分としても、こういった積極的な情報シェアの動きは、陰ながら応援したいと思っている。


以上、この一年、最も注目される「ビジネスロー」が何なのか、ということは、あと360何日か経たないとわからないのだけれど、照準を絞り過ぎずに、いろいろとフォローしていければ(というか、仕事上それが必要なので、やむなく・・・という面もある)、というのが今年の目標でもあるので、関係の皆様には、引き続きよろしくお願いしたい。

*1:筒井健夫「債権法改正の動向」NBL1016号4頁(2014年)。

*2:その後、要綱案が出るまでの間には、「条文案の起草作業を進める過程でなにか問題がみつければ」フィードバックする(逆に言えば、そういった問題がなければ基本的に動かさない)にとどまる、ということも示唆されている。

*3:この期限までに纏め切れる、という確信を当局が掴んだためか、それとも、何としてでもこのリミットまでには終わらせる、という当局の決意を表しているのか(あるいはその両方か)は、筆者の知る限りではないが・・・。

*4:http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20131229/1388841623参照。

*5:加納克利「消費者裁判手続特例法について」NBL1016号23頁(2014年)。

*6:鈴木敦士「消費者裁判手続特例法案の概要」NBL1016号31頁(2014年)。

*7:堂園幹一郎「嫡出でない子の相続分に関する民法の改正と相続法制等の見直し」NBL1016号12頁(2014年)。

*8:ここでは書ききれないので割愛するが、この鼎談は、これまで関係者の間で“ボソッ”と呟かれていたような国際カルテル規制に関するあれこれのこぼれ話を、かなりの部分まで活字にしている、という点で、極めて資料価値が高いものではないか、と個人的には思う。

*9:なお、企画趣旨の説明の中で、『Business Law Journal』誌の「ビジネスを促進する独禁法の道標」という類似企画に言及され、「私事ながら少々板挟みの感」があったことを表明されているあたりに、白石教授のお人柄が表れているように思え(何の断りもなく、同じような企画を複数の雑誌にマルチポストされる方も多い中で・・・)、個人的には大変好感が持てるところである。

*10:笠原宏「競争政策の動向と課題」NBL1016号21頁(2014年)。法務省等の“立法”だけの府とは立場が違う、という前提があるとしても、独禁法、下請法ともに、ここまで高らかに宣言されると、実務サイドとしては、ため息の一つや二つ付きたくなってしまう・・・。

google-site-verification: google1520a0cd8d7ac6e8.html