日本の高校サッカーもここまで来たか・・・と思えた熱戦。

改修工事の余波で“聖地・国立”を失ったものの、新たに埼玉スタジアムをメインの舞台に据えて行われた第93回全国高校サッカー選手権
前評判の高いチームが順当に勝ち上がった上に、地元の関東勢が準決勝までに3チーム(流経大柏日大藤沢前橋育英)勝ち残る意地を見せたこともあり、個人的には、非常に盛り上がった大会だった。

そして、決勝のカードは、前年、同地区の富山第一高校に足元をすくわれて栄冠にあと一歩届かなかった星稜高校と、「ベスト4の壁」を遂に破った前橋育英高校の対決で、いずれも国内に名の通った名将を擁し*1、この大会では常連として存在感を発揮していた学校同士。決勝戦としては、理想的ともいえる好カードだっただけに、戦う前から期待するところは大きかった。

始まってみれば、両チームとも高いレベルで持ち味を発揮し、展開が二転三転するスリリングな試合展開となる。

特に素晴らしかったのが、星稜高校の守備陣で、初の決勝で気負い込む相手チームの選手たちの心中を見透かすように、1対1で巧みにボールを奪い、絶妙なポジション取りで、相手のパスも、危険なエリアに届く前にカット。早い時間帯にPKで先制する、という幸運にも恵まれ、前半は、しっかり守ってリズムを作った上で、一気に大田選手や右サイドの杉原選手が敵陣に斬り込む、というパターンが見事にはまっていた。

一方、世代別代表クラスの選手を抱えるだけあって、個々の選手の「迫力」では、星稜以上に凄みを感じさせていた前橋育英は、後半に入ってようやく本領を発揮する。

まず、自陣から蹴りだされた長いゴールキックから、相手DFの一瞬の隙を突いて野口選手が同点ゴール。
さらに、動揺が収まらない星稜DF陣が一瞬乱れたところを突いて、渡邊凌磨選手がドリブル突破から鮮やかなシュートを突き刺して逆転。

前半から、渡邊選手は高校生離れした鋭いシュートを放っていたし、伝統の14番・鈴木徳真選手も果敢なボール奪取から攻撃につなげる良い仕事をしていたのだが、星稜の堅い守備陣の前にどうしても決定的なチャンスを作れずにいた。それが、僅か2分の間に、流れを掴んで一気に逆転するのだからサッカーは面白い。

・・・で、このまま試合が終わっていれば、星稜としては、昨年の二の舞になるところだっただろうが、今年の彼らには、昨年の悔しさを乗り越えて掴んだ“経験”の強みがある。

この日攻撃陣では一番光っていた大田選手が、サイドをスルスルと攻め上がって、絶妙のクロスを上げ、DFの原田選手がピンポイントヘッドで同点に。

90分間では決着を付けられなかったものの、その後は、延長戦の20分間も含めてリズムを掴み続け、最後は、森山選手の2ゴールで試合を決定的なものにして、見事に初優勝を果たすこととなったのである。

際立った組織力が象徴していた、日本サッカーの広がり。

前後半+延長戦の110分を通じて、自分が凄いな、と素直に驚嘆したのが、星稜高校の完璧に近い「組織力」である。

「守備の堅さ」というだけなら、もしかすると全盛期の“市船カテナチオ”の方が盤石だったかもしれない*2が、攻撃との連動性、という点で言えば、今大会の星稜の完成度は、歴代の優勝チームの中でもずば抜けていたと思う。

前橋育英も、関東の強豪チームにもまれる中で、かなりモダンな組織戦術を身に付けてきたチームで、選手たちがめいめいに強引な個人技に走るようなチームでは決してないはずなのだが、星稜のしたたかな組織戦術の前では、選手同士の連携が分断され、特に同点に追いつかれてからは、「個人」を前面に出さざるを得ないような状況に追い込まれていた*3

そして、延長戦の後半に、相手陣内のコーナー付近で、シニアの代表選手も顔負けの巧みな“時間を使うボールキープ”で相手DFを翻弄した挙句、ぽっかり空いたスペースに走り込んだ森山選手に絶妙のパスを流して、豪快なトドメのシュートを決めさせたあたりなどは、まさに「組織」の力が頂点を極めた、という感すらあったと言える。

試合中の一つひとつのプレーの質や、これまでの代表への選ばれ方からすると、この日、決勝戦のピッチに立った選手達の中で将来的にサッカーで名を残せるのは、おそらく前橋育英の選手だけ、なのではないか、という見方もあるところだろう*4

だが、この決勝戦の対決の中で、名実ともに“主役”を張ったのは、間違いなく星稜の選手たちであり、フィールドにいた11人の選手たちの“総合力”は、過去に比類なきものがあった、ということだけは、ここに書き残しておきたい。


これが、中高6年一貫校、という利を生かし、全国大会制覇の実績を持つ中等部出身の選手を核にチーム作りを進めていったがゆえの成果、なのか、あるいは、長い間指揮を執ってきた名将の強い指導力ゆえの成果、なのか。

この日の一試合を目撃しただけに過ぎない自分には、そういったところを語る情報も力量もないのだが、日本でプロサッカーリーグが産声を上げてから四半世紀も経たないうちに、「北信越」というエリアから、これだけのチームが生まれることは、当時の関係者も誰一人予想できなかったことなのではないか、と思うところである。

この波が、まだ優勝旗が届いていない山陰の地、あるいは、北海道の大地にまで波及するのかどうか、誰にも予測することはできないのだけれど、最高に熟成された石川県発のサッカーの熱に触れてしまった今、もっともっとこの波が広がって、より成熟したスタイルが“まさか”の地で完成する・・・いつかそんな日が来るはずだ、と自分は信じてやまない*5

*1:残念ながら、星稜高校の河崎監督は、大会前の交通事故により、今大会は一試合もベンチに入ることができなかったのだが・・・。

*2:一番良い時期は、美しく統率された4バックのライン+規律正しくカバーに入る中盤の選手、が厚い壁となり、完全に相手チームの得点の気配を抹殺していた。

*3:といっても、先述した渡邊選手といい、鈴木選手といい、あるいは繊細なドリブルで果敢に切り込んだ坂元選手といい、「個」の力に傑出したものがあったのも確かだが・・・。

*4:星稜の選手たちの中でも、背番号10を背負った大田選手などは、まだまだ上のレベルでやっていけそうな気がするが、この日の実況、解説を聞く限り、現時点でプロへの道が開けている、というわけではなさそうだった。

*5:既に島根県立正大淞南高校などは、選手権でも高校総体でもリーグ戦でも、上位校としての地位を確立してきたところで、そろそろ、という気配に満ちているので、来年以降、期待せずにはいられない。

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