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2015-02-17

[][][]これを読まずして「著作権」は語れない。

福井健策弁護士、と言えば、著作権の業界では誰も知らぬ者はいない、というくらいの第一人者であり、かつ、難解な法律の世界のトピックを、分かりやすい言葉で世の中に伝える、という才能をいかんなく発揮されてきた先生である。

ブログでも、過去に三たび、「新書」という形で世に出された福井健策弁護士の著作をご紹介してきた。

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20130224/1361987368

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20111204/1323016686

http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20100313/1268583821

「著作権」の話から「契約」一般の話まで、扱われているテーマは異なるが、身近な事例を数多く取り入れて、その分野にあまり詳しくない人でも、“敷居の高さ”を感じることなくそれぞれのテーマに入っていける、という構成や、法律家としての正確な知識と実務経験に裏付けられた、明快で読みやすい文章等、魅力的な部分は共通している。

そして、そんな福井弁護士の新書のラインナップに、また新たな一冊が加えられることになった。

「高校生以上の学生や若い社会人」を主な対象として、書かれた著作権法入門書、ということで、最初書評を見かけたときは、今さら読むのもなぁ・・・と一瞬思ったのだが、書店でパラパラと読んでいるうちに、これは買わないと・・・という気分になってしまうのだから、さすが、というほかない。

入門書」というコンセプトや、ネットメディアでの連載記事をまとめたもの*1、という経緯もあってか、これまで当ブログでご紹介してきた著作に良く見られたような、著者による「政策提言」的な記述はどちらかと言えば控えめになっており、最初から最後まで、「基本的なルールをわかりやすく説明する」というコンセプトが貫かれている。

とはいえ、随所に(権利者側でもなく、利用者側でもない)「文化の側」に立つ専門家*2、としての著者の思いを感じ取れるような記述も現れており、自分としては、そこに魅かれるところも多かっただけに、以下、簡単にご紹介することにしたい。

分かりやすい「ルール」の説明と、そこで貫かれている「バランス」の視点

本書は、「基礎知識編」と「応用編」の二部構成になっている。

そして、前半の第一部では、

「著作物」って何?

という問いかけとともに、2条1項1号の基本的な定義と10条1項の例示を紹介し、それに続いて「ありふれた・定石的な表現」や「アイディア・着想」、「実用品のデザイン」といった「著作物ではない情報」を具体的に紹介していくことで、「著作物」の範囲を分かりやすく説明(第1章〜第3章)。

さらに、「著作権」を構成する権利の内容や、「著作者」「著作権者」の定義、二次的著作物、といった点について、最低限の内容を丁寧に説明した上で、「ミッフィー対キャシー」や「廃墟写真事件」といった具体的な事例を交えつつ、「翻案権侵害の基準」を伝えようと試みている(第4章〜第7章)。

第一部の最後で、3つの章を割いて、私的複製や引用、教育目的での利用等、権利制限に関する制度の解説を盛り込んでいる一方で(第8章〜第10章)、「著作者人格権」に関する解説は第二部(第17章、第18章)に回すなど、一般的な教科書の構成とは一味異なる、より実用性を意識した構成になっている、というのも興味深いところだと言えるだろう。

本書の「ルール」に対する解説は、初心者に“勘違い”させないように、という親心もあってか、「引用の注意点」として「6つ」の項目を挙げるなど*3、全体的に手堅いものになっているが、それは決して、“危うきに近寄るな”的な極端なスタンスではない。

むしろ、根底に流れているのは、

「『模倣する自由』と『真似されることの弊害』のバランス」(70頁)

をどう考えるか、という視点であり、それは、「ありふれた表現」に関する説明や(18頁)、「アイディア」そのものが保護されない、ということに関する説明(28頁)等にも、的確に反映されている。

そして、そういったバランスの良さが、ユーモア交じりの解説と相まって、本書を魅力的なものとしているのである。

「文化の発展」に込められた思い

第一部を読み終えて、第二部に足を踏み入れると、著者のテイストがさらに色濃く反映されているのが分かる。

Twitter」のつぶやきやRTの法的位置付けに言及した「ソーシャルメディアと著作権」の章(第11章)や、ボカロ動画、パロディ動画等の魅力とリスクを紹介する第12章に始まり、「二次創作」に関するまとめ(第19章)、そして、「著作権は何のためにあるのか? 著作権をどう変えていくか?」を論じた最終章(第20章)まで、インターネットメディアに馴染んだコンテンツ好きの読者にとっては、興味をそそられる話題には事欠かない。

本書の経緯からして、著者がネットユーザーを主要な読者層として想定しているのは間違いないところだし、ここで取り上げられている話題の多くも、そういった層になじみ深いものばかりなのだが、かといって、“ネット世論”に必ずしも追従しているわけではない、というところに、著者の専門家としての矜持が透けて見える。

特に、「JASRAC」に関する評価について、

「確かにこの団体、時どき間違ったことも言います」(124頁)

と、多少調子を合わせつつも*4

「筆者は率直に言って、人が真剣に取り組んでいる仕事を『カス』と呼ぶような態度は嫌いです。それに、著作権が集中的に管理されていること自体は、決して悪いことではありません」(124〜125頁)

と、ピシッと締めるあたりは、さすが、というべきだろう。

とはいえ、「グレーな領域での二次創作」に対し、寛容で前向きな目を向ける、という著者のリベラルなスタンスは、最終章に至るまで一貫して揺らいでいない*5

本書の終盤(第19章)には、

「日本人は声高に法律のルールを論じたり作ったりするのはあまりうまくない。しかしこういう、阿吽の呼吸をはかるのは恐らくかなり上手です。だからこそ、世界に誇る二次創作文化が『建前上は違法』なのにここまで開花したのでしょう」(186頁)

といった評価が示されているし、最後の第20章では、そこまで抑え込んでいたものを解き放つかのように、「非親告罪化」への疑問を投げかけたり、「オプトアウト」型の整理を志向するような、かなり「立法論」にまで踏み込んだ解説が目立つ。

終わりに近づけば近づくほど、(本書のコンセプトの枠の中にいながらも)著者の世界観にいつの間にか飲み込まれてしまう、という構成に、個人的には強く魅力を感じたのであった。

願わくばこれを教育の現場でも・・・

本エントリーでは、以上のとおり、本書の魅力を紹介してきたが、これだけバランスがよく、かつ、初心者にも読みやすい、という教材を他に見つけるのはなかなか難しいように思うだけに、本書が「新書」というカテゴリーを離れて、中高生向けの公式な著作権教育の“テキスト”として活用されたとしても全く違和感はない。

その種の教育が、ともすれば結果的に「やるべからず」集のオンパレードになってしまう傾向は否めないだけに、「ユーザーによる創作」もまた文化の発展につながる、という視点を前面に押し出した本書が広く世の中に行き渡ることは、様々な創作のふ化器となっている「グレーな部分」を守る、という観点からも、大きなメリットがあることだろう。

そして、昨今の著作権法業界に漂う閉塞感にうんざりしている者としては、本書に描かれている「著作権の姿」が多くの人に浸透したとき、また、新たな議論が生まれてくるのではないか、ということに、一縷の希望を託してみたい、と思わずにはいられないのである・・・。

*1:本書の「はじめに」によると、「ネットメディアCNET Japanで『18歳からの著作権入門』という20回の集中連載をおこなったのが、本書の原型」だということである(本書7頁)。

*2http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20130224/1361987368のエントリー参照。

*3:改変禁止(著作者人格権を侵害しないこと)や出典明記等、当然に順守すべきルールが記されている一方で、「明瞭区別性」「主従関係」といった、本来であれば議論があっても不思議ではない要件や、「自分の作品との関連性」といった独自の要件が付け加えられているあたりに、個人的には「手堅さ」を感じた。

*4:ちなみに、ここで著者がやり玉に挙げているのは、「保護期間の大幅延長」をJASRACが主張している、ということで、著者のこれまでの主張と照らし合わせれば、そう思われるのも当たり前かな、と思うところである。

*5:そもそも、ここで紹介されているような「二次創作」事例を“クロ”ではなく“グレー”とするところに、著者のスタンスが最も端的に現れていると思う。

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