企業法務戦士の雑感 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2015-12-01

[][]早くも手のひら返し?〜混迷深める「新しいタイプの商標」

改正商標法施行前後は、“画期的な新制度”の如く、喧伝されていた「新しいタイプの商標」。

そのかいもあってか、蓋を開けてみれば、特許庁ですらおそらく想像していなかったであろう大量の出願が殺到することになった*1

しかし、比較的識別力を認めやすい「(歌詞付きの)音」や「動き」の商標が早々に登録を認められた一方で、「色彩」商標の登録は、10月末の特許庁のプレス時点でもまだ「0件」。

そして、そんな状況の中、日経紙の法務面に、苦労して色彩商標を出願した会社の担当者をがっかりさせるような記事が掲載された*2

「色の新商標 企業が争奪戦」という見出しだけ見ると、いつものトーンの記事なのかな・・・と思ってしまうのだが、中身をよく読むと、おいおい・・・と言いたくなるようなコメントであふれている。

特許庁商標審査基準室のものとして紹介されているコメントのうち、

「ほぼ全ての出願に対して拒絶理由を通知する」

「単色の色彩だけで、自社製品・サービスと第三者のものとを区別することは原則できない」

といった類のコメントは、説明会の時から言われていたことでもあるから、そんなに驚くようなものではない。

だが、

「ほとんどの企業が出願書類に、単に登録したい色や複数の色の組み合わせを書き込んだだけで提出した」(強調筆者)

というコメントを見ると、施行前に“そういう出願方法で良い”とPRしていたのはどこの誰だよ、という突っ込みを入れたくなる*3

また、記事では、看板の色を商標として出願したセブン・イレブンやローソン等と比較して、「セイコーマート」を紹介し、

「『位置』の商標で看板を守る戦略を選んだ」

とこれまた一工夫事例として称えているのだが、「位置商標」が何を保護するものなのか、ということを冷静に考えると、

「位置商標の登録で色も含めたデザイン全体が保護される」

という同社の担当者のコメントは明らかに言い過ぎだと思われる*4


全般的に「色の商標」の登録の難しさや、権利範囲の狭さ等を指摘した上で、「日本では既にバブル状態だ」という「商標管理に詳しい弁理士」のコメントを掲載するなど、色彩商標に対する徹底したネガティブキャンペーンを展開(?)しているこの記事が、ここまでの出願ラッシュに冷や水を浴びせ、新しいタイプの商標の出願件数を抑制する方向で機能するなら、それはそれで良いことなのかもしれない*5

しかし、既に色彩商標を出願している会社の多くは、周到に情報収集を行って、一定の戦略を立てた上で出願を決断したはずで*6、本来専門家ではない一記者に、

「確実に権利を取得するには、拙速に陥らず、出願段階から緻密に戦略を練る必要がありそうだ」

などと言われるのは、全くもって心外だ、という思いの方々も多いのではなかろうか。

なかなか、オフィスアクションが出てこないこともあり、現時点では制度の是非を評価しづらい状況ではあるのだが、さすがに1年後の今ごろは、拒絶理由通知も出そろい、出願人ごとの明暗も分かれてくるだろうと思われるだけに、そのタイミングでまたあらためて、冷静な評価がなされることを願っている。

*1:かねてからご紹介しているとおり、ここまでの日本国内での色彩、音等の商標の出願数は、それなりに歴史のある欧米の類似制度を凌駕する勢いになっている(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20151028/1446396734など参照)。

*2日本経済新聞2015年11月30日付朝刊・第15面。

*3:記事の中では、使用する位置を特定した上で「赤色」を出願したニコンの出願戦略が“ひと工夫”した事例として取り上げられているが、そういう出し方ができるのは、同社がそういう色の使い方をしているから、に過ぎないのであって、色と商品・サービスがもっと包括的に結びついている会社の場合、そんな絞込みをするまでもなく、「色」そのものを保護してほしい、と考えるのは当然のことだと思う。

*4:もちろん、登録原簿を見れば、看板のデザインそのものも「登録商標」として登場することになるから、店舗の同じ位置に同じようなデザインの看板を掲出しようとする輩に対する牽制効果は働くだろうが、位置商標として登録することにより得られる「看板のデザインそのもの」の保護のレベルは、看板のデザインを通常の図形商標として出願登録した場合と、大きく変わるものではない、と自分は思っている。

*5:少なくとも多量の出願に苦しんでいる特許庁にとっては、大きな援軍になるだろう。

*6:中には、コーポレートカラーのように、防衛的観点から“登録されなくても良い”と、ダメ元で出願している商標も多いだろうが、それはそれで、一つの戦略である。

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