企業法務戦士の雑感 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2016-01-06

[][]「裁量型課徴金制度導入」のアドバルーンがもたらす影響

年末に、「独占禁止法審査手続に関する指針」を出して、揺るがないスタンスを改めて明らかにした*1公正取引委員会から、年明け早々、さらに新しいアドバルーンが打ち上げられた。

公正取引委員会独占禁止法に違反した企業への課徴金制度を見直す。カルテル(略)などの調査に協力すれば金額を減らす裁量型の仕組みにする。課徴金の減額は現在、公取委の調査開始前に企業が申し出た場合に原則限られる。企業の協力を促し、早期の事件解明につなげる。企業活動の国際化に対応し、欧米の制度に合わせる狙いもある。」(日本経済新聞2016年1月6日付・朝刊第1面)

公取委HPを見ても、これに関連するリリースは掲載されていないので、一種の“観測気球”だろうとは思うのだが、わが国で「裁量型課徴金」を導入する、というのは、単に諸外国の制度に合わせる、ということ以上に、大きなインパクトをもたらす可能性がある施策である。

例えば、ちょうど1年前に出された「独占禁止法審査手続についての懇談会報告書」*2には、

「本懇談会においては、秘匿特権や供述聴取時の弁護士の立会いなどの防御権について、公正取引委員会実態解明機能への影響が懸念されることを主な理由として、これらを認めるべきとの結論には至らなかった。しかしながら、裁量型課徴金制度等により、事業者が公正取引委員会の調査に協力するインセンティブや、非協力・妨害へのディスインセンティブを確保する仕組みが導入された場合には、事業者による協力が促進されることにより、現状の仕組みの下で懸念されるような実態解明機能が損なわれる事態は生じにくくなると考えられる。」

「このため、今後、本懇談会において現状の仕組みの下で実施すべきとしているもの以外の防御権の強化を検討するのであれば、このような仕組みの導入について併せて検討を進めていくことが適当であるとの結論に至った。」(39頁)

という整理が示されている。

この整理と同時に出された委員の個別意見*3には、「上限方式の裁量型課徴金制度の導入は喫緊の課題である」と主張し、

独占禁止法違反事件の行政調査については、裁量型課徴金制度および供述録取時の弁護士立会いを実現することによって、刑事捜査をまねた供述調書偏重の現行行政調査から、事業者に対する報告命令を中心とする大陸法系(欧州型)の行政調査に移行すべき」

とする村上政博委員の意見や、

「報告書では、裁量型課徴金制度等の導入について検討されているが、本来の懇談会が審議して検討するべき事件関係人の防御権の保護を図る制度の検討を先送りにして、その理由としてこれらの制度の導入と同時に検討しなければならないという点には反対である。」

と主張する矢吹公敏委員の意見などが掲載されているのだが、いずれにしても、「裁量型課徴金制度」が、「事業者による協力を促進する仕組み」として意識されていることは間違いない、といえるだろう。

昨年の「指針」公表時にも、産業界等の要望を退ける理由として、「事業者による調査協力のインセンティブ等を確保する仕組み」が現行制度に存在しない、ということを再三強調していた公取委が、“バーター”としての被疑事業者の防御権強化も含めた新しい制度に向けて足を踏み出していくことになるのか、それとも、あくまで「別の議論」として裁量型課徴金制度の導入を目指していくことになるのか。

前者であるとすれば、2〜3年前の議論が再び燃え上がることにもなりかねないが、一方で、「裁量型課徴金制度」だけが先行導入されるようなことになると、ますます被疑事業者側が争って白黒を付けられる余地が狭まるのではないか、という懸念もあるところで、今後の動向が気になるところである。

2015-12-26

[][]最後まで譲らなかった公取委

ここ数年、有識者会議等の場で激しい論争が繰り広げられていた「独占禁止法審査手続」だが、年の瀬も押し迫った12月25日付、というタイミングで、公正取引委員会から「独占禁止法審査手続に関する指針」が正式に公表されることになった。

http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h27/dec/151225_1.html

日経紙に掲載された記事は、

公正取引委員会独占禁止法違反事件の事情聴取で、外国人従業員の聴取時などに限り弁護士の同席を容認することを決めた。公取委は現在、弁護士の同席を認めていない。事情聴取の時間についても1日8時間に限り、午後10時以降は聴取しないことにして、調査を受ける人に配慮する。」(日本経済新聞2015年12月26日付朝刊・第5面、強調筆者、以下同じ。)

と、公取委が大きく譲歩したかのように思える内容になっているのだが、実際に公表された資料を見ると、抱く感想は大きく変わってくる。

特に凄いのは、パブコメ手続き期間中に出された意見と、それに対する公取委の考え方をまとめた「別紙2」の資料だろう*1

「(違反被疑事業者等の)防御権の保障という観点も総論部分に記載すべき」

という意見に対しては、「独占禁止法審査手続についての懇談会」の議論経緯を引用し、

「現行制度下における本指針では、ご指摘のような修正は適当ではないと考えます」

とばっさり(No.3)。

その後も、「立入検査の任意性」を明確にすべき、という意見に対しては、

「立入検査では、審査官等が実力を行使して強制することができないというだけであって、相手方には事件調査を受忍する義務があり、事件調査に応じるか否かが全くの任意であるというものではないと考えます。」(No.16)

行政調査を拒み得る理由(正当な理由)は、行政機関職員の身分証の不携帯等の手続上の瑕疵を理由とするものに限られており、公正取引委員会としては、このほか正当な理由があると認められるのは、天災、重篤な疾患などの極めて例外的なものに限られるものと考えます」(No.17)

と切り返し、「検査対象が客観的なものでなければならないこと」を明記すべき、といった審査対象に関する意見に対しては、

「立入検査の範囲については、事件調査を行うために必要な法律及び経済に関する知識経験を有する審査官の裁量に委ねられているものと考えます」(No.28)

「裁量に基づく合理的な判断」を前面に出して、ほぼゼロ回答*2

また、長らく議論されていた「弁護士が検査場所に到着するのに必要な相当程度の時間は検査の開始を待つ」運用をすべき、という意見に対しても、

「事業者による調査協力のインセンティブ等を確保する仕組みのない現行制度下では違反被疑者等の協力的な対応を期待できないことから、弁護士の到着に必要な相当程度の時間は検査の開始を待つというような運用をすることは適当ではないと考えます」(No.50)

と従来の見解を再度繰り返し、「弁護士に電話で確認する時間くらいは待ってくれても良いのではないか」という意見についても、

電話相談が終わるまで検査の開始を待つ間に証拠破棄・隠滅等が行われる可能性もあるため、御指摘のような修正を行うことは適当ではないと考えます」(No.51)

と、取りつくシマすらない回答になっている。

供述聴取に関しては、日経紙の記事にもあるような、

供述聴取の適正円滑な実施の観点から依頼した通訳人、弁護士

の立会いが認められることが新たに明記されたり(太字は追加部分)、休憩時間における聴取対象者の弁護士等との連絡やメモが認められることを明確にする、といった修正が加えられている*3一方で、秘匿特権はもちろん、「供述聴取に応じないことにより、聴取対象者や違反被疑事業者等が不利益な取扱いを受けることはないこと」等を供述聴取に先立って説明せよ、という意見に対してさえも、

「御指摘のような説明をすると、事件調査に応じなくてもよいと公正取引委員会側から慫慂するようで適切ではないと考えます。」(No.56)

と突っぱねるなど、これまた公取委のスタンスは揺るがない*4

公取委としては、回答の中で繰り返し論拠に挙げている「独占禁止法審査手続についての懇談会」で出された結論がある以上、同じことを何度も蒸し返されても困る、という思いが強いのかもしれないし、このような「指針」を作り、かつ、同じ日にリリースした「苦情申立制度」の導入(http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h27/dec/151225_2.html)といった対策を講じているのだから、これ以上突っ込まれる筋合いはない、ということなのかもしれない。

ただ、結論として「指針」の改訂には反映しないとしても、パブコメに対する「考え方」の示し方には様々なやり方がありうる。

公取委の調査リソースの限界はかねてから指摘されているところで、被疑事件といえども、事業者側からの前向きな協力を得なければなかなか処分にまで持っていけない、という状況がある中で、事業者側が極めてセンシティブに受け止めている「審査手続」をめぐる諸論点に対し、“中の人の感情”を剥き出しにしたような回答*5を事業者側に突き付けることが、今後にとって良いことなのかどうか、ということは、よくよく考えていただいた方が良いのではないかな、と思った次第である。

いつまでも、組織に追い風が吹き続けるとは限らないのだから・・・。

*1http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h27/dec/151225_1.files/bessi2.pdf

*2:個人的には、経理部門、法務部門等、「一次資料の所在が想定される部門以外の部門を立入検査の対象とする」場合に謙抑的な対応を求めた意見に対し、「立入検査の対象場所や留置する文書等については、判例又は条文上、特に制限があるわけではなく、審査官が事件調査に必要であると合理的に判断した場合には、経理部門、法務部門等も検査対象となります。」(No.30)と回答しているくだりには、ちょっとカチンときた(苦笑)。

*3:原案と成案の対比については、http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h27/dec/151225_1.files/bessi3.pdf参照。

*4:なお、「独占禁止法違反を行った自社従業員を懲戒処分に付する」ための根拠資料として使うために供述調書の閲覧・謄写を行うことについて、公取委は、供述内容にかかわらず、閲覧・謄写拒否事由に該当し、かつ、目的外利用にもあたる、という見解を示している(No.63、64)。現実には、公取委の処分が確定する前に事業者が従業員に対する懲戒処分を行う、ということは考えにくく、争って審決まで行けば、その過程で客観的に認定される事実も多々あるため、「供述調書」そのものを入手しないと何もできない、ということはないのだが、ここまで言わなくても・・・という印象は受ける。

*5:特に、原案を支持する少数の意見に対する回答と、批判的な意見に対する回答のトーンのギャップの大きさは、ちょっと気になるところである。

2015-08-07

[][]解消された一つのモヤモヤ。〜JASRAC最高裁判決に対する調査官コメントに接して

本年4月に上告審判決が出され、「排除措置命令を取り消した審決を取り消した高裁判決」*1が確定したJASRAC事件。

高裁、最高裁が示した「排除型私的独占」該当性の判断枠組みや、「排除効果の有無」に関する判断の内容に対しては、自分も何となく、“こんなものだろうなぁ”と感じているところだし、既に多くの独禁法専門家の方々がコメントされている中で*2、自分が書いたところで何を今さら、という感があるので、ここで取り上げるつもりもあまりない*3

ただ、審決取消訴訟提訴時にかなり話題になった「(審決の名宛人ではない)イーライセンスの原告適格の有無」について、最高裁判決が何ら判断を示さなかった、ということは、ちょっと気になっていて、何らかの機会に取り上げられないかな? と思っていたところであった。

そんな中、ジュリストにいち早く掲載された最高裁調査官の解説に*4、「判断が示されなかった論点」に対する簡単なコメントが記されていることに気付いたので、少し長くなるが、引用することにしたい。

公正取引委員会及びA(筆者注:被告参加人、上告参加人JASRAC)の上告受理申立て理由においては、(1)本件審決の名宛人でないX(筆者注:原告、被上告人イーライセンス)は本件審決の取消しを求める訴訟の原告適格を有しないこと、(2)公正取引委員会の認定した事実に関する原審の判断は実質的証拠法則に違反するものであること、の2点についても主張されていたが、これらの点については、いずれも、上告受理決定において排除されているため、本判決における判断は示されていない。平成25年法律第100号による独占禁止法の改正により、公正取引委員会の審判制度が廃止され(略)、審判制度を前提とする実質的証拠法則(略)も廃止されたことなどに照らし、上記(1)及び(2)の論点については、最高裁としての判断を示すことが必要あるいは相当ではないとして排除されたものであろう(実質的証拠法則違反の有無のみならず、原告適格の有無についても、上記改正前の排除措置命令及び審判の制度を前提として判断されるものであることなどが考慮されて、上告受理決定において排除されたものと解される)。」

(ジュリスト1483号84頁、強調筆者)

自分はこれを読んで、確かになるほど・・・と思うところはあった。

最高裁が「上告受理」するかどうかをどういう基準で判断しているのか、については、ミステリアスなベールに包まれているところも多いのだが、「争点が法的に重大な問題かどうか」という要素のほかに、「判断を示すに適したタイミングかどうか」という要素も考慮されている、ということは、巷でもよく言われていることであるから*5、平成25年改正法が既に施行されているタイミングで「取消審判プロパー」の論点について判断を示しても仕方ないから示さなかった、という上記説明も、そのような文脈の下では一応理屈は通っているといえる。

審判制度の廃止とともに、ほぼ歴史的役割を終えた、といっても過言ではない「実質的証拠法則」の問題とは異なり、「原告適格」の問題は、他の行政手続の分野でも問題になり得る論点だけに、「原告適格を認めた」貴重な一事例を追加するという観点から、最高裁の判断を心待ちにしていた人もいたのかもしれないけれど、平成17年の大法廷判決の規範に基づき、丁寧なあてはめを徹底して結論を導いた本件の高裁判決がほぼ完璧な“模範解答”だったことを考えると、無理に最高裁が判断を示さなくてよかったのかな、という思いもあるわけで・・・。

ということで、最後に、本件では「最初で最後」の司法判断となった、「原告適格」に関する高裁判決の説示部分(強調は筆者が付したもの)を紹介して、本エントリーを締めくくることにしたい。

行政事件訴訟法9条1項所定の当該処分又は裁決(以下「処分等」という。)の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分等により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分等を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分等によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分等の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。」

処分等の名宛人(相手方)以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分等の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく,(1)当該法令の趣旨及び目的,並びに(2)当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮すべきである。この場合において,上記(1)の当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,上記(2)の当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分等がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項,最高裁判所平成17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照)。」

「上記判断基準に即して,参加人の唯一の競業者である原告が本件訴訟についての原告適格を有するか判断する。」

ア 独占禁止法の目的及び排除措置命令等に関する規定

独占禁止法は,「この法律は,私的独占,不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し,事業支配力の過度の集中を防止して,結合,協定等の方法による生産,販売,価格,技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより,公正且つ自由な競争を促進し,事業者の創意を発揮させ,事業活動を盛んにし,雇傭及び国民実所得の水準を高め,以て,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする」と規定する(同法1条)。すなわち,独占禁止法は,同法に違反する行為を禁止等することにより,公正かつ自由な競争を促進し,事業者の創意を発揮させ,事業活動を盛んにすること等によって,一般消費者の利益の確保,国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とするものである。」

「同法は,上記目的を実効あらしめるため,公正取引委員会に対し,私的独占又は不当な取引制限等の行為があるときは,事業者を名宛人として,当該行為の差止め,事業の一部の譲渡その他違反行為を排除するために必要な措置を命じる権限を付与し(同法7条),また,同命令に不服がある者からの審判請求があったときは,公正取引委員会は審決を行う旨定めている(同法49条6項,66条)。」

イ 排除措置命令等に関連して設けられた諸規定の趣旨,目的等について

「(ア)独占禁止法は,(1)何人も,同法に違反する事実があると思料するときは,公正取引委員会に対し,適当な措置をとることを求めることができること(同法45条),(2)公正取引委員会は,必要に応じて,職権で,審決の結果について関係のある第三者を当事者として審判手続に参加させることができること(同法70条の3),(3)利害関係人は,公正取引委員会に対し,審判手続開始後,事件記録の閲覧謄写等を請求することができること(同法70条の15)等の規定を設け,さらに,(4)違反行為をした事業者は,排除措置命令確定後は,被害者に対し,無過失の損害賠償責任を負うこと(同法25条,26条),(5)同法25条の規定による損害賠償の訴えが提起されたときは,裁判所は,公正取引委員会に対し,損害の額について,意見を求めることができること(同法84条)などの諸規定を設けている。」

「(イ)排除措置命令等に関連する上記諸規定においては,適当な措置を請求することができる者の範囲に限定はなく,審判手続に第三者を参加させるか否かは,公正取引委員会が職権でなし得るものであり,事件記録の閲覧謄写等を請求し得る利害関係人には被審人のほか被害者等も含まれ,この閲覧謄写等や独占禁止法25条の定める損害賠償を請求し得る被害者は,違反行為による直接の被害者に限定されず,間接の被害者も広く含むと解されることに鑑みると,これらの規定が置かれていることから直ちに,同法所定の排除措置命令等の根拠となる規定が,利害関係人等に該当する全ての者に対して,その利益を個々人の個別的利益としても保護している趣旨を含んでいると解することはできない。」

「しかし,事業者により私的独占又は不当な取引制限等の行為がされたにもかかわらず,排除措置命令を取り消す審決がされた場合等を想定すると,同取消審決等は,単に「公正且つ自由な競争を促進し,事業者の創意を発揮させ,事業活動を盛んにし,雇傭及び国民実所得の水準を高め,以て,一般消費者の利益を確保するとともに,国民経済の民主的で健全な発達を促進する」との一般的公益を害するだけではなく,少なくとも,一定の範囲の競業者等に対する関係では,公正かつ自由な競争の下で事業活動を行うことを阻害し,当該取引分野における事業活動から排除するなど,必然的に個別的利益としての業務上の利益を害し,また害するおそれを生じせしめることになる。

「(ウ)そのような観点から独占禁止法を見ると,(1)排除措置命令確定後における,違反行為を行った事業者の無過失責任制度(同法25条,26条),(2)利害関係人に対する事件記録閲覧謄写等の手続(同法70条の15),(3)損害賠償請求訴訟における公正取引委員会への損害額の求意見制度(同法84条)等の諸規定は,一定の範囲の競業者等が上記のような業務上の利益を害された場合に,違反行為者の過失や損害額の算定に関する被害者側の立証の負担を軽減させ,また,被害者が損害賠償請求等の訴訟を遂行するに当たって必要となる資料の入手を容易にすることにより,違反行為により損害を受けた競業者等(被害者)との関係で,損害の填補を適正,迅速かつ容易に受けられるようにすることも,その趣旨及び目的としていると解することができる。」

ウ 排除措置命令等に関する規定の趣旨

独占禁止法の排除措置命令等に関する規定に違反して排除措置命令を取り消す審決がされた場合等に一定の範囲の競業者等が害される利益の内容及び性質や,排除措置命令等に関連して設けられた上記諸規定(同法25条,26条,70条の15,84条)等の趣旨及び目的も考慮すれば,独占禁止法の排除措置命令等に関する規定(同法7条,49条6項,66条)は,第一次的には公共の利益の実現を目的としたものであるが,競業者が違反行為により直接的に業務上の被害を受けるおそれがあり,しかもその被害が著しいものである場合には,公正取引委員会が当該違反行為に対し排除措置命令又は排除措置を認める審決を発することにより公正かつ自由な競争の下で事業活動を行うことのできる当該競業者の利益を,個々の競業者の個別的利益としても保護する趣旨を含む規定であると解することができる。したがって,排除措置命令を取り消す旨の審決が出されたことにより,著しい業務上の被害を直接的に受けるおそれがあると認められる競業者については,上記審決の取消しを求める原告適格を有するものと認められる。」

エ 本件審決取消訴訟についての原告適格の有無に関する判断

「上記の検討を踏まえた上で,原告に,被告が参加人に対してした本件排除措置命令を取り消した本件審決の取消訴訟についての原告適格が認められるか検討する。本件は,音楽著作物の放送等利用に係る管理事業における排除型私的独占による独占禁止法違反行為の有無が問題とされた事案である。そして,平成13年10月1日に管理事業法が施行されるまでは,仲介業務法により,上記管理事業は,参加人が独占して行っており,管理事業法施行後も,原告が平成18年10月1日に上記管理事業を開始するまでは,参加人の独占が継続していた。同日以降,音楽著作物の放送等利用に係る管理事業を行って放送等使用料を徴収しているのは,参加人と原告のみであった。」

参加人が独占禁止法違反の行為を行った場合には,音楽著作物の放送等利用に係る管理事業において参加人の唯一の競業者である原告は,その行為により,直接,公正かつ自由な競争の下での事業活動を阻害されることとなり,その業務上の損害は著しいものと認められる。」

「以上のとおり,独占禁止法中の排除措置命令等の根拠となる規定(同法7条,49条6項,66条)の趣旨を解釈するに当たり,同法中の他の関連規定(同法25条,26条,70条の15,84条)の趣旨を参酌し,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案して,当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質も考慮すると,平成18年10月1日に上記管理事業を開始し,参加人の唯一の競業者である原告は,本件排除措置命令及び本件排除措置命令を取り消した本件審決の名宛人ではないものの,本件訴訟についての原告適格があると認めるのが相当である。」

*1:特許、商標の判決を紹介する時にも思うことだが、この構造は、何度接してもやっぱり分かりにくい・・・。

*2:今回紹介するジュリスト1483号でも、「時の判例」のほかに、「独禁法事例速報」で長澤哲也弁護士が早速評釈を書かれている(長澤哲也「排除型私的独占における排除効果と人為性」ジュリスト1483号6頁(2015年))。

*3:判決時のコメントについては、高裁判決(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20131102/1383589714)、最高裁判決(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20150429/1439128666)といったところ。

*4:清水千恵子「時の判例・音楽著作権の管理事業者が放送への利用の許諾につき使用料の徴収方法を定めるなどの行為が、独占禁止法2条5項にいう『排除』の要件である他の事業者の参入を著しく困難にする効果を有するとされた事例」ジュリスト1483号83頁(2015年)。

*5:したがって、法的には極めて興味深い論点であっても、判断できるほど議論が熟していなかったり、逆に今ごろ示しても意味がない、という場合は、あえて判断しないこともある、ということになる。

2015-04-29

[][]最高裁が示したファイナルアンサー〜JASRAC審決取消訴訟上告審判決

平成21年2月27日に公取委が排除措置命令を出して以降、独禁法関係者にとっても、知財関係者にとっても、常に注目の的となっていた「JASRAC事件」。

審判に移行した後にまさかの取消審決が出たかと思えば(平成24年6月12日)、その翌年に、JASRACの競争者であるイーライセンスが提起した取消訴訟で、東京高裁が再び審決取消判決を下す(平成25年11月1日)、という二転三転の展開になっていたが、遂に最高裁で一応の最終判断が示された。

「テレビやラジオで使われる楽曲の著作権料をめぐり、日本音楽著作権協会(JASRAC)の契約方法が独占禁止法違反にあたるかが争われた訴訟の上告審で、最高裁は28日、『他業者の参入を妨げている』と指摘し、公正取引委員会に再審理を求めた。」(日本経済新聞2015年4月29日付朝刊・第2面)

いかに最高裁といえど、高裁の裁判官が5名合議の末に出した結論をそう簡単に引っくり返せるとまでは誰も思っていなかったし、これまでもっぱら事実認定とその評価が結論に大きく影響してきた本件が、そもそも最高裁の審理対象事件になるのか、という疑問すらあっただけに、「上告棄却」という結論に違和感はない。

そして、手続の性質上、公取委レベルの審判に「差戻し」となったとはいえ、高裁が、丹念な証拠の検討の末に、「JASRACの行為の排除効果」の存在を認定している本件において、JASRACが再びの命令取消審決を期待するのは、かなり厳しい状況ではないかと思われる*1

ただ、高裁判決が出された時のエントリーにも書いたとおり*2、本件に対して「独禁法違反」という評価を下すことは、ライセンスを受けている放送事業者の立場から見れば、「独占的集中管理のメリットを享受する」ことへの法の介入、言いかえれば“余計なお世話”といえることでもあるわけで、今回の判断が、「ライセンシングの枠組みを構築することで著作物の利用を円滑化する」ことが至上命題となっている著作権の世界において、「効率的な利用」の足を引っ張る方向に作用する可能性も否定できない。

最高裁判決を報じる記事の一角には、「判決を控えて関係事業者が統一ルールを模索」する動きも紹介するコラムも掲載されており、

「各放送局がテレビやラジオで利用した曲について、管理事業者別の割合を算出するなどの仕組みづくり」

等が話し合われていることなどが紹介されているが(同上)、音楽著作物以外の一般的な著作物について、普通の会社が管理事業者ごとに使用するコンテンツの数をカウントし、それによって対価配分を変える、などといった器用なことをするのはなかなか難しい・・・。

本件は本件として、「効率的な利用許諾の枠組み作り」と「公正な競争」とを、うまく両立していくためにはどうすればよいか。

これからいろいろと、知恵を出していく必要があるように思えてならないのである。

*1:記事によると、JASRACは『独禁法違反に当たらないと引き続き主張していく』とコメントしているようであるが、果たして何らかの“奥の手”を用意しているのか、それとも単なるはったりなのかは、神のみぞ知る・・・といったところだろうか。

*2http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20131102/1383589714

2013-12-21

[][]誰もが急には変われない〜送電線工事談合報道に接して。

公取委の審査をめぐっては、様々な批判があるし、結論が二転三転しているJASRAC事件のように、事実認定の難しさを痛感させられるようなケースも多い。

だが、今回の件に関しては、公取委の審査官も楽に仕事ができたのではないかと思う。

「東京電力が発注する送電線工事を巡る談合で、東電社員が事前に受注業者を指定するなど談合を助長したとして、公正取引委員会は20日、東電に再発防止策を講じるように申し入れた。公取委は東電グループで東証1部上場の関電工(東京)とTLC(同)が談合を主導したと認定。グループ全体で法令順守を徹底するように求めた」(日本経済新聞2013年12月21日付け朝刊・第38面)

公取委の発表資料は、http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h25/dec/131220.htmlに掲載されている。

上記新聞記事では、「東電社員が談合助長」という見出しが踊っているものの、公取委の排除措置命令及び課徴金納付命令の根拠になっているのは、あくまで受注者側の「不当な取引制限」規定への違反行為であり、各処分の名宛人になっているのは、「架空送電工事の工事業者及び地中送電ケーブル工事の工事業者」である。

ただ、対象となっている工事が5種類にも及び*1、さらに違反事業者数は延べ43社と、あまり広範囲にわたっているため、公取委の発表資料の本文でも、具体的な違反事業者名はほとんど示されておらず、それを見たければ、添付されている各別表等まで確認しなければならない。

そして、報道資料に記された数少ない違反事業者が、東京電力のグループ会社である株式会社TLCと株式会社関電工であることに加え*2、「第2 東京電力に対する申入れについて」の章において、

1 本件審査の過程において認められた事実

(1) 東京電力は,架空送電工事及び地中送電ケーブル工事を発注するに当たり,特定の者だけを工事の参加募集の対象としていた。また,東京電力が,これらの工事の発注に当たり,見積り合わせの参加者を一堂に集めた現場説明会を開催する場合には,当該説明会終了後に引き続いて,当該参加者間において受注予定者を決定する話合いが行われることがあった

 なお,受注予定者を決定する話合いに参加していた者の中には,東京電力の退職者が7名いた

(2) 東京電力の架空送電工事及び地中送電ケーブル工事の発注業務等の一部の担当者は,前記第1の2の違反行為を認識していたにもかかわらず,これを看過した上,工事業者に対し,当該違反行為が発覚することがないように注意喚起を行っていた。また,架空送電工事の見積り合わせの実施に当たり,特定の工事業者に対して事前に発注の意向を伝えていた

2 申入れの概要

 前記1の事実は,前記第1の2の違反行為を誘発し,助長していたものと認められることから公正取引委員会は,東京電力に対し,[1]発注制度の競争性を改善してその効果を検証するとともに,前記1(2)と同様の行為が再び行われることがないよう適切な措置を講じること,[2]東京電力のグループ会社である株式会社TLC及び株式会社関電工において,前記第1の4(3)及び(4)の事実が認められたことを踏まえ,これら2社を含めた東京電力のグループ会社において,今後,独占禁止法に違反する行為が行われないよう適切な措置を講じることを申し入れた。(強調筆者)

という、民間発注工事の談合事例としては異例の記述がなされていることから、「東京電力」を“主語”とした報道がなされるのも、むしろ当然、ということになるのだろう。

ちなみに、独禁法3条違反、と認定された行為の具体的な内容は、

「8社は,前記1(2)ウの発注方法の変更を契機として,各社の営業責任者級の者らによる会合を開催するなどして,受注調整の方法等について話合いを行ってきたところ,遅くとも平成24年1月31日以降,東京電力本店等発注の特定架空送電工事について,受注価格の低落防止等を図るため

(1)ア 受注予定者を決定する

イ 受注予定者以外の者は,受注予定者が受注できるように協力する

旨の合意の下に

(2) ア 過去の受注実績,各事業者の受注の希望状況等を勘案して,話合いにより受注予定者を決定する

イ 予報*3の方法により発注されるものにあっては,受注予定者が提示する価格低減率は,受注予定者(受注予定者が共同企業体である場合にあってはその代表者)が定めて株式会社TLCに連絡し,受注予定者以外の者は,同社から指定された価格低減率を提示する

ウ 競争見積の方法により発注されるものにあっては,受注予定者が提示する見積価格は,受注予定者(受注予定者が共同企業体である場合にあってはその代表者)が定め,受注予定者以外の者は,受注予定者が定めた見積価格よりも高い見積価格を提示するなどにより,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた

(東京電力本店等発注の特定架空送電工事に係る「排除措置命令書」4頁、http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h25/dec/131220.files/betten.pdf、強調筆者)

と全くもってベタベタの受注調整行為であり、しかも、そのようなやり取りの一部は、発注者側が行う説明会後に堂々と行われていた、というのだから、冒頭で言及したように、公取委の審査官としては、証拠を集めるのもかなり容易だったのではないか、と思われる。

元々、純粋な民間事業者であった東電にとって、工事の発注というのは、日常業務の中で行われる私的な営みの一つに過ぎなかったのであり、どの事業者にどの程度工事を割り振るか、というのも、当然ながら担当部門の裁量に委ねられていたものであったはず。

もちろん、発注側が事実上業務を独占していて、強大な市場支配力を持っている業界だけに、ガチンコの見積もり勝負などさせなくても、発注側が常に交渉で有利な立場に立っている。そして、そのような状況の下、発注側の担当者には、“請負会社を生かさず殺さず”で、絶妙の利益配分を保って日常的な工事発注を行っていた、という自負もあったことだろう。

ガチンコで競わせた場合に比べれば多少割高な工事価格であったとしても、それは、OBの雇用だとか、緊急時に採算度外視で工事を引き受けてもらうための“チップ”のようなもので、トータルで見れば発注側としては損はしていない。

「3・11」後、電気料金の値上げなしには経営が立ち行かなくなり、衆人環視のプレッシャーの中で、“徹底した経費節減”を迫られる状況になっても、上記のような感覚が残っていたからこそ、「工事発注方法の変更」という一大事に直面しても、「何も変えずに済む方法」を考えることにしか知恵が回らなかった・・・

今回の「分かりやすすぎる事件」の背景にあったのは、さしづめ、そんなところではないかと思う。


「コンプライアンス」が口うるさく叫ばれる現代においてはちょっと考えずらいような“発注調整”の実態が暴かれてしまった以上、さすがの東電といえども、“変わらないわけにはいかない”という状況になっているのではないかと思われる。

そして、本来予定されていたような「発注方法変更」の効果がひとたび発揮されるようになれば、資材価格が高騰し、作業員の需給もひっ迫している現在の状況からして、受注事業者側の体力差によって、残酷なまでに優勝劣敗の構図が明白に表れてくることだろう。

法が目指したそのような事態の到来を、ただ素直に「是」と受け止めるのか、それとも、より複雑な思いを持って眺めるのか、は、人それぞれだとは思うのだけれど、いずれにしても、本件は、「変わるべき時に変われない」という、多くの企業に染みついたマインドに日々頭を悩ませている法務担当者にとっては、とても教訓的な事例だと思うのである。

*1:特定架空送電工事については、東電本店等発注工事のほか、東、西、北の各ブロックの工事が対象となっており、さらに「特定地中送電工事」と合わせて、5種類の工事が対象となっている。

*2:TLCについては「受注予定者以外の事業者が提示する価格低減率を指定するなどしており、違反行為を容易にすべき重要なものを行っていたことが認められた」として5割加算した算定率を適用した課徴金納付命令が出されており、関電工については、「調査開始日から遡り10年以内に課徴金納付命令を受けたことがあり」「違反行為をすることを企て、かつ、他の事業者に対し当該違反行為をすることを唆すことにより、当該違反行為をさせたことが認められた」として、10割加算した算定率を適用した課徴金納付命令が出されていることから、事業者名が本文上にも晒されることになった。

*3:「予報」とは、東京電力が、契約に先立ち特定の事業者に対して、工事概要等を示し、将来、当該工事を発注する予定である旨の意思をあらかじめ通知すること、と定義されている(審決書別紙2)。

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