深町秋生の序二段日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2007-12-25 日本の不都合を追いかける

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放送禁止歌 (知恵の森文庫)

放送禁止歌 (知恵の森文庫)


12月上旬に姫路まで行ってきた。森達也氏の映画作品&講演目当て。


森氏といえば左派の売れっ子評論家という位置づけがなされているような気がする。まあ確かに死刑反対、反体制、反戦の姿勢を貫いていることもあって、そう思われるのも仕方ないかもしれないが、その一方で新右翼の鈴木邦男と本を出したり、一水会の代表と息の合った対談をしたりと一筋縄ではいかない面も見せている。


しかしこの人のスタンスはわりあいはっきりしている。それは社会が普段目をつむってごまかしているところを追っかけるという「不都合な真実の追求」、それに白黒はっきりつけない「曖昧への固執」の二つである。(とくに後者はマイケル・ムーアとはっきり異なる点だ)ちなみに「不都合な真実」といえばアル・ゴアがいるけど、私は彼が嫌いである。マリファナ狂いのセガレや言論弾圧を計った女房の存在のほうがよほど不都合な真実だ。


彼が扱ったのは、羊のようにか弱いオウム真理教。小人プロレスメディアが規制していた放送禁止歌。超能力者の日常。動物実験。それに企画倒れとなってしまった天皇陛下。(こうして列挙してみるとすごいラインナップだ)


どれも社会が直視したがらない曖昧な領域。それに対してくだらない善悪の線引きをしないが、ただ「こうした世界があるんだ! 忘れるな! 知れ!」というのがこの人の特徴である。善悪を持ち込まないかわりに、その世界をかなりあざとい手法で紹介する。今回見たのは、企業や研究所で行われている動物実験の実態に迫ったフジテレビの「NONFIX」枠で放送された「1999年 よだかの星」である。これもまた実にあざとい。激しい。しかしそうとわかっていても、思わず泣いてしまった。


これは日本での動物実験がなんら規制もないまま行われている実状を描いたものである。だが森氏と既存のメディアの違いは決して安易に断罪しないところにあるだろう。「こうした現状がある」と訴えるだけである。だがその「現状」の描き方がすごい。かわいいビーグル犬の腹にメスが入り、内臓が取り出されて心臓に管を差しこまれる。怯えきった猿の頭に袋が被され、「バッキーン!!」という轟音と共に機械によって首の骨が砕かれる。テレビ作品であるにもかかわらずノーモザイクだ。ちなみにこれを鑑賞したときはホールの大画面だったので、実にきつかった。愛らしい犬の臓物がどーん、だもの。


残念ながら今のメディアは逆である。モザイクをかけて視聴者様に不愉快な想いをさせずに加工に加工を重ねる。そのくせ安易に善悪を選別して判決をくだす。これがチャンネルを変えられずに済む唯一の秘訣とでもいうように。森氏はその実験に携わる学者や医者に敢えて愚問をぶつける。「うしろめたさはありますか?」当然、彼らは苦笑するしかない。中には取材を嫌うものもいる。「どう話したところで理解してくれるはずがない」実際、企業のほとんどは取材拒否だ。だが実験用具を売る問屋の社長というのが「うしろめたいことは何もしていない」とにこやかに取材に応じていたのが印象的である。言ってしまえば動物の処刑道具を売りさばいているわけだが、「いわば縁の下の力持ちです!」と職業に誇りを抱いていて、とてもたのもしかった。ちなみに「お前も銭欲しいんやろ!」と大金をばらまくパフォーマンスで知られる高利貸しの杉山会長に似ていて、さわやかな笑顔を見せながら、犬猫の首を跳ね飛ばすギロチンをいじっていたのがおかしかった。


一方で動物愛護団体にも取材をする。「今日は化粧するの忘れてしまった」とサングラスで顔を隠す女性に対して「でもその化粧品の会社動物実験してますよ」と森氏は意地悪く告げる。女性は実験にたずさわる研究者たちと同様に苦笑する。


愛護も実験も、現代には必要不可欠なものだろう。食品薬品医療品あらゆるところで実験は行われている。しかも(これが放送された当時は)実験に対する規制もない。動物実験を誰でも自由に行える環境にあるのは日本ぐらい。言うなれば日本人はみんなこの動物実験の恩恵に預かりながら暮らしているともいえる。意地悪く言えばただ日本人でいるというだけで無数の動物虐殺に加担していることになる。(あとアフリカの水産資源が枯渇するまで食い散らかしたり)誰もが毛皮を着ていながら「くじらを食う日本なんかでコンサートしませーん」などといったオリビア・ニュートン・ジョンのような矛盾を抱えて生きているのだ。森氏の主張もそこにある。その主張を宮沢賢治の「よだかの星」をまじえてするわけである。


よだかの星」はみにくい顔のよだかが周囲に虐待され、悲壮な自殺願望を抱えながら飛翔し、やがて息絶えていくという悲しい物語である。これが悲しげな顔をしながら実験台に運ばれていく動物たちの状況とシンクロする。物語ではよだかは星となるが、この動物たちは星にさえもなれはしないのだ。動物園で増えすぎた猿。保健所に運ばれた犬。解剖されるために生まれてきた猫や鼠。誰にもその存在を知られないまま骨を砕かれ、臓物を切り取られ、首を跳ね飛ばされるのだ。強いていえば、星になれるかどうかはこの作品を見たあなた次第だということだ。まったくあざとい。あざといけれど……。


この世でもっとも罪深い行為は殺生でも姦淫でもないと私は思う。たぶん最悪の罪は無知でいることだろう。さらに自分が無知であるのをいいことに偏狭な正義をふりかざすやつが一番始末におえない。しかしこれは私自身も偉そうなことはとても言えそうにない。私も常に恥ずかしくなるくらいに無知だからだ。


森氏のドキュメンタリーは曖昧でいて、常に明快だ。あなたは常に善悪の矛盾とともに生きているんだという主張だ。そこには「あなたはクリーンで正しくて純白の世界で生きているわけではないんですよ」というメッセージも含まれている。


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で、実はYOUTUBEでこの作品が見られる。最初の10分がすさまじい。必見。しかしこうなってくると何しに私は姫路まで行ってきたのかわからなくなるな……。


まあいいか。Perfumeの新曲もよかったし……。蛇足上等!


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l-_-loOl-_-loO 2007/12/26 20:16 クリスマスにこんな素敵な記事を有難うございます。
私はどちらかと言えば実際に動物の命を奪ってきた側の人間ですが、葛藤はありません。教授にも、恐らくありませんが…そこは諸般の事情、ですね。
私にとって悪い意味で印象的なのは、広場で「私たちが正義だ」とばかりに笑みを称えながらビラを配るお姉さん方と、よく分からないままに署名してしまったお姉さん。
一貫していない曖昧な思想こそが、私の目には最も醜く映りました。

逆に、動物実験に徹底的に反対し、可及的に実験が関与しない商品のみを利用する方も、
必要悪と割り切り、ヒトの為だけにその手腕を振るう学者、業者も、
等しく美しく見えます。その美しい色が鬩ぎ合い、迷彩を描く。それが世の中に矛盾として形を成すのでしょう。

hehe 2007/12/27 22:49 NONFIXは、強烈なものが多かったですよね。先生のブログを拝見して、当時自分が衝撃を受けた作品の作者の方を知ることができました。
華やかなはずの女子大生時代にアンタッチャブルなものやダークサイドにばかり興味を持っていたものです。大学の恩師が、右翼に殺されかけた方だったから洗脳されていたのかもしれません。

ネットが発達してしまうと、様々みられるので、ああいった番組の有り難さも薄れてしまいましたが、地上波で頑張ってほしいものです。

FUKAMACHIFUKAMACHI 2007/12/28 13:01 >l-_-loOさん
現状を知ったうえで腹をくくった人たちは私も好きですね。私は一貫してない灰色なんですけれど。

>heさん
NONFIXはいいです。森達也作品はYOUTUBEで3〜4本ありますので全部見ることをお勧めします。それにしてもすごい恩師ですね。

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