深町秋生の序二段日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2008-05-14 「封印されたミッキーマウス」 安藤健二の戦績

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封印作品の闇―キャンディ・キャンディからオバQまで (だいわ文庫)

封印作品の闇―キャンディ・キャンディからオバQまで (だいわ文庫)


安藤氏の著作を読むたびに激しい嫉妬に駆られる。消された真実に肉迫する狂熱の騎士の物語というべきか。


盲目的な偏見や卑しい捏造の嵐を突破し、偽者の禁忌に勝手にひれ伏す臆病者や愚か者をなぎ払う。


強大な敵に打ちのめされ、傷つきながらもその果てに辿りつく真実はどれも衝撃的で美しい。胸が熱くなる。そしてやはり嫉妬に駆られる。


安藤健二氏の新作「封印されたミッキーマウス」の帯にコメントを書かせていただいた。おそるべきデビュー作「封印作品の謎」以来、ずっとファンだったので願ったりかなったりである。


ずいぶんと大仰な文句だと自分でも思うのだが、それでも間違っているとは思わない。つまらない噂や偏見、ヒステリックに騒ぐ愚か者によって、いとも簡単に表現作品がこの世から消されてしまうという恐ろしい真実に迫る安藤氏の本は「下手なミステリよりも刺激的で昂奮させられる」とミステリ評論家などの間でも人気を博しているのだ。


今回の新刊は過去に雑誌などで掲載された12のエピソードが収録されている。「ワンピース」や「ハガレン」をパロって回収騒動になった商業コミック佐世保の殺人少女NEVADAちゃん騒動。「フランス語を日本公用語にしろ!」と吠えた文豪志賀直哉の爆弾発言など、古今東西の「なかったことにしときましょう」と世間が封印した出来事を氏が追っていく。


もっとも面白かったのはタイタニック号に乗っていた日本人の悲劇について。タイタニック号に唯一日本人として乗船していた逓信省の役人細野正文氏(あの細野晴臣の祖父)が、沈没のさいに女子供が乗る救助ボートに無理やり割り込むのを、ある欧米人が目撃。のちに手記にて「嫌な日本人がいた」と証言した。細野氏は日本中から「日本の恥」と非難される。しかし別の証言のおかげでそれは欧米人の見間違いであることが判明。細野氏の潔白が証明され、彼の名誉は回復される。


という話がかつてメディアに取り上げられた。まあ言ってしまえば「高潔であった日本人」というストーリーで、「まったく欧米人ときたら、なにかとあいつらときたらアジア人を馬鹿にしやがって」という憤りなども含んでいる。まあ日本人好みする完璧な物語といえる。


だが安藤氏はそこから物語をおそろしい勢いでひっくりかえしてしまう。「で、そもそもその非難した欧米人というのは誰のことなの?」と。


ここからが話が俄然おもしろくなってくるのだ。なぜならその欧米人の手記には「むりやり女子供用の救助ボートに乗ってきたジャップがいたぜ。やーねー」などという記述は一切なく、それどころか日本人という単語さえもないのだから……。なら一体どこの誰が細野氏に罪を着せたというのか。ありもしない記述に反応して「日本の恥」などと騒いだデマ野郎は誰なのか。そもそも破綻をきたしたこの物語を美談にしているメディアはどこに目をつけているのか。偏見や捏造によってどんどん話がねじくれていき、一人の人間の名誉が汚されてしまう真の恐怖の物語安藤氏は語っていく。これは本当にすごい話。


もう一つは表題作であるディズニー関連の話。著作権に超うるさいディズニーが、滋賀県学校プールに描かれたミッキーマウスの絵を消すようにクレームをつけたという件について。小学生らが一生懸命に描いたものを消せと命じるディズニーはケチだなあ強欲だなあと評判が立った80年代のころの話である。後日談として、小学生らはディズニーランドに招待されたとか、ディズニー社の社長夫妻が詫びを入れに滋賀へやってきた云々といった噂があるが……。


そもそもそんな絵が本当に存在したのか。ディズニーがわざわざヘリを飛ばして確認したという噂は本当なのか。というよりも、この物語は一体なんのために存在しているのか。やがてディズニー側の真の目的がぼんやりと浮かんでくる。


最近、安藤氏の仕事はますます現代において重要性が増しているように思えてならない。あやうくお蔵入りになるところだった「靖国」や、あれよあれよといつのまにか「自民党から出馬するらしい!」なんてデマまで飛ばされた本村洋氏の件もある。ちょっと前にも、香川3人行方不明事件では、殺害された子供の父親がまるで犯人であるかのように報道された。捏造と思い込みによって勝手に真実がゆがめられ、ヒステリックに叫ばれ、それに怯えて企業や人々は「臭いものに蓋」といわんばかりに真実や表現作品を封印してしまう。安藤氏はその封印を解く尊敬すべきトレジャーハンターだ。今後も時代が彼を必要とするのではないかと思う。裏を返せばそれだけ厄介な時代だということなのだが……。