2008-07-07 北関東の追憶「北関東幼女連続殺人事件」
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明治・大正・昭和・平成 実録殺人事件がわかる本 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)
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さて洋泉社の「実録殺人事件がわかる本」。どうぞよろしく。私も読んだ。
町山さん、ヨシキさん、柳下さんのいわゆる秘宝方面の職人的なうまさや新宿ロフトプラスワンの名物店員多田さんの歌舞伎町についてのコラムが光っていたが、一番目を引いたのはルポライターの田上順唯さんが手がけた北関東幼女連続殺人事件についてのルポだった。これは本当に不気味。
北関東幼女連続殺人事件は、同じく幼女を連続して殺害した宮崎勤とくらべるとちょっと目立たないが、充分におそろしい。なにしろ犯人が捕まっていないのだから。またおそろしいのは犯人だけではない。事件現場である北関東の土地の事情もあいまって、底の深い闇を醸成している。
この事件は79年、栃木県足利市に5歳の幼女の死体が渡良瀬川の河川敷でリュックサックにつめられた状態で発見されたところから始まる。以来、84年にパチンコ店で女児が行方不明、86年にまた女児の誘拐殺人が発生、90年に同じくパチンコ店で女児が誘拐され、渡良瀬川の河川敷で遺体となって発見。86年〜87年には県境を越えた群馬県太田市でも二件の行方不明・誘拐殺人が発生している。
そしてもっとも有名なのが96年の太田市で起きた横山ゆかりちゃん誘拐事件だろう。両親がパチンコで遊技中に女児が誘拐。監視カメラ映像に犯人と思しき不審人物が映っているにもかかわらず、未だに解決されていない事件である。この事件から、あまりにも北関東らしい、つまりバブル以後の現代日本らしい臭いを濃厚に感じてしまった。ゆかりちゃん事件は有名だから知っていたけれど、他はまったく知らなかった。
共通するのは舞台がパチンコ店であったところだ。最近では徐々に衰退しつつあるパチンコ産業だが、バブル期や90年代はパチンコ人口が2000万人を超え、パッキーカードが導入(平沢勝栄が大活躍)された全盛期のころである。サウナ状態の車に子供を置き去りにして死なせてしまう事故が激発したのもこのころだ。おそらく犯人はパチンコ店であれば誘拐できる成功率が高まることを熟知していたと思われる。また事件は栃木と群馬の県境の町で起きている。群馬は富士重工、栃木はホンダの工場があってカー文化が盛んであり、コジマ(栃木)やヤマダ電機(群馬)といった郊外型家電販売店の雄を生み出している。
私は大学時代、ゼミで環境経済学というものを学んでいたが、友人で群馬のロードショップ文化を論文にしたやつがいた。彼によれば町一つにあるパチンコ店の数の膨大さに驚愕したのだという。恒常的な脱税体質にあったパチンコ産業が、「日本に税金を払うくらいなら北に送ってしまえ」と北朝鮮に送金していたわけだが、その窓口となっていたのが栃木の足利銀行だった。パチンコ店だけではない。桐生は競艇、伊勢崎はオート、前橋は競輪。かつては足利や高崎に競馬と、両毛地区は一大ギャンブル帝国(伊勢崎は風俗街も有名だ)として、工業都市で働く労働者の娯楽を担っていた。
この事件は90年の誘拐殺人事件だけは逮捕にこぎつけている。同時期に起きた宮崎勤の連続幼女殺人もあり、栃木県警は威信にかけた大捜査を展開していた。容疑者はスクールバスの運転手の男。決め手となったのは幼女の遺品に付着していた精液のDNAが男のものと一致したからとのことだが、90年はまだDNA鑑定が始まったばかりで精度は低く、遺品も長時間川の水に浸かり、とても鑑定に使えるものではなかったともいわれている。その後弁護側がDNAの鑑定を独自で行ったところ、一審判決時に採用された男のDNAの型とは違っていたという……。また男には軽度の知的障害があり、警察の誘導によって自供が引き出された可能性が高い。警察や検察は、男と過去の幼児殺人と関連づけるために調書を改竄。その強引な手法のおかげで、残りの事件については逆に不起訴となった。そしてそんな警察をあざ笑うかのように、96年には同じ手口の横山ゆかりちゃん事件が発生したのだ。
田上さんはまた自治警察の弱点を指摘している。事件は群馬と栃木にまたがって発生しているため、警察はセクショナリズムの罠にはまりこんだ可能性は高い。05年には栃木県旧今市市で7歳の少女が誘拐。茨城県で殺害された遺体が発見されたが、こちらも現時点ではまだ未解決である。カー文化が発達した現代では県境を越えた犯罪はごく当たり前のように発生するが、そうした広域事件となった場合、とたんに動きが悪くのも現代自治警察の欠点でもある。工業都市に引き寄せられる労働者たち。異様な数の賭博場。その現代賭博場での誘拐。強引な地方警察と冤罪。姿の見えない鬼畜な幼女殺人鬼……。
映画「殺人の追憶」や「ゾディアック」にも似た嫌な闇だ。ごく普通の地方都市に漂う貧しさや忌まわしさを思い切り見せつけられたような気がした。北関東はこわい。
- 作者: 速水健朗
- 出版社/メーカー: 原書房
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