深町秋生の序二段日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2009-07-05 日本家族の崩壊モデル。ザ・ノンフィクション「漂流家族」 このエントリーを含むブックマーク

闇金ウシジマくん 1 (ビッグコミックス)

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しみったれ家族 平成新貧乏の正体

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これはやばいなあ。現代日本の家族の闇を描いた衝撃作だろう。フジテレビがひっそり流すザ・ノンフィクション「漂流家族 竹下家の9年間」である。


いろんなところで反響があるようで、id:tada-woさんから録画DVDを借りて見たのだが、絶句してしまった。彼のブログから引用する。非常にうまくまとまっている。


http://d.hatena.ne.jp/tada-wo/20090616/1245138703(因果鉄道999・埼玉-北海道(前編) - アマルフィ 日和)



埼玉県に住む竹下一家。家族構成は父母と6人姉妹(全員、女の子)の8人家族。彼らは心機一転として、北海道の浜頓別(はまとんべつ)という田舎町で行われる、街の活性化を目的とした本州からの移住計画に参加(いわゆる田舎で暮らそう、というやつ)。この計画は、移住して三年の間に、浜頓別に家を建てて定住することが条件で、その間の住居は地元自治体が世話をしてくれる、というものでした。

ところがこれを阻むのが、竹下家の両親の、常軌を逸した無計画ぶり。この両親、大した蓄えがあるわけでもないのに、とにかく散財しまくり。やたらとデカい車をローンで買うわ、冬の間の娯楽と称してテレビパソコンを買うわ、タバコはカートン買いでバカバカ吸うわ、んでもって口癖が、”まあ、なるようにしかならんよね”という、完全無欠の明日なきテキトーぶり。万事がこの調子だから、三年経っても家を建てるための貯蓄なんかできやしない。同時期に移住してきた他の家族は、すでに家を建てたり、建てる目処がついていたり。このままじゃ家を建てずに町から出ていくハメになってしまう。どうする?ということで出た結論が、日頃お世話になっているご近所さんを保証人にたてて、2000万円の住宅ローンを組むというもの。そのご近所さんである桜庭さんは、牛舎の改築のため既に1億ちかい借金がある身ながら、町の活性化のためならばと、快く保証人を引き受けてくれました。まさに生き仏…。


だがまったく無計画のくせにプライドは山より高い父親は、やがて産業廃棄物処理の現場責任者になるものの、トラブルばかり起こしては仕事を辞職。夫婦ともどもローンでがんじがらめのくせに度し難い買い物中毒を見せ、人のいい保証人をキレさせ、ありとあらゆる泥をまきちらしながら埼玉に戻るというのが前編。へたなホラー映画よりもずっとおそろしいのが、竹下夫婦の常軌を逸した強烈なエゴだろう。自分たちにはひたすら甘く、物質主義の塊であり、病的と思えるほどの楽観主義である。


http://d.hatena.ne.jp/tada-wo/20090618/1245313092(因果鉄道999・埼玉-北海道(後編) - アマルフィ 日和)



翌日からは、一家総出で職探し。新居の家賃とマイホーム、車のローン、合わせて月に27万にもなるので、お父さんとお母さんはもちろん、中卒以降の娘たちも頑張って稼がなければ(ちなみに北海道で高校進学した二人の娘は休学しているが、後に退学)。結果、いろいろ妥協をしつつも、お父さんは土木関係の会社に就職が決まり、お母さんや娘たちもパートやバイトが決まった。ただ長女だけは仕事がなかなか決まらない。理由は、北海道での就職経験があるためか、お父さんが正社員採用以外は認めないから。焦る長女に煽るお父さん、口論も多くなった。


埼玉に戻ってきて数ヶ月が過ぎ、6月に入った。梅雨入りで雨の日が多く、現場仕事のお父さんは休みの日が続く。お給料が日割り制の身としては、正直きびしい。さらに北海道の田舎町とくらべて、埼玉は物質的な誘惑に満ちた環境で、気がつけば外食の回数も増えていた。女の子とはいえ、食べ盛りの子供が6人(焼き肉屋でモリモリ食べる姿が圧巻)で、しかも食事のあとはみんなでカラオケに行くのだから、一回で軽く二万円はかかる。そんな折、またしてもお父さんが会社を辞めた。例によって、会社での待遇と自分のプライドとの、折り合いがつかなかったため。一家の収入は激減した。


そしてさらなる新事実が。なんと埼玉に来てから、一度もマイホームのローンを払っていないというのだ。銀行からの催促は、すべて無視。それは当然、保証人である北海道の桜庭さんの耳にも入った。桜庭さん、急いで竹下家と連絡を取ろうとするが、一向に繋がらないため、とりあえず一ヶ月分のローンを立て替え、竹下家に直接足を運ぶことにした。


桜庭さんの突然の訪問に、動揺する竹下夫婦。ローンの支払いの滞納や今後について厳しく問う桜庭さんだが、返ってきたのは ”支払いができる状態ではないが、家は手放したくない”という言葉。ある程度、予想していたとはいえ、あまりの身勝手さに堪忍袋の尾が切れた桜庭さん。夫婦をひたすら罵倒し、”自分の親からのものだと思え!”とお父さんの頭に力いっぱいゲンコツを叩き込む。結局、年を越したら支払うという、あまり信用できない約束をして、その場は収まった。ちなみに桜庭さんとの話し合いの間、ずっとマスクをしていたお母さん、都合が悪い話を向けられると、わざとらしく咳込む姿が印象的だった。


まあここまで善人を食らいつくす因果鉄道的家族も珍しいけれど、そこから現代日本の闇というものが見えてきて、それがあまりにむきだしのために、とってもいやーな気持ちにさせられる。竹下夫婦は平成元年というバブル期絶頂時代に結婚(スナックで意気投合)している。家を建てればなんとかなる。車がほしい。パソコンがほしい。北海道では室内にこもることが多いからとテレビステレオを買い、家を建てれば家具を新調する。深刻なローン地獄に陥っているにもかかわらず、他の親族が登場しそうな気配もまるでない(たぶん、過去にいろいろあったのだろうと思われる)。


いきなり中国人の国民性の話をするけれど、本来かの地の人々は国家というものを信頼せず、地縁・職縁・血縁をことのほか重んじると言われている。現代日本でも核家族化に歯止めがかかり、派遣労働の是非が問われるようになっているが、竹下家は本来人間が生き残るために必要だったはずの、そうした縁なるものを全部破壊して回っている。そういうことをしても生きていけるという勘違いを生んだのが戦後の時代だったと思うが、90年代からの田舎暮らしブームに乗って、なんの地縁もない北海道の極寒の地にひょいとやって来ては、さんざん迷惑とローンを残して埼玉へと戻っていくところがいかにもな感じに見えた。


しかし竹下夫婦がすごいのは、信念や宗教や哲学というものが最後までからっきし見えてこないところ。唯一、なにかがあるとすれば、それは「消費」だけなのだ。たぶんこのあたりが番組を見た人間を驚愕させるポイントだと思う。狂信的キリスト教原理主義者を映した「ジーザスキャンプ」を見たときと似たようなショックを覚えた。狂信的消費原理主義者の生態を見たというか。単に無計画や怠けの物語ではない突き抜けた感じがじつにいまわしい。埼玉に戻って家族が総動員で働いて月50万円を稼いでも、母親は家計簿をつけず、家族全員で「自分にご褒美」とばかりに焼肉を頬張り(モリモリという擬音がこれほど似合う画もないだろう)、カラオケで盛り上がって、家のローンを一回も払わずに消費してしまう。それ以外にはなにもなく、平気で保証人を裏切り、埼玉でも近隣住人から文句を浴びせられ、職場ではことごとく対立する。北海道から埼玉へと戻ってきても、どういうわけか家財道具をみんな北海道に置きっぱなしにし、埼玉で改めて一から家財道具を買いそろえるあたりがタブー感に満ちていてとてもよかった。視聴者が全員ツッコミを入れたくなるだろうが、それを止めることはできない。なぜならそれが彼らの宗教的儀式なのだ。


埼玉のせまっ苦しい家のなかで、だいぶ体格のいい8人家族がぎゅうぎゅう詰めになって暮らしているにもかかわらず、番組中、やたらときゃんきゃんと犬の鳴き声がする。ナレーターも触れずにいたのだけれど、借金地獄にもかかわらず犬まで飼っていたのだ。しかも室内には猫もうろうろ。けっきょく仕事を転々としてばかりの父親はそのくせえらそうに娘達を叱咤する。番組内では親子の絆をむりやりとりつくろった感じで終わるが、たぶんその絆ももう終わりだろう。あの夫婦の徹底した消費信仰は、やがて唯一残された親子の縁をも食らい尽くすだろう。ラストで母親は失踪しちゃうし。


ラストのほうでは、自堕落に喧嘩をする夫婦を娘たちが逆に叱り飛ばしているが、あれが唯一の救いだろう。消費することでしか自己を確立する手段がないバブル世代のツケを、子供たちがけなげに払うところがきわめて現代日本らしい感じがした。もっともっと放送されるべきすばらしい番組である。根本敬大統領の「内田」研究に匹敵する黒い内容でした。


関連サイト

http://blog.livedoor.jp/hirotsugu1069/archives/51214303.html(須山浩継伯爵の身勝手日記:ザ・ノンフィクション 漂流家族〜「これで終わりかい!」と思っていたら・・・)

http://blog.livedoor.jp/hirotsugu1069/archives/51222310.html(須山浩継伯爵の身勝手日記:ザ・ノンフィクション 漂流家族 埼玉編〜タバコと思ったらアヘンだった)

http://tv.yahoo.co.jp/review/138148/ザ・ノンフィクション・漂流家族 - みんなの感想 - Yahoo!テレビ.Gガイド [テレビ番組表])

http://komachi.yomiuri.co.jp/t/2009/0614/245609.htm?g=01(漂流家族を見た方! : 生活・身近な話題 : 発言小町 : 大手小町 : YOMIURI ONLINE)


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