深町秋生の序二段日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2009-07-11 天使映画というジャンル。最強の暴力映画「ヱヴァンゲリヲン破」 このエントリーを含むブックマーク

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「いやあ、見たなあ! エヴァを!」


というすがすがしい気持ちになった。友人知人たちのなかには「2回見た」「いや、おれは3回」と興奮しすぎるにもほどがある中坊たちが続出したのを受けて、のろのろと出かけていったのだ。とはいえ「序」すら見ていなかったので、金曜ロードショーで前作「序」(しかし日テレエヴァを見るというのも奇妙な感覚だ)を確認した。


「序」は困ったことにおもしろくはなかった。テレビシリーズのダイジェストみたいで、改めて作る意図さえわからなかった。思えば「エヴァ」というのはDV夫のようなものである。むかしはとってもすばらしい人で、あたしにはすごくやさしかったの。だけどあの人もだんだんおかしくなって、殴る蹴るは当たり前。お金を奪い取るわ、意味のわからない理屈を唱えてからんでくるわで大変だった。「今度こそきちんとやるから。やり直そう」などと何度も甘い言葉をささやいて、けっきょくは「気持ち悪い」なんて言い放ってあたしの首をしめたのよ。あんまりよ! あんまりよ! あんまりだ、この野郎!!


というような歴史もあって、もう「エヴァ」とは関わりたくないというのが本音であった。だけど今回の「ヱヴァ破」を見て、すなおに「ああ、昔はDVとかいっぱいされたし、これからだってするかもしれないけど、やっぱりあのおとーちゃんは日本一の旦那さんだったんや……」と、ころっとやられてしまった。まあちょろいもんである。そしてなんであれほど「エヴァ」というアニメにはまったのかが、ようやく十年以上も経ってからわかったような気がした。


正直なところ、あまりキャラクターに関心がない。たぶん昔からなかったんだと思う。とはいえ今回のキャラクターたちの自立した精神性や、閉鎖的な自己愛に凝り固まっていたシンジ君が、すなおに他者に対して愛をぶつける姿に拙者濡れもうした、という感じだろうか。エモーショナルにタフな野郎精神を獲得するところは大いに盛り上がる。過去と比べて精神のベクトルがほとんど正反対に向いていることを考えると、「ついてゆけぬ……」と絶望する人も山ほどいるだろうが、きわめて男性的な作品に仕上がっているように思えた。男の欲望をこれほど刺激するものもないかもしれない。


「女性の視点が大事」とか「成功の鍵は女性客にあり」といったようなメッセージが連呼される時代において、これはたいへんめずらしいことだ。癒し、難病、妊婦ヌードとかに私は心底うんざりしているのだが、そんなところへ「破壊、殺戮、全裸、ゆれるオッパイ、グロ、ロボ、軍事」が、大名舟盛りでやってくるのだからこたえられない。そしてドーンとふんどしを締めた九州男児のように屹立する我らが……まあ、このあたりは劇場で確認してほしい。


さて「エヴァ」で私がもっとも繰り返して見たのは戦略自衛隊という殺戮組織が、ネルフ職員に火炎放射を浴びせ、ホールドアップするか弱き人間を無慈悲に射殺するところだった。私は破壊とか殺戮が三度のメシより好きなのだけれど、今回の「破」は、本当によくこたえてくれたと喝采を浴びせたくなった。それほど景気よくあらゆるものを破壊する。ロボットファイトと呼ぶにはあまりにグロテスクかつ凄惨、怪獣と呼ぶには破壊規模が大きすぎるこの映画。改めてしみじみ思ったのは、これはもうロボットアニメではなく、怪獣映画でもなく、もはやこの世のものではない人間の上位に位置する天使たちのファイトを描いた天使映画ともいうべき新しいジャンルの作品ではないかという点。


よく考えればエヴァには、人間が塵同然の扱いを受けるというマゾヒスティックな快楽があった。旧約聖書のなかで大好きなシーンのひとつに、神様が背徳都市ソドムゴモラをドカンと吹っ飛ばすところがあるけれど、大変景気のいい破壊があってこそのエヴァではないかと思う。使徒が攻撃をくわえると、大破とか中破とかそんなレベルではおさまらない。数万度の熱線を浴びせられて「蒸発」してしまう。人類が必死こいて作った第三新東京市という要塞は、ひょっとすると怪獣ぐらいは倒せるかもしれない。膨大な量の砲台とミサイル発射台が備わり、ビルはにょきにょきと収納可能で、軍事的な役割を果たすが、それだけ頑張ってみせても使徒の前には障子戸ぐらいの防御力しかない。


そんな絶対性を帯びた使徒に、唯一勝てるのは人型兵器であるエヴァだけれど、このエヴァにしても人類にはコントロール不能だ。思いっきり制御不能で暴れまわり、人類の頭脳の象徴ともいうべきエリート科学者であるリツコ博士が「なんてこと!」「これが……本当のエヴァ」などと鼻をくじかれるところが毎度毎度の見所といえる。人類がなんだかよくわからない天使どもに、いいように蹂躙されるという、日本人好みのするマゾヒスティックエンターテイメントだと思った。前の映画でも鳥葬とかあって、ぐちゃぐちゃについばまれたりしていたのも最高だったけれど、一箇所に閉じこもって、わけのわからないものと戦い、やられたときは血のような液体が景気よく飛散し、骨や内臓が飛び出すという意味ではロメロの「ゾンビ」に似ている。人類の欲望が寄せ集まったショッピングモールという場所にこもって圧倒的な火力でドカンドカンやるという感じ。


ヱヴァ破」からは、80年代アニメに横溢していた豪腕パワーを感じた。「東京」が景気よく破壊されるところは大友の「AKIRA」のようであり、圧倒的な終末感は宮崎の「ナウシカ」を思い起こさせる。(ついでにラストは「ラピュタ」のよう)戦争日常を対比させながら、人々の営みと美しい都市を描くさまは押井の「パトレイバー」のようでもあった。日本アニメ巨人たちの長所を欲張りに取りこんだように思える。


顔が赤らむような弱点もいやになるくらいあるけれど(ジョニー・トー映画並みとは言わないが、もっとみんな寡黙になってほしい。全員がアキバやコミケで見かける多弁なオタクみたいだ)、何度も見たくなる映画である。私も、もう一度くらいは見るだろう。「エヴァ」というと、どうしても理屈っぽさや、意味ありげな単語や伏線に翻弄されがちだけれど、クローネンバーグの作品みたいに、あんまり人には大きな声ではいえない「破壊」という欲望に応えすぎた最強無比の暴力映画昇華しているように思えた。


関連サイト

http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2009/06/post-486f.htmlたけくまメモ : 「ヱヴァ」は品川駅を出発しました(ネタバレなし))

http://d.hatena.ne.jp/makaronisan/20090628/1246100310(【ネタバレ有り】「ヱヴァ破」の目指した破壊と再生はどこにいくのか? - たまごまごごはん

http://d.hatena.ne.jp/FUKAMACHI/20080115(究極のニッポン映画武士道残酷物語」)


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