2009-08-05 小説のルール

小説家になる!―芥川賞・直木賞だって狙える12講 (ちくま文庫)
- 作者: 中条省平
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
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- 作者: ディーン・R.クーンツ,Dean R. Koontz,大出健
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 1996/07
- メディア: 文庫
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50本読んだのだけれど、総じて文章のリズムはうまい。けれど小説をちょっと誤解したまま書いた作品が少なくなかった。
小説は、書き手の妄想や欲望を自由に描ける個のメディアであり(共作の人もいるけれど)、自由であればあるほどすばらしいとは思うけれど、基本的な原則はやっぱりある。一見、椅子や机が飛び交うプロレスがアナーキーかつフリーダムに見えても、万国共通でヘッドロックは必ず左脇でかけるというルール(追記。メキシコは逆)があるように、ある程度の原則を踏まえていないと小説と呼ぶにはちょっと厳しい出来になってしまうのである。
最近のテレビドラマや映画の影響もあるのかもしれないが、キャラの心情がいやにストレートすぎたりする。たとえばある日本映画で土砂降りの雨のなかでキャラクターが佇んでいるというシーンがあった。つまり大量の雨を降らせることでキャラの悲しみを描いたつもりなのだろうが、なんとおそろしいことにその土砂降りのなかでその人物が涙を流すのである。これはたしか「シネマハスラー」の宇多丸氏が指摘していたと思うが、泣いたら土砂降りの意味がまったくないのだ。だが最近は「好きだ!」とか「怒ったぞ!」と直接的にセリフで言ってしまうのもあって、ちょっと困ってしまう時代である。「ボロ雑巾のように扱われたの!」とヒロインが告白すると、ジャーンと本当にボロ雑巾を映した「シベ超」ぐらいになると、見ているほうも「すげえなあ」と感心するようになるけれど。
そんなわけで多くの投稿作品で、主人公のキャラクターの苦悩や想いをそのままストレートに出しすぎるパターンが目立った。そのわりに風景や人物の姿がさっぱり描かれていないので、最終的に読み手には世界観が伝われなかったりする。小説では、キャラの心情を風景や行動に置き換えて記すのが原則である。このブログ時代で、文章をリズミカルに書くことにはみんな慣れているけれど、不幸にも原則を学ぶ機会を得ないまま挑まれたケースが多かった。まあ我流上等の世界ではあるし、私だって未だに編集者から「こういうことはやっちゃいけないんですよ」と指摘され、「ええ! そうなの?」と驚いてばかりいるのだけれど。
たとえば先日、山形在住の推協賞作家長岡弘樹さんと一緒に講義できる機会があったけれど、彼が語ってくれた例が一番わかりやすかった。「〜〜感」というやつである。小説における地雷ワードのひとつだ。
たとえば物語中にこわいストーカーやヤクザなんかがばっと現れて、主人公が恐怖を感じたとする。「花子は恐怖感を覚えた」といった具合に。あるいは嫌な上司にセクハラ発言をされ「花子は嫌悪感を覚えた」と書いたとする。こうしてストレートにやってしまうのが地雷である。もしくはなんのアクションもなく、「なんて嫌なやつなんだろうと思った」とか「泣きたくなった」「怖かった」と書いたり。
だがその感じた恐怖や嫌悪をアクションや風景に置き換えるのが小説である。たとえば花子が恐怖を感じたとなら、「花子は歯をがちがちと鳴らした」とか「花子は身体を凍りつかせた」「飛び上がった」「目を大きく見開いた」といった具合に動作や状態に置き換える必要がある。
あと風景や天気で心情を表したり。「空は鈍色の雲に覆われていた」「ねばつくような重い空気が部屋を支配していた」「今年の夏の太陽は、まるで地上の生き物すべて焼きつくすかのように激しく照りつけていた」といったような感じで。人物の内面を婉曲に描くことが小説の基本だ。
いくら文章を書き続けても、このあたりはなにかのきっかけで気づくか、学ばないかぎり、ずっと小説というものを誤解したまま書き続けることになるのではないかと思い、今回は記した。小説の書き方というジャンルの本があるけれど、そのなかでは中条教授とクーンツの本が非常に有効だと思う。
「小説をどうやったら書けるようになりますか?」という質問をたびたびもらうけれど、そのときは「とにかくソープに行け、小僧」と答えるようにしている。むろん嘘だ。「とにかくひたすら書いたほうがいいです」とアドバイスさせてもらっているが、まずその前に「小説とはなにか」というものをある程度知ってもらう必要があるのかなとも思う。いくら筋肉を鍛え上げても、右脇でヘッドロックをかけてきたり、金玉を蹴ってこられたらプロレスが成立しないのと同様に、まずルールというものを身体にしみこませるのが大事ではないかと。むろん小説はプロレスと同様に奥深い世界なので、ルールを知ったうえで火炎放射をしたり、二階のバルコニーから飛び降りたりするような、目ん玉飛び出るフリーワールドをおのおの確立していただきたい。
- 作者: 久美沙織
- 出版社/メーカー: 徳間書店
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- メディア: 単行本
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- 作者: 長岡弘樹
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