深町秋生の序二段日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2010-06-30 ヨシモトと暴力の空気 このエントリーを含むブックマーク

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今週のネット界はこの話題で持ち切りだった。


http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1495370.html(「人志松本のすべらない話」で千原ジュニアがした話が、レイプ未遂、傷害罪では?と批判殺到)


放送作家でタレントの木村祐一が、自宅に招いた女性に、カチカチの凍った鶏肉を投げつけたという話。深夜に招いたのに、やらせてくれなかったのに腹を立て、鶏肉を放って追い返したというのだ。


それを千原ジュニアが粗暴な雰囲気ぷんぷんさせながら語るものだから「どこがすべらない話なんだ」「ただのDV野郎じゃねえか」「犯罪自慢かよ」と非難ごうごうなのであった。


リンク先にそのときの模様があった。見たけれど、なるほど、これは誤解を生むだろうなと思った。ニヤっと笑ってしまうところもある。私はゴシップや陰口が大好きなので、「ああ、木村祐一って(文化人ぶってるのに)そんなあぶないDV野郎だったんだ。勉強になったなあ。ニヤニヤ」という意味で。本来はそういう「木村兄さんは、瞬間湯沸かし器みたいなアブナイ人ですねん」みたいな話にしたかったのかもしれない。しかし千原ジュニアの、「深夜にひとの家に来て、一発やらせないような女は凍った鶏肉投げつけられて当然やろ、どや!」みたいなホモソーシャル的な態度がにじみでていてつらいものがあった。ネット界にガソリンをそそぐような暗いプライベートを暴露されて、木村祐一も迷惑したことだろう。


しかしヨシモトというのは、21世紀になっても、暴力に対してなんだか鈍感だ。無邪気と言い換えてもいい。「おれら芸人やから」という甘えをたびたび感じる。暴力ウォッチャーとしては、その粗暴な空気を満喫してもいるけど。芸能界で喧嘩最強なのはオール巨人だと信じてるし。


相撲界が、黒い交際、高額バクチ、かわいがりリンチなどといった諸問題で、とんでもないダメージをくらっているところだが、そのあたりの雰囲気はヨシモトもあまり変わらない。任侠道にも似たきついヒエラルキーかわいがりも辞さなさそうな厳しい教育(ナマ言ってると、紳助兄さんの右手がうなる)。暴力団とのつながりを自慢したがゆえに、かえってとんでもない目に遭ったといわれる中田カウス師匠釘バットを奪い返した現代のマッドマックス)などなど。ダウンタウン浜ちゃんの「歩く恫喝」みたいなスタイルもなかなかに見逃せない。


そういえば先日、品川ヒロシ監督のヤンキー映画ドロップ」を見た。これがいかにもヨシモトらしい暴力に対する危うい耽溺を感じさせる奇妙な作品だった。「シネマハスラー」で宇多丸氏が心の底から嫌っているのを聴いて、逆に見たくなったのだ。見ながら、冷凍チキン話と同様に「うわ、こりゃひでえや」と嘆いてしまった。


ヤンキー映画だからアクション多めなのだけれど、「人は簡単に死なねえ」とうそぶき、相手の頭めがけて金属バットフルスイング。武器バトルが多くて、金属バットや鉄パイプ、角材などで大乱闘。それでも誰ひとり障害者にもならなければ、骨折ひとつさえしない。「人は簡単に死なねえ」と何度も主張して、そのたびに敵の学生を車でひいたり、鉄パイプでガンガンぶん殴るのである。最後まで暴力の代償を主人公らは払うことはなく、あったかい仲間に囲まれた青春を送る。警察に捕まらず、暴力の応酬で死ぬこともなく、家族たちはそんな主人公をやはりあたたかく見守って、甘やかす。


ラストでは50人の卑劣な暴走族相手に、少人数で立ち向かい、そして敗北する。「死ぬかもしれねえな」と決闘前は呟いていていたのに、決闘が終わってみれば、敵は姿を消している。主人公たちはのんきに「負けちまったなあ」と決闘場で寝そべり、多少アザをつくっただけで終わる。なにかのスポーツをやり終えたかのように、普通に家に帰るのである。ふつう暴走族と抗争して負けたら、ケツの穴にオロナミンCの瓶でも突っ込まれて引きずりまわされるか、女をボロクソに輪姦されるといった代償を払わされると思うが、そうした暴力の先にあるものを一切描かない。ある人物が喧嘩とは関係なく、かんたんに死んでしまうのだが、それを目撃してもなんら主人公は成長することもなく、親友と「人は簡単に死なねえ」とうそぶいて喧嘩ごっこに興じるのであった。これほど暴力を無邪気に美化した倫理観のない映画もめずらしいだろう。


つまりは単なるヤンチャ自慢で、品川監督が自分のチンポコを手コキしながら撮ったようなナル作品だったのだが、その思考が停まった暴力観にはぞっとさせれた。ちなみに井筒監督がこの映画にやはりむかついたらしく、それで陰惨な暴力映画ヒーローショー」を撮ったのだそうな。


ヨシモトのお笑いは、バイオレンスをバックにしていることがよくある。ダウンタウンの昔のコントとかすごかったもんなあ。篠原涼子を泣かせたりして。個人的にはおおむねそれを楽しんでいるのだけれど、たまに今回の「冷凍チキン」のように、暴力とお笑いの間にある境界線を飛び越えてしまう例がよくある。チンピラみたいな恫喝上等のスタイルを、心底かっこいいと信じるヤンチャイズムにへきえきさせられるというか。まあ特別顧問が釘バットで襲われるのだから、社内にそうした空気が残るのは当然かもしれないけれど。そういえばカウス師匠の相方も、昔山口組の賭場に出入りして逮捕されたんだっけ……。


相撲界が全然21世紀に対応できずにいるのと同じように、その前時代的な暴力の空気が、ヨシモトの首をゆくゆくは絞めることになるんじゃなかろうか。


なんてことを言って終わりたかったのだが、たぶん世間自体はまったく逆で、こうした責任をともなわない暴力話がみんな好きなのではないかとも思う。「ドロップ」も大ヒットしたし。しかもそういうヤンチャ自慢みたいな気風が、やたらとちやほやされている時代だ。ヤンキー喧嘩映画が多く作られたり、湘南乃風が流行ったり。前田日明ヤンキー格闘技大会がブレイクしたり。


たぶん品川さんだったら、もっとこの「冷凍チキン投げ」もうまく料理しただろうなと思った。金属バットで人の頭をボールみたいにガンガンぶん殴っても、湘南乃風音楽が流れるさわやか青春ストーリーに仕立てられるのだ。「やらせてくれなかったから、女に冷凍チキンを思い切り投げつけた」というDV臭のする物語を、「女のほうも投げつけられたチキンを持って返っておいしく食べたらしいっす」などとつけくわえて、世間も納得する安心印のストーリーに改変することぐらい朝飯前だっただろう。


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