深町秋生のベテラン日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2010-09-02 圧倒的なスラム力「太陽の墓場」 このエントリーを含むブックマーク

太陽の墓場 [DVD]

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いやあ……暑い


あんまり暑いものだから、わあわあと怒鳴る男たちをやたら超どアップに撮る「龍馬伝」を最近はめっきり見なくなったのだけれど、先日暑苦しいことこのうえない強烈な一本を見た。昭和35年の大島渚映画太陽墓場」である。


暑苦しいうえに臭うというか……汗や血や体臭、それに大阪釜ヶ崎の夏の土埃。昭和30年代の、現役バリバリのスラム街の濃厚な気配が伝わる刺激的な一本だった。映画ライターの真魚八重子さんが、ツイッターでこの作品に関する感想をつぶやいてらっしゃった。「なに、釜ヶ崎スラム? そうと聞いたら黙っとられへん!」というわけで、速攻でDVDを購入して見た。


管理売春に励む若き愚連隊集団や、売血をシノギとする反共主義者(口癖は「ソ連がもうすぐ攻めてくる」)の元軍人、小汚い日雇い人夫がぎょうさん暮らす大阪スラム街で、寄せ場のまとめ役の娘である花子が、肉食系の元軍人や愚連隊とつるんで一攫千金を試みる。だが金の取り分で揉めに揉め、やがて全員がむやみな暴走へと突き進み、ラストは景気よく暴動! 手榴弾が爆発! というすばらしく高純度のノワール物語だった。もっと早く見てればよかった。大島渚、さっぱり見てなかった。


しかしまあなんたってすさまじいのは、画面から漂うただならぬ不潔さであり、ギラギラと照りつける血のように赤い太陽のもと、汗をだらだら垂らす人間たちの脂っぽさや黒ずんだバラックやドヤの熱気である。21世紀になってCGなんかが発達したわけだが、もうどうあがこうと、現代ではもはや再現不可能であろう圧倒的な汚さや体臭がここにはあった。


障子がびりびりに破られた汚い小屋で、真っ黒に汚れた日雇い労務者の血がどろんとビンに収められ、(いかにも肝炎といったウイルスに汚染されてそうな血液)、愚連隊のあんちゃん同士のケンカでは、バケツ一杯のホルモンがびしゃーっと路上にぶちまけられる。ワルにもなれきれないハンパなチンピラを演じる佐々木功が、青々とした牛の肝臓を顔にべちゃっと叩きつけられるところなどは、思わず声をもらしたくなるぐらいにショッキング。


俳優も異様にすばらしい。美人局にひっかかって売血に加担させられる好色な医者役の佐藤慶、カタコトの日本語を操るしたたかな朝鮮人役の渡辺文雄、ケチな泥棒の田中邦衛、売春や売血でのし上がろうとする愚連隊リーダー津川雅彦がかっこいい。そしてなんといっても、ハードボイルドスラムのズベ公を演じた炎加世子の肉感的なボディや、世のすべてにむかついているような眼差しがたまらない。


絶対的な貧困に苛立つドヤの男どもやエネルギーをむやみにもてあました若者たちが、非合法なビジネスに突破口を見出し、ときにはリンチ制裁、折檻、暴力、セックス、恐喝にとはげみ、そして破滅へと突っ走る。そんな獣じみた人間たちをせせら笑うかのように大阪城通天閣がどーんとそびえたつ。


ラーメン博物館やテーマパークにはないリアル昭和30年代の凄みを感じさせる。「昔に戻りたい」という変な流行があったわけだけれど、本当にタイムスリップしたら、現代人など半日と耐えられないだろう。慎太郎カットの飢えた若者たちにカツアゲされ、どぶ川のヘドロや工場の煙に胸が悪くなり、夏の汲み取り便所の臭気に鼻がもげそうになって七転八倒するのが関の山だろう。だいたいエアコンないしな。見ながらそんなことを思った。


スラム貧困層ギラギラというと、深作欣二の初期作品ではよく見かけたけれど、この映画風景にはかなりうっとりさせられる。小屋暮らしの貧乏人が着るボロっボロに垢じみたメリヤスのシャツや、バクダンと呼ばれる目のつぶれるようなカストリ焼酎、汗でべとつかせた裸体をさらけだしながら怒鳴り散らす男たち。環境映画としてもすばらしく、年に何度も見返したくなる中毒性の高い一本であった。


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