深町秋生の序二段日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2010-11-08 誇り高きレスラーたちの横顔「元・新日本プロレス」

元・新日本プロレス

元・新日本プロレス

子殺し 猪木と新日本プロレスの10年戦争

子殺し 猪木と新日本プロレスの10年戦争


週刊ゴングの元編集長金沢克彦プロレスノンフィクション「元・新日本プロレス」を読んだ。


前作の、新日斜陽期を描いた「子殺し」も大変な名著だったけれど、今回の「元・新日本プロレス」もじつにいい。失いかけたプロレス愛を蘇らせるほど、プロレス世界を力強く肯定させる感動的な良書だった。マニアだけでなく、プロレスにさほど興味がない人でもたのしめると思う。


タイトルのとおり、取り上げているのは、かつて新日本に在籍していた元レスラー、もしくは現役レスラーである。その対象者のセレクトはかなり渋い。道場最強と謳われつつ、総合格闘技で結果を残せなかった小原道由小川橋本戦で、あやうくセコンドの村上リアルに殺しかけたことでも有名)であり、FMWで暴れまわったヒール親父のイス大王・栗栖正伸であり、越中大谷といった世渡りのおおよそうまくない男たちである。また、リング上の事故で頚骨骨折、リハビリ生活を送る片山明も取り上げられるが、私はこの選手のことを本書で知った。


イス大王・栗栖の暴れっぷりは当時から大好きだったけれど、その他の選手に関してはよく知らないか、もしくはそれほど思い入れがなかった。小原などはプライド舞台でおそろしいほどしょっぱい試合をしてしまい、むしろテレビで罵声を浴びせていたくらいだ。


主流から外れた傍流の男たち、あるいはリング自体から降りてしまった男たちの証言であるが、普段からマスコミを相手に、ぺらぺらと喋りなれているスターたちとは違い、話す機会にそれほどめぐまれていないタイプの男たちであるがゆえに、真実味と重みを感じる。レスラーたちの証言とともに、ベテラン記者であった著者が当時の背景や時代を補完していく。そこから見えてくるレスラープロレス業界の姿は、バックステージもふんだんに書かれているものの、暴露本とはまた異なる新鮮な驚きを与えてくれる。


そもそも同じ版元である宝島社ムック本の内容には、ちょっと前までは本当にうんざりさせられるものが多かった。プロレス業界の体力はもはや残りわずかだというのに、あいかわらず「業界はこれほど衰退している!」「レスラーの貧乏生活!」とか、底の浅い暴露話を披露していた。原田久仁信劇画があったから買ってはいたけど。それゆえ、こうしたプロレス愛にあふれる本をだしてくれて、最近はなかなか嬉しい。


「くだらないレスラーとかバカげた試合は『ゴング』に載せなくていいと思うんですよ。練習もしない、酒ばっかり飲んでいて適当な試合をしたり、訳のわからないデスマッチお茶を濁したりとか……。金沢さん、ぜひ片山明さんの取材をしてください! プロレスは一歩間違えたら大変なことになる命懸けの仕事じゃないですか? 片山さんは命懸けでプロレスをやって運悪く動けなくなってしまった。でも頑張ってリハビリしてるんでしょう? そういう本当のところを取材すべきじゃないですか? 金沢さんが単なるプロレス記者じゃなくてジャーナリストなら、そういう仕事をしてほしい。俺はそう思ってますよ」

 真っ直ぐな石澤はいつだって核心を衝いてきた。

第二章「片山明&大矢剛功


「ジャンボさんとは同じ屋根の下で生活していたわけだし、稽古もつけてもらってね。身の周りの世話もしましたけど、やっぱり他の先輩とは違うんです。明るくて、馬力があって精力もあって、よく言ってましたけど、『2m近くあるから昔は女の子が怖がって寄ってこない。全然モテなかったんだよ。でもプロレスラーになって人生がまるで変わってねえ』って(笑)。食事にもよく連れて行ってもらったけど、一緒にいる女性が毎回違うんですよね。体力なんか超越していた。僕ら合宿所に住んでいるから物音で分かるんですよ。ああ、誰か帰ってきたなあって。時計を見ると朝4時とか、5時で、いつもジャンボさんなんです。で、練習が始まる10時前になったら海水パンツ一丁で道場に入って来て、『さあ、やるかね!』ってしっかり練習をこなしてね、飯も食ったか食わないかのスピードで済ませると、また出掛けて行く。それで帰ってくるのがまた朝で、まあ並みの体力じゃなかった」

第四章「越中詩郎


精力絶倫のジャンボ鶴田や、じつはまっすぐな気性だったカシンこと石澤。馬場に背を向けて全日を去る越中に、餞別として無造作に背広から札束を取り出す男気たっぷりの天龍などなど、すでに知ったつもりでいるレスラーたちの、さらに奥深い個性と横顔を炙り出す。


著者は前作「子殺し」の序文で、著者が敬愛する沢木耕太郎の傑作ボクシングノンフィクション「一瞬の夏」のような作品を目指したいと記し、その「子殺し」で当時の新日本プロレスの狂気を緊密に描いていた。


今回の「元・新日本プロレス」は、同じ沢木耕太郎の初期作品を思わせる。狂い咲き中年ヒールとして、ヤングライオンたちをイスでしばき倒し、60をとうに過ぎた今もリングにたち続ける栗栖正伸の章は、周囲に止められても戦い続ける輪島功一を追った沢木の短編「コホーネス<肝っ玉>」のよう。学生柔道プロレス格闘技を経て、今はサラリーマンとして働く小原の章は、相撲野球プロレス世界渡り歩いたトンガ系日本人の半生を追った「ガリヴァー漂流」のようだった。


会社をリストラされようと、小さな団体で苦しい経営を強いられようと、頚椎を折って車椅子生活を送ろうと、レスラーであることを誇りに気高く生きる男たちの姿は、読むものの心を揺り動かす。仕事、戦い、ライバル、忍従、怒り、崇拝、病、そして死。プロレスという世界をとらえつつ、人間の生き方、人生航路というものを普遍的に描いたハイレベルなノンフィクション本だった。おすすめ。


プロレス「地獄変」 (別冊宝島 1630 ノンフィクション)

プロレス「地獄変」 (別冊宝島 1630 ノンフィクション)

王の闇 (文春文庫)

王の闇 (文春文庫)

一瞬の夏 (上) (新潮文庫)

一瞬の夏 (上) (新潮文庫)

2010年11月07日のツイート 2010年11月07日のツイートを含むブックマーク

Connection: close