深町秋生の序二段日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2016-03-12 闇夜を照らす温かい灯り。瑞々しい成長物語『ニュクスの角灯』 このエントリーを含むブックマーク

ニュクスの角灯 1 (SPコミックス)

ニュクスの角灯 1 (SPコミックス)

SADGiRL (torch comics)

SADGiRL (torch comics)


長らく放置してました。


コミックストリートが3月で最終回を迎えるのですが、一回分余計に多く書きすぎたというトンマなことをしてしまったので、こちらに掲載しておきます。(ブログってどう書くんだっけと完全に忘れている)高浜寛の初長篇の新刊『ニュクスの角灯』についてです。お勧めです。以下、原稿


 新聞を見て驚いた。嬉しいではないか。


 第20回手塚治虫文化賞候補作品が決まったのだが、そのなかに昨年の個人的1位に推した高浜寛の『蝶のみちゆき』が入っていた。(同じくこのコーナーで取り上げた『ゴールデンカムイ』も)


 こういうのは我が事のように嬉しい。「ほら見てみい、わしの目にまちがいないやろが」と、妙に誇らしくなるのだった。ちなみに選考結果は4月下旬に発表されるという。


http://www.asahi.com/shimbun/award/tezuka/2016nominate.html#list(第20回(2016年)手塚治虫文化賞マンガ大賞」候補7作品決まる)

 

 このところ仕事のペースがぐっと上がったばかりか、ブログ愛猫との日常マンガまでアップしている高浜寛が手がける初長編『ニュクスの角灯(ランタン)1』(リイド社)を取り上げたい。前々回に取り上げた『SADGiRL』(リイド社)と同時に発売された。


 さまざまな依存症に陥った人間の苦悶と滑稽を描写し、睡眠薬精神安定剤依存症に陥っていた作者自身の人生を総括するような物語『SADGiRL』に比べると、本作品からは新しい道を切り拓こうというポジティブな印象を受ける。作者が愛して止まないアンティークを題材にし、孤独で自信を失っている少女が、自分の居場所を見つけ、徐々に成長していく前向きなストーリー。主人公の美世(みよ)がとてもキュートだ。


 1944年の熊本の防空壕で、米軍の爆撃にさらされている老婆と孫がいた。「もうだめ」と震える孫に、老婆は「もうすぐこの戦争は終わる」と諭し、自分の思い出話を語る。世界が一番素敵だったころの話を……。


 明治11年の長崎鍛治屋町。西南戦争で親を亡くした美世は、親戚に引き取られるが、何事も不器用な娘であるせいか冷たい扱いを受け、すっかり世界に絶望していた。奉公先を求めて道具屋「蛮」の戸を叩くと、出てきたのはヒゲ面のコワモテなおっさんと、パリから戻ってきたばかりのC調店主・小浦百年(こうらももとし)だった。「蛮」は世界の珍しい品々を扱う道具屋で、美世は文字を学び、たくさんの本に触れ、またチョコレートやミシン、ドレスなど、初めて見る品々に驚きつつ、好奇心を刺激されて世界に関心を抱くようになる。


 ヒゲ面の岩爺(がんじい)、店主の百年、お針子のおたまなど、温かい大人たちに導かれ、少しずつ希望を抱いてたくましくなっていくプロセスが、読んでいて心地よい。苦みと甘さのさじ加減が絶妙なところが、やはり作者ならではといったところだろうか。


 初長編作ということで、物語がどのように転がっていくか。もうすでにハラハラしている。たぶんギクッとするような展開も待ち構えているような気がするけれども、幻灯機(スライド映写機の原型)でパリ万博の様子を知り、「私がうじうじめそめそしとる間に/世界はすごいことになっとるんだ」と、美代が胸をときめかせるシーンが美しい。


 また、『蝶のみちゆき』と舞台が同じ長崎とあって、あの作品の準主役といえるキャラクターが登場するのも嬉しい。ニュクスとはギリシャ神話に登場する“夜の女神”を指し、要するに夜を意味するという。そんな闇のなかを照らす角灯(ランタン)のような温かみのある物語に魅了された。

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