深町秋生の序二段日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2016-05-21 コミックストリートラスト。切実な願いがこめられた魂の書「弟の夫」 このエントリーを含むブックマーク

ショットガン・ロード

ショットガン・ロード


ごぶさたです。


まずは自著の宣伝


ショットガン・ロード」発売予定。広域暴力団の実力者の変死をきっかけに、元殺し屋の漁師が実力者の息子を連れ、仲間だった殺し屋集団と対決。父親と慕った老狙撃手と義兄弟らを殺す旅に出る…というアクションブロマンス長篇です。


どうぞよろしく。評判上々です。



さて、3月にきれいに終わる予定だった、さくらんぼテレビコミック評「コミックストリート」でしたが、いろいろあって、中途半端に終わってしまいました。最終回に掲載予定だった社会派コミック「弟の夫」をこちらに掲載しておきます。


PRIDE (上巻) (爆男COMICS)

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読者の価値観を揺さぶりながら、切実な願いをこめた魂の書「弟の夫」

 

 うーむ、考えさせられる……。


 今回取り上げるのは、もうすでにベストセラーを記録している作品『弟の夫』(田亀源五郎 双葉社)だ。ゲイアーティスト界の巨匠が真正面から、同性愛をテーマにした社会派コミックである。すでに文化庁メディア芸術祭で優秀賞を獲得し、昨年のマンガランキングを騒がせた。


 ちなみに「考えさせられる」というのは、ゼニをもらう原稿において、使ってはならないワード(なにかを言っているようで、なにも言っていないに等しいから。ただの文字稼ぎである)のひとつだけれども、それでも同性愛という近いようで遠い問題を、ぐっと読者に問いかける作品であり、たいていの読者はやはり腕組みのひとつでもして、「うーむ、考えさせられる……」とうなったのではないかと思う。1巻だけでは、まだ物語がどう転がるのかが見えなかったので保留していたけれど、2巻でさらにテーマが深まったこともあり、ぜひ取り上げたいと思ったのだった。


 アパート経営をしながら、ひとり娘の夏菜を育てているバツイチ男性の弥一。父娘二人暮らしの家に、マイクなる熊のようなひげ面の大男がカナダからやって来た。弥一には疎遠になった双子の弟の涼二がいたが、ゲイだった弟は同性婚が許されたカナダマイク結婚していたのだった。しかし、弟はパートナーだったマイクを残して死去。マイクは愛した人の故国である日本を訪れたのだった。いわば、マイクは弥一にとって義弟にあたる。そしてタイトルのとおり弟の夫なのだ夏菜の無邪気な提案のおかげで、この陽気なカナダの義弟を家に泊まらせることになるが……。


 ストレートの弥一や小さい娘の夏菜といったキャラクターを使い、「同性愛とはなんでしょう」という基本的な語り口からスタートする。またコミックの間に差しこまれる「マイクゲイカルチャー講座」というミニコラムもあり、同性愛や世界ゲイカルチャー事情について、丁寧な説明がなされている。


 マイク日本語も理解し、礼儀正しいジェントルマンであり、夏菜ともすぐに仲よしになる。弥一もどう接していいのか戸惑い、もやもやを抱え続けながらもマイクと共同生活を送る。わりとアットホームな異文化交流が描かれるが、ひんぱんに読者をドキッとさせるボールも投げつけてくる。もっとも印象的なシーンのひとつは、2ページにわたって描かれるマイクシャワーシーンだろう。美女のシャワーシーンに慣れきっている読者にとって、毛むくじゃらの大男の裸は目のやり場に困ってしまう。「男性誌に女性の裸が掲載されているのが当然」という固定観念があるからこそ、マイクの引き締まった尻や腹筋にたじろいでしまう。(2巻には、ほとんど弥一の入浴シーンだけで終わる話も収録されている)また、弥一はご近所さんにマイクについて尋ねられるが、「弟の夫です」とは言えず、つい「弟の友人です」と答えを濁すところも印象的だ。


 作者の細やかな感性は2巻でも健在だ。「同性愛? いいじゃありませんか」という、リベラル気取りの人間に「本当か?」と迫るような問いがぎっしりつまっている。「悪影響でもあったら」と危惧し、夏菜の家に遊びに行くのを止める同級生の母親などは典型的な例だろう。未知の者に対する不安や恐怖が差別につながる悲劇を描きつつ、作者はさらに読者へ問いかける。「自分の子供が同性婚を望んだら認めますか?」と。


 たとえば、手塩にかけた娘がいよいよ結婚というとき、「娘さんをください」と挨拶に来る男に対し、父親というのはなにかと厳しくあたるものだけれども、「娘さんをください」と女性が現れたら、果たしてどうなるだろうか。


 あるいは両親が熟年離婚したとして、もし新しいパートナーが同性だったら、たぶん目ん玉飛び出るほど驚くだろう。本作品はたえず読者の価値観を揺さぶり続ける。家族の形とはなんでしょうと。


 本作品はラブストーリーとしても秀逸だ。愛しいパートナーを失ったマイクの喪失感や悲しみ、シングルファーザーとして子育てに奮闘しつつも、母親の存在を痛感させられる弥一の苦悩や葛藤などを、影や風景、男の背中で語ってみせる。俳句のような味わいに舌を巻く。読者の頭を激しくシェイクしつつ、切実な願いをこめた入魂の作品といえるだろう。