将棋の神様〜0と1の世界〜

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」&「チェスクロイド」作者がおくる、将棋コラム

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トリビア・「阿久津流」矢倉は昔「野獣猛進流」泉正樹七段の講座で紹介されていた

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阿久津流?

第21期竜王戦の第6局、第7局で渡辺明竜王が連採したことで話題の急戦矢倉「阿久津流」(第1図)。阿久津主税六段が愛用していることからこの名が付いている。この後角を元の2二に引くのは普通の矢倉中飛車であり珍しくないが、7三のほうに引くのが特徴。

実はこの形、「将棋世界」1996年頃の泉正樹現七段の「野獣猛進流」講座で紹介されていた。もう捨ててしまったので正式なタイトルを思い出せないのが残念。どなたか当時の将棋世界をお持ちの方いらっしゃいませんでしょうか。ちなみに最近発売された泉七段の書籍「野獣流攻める矢倉 (マイコミ将棋BOOKS)」には阿久津流は載っていないので注意。
当時純粋居飛車党だった(というか今もほぼ(苦笑))私はこれを読み、この形をよく指していて、学生タイトル保持者に一発入れるなど経験値を活かし勝ち星を稼がせてもらった。

先手番でも指せる

阿久津流は、実は先手番でも指せる。
私は相掛かり戦法が大好き(とりわけ▲2六飛+端歩省略▲5八玉+▲3七銀型で、3筋歩交換後飛車を縦横無尽に使う展開)で、先手番のときは初手▲2六歩と突くことが多い。
しかしご存知の通り、相掛かりを受けて立つアマチュアは皆無に等しく、初手▲2六歩以下△3四歩▲7六歩△4四歩と進み、以下後手が居飛車党の方ならば矢倉にしてくることが多い(第2図)。先手が飛車先を突き、後手が飛車先を保留しているちょっと変わった形に見えるが、実際には後手が相掛かりを拒否すると非常に生じやすい形だ。

第2図から、▲3六歩〜▲2五歩(△3三銀を強要)〜▲5七銀とすれば「先手番阿久津流」の完成。私はこの形を相当数指している。最近でも、春の社団戦で1局(結果は押さえ込んで快勝)。

話題になったことだし、おそらく近々阿久津六段が本戦法を書籍化するのではないだろうか。お勧めできます。こうご期待。

ちょっと専門的な話

記憶が定かではないのだが書いておく。阿久津流愛用者としてはあまり出したくない情報だが、もう実戦を離れて久しいので構わない。
第3図のような局面で、▲6五歩と一見タダの歩を突くのが好手。以下△6五同銀と取ると、▲6六銀左から角銀交換になるが、交換後の局面は後手に比べ先手が非常に手得し陣形が伸び伸びしていて、かつ角の打ち込みを気にしなくてはならないのはむしろ後手のほう(▲5五角の筋や▲6三角の筋など)。

この局面を、泉七段の講座ではたしか「一局」として解説を打ち切っていたが、私は全然自信が無かった。もしこう指されたらどうしようといつもどきどきしながら指していた。対策も考えずに「スルー」を祈りながら指せるのはアマチュアの特権だろう。そして結果的には、未だかつて▲6五歩を突いてきた人は1人もいない。▲6五歩を突けないと、先手は非常に凝り形になってしまい、後手の作戦勝ちとなる。

第7局で生じた▲2五歩に対する△3三銀は、泉七段の講座でも「欲張りで無理」と説明されていて、確か具体的にとがめる手順も載っていた(先の▲6五歩もその1つ)。しかし私はこれまたスルーを祈りながら、結構△3三銀を指していた。結果、うまくいっていた。

また、第6局の▲7九角△7三角の変化。ここで▲4六角と上がってきた人も見たことが無い(皆▲4六歩〜▲4七銀と指してしまう)。▲4六角以外であれば、後手は悠々と△5四銀と立つことができ、これまた作戦勝ちを謳歌させて頂いたものだった。

阿久津先生、早く書籍化して下さい。

2008/12/18追記

第3図の局面、うろ覚えの可能性が高そうだ。▲5七銀と上がっているが、上がる前に▲2五歩と突き、後手が△5四銀とせず△3三銀と欲張ってきたときでないと▲6五歩の筋は成立しないかもしれない。
この辺りの攻防は、一手の価値が非常に高い。手順を間違えるとあっという間におかしくなる。転じていえば、先手番で阿久津流を指すことのメリットがおわかりになると思う(後手側はまだ5二に金がいる形となる)。
なお、「将棋世界」2007年12月号の付録が「阿久津流後手矢倉△5五歩戦法」だったのに気付いたのだが、最近は三間飛車関連以外の付録はすぐに捨ててしまうため、残念ながら参照できない。

既報の通り、第21期竜王戦の第6局、第7局で渡辺明竜王は阿久津流を連採し、いずれも見事勝利。史上初の3連敗後の4連勝で竜王位を防衛するとともに、永世竜王の称号を獲得した。劇的、奇跡的としかいいようがない。


渡辺は規定により、初の永世竜王の資格を獲得した。70年以上に及ぶ将棋のタイトル戦の歴史で3連敗から4連勝したのは初めて。(中略)
今シリーズは、勝った棋士永世竜王になる「永世称号争奪戦」となっていた。七つのタイトルのうち、永世名人など六つの永世称号を持つ羽生は、今シリーズに史上初の「永世七冠」をかけて挑んでいたが、渡辺に阻まれた。

本局は、非常に多くの将棋ファン、いやその枠を超えて多くの人の目に触れた。阿久津流が今後本格的に脚光を浴びることになるかもしれない。

2009/01追記その1

将棋世界」2009年2月号内の連載講座「これで矢倉は指せる」(木村一基八段 著)にて、阿久津流が解説されている。
が、ページ数は8ページと物足りない感じだ。やはり書籍のようなボリュームで詳細な解説が読みたい。

2009/01追記その2

「康光流現代矢倉〈3〉急戦編 (パーフェクトシリーズ)」にもかなり詳しく載っていたことがわかった。

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