あらすじ:
親戚から譲り受けた懸賞のバリ島旅行。
乗り気でなかった旅の途中出会った女の手に触れた中志郎は、なぜか妻への想いがが蘇り、ホテルの部屋にこもって妻を抱く。
小説家の津田は、ネットで知り合った女の部屋で掃除機をかけていた。そして、そこに至るいきさつを語り始める・・・

感想:
主人公、津田の韜晦癖のある語り口?に好き嫌いはあると思いますが、私はそれなりに面白かったです。
しょっぱなの中志郎のバリ旅行のくだりだけ読んだ時点では、なんだか風変りなエロ小説を読んでいるような感じで読むのをやめようかとも思いましたが、主人公の津田が登場した時点でがぜん面白くなりました。

ネットで知り合った、ハンドルネームしか知らない女たち。
ファンを名乗る女。
結婚をほのめかす女。
手に触れた男に特殊な変化を与える女・・・

「必ず冷める物のことをスープと呼び愛と呼ぶ」

結局、津田は、さまざまな女との関係、出版社や編集者との関係が冷え切り、物語の舞台から静かに去っていく。
中志郎も、一度は蘇った想いも冷め、そんな自分に絶望的な気分を味わう。

永遠のものなんて無いのは分かりますが、なんだか、すっきりしない終わり方でした。
このもやもや感というか、余韻こそが「佐藤正午」らしさなんですが。