『魔王様の街づくり!〜最強のダンジョンは近代都市』 月夜涙著  究極のなろう作家の最前線〜異世界転生系俺Tueeeフォーマットは、古いのか、それともこれが成熟した最高峰なのか?

魔王様の街づくり!  ~最強のダンジョンは近代都市~ (GAノベル)

評価:★★★★4つ
(僕的主観:★★★3つ)


友人にすすめられて、下記2つを一気に読みました。タイトルにもありますが、現在のなろう作家の最前線かつほぼ最高峰の一つといってもいいんじゃないでしょうか。とても興味深かった。


スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます(2017)
http://ncode.syosetu.com/n7521dy/

魔王様の街づくり!〜最強のダンジョンは近代都市(2016)
http://ncode.syosetu.com/n7637dj/


この作品、というかこの作者を総体的に評価すると2点を僕は思いました。


1点目は、友人(てれびんや敷居さん)に薦められた、おすすめの理由が、いまウェブ小説のランキングのサイト「小説家になろう」の小説で一番勢いがある作品で、典型的な今のなろうオブなろう、ということでした。この紹介は、非常に正しく、まさにその通りの作品だったと思います。そしてそれ以上に、プラットフォームとしての「小説家になろう」のサイトの異世界転生系のコアを見事に完璧に理解して再現しており、なろうの小説で人気のあるものはまさにこれだ!といえる作品でした。俺Tueeeというものがどういうもので、それをどう物語に展開するかが、作者が完全に理解して再現しているなというのが2作読んででよくわかりました。再現といいましたが、ちゃんと物語になるというのはそもそも難しいことで、実力のある作家さんだと感心しました。普通は、こんなにフォーマットに忠実に同じパターンで作っていたら、いかに「いまの世の中にあったコア」を描いていても、つまらなくなるというか、、、、そもそも世の中の受けを狙えば面白いものができるというの大ウソで、そこに作者の才能とオリジナルがなければ、ろくなものはできないものです。そういう意味では、十分以上に面白い。2点目は、それが故に、僕には面白くなかったこと。ようはあまりにパターンであり、王道を再現しているので、センスオブワンダーが全くない。これが、2010‐11年ごろに出てきたのならば、素晴らしい!と叫んだ可能性があります。突き抜けているものが全くないので星5にはなりませんが、それでもかなりの面白さであるには違いない。けれども、2016‐17の現在の時点で、これを描くのは、成熟しているところに、安定したものを描いているだけで、いまいちに感じてしまいます。これが、なろうの四半期などで一位ということは、なろうもプラットフォームとしてだいぶ成熟して安定してしまっているのだなとしみじみ思いました。


一言でいうと、チャレンジを感じない。フォーマットの王道中の王道を素晴らしく高いレベルで再現するのは、凄いことです。けれども、2作品とも同じ構造。細かい差異はあっても、本質は、王道の再現をしている。でも、それでは、作者が本当に書きたいことは?、構造を上回る何かの突破口を探すことは?、そういうもんがなければ、進歩も成長もない。なので、僕はあまり評価はできない、、、というか、今この構造に慣れ切っている立場からすると、どうしても、作家としてのオリジナリティを感じられない。受けると思うし、人気は出るかもしれないが、突き抜けることはない気がします。この辺は僕の感性なので、本当かどうかは何とも言えないですが、しかし、この先どこに落ちをつけるの?と感じてしまうし、同じつけ方ならば、月夜涙さんの過去の作品群からして差異や変化を感じない。そこは残念に思います。これだけの才能があるの人なのだから。


とはいえ、なろうで描かれる本質を凝縮したような作品なので、ぜひとも読んでほしいです。読むと、様々な作品の差異が非常にクリアにわかるようになる。


さて、この作品の紹介は、かなり個人的に大きな出来事でした。あまりに、なろうのパターンを抽出して見事に表現しているために、1)なろうというサイトが何だったのか?ということ、2)なろうが生み出す異世界転生系俺Tueeeというコアに対して自分(ペトロニウス)がどういうスタンスで見ていたのか?が、非常にクリアーになった気がするんです。そして、それが故に、3)これからなろうがどこへ行くのか?というような大きな流れを考えるきっかけになっている。


サークル敷居亭冬コミ新刊『敷居亭の混沌(カオス)』に参加させてもらってます。
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20111228/p1

小説家になろうのサイト分析〜なろうネイティブの問題点の解析
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20120215/p2


思えば、敷居さんとレスター伯に2011年に紹介してもらって、はや6年。6年読み続けているんですね。ライトノベルにしても、何十年も読み続けていますが、もう成熟した作業でありジャンルであって、ライトノベルが軽い大したことがないもの、という意見があっても、鼻で笑えるくらいの厚みのあるものになりましたね。時代は移り変わるものです。


1)なろうというサイトが何だったのか?


なろうのポータルサイトとしてのコアは、ドラゴンクエスト風中世をベースに、だれでも小説が書けるような敷居の低さを作ったことがあります。途中で二次創作系が消されて、同じフォーマットのものを名前だけ変えて(笑)展開してみたら、凄い人気が出たというのが、なろうの歴史で、基本的に物語を作る行為が、パロディ的にある種のパターン・構造にのっとって、それをアイディア勝負でずらしていけば、様々な展開がありつつ、量産できるということを示したんだろうと思います。ウェブ小説は、小説家ではない人、そもそもその他の専門分野で生きてきた人を、このフォーマットを利用することで、いくらでも物語が書けるということを示したところに、大きな価値があったと思います。そもそも、創作というのは、パクリや流行のフォーマットをベースにして、少しのオリジナリティを加えれば成り立つということが、満天の元に示されたのだろうと思います。なので、2011‐12年ごろに二次創作系を削除したサイトの判断は非常に正しかったと思います。名前変えれば、素人が様々なまフォーマットで物語世界を作り遊ぶことができる。たとえば、『異世界コンサル株式会社』なんか、明らかに異なる専門性をフォーマットに持ち込んでいるものですよね。

異世界コンサル株式会社


なろうのサイトには大きなフォーマットがいくつかあります。

ドラゴンクエスト風中世

異世界転生・異世界生まれ直し

俺Tueee

これに限らずいろいろありますが、大きなコアはこのへんといっていいと思います。月夜涙さんの作品を読んでいて、作者が明らかに、ルールとして採用しているなと感じることに、俺Tueeeがあります。これをもう少し分解してみると、


・主人公が努力によって成長するのではない

・チート(異世界での成功や強さ)は、才能や努力によって手に入れたものではなく、そもそも持っていたものが環境が変わったことで強みになる


俺Tueeeの全能感、物語的な面白さ、それをなろうの読者が明らかに支持しているコアは、「ここ」だろうと思います。上ではあまり色というか解釈を交えないように表現したのですが、これは、どういうことかというと、受け手は、努力や才能によらず成功して成長したいと思っている。そして、それは環境さえ変われば可能だと思っている。いいかえれば、自分が手元にあるもの・能力は、環境さえ変わればチートなくらいの強みになる。さらに言えば、世の中で勝っている、成功しているやつは、偶然自分の手元にあるものが環境にフィツトしただけにすぎない。それが成功というものや努力の正体であって、自身の努力や才能とかいうのはうそつきだ、という感覚です。これが、絶対的に今の若者が支持している根源だといえると思います。


これが、異世界に転生する、いいかえれば環境を白紙にして全く違うところにうつる(自分の努力や意思ではなく)ことが重要なフォーマットとしてベースで使われる理由がわかります。また「強さ」や「チートな能力」というものが、特別な努力によって獲得されるのは、この文脈ではだめです。たとえば、異世界転生した主人公が、転生したその土地で時空で、努力していきます。これ文脈的には、エラーになります。だって、そうであれば、ようは努力したから成長したんでしょう?、努力に意味があるということは、そもそも才能があっんでしょ?となって反感を書く可能性が高いです(あくまでこの文脈であれば。逆の文脈を描かないと、メジャーになりにくかったりもするので、この辺はどちらがいいかは、やっぱり作者の資質に合っているかどうかになるんですが)。なので強さやチートな能力は、そもそも現実や現世において、何の努力もなしに「普通に持っていたもの」が、異世界に来ただけで、凄い意味と価値を持つことにして、かつ主人公が努力や才能で成長してはダメ(笑)なんです。ここが肝なんですよ。


ちなみに、スライム転生。『大賢者が養女エルフに抱きしめられてます(2017)』『魔王様の街づくり!〜最強のダンジョンは近代都市(2016)』はこの発想が見事に洗練されているので、いまの若者?というか時代が究極的に感じていることベースに思っていることは、これだと思います。月夜涙さんは、このことを死ぬほどよくわかって物語を描いていると思います。『エルフ転生からのチート建国記(2014)』のころは、まだこの方向でいろいろ模索している感じが見えましたが、最近の作品は見事に洗練されてこのパターンの純粋性を貫いています。

エルフ転生からのチート建国記 : 5 (モンスター文庫)



2)なろうが生み出す異世界転生系俺Tueeeというコアに対して自分(ペトロニウス)がどういうスタンスで見ていたのか?


さて、なろうのコアがわかってきました。というか、そもそもわかっていたんです。

小説家になろうのサイトは、異世界転成もの、異世界転成ものを支えているチートは、大抵の場合、主人公自体の肉体等の優越性、異なる文明レベルを落差の利用が、ベースになっているんだけれども、この二番目のやつって、先を考えてみると、主人公の優越性の奉仕だけの機能であるうちはいいんだけど、物語が長くなってくると、それはつまらなくなるんだよね。それは、多分自律性がないからだと思う。これって、なんというのかなー批評的に見ると、とでも言おうか、この系統の行き着く先の全体像を考えると、まずは、植民地主義的な視線だ、と言えると思うんだよね。

中略

ちなみに、いま(2011年11月)の時点で、なろうの流行は、もう一度人生を新しい世界でやりなおす(=ある夫婦のもとに生まれて位置から家族を作り出す)というパターンが増えてはやっています。・・・そんなに、いまの人生嫌なんだ!と思うほど、だよなー。これって、たぶん今の時代の、とても重要な肌感覚の一つです。

中略


だから、ここでは、チート権利使用による負債の発生と、僕は呼んでいるけど、自分が時代を変化させ、環境に変数をいれた結果に対しての、反動みたいなものがなければ、物語はおもしろくないんですね。いや、単純に、なんでもうまくいったら、それはそれで全能感溢れますがそれだけだと、長くなってくると、少なくとも僕のような、小説に読み慣れている人からすると、うーん、つまらん、となってしまうんです。負債は、返済されないと、世界が均衡しません。まぁ、もともとこれが、異世界への転成というメタ的な視点をもっていなければ、このルートというか、系統の課題を描く必要はないんだけれども、そもそもメタ的な視点が入ると、どうも倫理問題を呼び起こすようなんだよね、、、これ、必須のようです。



小説家になろうのサイト分析〜なろうネイティブの問題点の解析
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20120215/p2

これ2011年の最初期に読み始めたころの分析です。いま到達してわかっていることを100%網羅しています。事実のポイントのみならず、そこから物語がどのように分岐するか?という予測まで(笑)完璧です。そしてその後の展開も、その通りになっています。いやはや、けっこう僕ってさすがだな、と感心しちゃう(笑)。でもね、ここに大きな問題点が一つあったんですよ。それはですね、こういう倫理の在り方=チートな力を努力なしに世界をやり直して成功することが、マイナスのことであり、それは物語として駄目だという主観の視点が、色濃く反映しているんですね、この分析には。これは、僕が世代の古い年寄りのおっさんであること、またたぶん実際の人生でかなり成功、努力を重視するリア充系のの人間であることからきていると思います。


ああ、ちなみに、ライトノベルにおけるアンチリア充フォーマットのコアは、まさにこの異世界転生系俺Tueeeフォーマットの根本の価値観を同じくする平行線だということは、わかりますよね?。これ、僕が、学園モノアンチリア充で文脈を考えてきたものとほぼ類型が似ていることがわかります。

ココロコネクト』 庵田定夏著 自意識の病の系列の物語の変奏曲〜ここからどこまで展開できるか?
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20121003/p1

ココロコネクト』 庵田定夏著 自意識の病の系列の物語の変奏曲〜ここからどこまで展開できるか?(1)
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20121003/p1

ココロコネクト ミチランダム』 庵田定夏著 伊織の心の闇を癒すには?〜肉体を通しての自己の解放への処方箋を (2)
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20121126/p1

『コロコネクト ユメランダム』 庵田定夏著 あなたには思想がない〜Fate/staynightの衛宮士郎のキャラクター類型と同型(3)
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20121030/p2

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』  渡航著 (1)スクールカーストの下層で生きるこ
とは永遠に閉じ込められる恐怖感〜学校空間は、9年×10倍の時間を生きる
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20130406/p2

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』 渡航著 (2) 青い鳥症候群の結論の回避は可能か? 理論上もっとも、救いがなかった層を救う物語はありうるのか?それは必要なのか?本当にいるのか?
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20130603/p2

ヒミズ』 (2012年 日本) 園子温監督 (1) 坂の上の雲として目指した、その雲の先にいる我々は何を目指すのか?
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20130419/p1

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (ガガガ文庫)



話がそれました。ようは、僕は、なろうの持つコアの価値観に対して、逆の価値観を信じているので、点数が逆になってしまうんですね。


かなり前に、てれびんに薦められて、月夜さんの初期の作品『エルフ転生からのチート建国記』を読んでいたことに気づきました。ここで評価している視点が、まさに、この分析の流れですね。チートなのはいいんだけど、チートの処理がおかしいと僕は言いたいわけです。


エルフ転生からのチート建国記(2014)
http://ncode.syosetu.com/n5705ch/

やっぱり、ライトナルシシズム的な全能感の処理という部分で失敗すると長く読み続けられないものなんだよね。『エルフ転生からのチート建国記』も面白いんだけれども、そこを少し超えないな、と思う。いま4章が終わったところなんだけれども、主人公のシリルくんは、やっぱり自分しか見えていないよね。他人と対等であるという関係が存在しない。もちろん、その苦悩、力あるものの苦悩はあるわけで、読んでいて不愉快ではないので、僕は好きでさくさく読んでしまうが、それでも『本好きの下剋上』と同じように、対等な目線まで主人公が落ちることがないと、どうしても本来的な異世界転生の持つチートさ(卑怯さ)を克服できない感じがする。。。。。。勘違いしないでほしいのですが、対等な目線を獲得しなければ、正しくない!といっているわけではないんです。物語にはバランスがあって、チートで独善さを貫いて突き抜けるという面白さもありうるので、僕はそれを否定しないし、そういう傲慢さを見てみたいし、面白いとも思うので、対等が正しい答えではないです。けれども、シリルくんのルシアへの思いの在り方って、凄く対等目線で純粋性があるものだと思うんだよね。これが、前提にあると、ハーレムがハーレムとしてあるのが、なんだか、凄く苦しくなってしまうんだよね。一線を超えなければ、三角関係ものとして見れるのかもしれないけど、なろう系はあっさり超えてしまうので、、、。


『エルフ転生からのチート建国記』 月夜涙著  タブーを軽々超える主人公のシリル君はどこへ行くのだろう?
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20150829/p1


ところがですね、なかなか難しいのは、『無職転生 - 異世界行ったら本気だす -』『本好きの下剋上 〜司書になるためには手段を選んでいられません〜』『Re:ゼロから始める異世界生活』このあたりの作品を、僕はこれは傑作だ!と最初ん頃から絶賛しているんですが、僕の評価ポイントであるチートな能力に対して様々なひねりを加えているところに、やっぱり重要なポイントがあるんですよね。特に、リゼロが典型なんですが、この作品の構造は最初からなろうの王道に対して、挑戦的です。いわゆる俺Tueeeの全能感に非常に否定的であるのに、それと同じ構造であるという部分が不思議なスパイスで、だからこそ、広く展開して受け入れられたんだろうと思います。やはり僕は、勝負というのは、フォーマット(=基本の構造)に対して、作者がどれだけ、変化を出せるか、そこにオリジナルが宿るんだろうと思います。だって、そこが作者のこだわりだから。

要は典型的ななろうネイティブで、異世界転生ものです。そんでね、5歳の女の子の魂に転生するようなんですね。その時は、その5歳の女の子のマインは、死んでしまっているようです。これ、異世界転生で、生まれ変わった時に、他人の体を乗っ取っていしまったことに対して、どういう倫理的決着をつけるのか?、この問題意識って実は、転生ものにおける重要なポイントだと思うんですよ。この類型における重要なポイントで、それがとても丁寧にうまく描かれていて、僕はとても読んでいて、さわやかな気持ちになります。



本好きの下剋上 〜司書になるためには手段を選んでいられません〜』 香月 美夜著  対等な目線感覚が、異世界転生のチートさの臭みを消去する
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20140719/p1

本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません〜 第三部「領主の養女IV」


最初から、あれだけ膨大な作品量を前にして、「ここ」のみを批評というか分析のターゲットにしていたのは正しかったと思うんですよねー。ただ「チートな能力を才能・努力によるか?」という基礎の部分の世界観・価値観で、評価がかなり僕は、古い世代的なものに縛られています。僕の成長物語ビルドゥングスルロマンを重視する視点なんで、そりゃ当然ですよね。そもそも年齢もおっさんですし。そして、その視点で評価するものが、高い評価を得て商業作品になり、アニメ化したりしていくのを見ると、僕のこの批評ポイントは、それなりに有効だといえるでしょう。まぁ、成長物語・ビルドゥングスロマンのような古典から描かれる物語類型が、普遍性を持つのは当然であって、むしろなろう的な感性が、どこまで続くのか?普遍性がどうあるのか?という評価で見るのが正しいのは、間違いないとは思います。

なので、日常をやり直す、というポイントにドラマトゥルギーの起伏をつけるとしたら一つか論理的には思い当たりません。それは、前世で失敗した人生の失敗をどれだけ噛みしめるか、ということです。それなくして、人生をやり直しても、それは安全な繭の中にいるだけの妄想でしかありえず、どこかで行き詰ってしまうからです。しかし、それはすなわち、この『人生をやり直す』=高見から失敗しない方法をすでに知っている高みからの視点の放棄、ということでもあります。とてもなろう的フォーマットでは、矛盾しているし、そもそも選べない選択肢なので、相当の傑作にしか選べない道筋です。


なぜならば、前世の失敗を噛みしめるには、同じことを今回も失敗して痛切に感じる、ということですしか、感じることは不可能だからです。もしくは同じことでなくても、少なくとも「高みからの視点(=何でもわかっていて解決できてしまう俺ツェェ状態)」を放棄させてしまう、取り返しのつかない人生の選択やミス、出来事を登場人物に体験させなければ、主人公の今世(=異世界)での人生に、リアルさを獲得できないからです。物語が始まらない状態といってもいい。僕が、日常やり直し型という言い方で日常といったのも、日常(=終わることのない反復)という意味あいが強かったのです。


無職転生 - 異世界行ったら本気だす -』  理不尽な孫の手著 異世界転生の日常やり直しセラピー類型の、その先へ
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20131105/p1

要は僕の評価のポイントが、なろう的な感性と、古き成長重視の倫理との、接続点に視点をおいているんです。まぁこれは、これでそれなりの正しさはあり、普遍性もあるので、僕の好みではあるのですが、まぁ考えの基礎において悪くないものだと思います。ちなみに、『異世界迷宮の最深部を目指そう』なんかは、アニメ化していませんが、これなんかは、ようは成長志向というか主人公が求めるものがきつすぎて、いまの時代にうまくフィットしないのかもしれません。凄くいい作品なんですが、この作品のコアが、古きビルドゥングスロマンだとすると、メディアミックスや、なろうの若者のクラスターの評価を受けたり人気を得るのは難しいかもしれません。この辺に微妙な評価ポイントがあって、どれも似ているようで、やっぱり違うんですよね。過去のなろう作品の評価っていうのは、この文脈で全部統合できますね。

異世界迷宮の最深部を目指そう 1 (オーバーラップ文庫)

どうしたって救いようのないものを救えるのか、それを描く価値はあるのか?という問いからちょっと考えてみる
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20150424/p1

本好きの下剋上 〜司書になるためには手段を選んでいられません〜』 香月 美夜著  対等な目線感覚が、異世界転生のチートさの臭みを消去する
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20140719/p1

異世界迷宮の最深部を目指そう』 割内@タリサ 著  魂が求める自由を探す時
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20131124/p1

『異自然世界の非常食』 青井 硝子著 めっちゃグロテスクで目が離せません(笑)。これ、凄いSFですね
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20150418/p1


異自然世界の非常食 1


このあたりの、努力と成長を是とすること、チートな能力の発露の捌き方によっては、卑怯なものになって物語駆動しなくなることを、そのまま是としていいのか、というとこれはなかなか問題です。


というのは、暁なつめの『この素晴らしい世界に祝福を!』のアニメの時にいろいろ炎上しているというか論争になっていた話があるじゃないですか?。


この素晴らしい世界に祝福を!12 女騎士のララバイ オリジナルアニメブルーレイ付き同梱版

灰と幻想のグリムガル(2016)』著者 十文字青 監督 中村亮介 異世界転生のフォーマットというのは、現代のわれわれが住む郊外の永遠の日常の空間と関係性を、そのまま異なるマクロ環境に持ち込むための装置(1)
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20160413/p1

この素晴らしい世界に祝福を!』  暁なつめ著 金崎貴臣監督  どういう風に終わらせてくれるんだろうか?
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20160313/p2

Web小説ってなんなの? 画一化したプラットフォームの上で多様性が広がること〜僕たちはそんなに弱くもないけど、そんなにも弱いんだろうね(笑)
http://d.hatena.ne.jp/Gaius_Petronius/20160402/p1


この素晴らしい世界に祝福を!』は、最近のなろう作品の中で断トツに人気のある作品で、かつアニメ化などメディア展開も含めて大成功しているのですが、僕の価値判断でこの文脈を評価して色分けしちゃうと、このあたりの成功をとらえきれないんですね。なぜかっていうと、努力によって成長する古い価値観を「正しいもの」とする価値判断が少しはいっているので、そもそも、努力する気なんかまったくないし、それに対して、良心の呵責というかもやもやすることが全くない感性に対して?それでいいのか?と思ってしまいやすいんですね。つまりですね、それでいいんです!ということが、わかっていないことになるんです(笑)。これは、僕が日常ものと非日常ものという比較で、過去の物語作品を見ていくときに、日常モノがどうしても理解できないので、かなりのクンフーを費やして、それを理解していくプロセスととても似ています(笑)。そして、古い世代、、、たぶん30歳以上(2017年現在)はすべて該当しちゃいやすいんじゃないかなーと思いますが、さらに僕のような40歳以上になると、そんな「頑張っても意味がない」という感性がそもそも理解できないんですよ。これはいつも僕がいう、高度成長期に生きたり、その時代を生きている両親に育てられた人と、そうでない人との差です。成長が望めない成熟社会に生きる若者には、努力していく、成長する、それが報われるということほど嘘くさく欺瞞に満ちた搾取な言葉はないからです。この感性で、簡単に古い団塊の世代や、その下の世代に騙されて搾取され続けてきたので、それが許せなくなっているのがいま現在なんですよね。まぁそういったルサンチマンは、時間が過ぎれば消えていくものなんですが、感情の恨みの蓄積ではなく、時代背景として経済的な高度成長が望めなくなった世界で、人がどういう感性を持つかというのは注目すべき点ではあると思います。

無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜 1 (コミックフラッパー)


3)これからなろうがどこへ行くのか?


月夜涙さんの話が、とてもなろう的で、なろうの求めているものに非常に適したものであると僕は感じました。逆に言えば、なろうの、これまで求められていたものに忠実すぎる感じがする。そして、それはすなわち、どうしても、よく言えば成熟、悪く言えば行き詰まりに感じる。ましてや、彼の3作品をすべて読んでみても、やはり特別物語の類型として、大きな逸脱やひねり、もしくはこの構造を打ち破る何かは全くあるようにみえません。これだけ構造に忠実に作りすぎていると、この後、話を異なる方向に展開させても、たぶん変われないし、そうしたら構造が壊れて物語としては壊れると思う。少なくとも3作品には僕は見えない。なんというかフォーマットに忠実すぎて、本人のオリジナリティや狂気がどんどん薄れている気がします。やはり、フォーマットに対してどれだけ狂気の何かを付け足す、反抗する、というようなことができたが、清に凄い作品になる気がします。なろう出身であっても、『魔法科高校の劣等生』や『ログホライズン』、なろうではないですが、典型的な神話的ストーリー構造なのに(この神話的なやつがほとんど人気を博さない時代に)凄い面白いSAOや、そもそも主人公が全能感を感じられて、チート的なもので人生を楽しくやり直すという類型からもっとも外れているリゼロなんかが、あれだけ売れたりするのは、不思議だったりします。が、そういうものなんだろうと思います。ここは、今さらに分析というか考え中なので、後日また。


月夜涙さんのテキストの細かい分析まで行かなかった。それはまた時間があれば。