2010-07-30
今朝のスーパーモーニングでは資産税の導入を提言していた
※本文の最後にリンクを1件、追加しました。磯崎先生の預金課税論に関するエントリーです。
今朝、作業をしながらつけていたテレビに流れていたスーパーモーニングの特集が目に留まりました。この番組では、財政破たんに関して開設するとともに、資産税の導入を提言していました。この資産税は、簡単に言うと預金課税でして、一人当たり1000万円〜1500万円以上の預金に対して年利2%程度の課税をすべきだというものです。年間にして8兆円程度の税収になるのではないかと推計していました。
預金に対して課税することで、経済効果の全くない国内の預金から、消費、不動産や株式への投資、海外への投資などに資金を移動させることができ、その結果、景気が回復するというものでした。
スーパーモーニングでは、野田財務大臣に提言に行ったそうで、来週くらいにその模様を放送するそうです。
この預金税ですが、実は、いわゆるインフレを強制する効果に近い効果があると思われるので、私も注目していました。大きな違いは3点で、まず第1はインフレは預金だけでなく現金(タンス預金)も同時に目減りするのですが、この預金税だと預金だけ目減りするけれども現金に対しては効果がない、という点です。第2点は、インフレは、インフレを起こす方法が難しい(=かなり乱暴な手段になる)のに対して、預金税は預金の名寄せができればよいだけなので技術的に容易だという点です。さらに第3に、インフレは日本円を保有している人すべてに影響があるのですが、預金税は高額な預金を保有している人だけに影響があるという点です。
この預金税が導入されると黙っていると目減りする預金よりも、金庫を買うなどの消費をしたり、株式や不動産への投資もしくは海外への投資にお金が流れる可能性が高くなります。預金税導入に成功すれば、国債に預金が吸い込まれている今の絶望的な状況を、税収増と経済刺激という形で改善することが可能でしょう。
これに対しては海外に資本が逃げるという反論もあると思います。しかし、現実には資本は逃げません。これほど円高なのに日本人投資家はほとんど外貨を買わないのです。1ドルが86円など素人から見たって明らかに円が強すぎる状態にありながら、また海外の方が明らかに利率が高いにもかかわず、誰も海外投資に切り替えようとしないのです。これは経済的に見れば明らかに不合理な行動なのです。
しかし、日本人にとって言葉の壁はやはり大きく、そのため海外投資に向かわないのです。資産を外貨にしておくと、その国の情勢を常に追いかけておかなければなりませんが、外国語の経済新聞や雑誌を読みつづけるのは面倒です。さらに、実際にその地に住んでいなければ投資の感は鈍るものでもあります。そういった事情を総合すると、海外に投資せず日本で預金した方がいいというのが、日本人の高齢者富裕層の合理的判断なのです。そのため預金税が導入されても海外に逃げる資本はかなり限定的でしょう。
仮に預金が海外に逃げても円安になりますので、日本の輸出産業がさらに競争力を付けます。また、お金は逃げても人はなかなか逃げないので、利息や配当などの形で日本に富が還流します。資本が海外に逃げたとしても日本にとって悪いことは何一つありません。むしろ、どんどん逃げてくれればいいのです。1ドル200円くらいになれば輸出が激増する一方で、輸入が激減します。そうすると日本の若者に仕事が増えますので日本の国内経済にとっては有益です。
そして、預金税の何よりもよいところは、裕福な高齢者から若年貧困層へ再分配できるということにあります。はっきり言うと、裕福な高齢者を狙い撃ちにできる税なのです。
現在の日本が抱える問題は、世代間格差です。既に投資意欲を失った裕福な高齢者が莫大な預金を抱えており、それがそのまま国債に流れ、利息が裕福な高齢者に還流しているのです。つまり、言葉は悪いですが、国債という形で裕福な高齢者が現役世代から税金を巻き上げている状態なのです。現役世代は、年金、医療などの社会福祉と国債の利払いという2重の負担を強いられているのです。
預金に課税すれば預金を無理やり消費や投資に向かわせることができれば経済が活発になります(経済が回れば若者の雇用が増えるので若者への所得移転が起きます)し、仮に消費や投資に向かわせることができなくても税収が増えるのでその分だけ国債発行が不要になります。一石二鳥どころか三鳥にも四鳥にもなりそうな方法です。
ただ、最大の問題はこれまで預金税を導入した先進国は存在せず、財務省が預金税についてほとんど研究していないということでしょう。秀才エリート官僚は前例のないことをやりたがりませんので、おそらく難癖をつけて葬り去るでしょう。例えば、銀行業の経営を圧迫するといって銀行業界がこぞって反対することが予想されます(もちろん背後で財務省が操ります。)。むしろ内需が良くなれば銀行も本来の貸付業務に戻れるのですが、日本の銀行にはまともな経済的思考などありません。財務省はあらゆる手を使って預金税を導入させないようにするでしょう。
しかし、我々が忘れてはいけないのは、このままでは近い将来、日本の財政が本当に破たんするという現実です。そして、現在日本が体験している高齢化や好景気の中でのデフレは、未だ誰も体験したことがない現象です。これまで世界中で誰も体験したことのない未曽有の事態なのです。このような事態に対して、これまで誰かがやったことのある対策ではうまくいきません。これまでの政府、日銀の対策がほとんど効果がなかったことで証明されています。
今、日本は誰もやったことのない大胆な対策を取らなければならない時なのです。それを実行できるのか、日本人が試されているのです。それができなければ、アルゼンチンやギリシャのような不名誉な国になるだけです。
※追記
預金税のことを検索していたら、磯崎先生が5年前(正確には8年前)に主張されていました(「財政構造改革と預金課税論(再び)」)。しかも、不良債権問題の再発を防止することもできると主張されています。さすがです。
※追記2
円高と書いてあった部分は円安の間違いです。脳内誤変換です。修正しました。
2010-07-28
千葉法務大臣が死刑を執行したことの意味
驚きました。千葉法務大臣が本日、二名の死刑を執行しました。千葉法務大臣といえば、筋金入りの死刑廃止論者でしたから、まさか任期中に死刑執行があるとは思っていませんでした。そんな千葉法務大臣が死刑執行をしたのには、単に立場の違いとか法律の執行というだけでは説明がつかないでしょう。
千葉法務大臣は、死刑を執行するに際して、複数の人(それも全くの他人)を殺害した事件であって、冤罪の可能性がない事件を選んでいます。自ら記録を精査したとのことですから、非常に慎重に選んだのでしょう。この点では、冤罪の可能性が指摘されていた久間三千年氏の死刑執行を命令した森英介元法務大臣とは大きく違います。
千葉法務大臣は死刑執行後の会見で「死刑制度に関する議論」を起こしたいと述べられました。これが千葉法務大臣の真の狙いなのでしょう。もっと言うと、死刑に関する議論を起こし、それを自らがリードしたいということではないかと思います。
千葉法務大臣は死刑執行を命令しそれを目撃した唯一の政治家ということになりました。死刑に関する議論をする際には、必ず千葉氏のコメントが最初に取り上げられることでしょう。千葉氏は死刑を執行せずに任期を終えて死刑に関する議論が盛り上がらないよりは、自らが死刑執行を行うことで死刑議論をリードしたいと考えたのではないでしょうか。
これまでの死刑に関する議論では遺族感情ばかりが取り上げられていましたが、死刑を執行する側の意見(実際に執行する刑務官や検察官、死刑に立ち会う医師、宗教家の意見)はほとんど取り上げられてきませんでした。刑務官や検察官、医師などの公務員や宗教家は守秘義務が課せられているので死刑に関する意見を公にすることができませんでした。しかし、今後、千葉大臣は政治家という立場で自らの経験を語ることができます。死刑を命令し目撃した唯一の法務大臣として書籍を出版することもあるのではないかと思います。国民は、今までの議論にはなかった反対当事者の意見を知ることができるようになります。
ただ私は、千葉大臣がこのようなことをしなくても、死刑廃止の議論が盛り上がるのは時間の問題でしかなかったと思っています。
実は、裁判員裁判で死刑を言い渡された事件はまだありません。そのため、死刑を言い渡した民間人というのはまだいません。この国の民間人は死刑を言い渡す苦悩を未だ経験していません。職業裁判官の何人かは死刑を言い渡す苦しみを語っていますが、議論が広がりません。裁判官は自ら望んで裁判官になった一握りのエリートですし、その職務として死刑を言い渡しているため、裁判官が精神的に苦悩しても一般人にとっては他人事でしかなかったのです。
しかし、今後、裁判員裁判で死刑を言い渡す事件が起きるかもしれません。その際、くじで選ばれた裁判員という名の一般人に死刑を言い渡す負担が課せられますが、多くの人はその苦悩に耐えきれないでしょう。また、その場で言い渡すことができたとしても一生そのことを忘れることができずに心の負担を感じることになるでしょう。
そうなれば死刑に関する議論は他人の問題ではなく自分の問題になりますので、この国でももうすぐ死刑に関する議論が一気に盛り上がると思います。
千葉大臣はどの程度まで考えて死刑を執行したのか、私には知る由もありません。しかし、よほど熟慮を重ねた上で覚悟を決めたのでしょうから、死刑執行をすべきではなかったと批判する気持ちにはなれません。ただ、死刑に反対しながら死刑を選択したのですから、その経験を隠すのではなく今後の死刑反対運動に活かして頂きたいと思います。
最後に、人間が人間を裁く以上、冤罪の可能性は絶対にゼロになりません。そのため、私は死刑を廃止して仮釈放なしの終身刑を導入すべきだと考えています。
2010-07-26
日本を救えるのは法人税である
※タイトルを変更し、本文も少し修正しました。論旨に大きな変更はありません。
近年、日本の税収が減少しています。財務省の発表によると、1992年(平成4年)から2007年(平成19年)まで安定して50兆円前後あった税収が、2008年(平成20年)には44兆円に減少し、2009年(平成21年)には37兆円まで減少しています。2008年秋のリーマンショックに端を発した100年に一度といわれる景気後退から3年で13兆円減少したことになります。
この原因は、主に法人税の減少です。平成19年には14.7兆円だった法人税収入が平成20年には10兆円、平成21年には5.2兆円にまで減少していますので、3年間でおよそ9.5兆円減少したことになります。
同じ3年間で、所得税が3.3兆円の減少、消費税が0.9兆円の減少ですので、法人税の減少が極めて大きいことが理解できると思います。
日本においては、100年に一度といわれる経済危機にあっても、所得税の減少幅はわずかであり*1、また消費には影響がほとんどありませんでした*2。これは、世界的な不況が日本国内の個人の収入と消費には大きな影響がなかったことを示しています。
他方、法人税の減少は自動車産業や家電産業といった輸出産業の不振が主たる原因であって国内市場が大きく縮小したわけではありません*3。全体的に見れば日本国内の経済はリーマンショックに始まる世界不況の影響をほとんど受けていないのです*4。
本当の問題は、今後に起きることが予測される所得税と消費税の減少です。まず、今後10年で団塊の世代が大量に定年で退職します。平成20年に55歳から64歳までの人口は約1880万人、10歳から19歳までの人口が約1215万人なので、労働可能な人口(20歳から65歳までの人口)が665万人減少します。20年後にはさらに減少し、労働可能な人口は1100万人減少すると思われます。
このような単純な労働人口の減少に加え、日本の年功序列賃金の下では定年退職する人の給与水準は新入社員の給与水準の3倍程度になっているので、所得税の減少も非常に大きなものになると予測されます。
さらに消費税も減少することが予想されます。というのも、高齢者は生きていく上で必要な物はおおよそ既に購入しており、身体の衰えもあって、消費といえばほとんど食べるものと医療費(ほぼ非課税)、介護費(ほぼ非課税)、葬儀費用(ほぼ非課税)、墓(墓石以外はほぼ非課税)程度になります。ほとんどの老人は消費に貢献していないのです。
他方、新たに働き始める世代や、子供を育てている世代は消費に貢献しますが、それでも人口が減少する社会にあっては、家を相続するまたは親と同居することが一般的になるので、新しい家を建てるといった大きな消費はほとんど起きなくなります。
消費税も良くて横ばい、おそらくは緩やかに減少します。
つまり、法人税はその多くを輸出産業が支払っており、消費税は日本国内の消費に依存しており、所得税はその中間*5です。そのため、労働人口が減少し高齢者が増えれば、所得税と消費税の減少は避けられません。逆に増える可能性があるのは輸出産業が支払う法人税です。
日本は国際競争力を失ったと考えられる傾向がありますが、それは間違いです。確かに世界不況が原因で2008年(平成20年)下半期と2009年(平成21年)上半期の1年間は貿易赤字に陥りましたが、それもほんのわずかな赤字にすぎません。2009年下半期には既に黒字化しており2001年(平成13年)の水準まで回復しているのです。未だ、日本の国際競争力は衰えていません。
それよりも、今後、さらに伸びが期待できるのが輸出産業です。というのも、中国の経済成長はあと10年は確実に続きますし、インドや東南アジア諸国、ブラジルの経済発展も期待されています。これらの国々が経済成長をして日本製品を買うようになれば、さらなる貿易黒字が期待できます。そして、日本に太刀打ちできるほど高品質な製品を安価につくる能力を持っている民族は他にありません。
日はまた昇ります。日本の輸出産業はこれから間違いなく大きく成長します。法人税も数年で15兆円規模に回復するでしょうし、20兆円程度まで増加が見込めるかもしれません。日本の財政を救う可能性があるのは法人税なのです。
しかし、長期的に見て所得税や消費税が減少するのでトータルでは税収は減少するでしょう。そのため、政府規模の縮小が不可欠です。政府の規模は、現役世代で支えられる規模の政府にしなければなりません。プライマリーバランスの均衡が必要というのは、この文脈で考えるべきことなのです。現役世代が減るのに歳出を増やすことなど不可能です。社会福祉は現役世代が負担可能な水準が限界なのです。
仮に増税が必要となるとすれば、それは国債の償還(借金の返済)のためでなければいけません。国債償還の選択肢はインフレか増税か、その両方か、ということになりますが、増税(特に消費税の増税)で返済すとなると若者にとって極めて不公平な話ですし、ますます国内の消費が冷え込むでしょう。
平成20年、21年の税収減少は金融不安を端に発した不況が原因ですから短期的に回復しますが、今後起きる税収減少の原因は労働人口(=消費人口)の減少ですから短期的に回復することはありません。既に生まれている世代の人数を後から調整することは(移民を募集する以外には)不可能ですから、少なくとも20年以上継続することはほぼ確実です*6。
労働人口の減少に応じて身の丈に合った政府にしなければ、日本の財政は本当に破綻することは間違いありません。日本政府は身の丈に合った規模に縮小できるのか、踏ん張りどころだと思います。





