新日本フィルハーモニー交響楽団 第568回定期演奏会

 冒頭、蓄音機からシャンソン聞かせてよ愛の言葉を」が流れる。武満徹を音楽家の道へと誘ったこの曲の後、この作曲家の歩みをたどる演目が続く。指揮は井上道義
 歌(大竹しのぶ)などを交えつつ進むプログラムは、ほぼ年代順に武満の創作期をなぞる。その中心は2つ。1つは前半のピアノ曲「リタニ」第1曲と第2曲との間の輝度差、もう1つは後半の管弦楽曲「カトレーン」と「鳥は星形の庭に降りる」との間の対比。
 木村かをりの弾く「リタニ」では、第1曲と第2曲とのサウンドが異なる。それこそ武満がこの作品で目指した曲作り。2曲はテンポも楽想も似通っているが、基本的な音域が違う。音域の違いは音色の差異を生む。この音色の輝度差を武満は、「前奏曲とフーガ」や「アダージョアレグロ」といった古典的な楽曲形成原理に代わるものとして用いた。
 「カトレーン」と「鳥は〜」との対比は、それぞれの中心的な音程、四度と五度の世界観の違いに由来する。井上は、前者では管弦楽の最低音域をごく薄く配して、横方向への旋律的な運びを重視。後者では最低音域を厚めに配して、縦方向へと屹立する和音の移り変わりに力点を置く。こうして四度音程と五度音程の世界観の差異を表した。
 前後半の2つの中心には、西洋音楽を換骨奪胎して、そこに自らの血を流し込む武満の創作姿勢が現れている。演奏家たちの佳い仕事が、それをはっきりと示してくれた。〔2017年1月26日(木)サントリーホール


初出:モーストリー・クラシック 2017年4月号





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