2006-09-30
「感動させる本」は果たして誰を感動させるのか
私はかなり白水社の「Uブックス」というシリーズを信頼しているので「面白かろう」と思ってブックオフで回収。翻訳は金原瑞人。芥川賞作家のお父さんですね。ロバート・ニュートン・ペックという作家もこの翻訳家のも初めて読んだ。本の裏表紙にはこんな言葉が書いてある。
ヴァーモントの貧しい農家の少年を主人公に、誇り高い父の教え、土に根ざして生きる素朴な人々との交流、動物たちへの愛情を生き生きと描く傑作。子供から老人まで全米150万人が感動した大ロングセラー、待望のUブックス化!
だそうな。正直言って私はこの小説に関してあまり良い印象を抱いていない。「面白くないわけじゃないけど別に感動するほどではないよね……」という感じである。「父と子の交流モノ」であれば、私はヘミングウェイが描くそれを深く愛情を持って読んでいるし、ジャンル分けで言うなら嫌いなジャンルじゃない。けど、この小説に関して言えば「これはなんか…出来すぎだよな」とか思ってあまり面白いと思えなかった。「誇り高い」というよりも「宗教(シェーカー教)の戒律に厳格すぎる父」のあまりにも堅物なところだけは面白かった。
あまりにも「良い話」で終わってしまうのである。裏表紙からいくつか小説に書かれた要素を抽出するなら「貧乏」、「父と子の交流」、「動物」、「愛」ってキーワードが浮かび上がる。それって皆好きそうな感じだよね。もうどうやったって「良い話」にしかならない感じ。じゃあ、『東京タワー』で良いじゃないか、って思う。『東京タワー』は良かった。私も地方出身者だから、すごく「共感」があった。でも『豚の死なない日』は行ったことがない国の行ったことがない地方の話。「共感」も何もないわけだ。もちろん「全米150万人が感動した」なんて言葉を本気で信じてるわけじゃないけど「これで誰が感動するのか?」って素朴に考えてしまう。結構イラッと来るんだよな、なんか。
感動とはまた違うけど、『ハチドリのひとしずく』*1にもまた似たようなものを感じるんだよ!一番イラッと来てるのはでも『豚の死なない日』の続編、『続・豚の死なない日』も100円だったから買ってる、ってことなんだけどな!
一部でアドルノ対ルーマン
「アドルノが!アドルノが!」としばらく言い続けていたので「少し気分転換にルーマンでも読むか……」と思い『社会の芸術』を。少し現在の研究テーマとかぶるところがあるかなぁ、なんて思いながら読みはじめましたが、当然のことながら気分転換になるわけがなく、散々苦しみながら読了しました。ルーマン本人、それから訳者である馬場先生も触れられているとおり、1〜3章が一番キツい。けど、そのキツい抽象度の高い議論のなかに「ルーマンにしか言えないポイント(つまり、そこでしか読めないという『価値』を感じさせるもの)」がたくさんあるような気がする。第4章、第5章はちょっと凡庸な風に読めた。
冒頭の方で「私がこの本で目指している帰結は、アドルノが言っているような話とは関係ないですよ」と宣言しておきながら、ルーマンは各所でアドルノを批判しているところがあり「なんだろうな……」とか思いつつその部分を読む。ルーマンが解釈したアドルノというのが、どうにやはり引っかかる。ルーマンによれば、アドルノは以下の二点のように『芸術、かくあるべし!』と言っているらしい。
- 芸術よ、純粋であれ!あらゆる外的影響を拒絶せよ!!
- 芸術よ、社会を批判せよ!
この二点、どちらもルーマン的な視座からすれば簡単に批判することができる。まず前者は「そんなこと言ったって、芸術システムが他のシステムからの影響を被らないわけないじゃないっすか。できねぇっすよ」。後者については「えー、それじゃ芸術は社会の《反省》機能にしかならないってことっすか?それって自律してるって言えんの?」と。さらに「この二つを弁証法的に綜合しろ、って言ったって無理っすよ」とルーマンは言う。
たしかにアドルノの思想はそういう風に読めるし、そうだとするならルーマンによる批判(というか斬り方)は正しい。でも、どうにも納得いかない。正しいけれど、全然間違っているように思える。というか私は「そういう風に読んじゃったら、全然アドルノがつまらない人になっちゃうじゃないか!」と思うのである。『社会と芸術』のある部分を読みながら私は漠然と「アドルノという人は、セカンド・オーダーの観察者の《考察》として読むよりも、ファースト・オーダーの観察から生まれた《声》として読まなくてはいけないんじゃないか」とか思った。まだ、全然(ルーマンの)「観察」について理解していないから、噛み砕いて説明することができなくてもどかしいのだけれど、要するに「アドルノは《社会学−者》というより《芸術−者》として理解した方が断然面白い」ということ。というか「《社会学−者》としては読めない」とさえ思う。
じゃあ「どんな風に読んだら良いのか」っていう具体的な提案についてはまた今度(でも、私はこのブログで何度かそれについて書いているような気もする)。
*1:森火事に一滴ずつ水を運ぶハチドリに対して、森から逃げた動物たちは「そんなことして何になるのだ」と笑います。ハチドリは「私は、私にできることをしているだけ」と答えました……、という本らしいです。電車の社内広告で見てイラッときた




