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玄天黄地

2014-12-20

役所で FOSS4G を広めるには?

23:55

 今年も Advent Calendar の季節が到来しました。

 Kubo Mayumi さんのご厚意でエントリさせていただいたので、割当日よりも少し遅れましたが、少し思うところを書いてみます。

 今年のネタは、11月の FOSS4G Tokyo でも少し話題になった、FOSS4G を(特に役所に)広めるには、です。これは、私の前職(国土交通大学校測量部長)にも関係しています。役所の都合で書いていますので、オープンソースソフトウェアの開発者の方々から見ると【何か虫のいいことを書いているなぁ】という印象を持たれるかもしれません。それでも、そういう「手前勝手」の中に、良いソフトが拡がるために必要な条件が潜んでいると思っています。

仮定

 役所で使う場合には、いくつかの仮定が必要です。これは、役所に限らず、キャズムの右側にいる人にある程度まで共通しています。

  1. 利用者の大半(場合によっては全員)が IT の知識を十分なレベルまでは持っていない
  2. 研究者だったら「ググれカス」で済むような案件でも、調べられない(調べる暇やスキルがない)

安定していること

 最初に、仕事場で使うソフトウェアは、安定していることが何よりも重要です。

 当たり前のようですが、これは極めて重要です。ボスに「良いソフトがあります」と言ってデモをすることになったときに、ボタっと落ちたのでは台無しです。

 実は、バグが少ないことだけでは十分ではなく、実質的なバージョンアップの頻度が少ないことも重要です。ここで「実質的な」とは、「使い勝手の変更を求めるような」くらいの意味で書いています。OS(Windows 7 を想定)やブラウザ(Firefox を想定)は、更新頻度は高いですが、使用感が殆ど変化しないので、頻繁にアップデートが起きる割には気になりません(Windows Update は馴らされているだけかも知れませんが)。

セキュリティホールがないこと

 セキュリティ的に大丈夫かどうかは、今や大きな問題です。スペックがどれだけ良くても、セキュリティ的に不安があるソフトウェアは、早晩、システム管理者から利用を禁止されてしまいます。実際に、私が国土交通大学校で「布教」を行った際にも、セキュリティをどう見るのか、といった質問は少なからずありました。

 オープンソースだからセキュリティが弱いということはないと思います。プロプライエタリでないソフトウェアでも、Apachephp など、セキュリティ的に問題ないと見られているものはちゃんとあります。一時的なセキュリティホールが見つかることはあると思いますが、有志が素早く塞いでいます。

 ただ、Apache などは、以下の条件を満たしていると思います。

  1. 専門家のコミュニティが機能していて
  2. 保守を専門に請け負ってくれる専門家が多数いる

 日本における FOSS4G の場合、OSGeo.jp がこのような役割を相当量果たしてくれています。継続的にサポートが得られ、最近では良い解説本も登場しています。このようなコミュニティの存在は貴重です。

教育システム

 ソフトウェアをブラックボックスだと思い込むならば、教育システムは不要かもしれません。

 Apache はその好例です。私自身は、自分で Apache をインストールし立ち上げたこともありますが(威張るほどのことではありませんね)、普通の役人はそういうことはしません。その場合であっても、Apache のようなソフトウェアであれば、維持管理は専門の技術者に委託することができます。役人は教育を受ける必要がないのです。

 しかし、GIS は自分たちでも使いこなす必要があります。すなわち、教育システムが必須です。このとき、残念ながら「ググれカス」が成立しない場合が多いです。GIS が本業ではないと思っている役人に「ググれカス」と言うと、相当数が逃げてしまいます(Late Majority も多いので)。

 私自身、2014-Nov の FOSS4G Tokyo では自分のことを Early Majority であると申しましたが、これは QGIS に限った話であって、その他の Open Source Software では Late Majority だったり Laggard だったりします(威張ってはいけませんね)。

コアになる人材がみつかるか

 地理院の場合は、@_hfu_ さんがいてくれる御蔭で、コア人材は当分の間維持できると思います。まあ、@_hfu_ さんはどうみてもキャズムの左側の人材ですが(笑)、彼以外にも何人かコア人材がいます。

 組織によっては、コアになる人材がいない(まだ資質を発現していない)ところもあります。国土交通大学校では、QGIS を普及させる上で組織のコアになる人材を育てることを目的とした研修も開催していましたが、参加してくれた人は、もともとポテンシャルを持っている人が多かったように思います。

 一方、コアになり得る人材が、技術として何を選ぶ(好む)かは分かりません。たとえば、@_hfu_ さんにとって、FOSS4G を盛り上げることは第一目的ではなく、あくまで、国土地理院の業務を上手く回すことが第一目的だと思います。その目的に FOSS4G が適っている限り、FOSS4G は使われ続けるでしょう。しかし、もしもその目的から外れると、使わなくなるかもしれません(この、恐ろしい話は、もちろん @_hfu_ さんとは事前に相談していません)。

 彼でも誰でも、自分の業務を回すことが第一目的の人にとっては、特定のソフトを使うことは第一義ではないのですね。


 それよりも、コアとなる人材(その多くは early adopter だと思います)が、大多数の同僚(彼らはキャズムの右にいる)と乖離してしまわないことが重要です。私が見る限り、自分以外の同僚全てがキャズムの右にいるために、必ずしも万全の幸せを享受できていない人もいるように思います。キャズムの右にいる人でも、キャズムの近くにいるならば、キャズムの左にいる人とチャネルを維持することはできます。そのような人もコアになる人材に数えて良いかも知れません。私の立ち位置はこのあたりのようだと思っています。

発注時の話

 昔と違って、役所では随意契約ができなくなりました。つまり「あの会社にお願いするのが一番良いと分かっているのだけど、そういうような指定ができない」のです。

 そこで、ソフトウェア開発まわりの発注をかける場合は、まず、仕様書をしっかり書き、仕様書の内容を満たす能力がある人(一般には複数)の中から、価格競争で受注者を選ぶことになります。

 ここで、不適格な会社を受注させないという観点で良い仕様書を書くことは、決して容易ではありません。仕様書を書く側が、当該ソフトウェアのことをよく知っていない限り、良い仕様書を書くことが難しいわけですね。コアになる人材がいない場合は、このレベルのことが難しい場合もあります。

 しかし、キャズムの左側にいる技術者の多くにとっては、そういう仕様書を書くことの難しさには興味を感じないのではないでしょうか。フェイス・トゥ・フェイスで、よく分かる者同士で話し合えば、落としどころは見えてくるのに、発注者のいないところで(あるいは、理解の悪い発注者の前で)書面を書いたりするのは効率が悪く感じる人もいるのではないかという気がします。一般に発注者は、受注者が持っているような技術力を持っていませんので、難しい表現だと通じないこともあります。が、難しいことをやさしく言うために時間を割くんだったら、プログラムの1行でも書いている方が楽しい、と考える人もいるでしょう。ただ、以前に比べると、このあたりの事情は変わりつつあるように思います。分かりやすい資料を作ることが、ハイクラス技術者の楽しみになってきているように思えます。slideshare のようなメディア、TeD のようなイベントの存在が影響しているのかもしれません。

で?

 世の中に真に必要な技術だったら、自然に(なんだかんだ言っても)広まっていくのかもしれません。

 GIS は、まだ、そこまでに到っていない技術です。ここでは、それをどう広めるか、という話として書いてみました。そこに、工夫の余地があるわけですし、発注者の甘えをどこまで補うかという受注者の苦悩がある、のかもしれません。