払いたい人だけが払うというビジネスモデル

 田村氏はそれに対し,「アイテムを豊富に用意するのは,全部買ってもらおうというよりは,バリエーションを増やして,数あるアイテムの中から好みのものを見つけてほしいという意味合いが強い」と返答しながら,「たくさん買って頂ければもちろん嬉しいですが,無理をしないでください,という気持ちです」と,その心境を語っていた。
[Gamefest 08#02]ダウンロードコンテンツで儲けるには? アイマス開発者が語るダウンロード販売成功の秘訣 - 4Gamer.net

 XBOX360用ソフト「アイドルマスター」の有料DLCダウンロードコンテンツ)の売上げが好調なのって、送り手側のこうゆう意識が大きいと思うんですよね。100種類以上ある衣装アクセサリのすべてを買う必要はない。買わなくても他のプレイヤーの衣装を見ているだけでも楽しめてしまう。買う側も、自分自身が楽しむだけでなくて周囲にアピールして楽しんだり面白がったりしてもらうために買うという意識が強い。極端な話、XBOXアイドルマスターを持っていなくても、ニコニコ動画を見ているだけでアイマスDLCは楽しめてしまう。

お客さんに気持ちよくお金を払ってもらうという意識

 アイマスDLCの中核である追加衣装は、それでゲーム中で有利になったり不利になったりするわけではない。よくあるアイテム課金のMMOのように競争心で買わせてるんじゃないんですね。
 レアリティの高いアイテムを抽選や期間限定でと言ったような射幸心を煽るシステムでもない。規定の金額を払えば、誰でも平等に同じアイテムを購入できる。
 追加マップのように、仲間と同じコンテンツを買わないと遊べないというような同調圧力もない。無料のカタログさえダウンロードすればすべてのプレイヤーが同じ場で楽しむことが出来るんですね。

 にもかかわらず、アイマスDLCは数あるXBOXソフトの中でもトップクラスの売上…ゲーム本体との売上対比で言えばぶっちぎりのダントツで売れている。それは作り手側が、いかにお客さんに気持ちよくお金を払ってもらうかということに苦心しているからだと思うんですね。作り手と受け手にしっかりとした信頼関係がある。無理して買う必要のないものだからこそ、作り手はお客さんに満足してもらえるように創意工夫を凝らすし、そうやってちゃんと作られたものだからこそ、買う側も粋に感じて進んで対価を払う。搾取だなんだと冗談めかして言われますが、その実態はとても健全な商売の形なんですね。

お客様意識からの脱却

 アイマスプレイヤー、特にニコニコ動画に動画をアップしているプロデューサーさんたちに共通しているのは、とにかくプレイヤー以外の他の人たちにも楽しんでもらおう、アイマスの魅力を伝えようという意識が強いんですね。ただ受け身で作り手の出すものを受け取るだけのお客様ではなく、一緒にゲームの世界を盛り立てていこうというパートナーとしての意識が強い。
 「アイマスDLCのおかげで仕事に張り合いがでた」。そんな言葉がTwitterなんかで冗談めかして言われたりしますが、ただコンテンツを愛でるだけであれば対価を払わなくてもニコニコ動画なりで見るだけで十分楽しめる。そこをあえて、ちゃんと自分で稼いだお金で購入してこそ、十全に楽しめるという意識が通底してるんですね。

払いたい人だけが払うビジネスモデルの可能性

 無理にお金を払わなくても十分に楽しむことが出来る。だけど払うことで自分だけでなく周りのみんなも楽しむことが出来る。アイマスDLCの成功例は、こうゆう意識を形成できれば、ちゃんと商売として成立するという実証になっているんですね。

 ニコニコ動画の有料プレミアム会員というのも、これを支払わなければ楽しめないコンテンツというのはないんですね。ただちょっとだけ回線を優遇してもらったり、ちょっとだけ便利になったり、その程度の違いでしかない。それでも支払う人が何十万人といるのは、支払うことでニコニコ動画という場が維持されて、もっと楽しいものが出てくるかもしれないという基盤意識があるからなんですね。

 ニコニコ動画自体は、現時点では残念ながらまだ単月赤字を克服出来ていないのですが、お客さんに気持ちよくお金を払ってもらう仕組みさえ用意出来れば、すぐにでも解消出来ると思いますね。その時気をつけなければいけないのは、いたずらに払う人と払わない人に格差をつけたり、射幸心を煽ったりと言った仕組みにはしないほうがいいということでしょうね。あくまで、払わなくてもいいけど払いたいから払う、と思わせる仕組み作りをしてくれることを、期待しています。