アニメはすでに払いたい人だけが払うビジネスモデルになっている

払いたい人だけが払うというビジネスモデル - 未来私考

 前回のエントリでは払いたい人だけ払うビジネスモデルの例としてアイドルマスターニコニコ動画を取り上げましたが、もっと大きな規模でそれをやっている業界があるんですね。それはアニメ業界。その中でも特に製作委員会方式のアニメというのは、実は払いたい人だけが払う金銭収入だけで成り立ってるんですよね。

 スポンサーから制作費を捻出してもらう旧来のアニメ制作と違い、製作委員会方式のアニメではとにかくコンテンツ自体を買ってもらえなければ収入を得られない。しかし、国内に何百万人といるアニメファンのうち、積極的にアニメコンテンツに直接お金を支払っている層というのは、全体のごく一部なんですよね。明確なデータはない憶測の話になりますが、アニメDVDのトップセールス*1や周辺のアニメファンへのヒアリングの感触からいって、積極的にコンテンツ購入するのは全体の1割程度で、過半数はまったくコンテンツの購入にお金を使ってないんじゃないかと思っています。
 現在のアニメの市場規模は2500億円。熱心な1割のファンが年間30万円〜40万円をコンテンツ購入に充てていると考えるとだいたい妥当な数字にも思えますね。

参考:
MDRIデータレビュー「2007年、4年ぶりに市場減少―“アニメバブル”は一段落」

数十万人の熱心なファンが支えるアニメ業界

 かつてのアニメが、スポンサーが薄く広く集めたお金を使って作られた一種の公共物だったのに対し、現在主流の製作委員会方式のアニメというのは、数十万人程度の熱心なファンの捻出した資金によって成り立っているんですね。コンテンツにお金を払っていない大多数は、あくまでその少数の人たちのおこぼれに預かっているだけなんです。コンテンツにお金を払う人がいなければ制作することは出来ない。考えてみれば当たり前の話ですが、アニメ(を含むテレビ番組一般)は公共物であるという意識ゆえか、なかなかこうゆう現実は認知されていなかったりします。

 大多数が無料で見ているものに何故あえてお金を払う人がいるのか。そこには自分を楽しませてくれた作品やスタッフに報いたい、少しでも業界に還元してこれからもよいものを作ってほしいという意識が少なからずあると思うんですね。高画質・高音質といったスペックや、購入特典なんかは、あくまで制作者の意気を買うのであって、コンテンツ購入という行動そのものの動機じゃないんですよね。そもそも画質や音質を追求した場合、下手なパッケージ版よりもデジタル放送を録画したもののほうがよかったりする現実もあったりします。

アニメコンテンツを気持ちよく購入する環境は整っていない

 アニメビジネスは、払いたいと思う人が払うことで成り立っている。この事はもっと周知されてしかるべきだと思うんですけどね。なかなか、そうは上手くはいかない。というのもですね。コンテンツを購入する事によって得られる満足感というのが、購入しない人のそれに比べてあまりにも差がない。胸を張って「お前たちは安心して無料で見てくれ」と言うには、越えるべきハードルが高すぎるんですね。2クールのアニメを1シリーズ買うだけで、6、7万円はしてしまう。この線を踏み越えるかどうかというのはほとんどの人にとっては大きな決断が伴う金額です。だからお互いに、無料でみれるのに金を払うのはバカだとか、金を払わずにアニメを見る奴はクズだとか、そうゆう罵り合いになってしまう。あまつさえ、先ほども少し言いましたが、自分で録画機器を揃えて録画したほうが、画質も利便性もパッケージメディアよりもよいなんていう逆転現象まであると、コンテンツにお金を払うというのが本当に心意気だけの問題になってしまう。それは、やっぱり気持ちよくないんですよね。

よりよいコンテンツ購入環境のための一私案

 現状のパッケージメディアというのは、録画ファイルに比べてとにかく取り回しがよくないんですよね。これは容量に制限のあるメディアの限界でもあり、なかなか克服は難しいのですが、あくまでパッケージではなくコンテンツを売っているんだという意識があれば、やりようはあるように思います。

 例えば有料ネット配信とパッケージ販売のハイブリッド戦略というのはあってもいいんじゃないかなと。放映直後から半年なり1年なりという期間の有料配信を1000円くらいで販売する。その際にクーポンを発行し、DVD等のパッケージ購入時にその分を割り引きするというサービスなんか、どうでしょうね。DVD購入を前提に考えている人にすれば、余計な出費を重ねずにネット配信の利便性を享受出来る。ネット配信のインフラだってタダじゃないという意見も当然あるでしょうが、現状宣伝のためとして無料で何万人*2という人に開放しているわけで、確実にパッケージ購入が見込める層に回線を開放するのは、そんなに分の悪い話ではないと思いますしね。

 あるいはもっとアクティブに、パッケージ購入者に対してモバイルツールへのダビングサービスをするというのもアリなんじゃないでしょうか。近年、録画機器への制限が強化される中で、逆にパッケージを購入した方が利便性が高くなれば、十分な魅力となるように思います。パッケージ購入しなくても、少額の金銭で同様のサービスを受けられるようにすればなおベターですね。

制作者と購入者がよりよい信頼関係を築くために

 そもそもお金を払う意思のない人にいくら餌で釣っても追い込みをかけても、それは労力の無駄なんですよね。それよりも、対価を払う意思のある人が、より気持ちよく安心してそれぞれの余裕の範囲内で支払う事の出来る環境作りに努めるべきなんじゃないかと考えています。
 ともかく、現状コレクターズアイテムとしての価値以外が非常に乏しいパッケージメディアという商品を、購入の意思を示せば最低でも録画視聴者と同等かそれ以上の利便性と品質が得られるものに変えていく。そうゆう意識が働けば、制作者と購入者の間の信頼関係はよりよいものになっていくんじゃないんでしょうか。

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