ごめん、ごめんよ。

ばらばらにされた人体が遺棄され、住宅街のあちこちのゴミ捨て場で見つかったという。

そして薄気味悪いことに、その一件以来、体の一部が欠損した謎の人物がうろつき、ゴミをあさるのだという。

ある場所では片腕のない人が、腕を探す。別な場所では、片脚のない人が、脚を。

 

いやいや、探したって、ばらばらの遺体はとっくに警察が回収して行ったでしょうに。

しかし彼らは、そんな既成事実なんかどうでもいいのだ。彼らは、彼らの失われた一部を、彼らのやり方で見つけようとしているのだ。

ほら、どうだ、そんなことを考えているうちに、彼らは次々と失われたパーツを見つけ出したではないか。なかなかやるなあ。

 

「これ、くっつけて」

 

彼らは、それぞれ欠損した体の一部を、たったいま見つけ出したばかりの人体を、こちらに差し出してくる。

 

よしよしわかった。くっつけてやろう。

 

左手、右手、左脚、右脚。手持無沙汰に転がった胴体に、パーツたちは次々に子気味よくくっついてゆく。そして、またたく間に、一人の完全体の人間が出来上がった。

そして、目をぱちくりさせると、そいつは無言で足早に立ち去っていった。

さて、目をぱちくりさせたのは、立ち去ったそいつだけじゃなかった。

さっきまでパーツを探していた「欠損者」たちもだ。

 

そうか。あのパーツは、この彼らの欠損した箇所につけてやらなきゃならなかったのだ。しまった、馬鹿なことをした。

それにしても、新しく造り上げられたあの彼は、いったい何者なのだ???

 

まだ、「欠損者」たちは、事態が呑み込めない様子で、自分たちのパーツが逃げていった方と、やらかしてしまったこっちとを、かわるがわる見ては呆然としている。

 

ごめん、ごめんってば。

なんとなんと、まだあったんだねえ。

もう13年ぶりか。べつに書き込みをやめるのに大した理由もなかったけど。

しかしそれからいろいろあったなあ。このブログと全然関係ないけど。

創作とかしなくなって、現在の生活がここにある。いま、その場所から来た。

 

ここへ。

 

べつに書くこともないけど。

 

あっちへ

どうもこの数日、いろいろなものがはっきりしてきてしまい、
もうこの世界で明日が昨日になろうが、
いっしょに歩いていた犬が知っている誰かに変わろうが、
鏡に映るのが自分じゃなかろうが、当たり前になってしまった。
それより、見えない世界の方が格段にゴージャスだという。
あっちのほうが、目に見えるものよりはるかにリアルで、
絶対的に多数なのだからと。

そして書き手はどこかあっちのほうへ行ってしまい、
残されたわれわれは、なんとも不幸な檻に取り残されてしまった。

それでもしばしば手紙は届いて、
内容は実用的な観察と考察、推論ばかりだ。
それも、とってもハッピーな。

これはこれでいいのだけれど、
行ったっきりでは、らちもあかない。
体半分あっちでもいいから、半分だけでも還って来てくれと。
連れてってくれとも言わないが。
こっちもなんとかしてくれと。


にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

表札を見に行く

ぼーん。ぼーん。ぼーん。

みっつ音が鳴り、3時を報せる。
鳴ったのは、岡田さんちの表札だ。いつもぴったり3時に鳴るのだ、この表札。
なんで俺がそれを知っているかというと、いつも3時になるとここにくるからだ。


ああ、もうすぐ3時だな、もうすぐ鳴るな。もうすぐ鳴るな。


そう思うと、自然に足が岡田さんちの前に向いてしまうのだ。
俺だけではない。
毎日そういうひとが増え続け、今日はちょっとしたひとだかりが出来ている。


「すみません。ちょっと通してくださいね。すみませんね」
ここんちの奥さんが、ひとごみをかき分けるようにして出てゆく。
ちょっとくすぐったそうな半笑いだ。うれしいに決まってる。
でも、「うちはもうこんなのに関心ないんですよ」といったふうを装っている。


にくい。ああにくい。
奥さんよ、俺たちはな、あんたを見に来てるんじゃないんだぜ。


にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

解ったか

ベランダに布団を干していると、大きな仏像が表を通りかかった。
そして鼻で布団に泥水を吹きかけると、こちらをしっかり見据えてこう言った。


「雪の結晶も、蜘蛛の巣の形も、籠の網目も、自然の意志だ。
自然の意志は、数学なんだっ。解ったかっ」


にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

アリを動かす

公園で、毎日毎日、アリを見ている男がいる。
「ご趣味ですか」と聞いてみると、趣味ではないという。


「アリを動かし続ける。止まりかけたら、砂糖を撒いてアリたちの気を引く。
これが仕事なんですよ」


蜜を集めるのか、それとも何かの栽培につながっているのかとたずねたが、
そうでもないようだ。


「物を生産するだけが仕事じゃありません。
流れを作るのが、仕事の本来なのです」


実際、夕刻になると男は、小銭の入った重そうな袋を抱えて立ち上がった。
そして、住宅街に消えていった。


にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ

流星カフェ

フランスの田舎町。
ホテルから出て、雨の石畳を歩く。
ここらはカラフルな店が軒を連ねていて目に楽しいが、
今日は雨のせいで人通りがほとんどない。


道の両脇の店はどれも平屋建てで、空が大きく見える。
もしかしたら、ここは中国かもしれない。
店の中にちらほら見える人々は、欧米人ともアジア人ともつかない顔つきだ。


急に突風が吹き、轟音と共に大きな飛行機が空から舞い降りてきた。
それは飛行機だが、機首の部分しかない。
胴体も、羽根もなく、まるい砲丸のような機体の下にちいさなコマがついているだけ。
本当に飛行機の胴体が切り落とされたかのようだ。
それの切り口が石畳にこすれて、派手な火花を噴き出しながら滑走する。
切り口の中を覗くと、飛行士2人とスチュワーデス1人が、操縦席にぶらさがっている。


やがて火花はちいさくなり、機体は一軒のカフェの前で停まった。
金髪で背の高い飛行士たちは、笑いさざめきながら中へ入ってゆく。
近くへ寄って見ると、機体の横腹には「COMMET」と書かれてあった。


雨足が強くなってきた。
オープンカフェに陣取り、このコメット号がまた発進するところが見たいとも思ったが、
なんとなくホテルへ引き返してしまった。


にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
ブログランキング・にほんブログ村へ
人気ブログランキングへ