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容易に真似ること

(井吹は井吹なりに考えてふるまっているのだろうが、おれの悪い面ばかりを真似るようになった。凡庸な人間にできるのは、才能のある先輩のマイナス面を容易に真似ることだけだ。とはいっても、派手に動き過ぎたおれにも、責任の一端はある……)
氷川が瀬木を越えようとしたように、井吹は氷川を超えようとして足掻いた──その結果がこれだ。

極東セレナーデ


このお話は1985年が舞台で、1986年の1月から1987年1月にかけて朝日新聞の朝刊で連載されていた新聞連載小説です。
ちなみに当時はお嬢様ブームだったという記述を読んで、セレブブームだった昨今と何ら変わらんなぁと実感。


グラフィックデザインの立場から振り返ると、当時はお名前すら知らなかったのですが、挿画が峰岸達さんタイトルデザインが平野甲賀さんと、失礼ながらヨダレダラダラのそうそうたる面々。


連載当時高校3年で、小林信彦さんの小説は初めてだったと思う。当時ぜんぜんお金がなかったにもかかわらず、連載をまとめたハードカヴァーを買ったことからもこの小説への心酔がうかがえる。いわゆるギョーカイの話や人に何を期待するべきかなど示唆することは多い。


冒頭の引用は、主人公氷川氏が部下に裏切られ全てを失った後で、その部下について思い返すシーン。
小林信彦さん自身、雑誌編集で手ひどい裏切りに合い、その記憶が小説に反映されているといわれますが、このシーンは子供心に非常に印象に残っていました。

誰でも先輩の楽なところを真似する。だが、大変なところ、真似しがたいところは決して見向きもしない。両者はセットで初めて有効たりえることを伝えることは難しい。

───それが私の実感です。


ちなみに、この小説はTVドラマ化されていますが、件の原発の件は一切触れられていないとのこと。


ね、「しんどいこと」は真似しないでしょ。

極東セレナーデ〈上巻〉 (新潮文庫)

極東セレナーデ〈上巻〉 (新潮文庫)

極東セレナーデ〈下巻〉 (新潮文庫)

極東セレナーデ〈下巻〉 (新潮文庫)