『ジュリアス・シーザー』

 紀元前44年3月15日と言われている、シーザー暗殺の前後の様子を描いた有名な悲劇。解説によると1599年にこの戯曲は書かれて初演されたという。2000年以上昔のローマで実際起きたでき事を、400年ちょっと前のイギリス人がお芝居にしたものを日本語に翻訳して現代の自分が読む。あらためて考えると時空をカナリ大々的に飛び越える感じがして面白い。

 この戯曲はシーザー暗殺計画が持ち上がり、実行され、その実行犯が倒されるまでの過程を描いている。実際には2年にわたって起こったさまざまの事件なのだが、まるで数日間に起こった一連の出来事であるかのようにまとめてあるのは見事な編集力。「お前もか!ブルータス」この世を去るシーザーが残す、有名なセリフだ。

 実際の史実がどうなのか、残念ながら明るくないのだが、ドラマとして非常に面白かったのは、シーザーを殺したすぐ後の場面。事の背景も真相も知らず、ただ目前のシーザーの死に対し、その理由を知りたがる市民たちに向かってブルータスが演説をするのだが、この演説がすばらしい。彼の言葉に嘘はなく、市民は大きく納得する。しかしブルータスに続きアントニーが演説をすると市民の態度は変わっていく・・・。

 それぞれの演説に共感し、熱くなる市民たち。ブルータスを絶賛していたはずが、いつの間にか正反対の言葉を叫んでいる。ここでの市民たちはかなり滑稽に戯化されているが、彼らをバカにはできない。いつの世も民衆というのはそういうものだ、2000年前も400年前も、そして現在の自分たちも。幸い我々はローマ市民よりはいくらか余分に情報を与えてもらってはいるものの、結局は劇中のローマ市民と五十歩百歩なのではなかろうか。まぁ、軽々しく判断を下すおっちょこちょいにならないよう、日ごろから気をつけてはいるのだが、五十歩が四十九歩になっているかどうかさえ甚だ自信がない。