『名画を読み解くアトリビュート』

『名画を読み解くアトリビュート』 木村三郎
 アトリビュートという言葉をご存知だろうか。西洋美術の中で、ある物が特定の事物や現象、神様や人物を表すという約束がある。人物画の中に「百合」が描かれていればその人物が純潔であることを表す、といった具合に。この場合の「百合」が純潔を表すアトリビュートなのだ。


 同じように、「ライオン」は勇気の、「天秤」は正義のアトリビュートとなる。楽器の「リュート」は音楽や聴覚を表すが、「ハープ」はダヴィデ、「リラ」はアポロを表す。このように多くのアトリビュートは神話や聖書が原点となっている。「船」がノアを表し、「蛇」が原罪を表す、このあたりは日本人にも分かる。「石」は聖ステファノ「炎」は預言者エリヤを表すそうだが、残念ながら「誰それ?」だ。

 「帽子」が自由を表すというのが興味深い。古代ローマでは奴隷を解放するときに、神殿で奴隷の頭を剃り上げ、その替わりに帽子を与えるという儀式を行ったという。この事から「帽子」が自由のアトリビュートになったのだ。有名なドラクロワの描いた自由の女神もフリュギア帽をかぶっている。こんな感じにごく自然に描かれているアトリビュートを見つけ、読み解けたらさぞかし楽しかろう。

 この本は二部構成。第一部は西洋絵画の鑑賞入門。絵の鑑賞の仕方は一つではないが、アトリビュートをカギに絵を読み解いていくという方法を豊富な図版を例にわかり易く教えてくれる。第二部は基本的な58のアトリビュートが写真とともに紹介されている。日本語で50音順にならんでいるので、絵画を読み解く辞書のように引くことができる。西洋美術の見方を変えてくれる一冊だ。

名画を読み解くアトリビュート

名画を読み解くアトリビュート