『赤い指』


『赤い指』東野圭吾
 ひどい話だ。子を持つ親の一人として心をゆさぶられた。一日の勤務が終わる頃、前原昭雄は妻から電話で「早く帰ってきてほしい」と言われる。帰宅してみると中学生の息子が殺した女の子の死体が庭にあった。自室に閉じこもる息子、何とかしてよとすがる妻、痴呆が進み事態が全くわかっていない母政恵。前原昭雄の普通の人生は登場してから30ページ程で見事に崩れ落ちた。

 この事件を担当することになった警視庁捜査一課の若い刑事松宮。捜査の進展は松宮刑事の目線で描かれる。彼の相棒となったのが所轄の刑事、加賀恭一郎。松宮にとって加賀は従兄にあたり、優秀な先輩刑事でもある。立場だけから言えば所轄刑事の加賀に指示し指揮するのが捜査一課の松宮という事になるのだが、松宮の上司は「勉強になるぞ」という。付近一帯の聞き込みで前原家を訪れた二人、加賀のアンテナはあるものに反応する・・・・・。

 本書の前半は読んでいて本当に辛かった。おいおい、やめろよ、そりゃないだろうが・・・。同年代の男としてどうしても前原昭雄に感情移入してしまう(女性読者はどうなのだろうか?)。物語中盤で加賀恭一郎が登場してからの展開は非常に面白く、テンポ良く読めた。「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼ら自身の手によって明かされなければならない」読者は若手刑事松宮の立場で加賀の語る言葉に耳を傾ける。最後に明かされる真実には驚いた。そうくるか!

 文庫本の帯に「どこの家でも起こりうる。だけどそれは我が家じゃないと思っていた」とある。犯人や犠牲者の家族の抱く感想というのはそんなものなのかも知れない。驚く間もなく巻き込まれ、自分の意思にかかわらず事件の関係者になってしまっているのだろう。加賀恭一郎シリーズを読んだのは今回が初めてだった。派手さはなくぶっきらぼうだが、思慮深くものの本質に迫る、男らしいキャラクターに惹かれた。心にずっしりくるミステリー。

赤い指 (講談社文庫)
作者: 東野圭吾
出版社/メーカー: 講談社
発売日: 2009/08/12
メディア: 文庫