『武装島田倉庫』


 椎名誠1990年のSF小説。時は近未来、北政府との最終戦争が終わってから20年近くたった頃。戦争の影響はまだ色濃く、海面は油泥が層をなし、黒くヌラヌラと光っている。長さ15mもある凶暴なかみつき魚や人の目玉を突く鳥など不思議な生き物や植物がたくさん登場するのは、戦争が生態系にただならぬ影響を与えたからだろう。この小説の舞台となるのは北政府との小競り合いが続く国境周辺。スラム化した街、あちこちで寸断された道路、窃盗団や怪しげな宗教集団が暗躍する。北政府が送り込む刺客もいるようなので、誰も気を抜けない。そんな時代を生きる人々が描かれている。

 この本は全部で7つの話からなる短編集。書名の「武装島田倉庫」の他「泥濘湾連絡船」「耳切団潜伏峠」「肋堰夜襲作戦」など、タイトルが全て漢字6文字で統一されているのが面白い。島田倉庫の新人可児、漬汁屋といっしょに連絡船を始める定吉とアサコ、巨大な装甲貨物車に乗る百舌(もず)、見知らぬ街でゲリラに加わる二十歳の灰汁(あく)など、登場人物はそれぞれ異なり、それぞれのドラマがある。しかし全て上記の戦後世界が舞台となっていいて、一つの短編の結果が別の短編に影響を与えたり、こちらで出てきた登場人物があちらに顔を出したりするため、同時進行のリアルタイム感が感じられる。

 面白い手法だと思った。現代を生きる我々、例えば同じ電車の車両に乗り合わせても境遇はみな違う。不況に苦しむサラリーマン、試験後の開放感に浸る学生、病気の孫を気遣う老人、新しい恋にワクワクドキドキの女子高生、旅行中の外国人・・・。境遇は違うが同じ現代を生き、電車にのっている。戦争中の国でも同様。最前線で戦う若者もいればじっと身を潜め平和を待つ老人もいる。戦火をくぐり命がけで商売をする商人だっていよう。この作品ではいろいろな境遇の人たちドラマを短編として綴ることで、一つの時代、一つの世界を重層的、立体的に描き出している。全編を貫き流れるこの時代の息づかいが読むものにまとわりついて離れない。短編集なのにしっかり読み応えがあって、どっぷりとシーナー・ワールドに浸ることができる、そんな一冊。

武装島田倉庫 (新潮文庫)
作者: 椎名誠
出版社/メーカー: 新潮社
発売日: 1993/11
メディア: 文庫