『新参者』


 東野圭吾の『新参者』を読んだ。小伝馬町のマンションで一人暮らしの女性が絞殺された。夫と離婚し、2ヶ月前にこの町に越してきたばかりの翻訳家、三井峯子45歳。日本橋署に異動してきたばかりの加賀恭一郎がその謎を解く長編ミステリー。

 全部で9つある各章が半ば独立したストーリーになっている。第一章は「煎餅屋の娘」。人形町の煎餅屋「あまから」の娘、菜穂は幼くして母をなくした。彼女にとって母親代わりの祖母聡子が胆管炎で入院した際に担当した保険会社の田倉が、小伝馬町の事件で疑われている。「あの人は人殺しなんかする人じゃない。私が保証しますよ」聡子は生粋の江戸っ子だ。事件当日の田倉には30分の空白があった。加賀恭一郎はこの30分の秘密をつかみ菜穂の父文孝に問いかける。ホロリとさせる江戸人情話だ。続く第二章は「料亭の小僧」。十七歳の修平は人形町の料理屋「まつ矢」で修行中。店の主人泰治の使いで、こっそり人形焼を買いに行くのはいつもの事。しかしある日店にやってきた刑事から、3日前に人形焼を買いに行ったことを問われる。小伝馬町の現場に人形焼があったというのだ。主人に口止めされていた修平は自分でこっそり食べたと言い張る。真相をつかんだ加賀恭一郎は、まつ矢の女将、頼子に真相を語る。大人の哀しさと青年のまっすぐな気持ちが交錯する。

 第三章「瀬戸物屋の嫁」、第四章「時計屋の犬」、第五章「洋菓子屋の店員」・・・。転居してきて間もない被害者だったが、この街との接点はいくつかあった。そしてそれぞれの接点にドラマがある。「事件を解決する」という一本道からすると、脇道であり寄り道、迷い道ともなるドラマ。「本件には無関係と判明した」と切り捨てられる部分だろう。そんなドラマを一つ一つ丁寧に語る。最初は断片的で、まるで短編集のようだったが、章を追うごとに事件の全貌が見えてくる。犯人を追いつめていく疾走間は無い。しかしそれ以上に、事件と街と人々とが頭の中にどんどん立体的に構築されていくのがすごい。現場の刑事さん達の気持ちもこうなのかな・・・と思ったりした。

新参者
作者: 東野圭吾
メーカー/出版社: 講談社
発売日: 2009/09/18
ジャンル: 和書