『日本人へ リーダー篇』

 文藝春秋誌上に2003年から2006年にかけて掲載された塩野七生のエッセイ集。話題は日本という国の政治、外交、そして世界。イタリアの地で1日遅れで到着する日本の新聞から見えてくる日本と日本人へのメッセージだ。ブッシュ、フセイン、そして小泉首相の登場に時の流れを感じるが、そんなに昔のことではない。「法律と律法」「政治オンチの大国という困った存在」「アマがプロを超えるとき」「歴史事実と歴史認識」などなど、興味深いタイトルが並ぶ。

 今まで塩野七生の小説をいくつか読んできたが、エッセイは始めて。小説では静かで抑制の効いた語り口からとてもエレガントな印象を受けるのだが、本書の印象は少し違うものだった。小説同様、綺麗な文章なのだけれど、思いっきりパンチが利いている。切れ味鋭く言い放つその根底にあるのは言うまでも無い、ローマ時代から近世に至るイタリア・ヨーロッパの歴史についての膨大な知識だ。当時『ローマ人の物語』執筆中だった彼女のことだ、ローマ帝国500年の歴史を彩った数多くの男たちの一生、成し遂げたこととできなかったこと、そしてその結果とが頭に入っていたはずだ。本書の中でも「自らの理性と感性と悟性をすべて投入してこそ、事実の列記に留まらない生きた歴史に、肉迫も可能になってくる」と語る塩野七生。想像するに、彼女の中ではアレクサンダーもカエサルマキアヴェッリも、旧来の知己かそれ以上のリアルな存在なのだろう。結果、彼らの視点で物を見ているのかも知れない。

 「歴史から学ぶ」というのはこういうことなのだ。しかしそのためには相当に深く掘り下げ、しかもそれをシッカリ記憶していなければならない。自分にはチョット荷が重いなぁ。

日本人へ リーダー篇 (文春新書)
作者: 塩野七生
メーカー/出版社: 文藝春秋
発売日: 2010/05/19
ジャンル: 和書