『酔って記憶をなくします』


 タイトルに惹かれ思わず購入してしまった。mixi内に同名のコミュニティがあり、そこに寄せられた投稿から選りすぐりのエピソードが173収録されている。編者の石原たきびは岐阜県生まれのフリーライターだそうだ。

 酔って記憶を無くし、同席した人から後日聞かされた話、目が覚めたらこんな事になっていたという話、短いエピソード集なのだがどれも笑える。居酒屋のトイレで三点倒立の練習をして血まみれになったという23歳の女性、酔って帰って扇風機に向かって延々と説教しているところを母親に見られた28歳の男性、タクシーで五万円払って「釣りはいらねえよ」と豪語してしまった45歳の男性などなど。それぞれが自分のとっておきの失敗を告白している、というか自慢している。世の中ツワモノぞろいだ。

 自分はある程度以上アルコールを摂取すると記憶がなくなる前に眠ってしまう。従って電車の乗り過ごしは日常茶飯事だ。折り返しの電車があればよいが、タクシーのお世話になることもしばしば。「そこ僕の席なんですが」と起こされ慌てて出口へダッシュしたら目の前でドアが閉まった。これは新幹線のぞみ号での出来事。自由席へ移動するためには今いた車輌を通らなければならない。「あ、あの人やっぱり間に合わなかったんだ」皆さんの視線が痛かった・・・。酔って記憶をなくした唯一の思い出は初めての慰安旅行。約50名いた先輩社員全員にお酌し、返杯を受けたのだが、後半の記憶が曖昧だ。二次会で社長のお母様(大正生まれ)とダンスを踊っていたのが断片的に思い出される。その場で教わった社交ダンスのステップを千鳥足で・・・。さぞかし笑える姿だったのだろう。

 しかし、つくづく思うが全く何の役にも立たない本だ。世の酒飲みたちはこの本を読んで反省するかというと、そんな事は全く無かろう。「よぉーし、俺も」とばかりに居酒屋へ駆け出すのが関の山だ。唯一この本が人様の役に立つとしたら、酒の肴になることか。実際この本の半分くらいはアルコールとともに読んだのだけれど、シラフで読むより何十倍も面白く感じられた。より身近に感じられるということだろうか。読みながら飲んで記憶をなくせば、一生何度でも楽しめる一冊!?

酔って記憶をなくします (新潮文庫)
作者: 石原たきび
出版社/メーカー: 新潮社
発売日: 2010/09/29
メディア: 文庫