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  本や音楽、映画に接して感じた事・考えた事を書きます。
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2013-02-03

『トヨタの片づけ』

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 あなたのデスクまわりは、こんな状態ではありませんか?本書は冒頭で読者に問いかける。「必要な書類を探すのに10秒以上かかる」「1週間以上使っていない文房具がある」「引き出しのいちばん奥にあるモノが何かを即答できない」「デスクの上にありながら、1ヵ月以上触れていない書類がある」・・・・じっくり考えるまでもなく、4つともあてはまることは明白だ。

 著者はOJTソリューションズという会社。2002年にトヨタ自動車リクルートグループによって設立。50人以上の元トヨタの社員がトレーナーとして在籍するコンサルタント会社なのだそうだ。数あまたあるトヨタ手法ノウハウの内、この本は「片づけ」について書かれている。たかが片づけとあなどれない、トヨタの片づけとは「ムダがなくなり、効率が上がり、売上が上がる」ものなのだそうだ。逆に片づけができていないことは、ロスを増やし、業績にマイナスとしてはたらく。先ほどの問いから始まる冒頭の部分は、次の言葉で結ばれる。片づけは、あなたの仕事や職場を変える「ビジネスツール」なのです。

 本書には片づけの意味や意義を説いて、その後で具体的な片づけの方法が示されるのだが、どれも実に明確で分りやすい。トヨタの現場で長年かけて磨き上げられてきた論理であり方法であるからだろう。きちんと筋道が通っている物事を説明するのは難しいことではない。

 こんな本を手にとったのには理由がある。商社の営業マンとして長年やってきたが、効率化という言葉が最近身にしみる。自分は瞬発力より持久力。ハードワークを常としてなんとかやってきたのだけれど、最近はちょっとそれも限界かなぁ・・・などと思ってしまうのだ。残業時の集中力が驚くほど低い。すぐ目が疲れるし、首や肩がバキバキになる。そして気が付けば何か理由をつけてBeer timeに突入しているという状態。困ったものだ。冒頭の4つの問いでは「必要な書類を探すのに10秒以上かかる」というのが最も頭が痛い。時間のロスをしている事をとても感じ、以前から何とかしたいと思っていたのだ。デスク周りや書類をきちんと片付け、効率よく仕事ができ、心おきなくBeer Timeに突入できるようになりたいものだ。

 それにしても、この本のタイトルには考えさせられる。頭に「トヨタの」と付くと、それだけで「何だかスゴそう」と思ってしまうのだ。そう、トヨタという一企業名がブランド的に働くのだ。ここが愛知県であることを差し引いても、日本人のかなりのパーセンテージにとって、この枕ことばはプラスに働くと思う。実際、この出版社から『トヨタの口ぐせ』『トヨタの上司』という本が出版されている。目ざとい出版社はきっと二匹目のドジョウを狙ってくるに違いない。遠くない将来『トヨタ勉強法』が受験生のバイブルになり、『トヨタ購買のお買い物』は主婦の間で大ヒット。若者はこぞって『トヨタ社員の恋愛指南』をむさぼり読み、そしてついには『トヨタ増毛法』や『トヨタ式で血糖値が下がる!』なんて本まで出版される・・・。そんなことは無いだろう。

トヨタの片づけ

作者: OJTソリューションズ

出版社/メーカー: 中経出版

発売日: 2012/11/14

メディア: 単行本

2012-05-06

『三匹のおっさん ふたたび』

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 有川浩の『三匹のおっさん ふたたび』を読んだ。あらためて言うまでもないが、去年の夏に読んだ『三匹のおっさん』(2009年初版)の続編だ。三匹のおっさんとは、定年後系列のアミューズメントパーク「エレクトリック・ゾーン」に嘱託となった剣道の達人キヨ、居酒屋「酔いどれ鯨」の元店主で柔道家のシゲ、そして機械いじりが高じて脱サラし、小さな町工場を一人切り盛りするノリの三人。子供の頃「三匹の悪ガキ」と呼ばれた武闘派二人と頭脳派一人の同級生三人組が自警団を結成し、トラブルを解決する痛快活劇。

 町内に起こる6つの事件を三匹のおっさんが次々と解決していくのは前作同様に楽しめた。今回は放火、ゴミの不法投棄転売目当ての万引き・・・前作と比べて格闘シーンが控えめなのが少し残念だけれど、その分登場人物が書き込まれていて、心の動きが細やかに表現されている。あぁ、この人こういうの書くの得意なんだよなぁ、『阪急電車』を思い出した。

 本作では別に犯罪を犯したわけでない、ごく普通の大人が見せる弱さや醜さが随所に描かれている。お金にだらしがなかったり、やたらと権利をふりかざしたり、子供をきちんと叱れなかったり、逆恨みや不要なおせっかいをしたり・・・・。確かにそうすべきではないけれど、法には触れないし、悪気があるわけでもない。誰でも一度や二度は経験がある。でもそんな行動が誰かをひどく傷つけたり、モラルを低下させることも有るのですよ、と有川浩が語りかける。う〜ん、胸の隅がほんの少し痛くなったぞ。

三匹のおっさん ふたたび

作者: 有川 浩

出版社/メーカー: 文藝春秋

発売日: 2012/03/28

メディア: 単行本

2012-03-02

『日本人としてこれだけは学んでおきたい政治の授業』

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 著者の屋山太郎は1932年生まれの評論家で元時事通信社の記者。記者時代にはフランスやスイスに特派員として駐在していたそうだ。この本は2011年8月、松下政経塾で開催された「歴史観・国家観養成講座」という講座の講義録。論旨が明確で、基本的に話し言葉で書かれているので分かりやすい。この人の本を読むのは初めてだったが、なかなか面白く読むことができた。

 この本の第一章で屋山太郎は「過去を知らない政治家に未来は語れない」「日本の政治家なのに自国の歴史を知らないし、学ぼうとしないので、外交でも内政でも芯が通らない」と語る。もっともなことだと思った。「政治の授業」である本書では、「永田町の政局より大切なこと」「民主党は何を間違えたのか」「公務員制度改革をあきらめるな」など全部で5つの講義が語られているが、歴史に照らし合わせて現代を見る立場が貫かれている。戦後の歴史もあれば、ここ数年の法案審議の過程もある。古くは聖徳太子の政治まで引き合いに出すといった具合だ。今現在の政治を目の前に見えていることだけから論じるのとは違い、そこまでの過程や背景や歴史と照らし合わせて主張する言葉には重みがある。

 学生時代、自分は歴史の授業があまり好きではなかった。縄文・弥生時代はいわゆる古代史ロマン的で楽しかったが、奈良・平安時代を経て鎌倉・室町時代あたりになると次第につまらなくなっていった。このつまらなさは現代史で頂点に達した。棒読みの丸暗記、試験が終わると全て忘却の彼方へ消えていった。歴史の積み重ねが現代の自分達の価値観や考え方、習慣や生活の全てにつながっている。日本人の国民性やメンタリティーは同じ歴史を共有し、同じ環境・境遇の中で代々培われてきたものなのだから。そう考えると歴史を知ることは自分を知ること、そこから学べることは膨大であったはずなのだ。惜しいことをしたものだ。

 屋山太郎がこの本で主張していたことは数多い。外国人参政権は領土問題につながる。政治家は誰に気兼ねすることなく靖国神社参拝をできる。天下り根絶のためにも官僚政治との決別が必要。原発は国家産業のベース電源。親米、反中、日英同盟を続けていれば良かったはず、などなど。個々の主張には賛同できたりできなかったりだが、歴史に照らし合わせる論調には説得力があった。物事を見る際のぶれない軸を持つためにも、歴史を学ぶことから得られるものは多いと思った。

日本人としてこれだけは学んでおきたい政治の授業

作者: 屋山太郎

メーカー/出版社: PHP研究所

発売日: 2011/10/27

ジャンル: 和書

2012-02-17

『佐藤可士和の超整理術』

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 アートディレクターの佐藤可士和、ホンダのステップワゴンやユニクロ、歌手のSMAPなど、数多くの商品・企業のブランディングや広告に携わってきた。そんな彼の書いた整理術の本。シンプルな表紙に惹かれて手に取った。ビジネス書っぽくない雰囲気もイイ感じなので、読んでみることにした。

 整理術に対するこの本のスタンスは明確だ。問題解決のための手段の一つとして整理術を位置づけている。そしてそれを「空間の整理術」「情報の整理術」「思考の整理術」と3段階に分けて説いている。この整理術を貫いているのが「状況把握」→それに対する適切な「視点の導入」→そこから問題解決のための「課題設定」、というプロセスだ。これはアートディレクションの作業と重なり、佐藤可士和が仕事の中で作り上げた方法でもある。この本では彼がこれまで手がけてきた作品の製作過程を例に引きながら、3段階の整理術を教えてくれる。

 自分は身の回りを片付けることがキライではない。あるべきモノがあるべきトコロに収まっていることを気持ち良く感じるし、そうするために少しの時間と手間をかけることを惜しまない。自宅は単身赴任のやもめ暮らしにしては片付いている方だと思うし、事務所のデスクもまぁまぁ綺麗にしている。それでも少し気を緩めているとカオス状態になるのも事実。「空間の整理術」の中にあった「おそらく、仕事を優先するあまり、机周りの整理は後回しになってしまうのでしょう。でも、それでは順番が逆なのです」という言葉には痛いところを突かれたと思った。

 佐藤可士和という人は多摩美大でグラフィックデザインを学び、企業のロゴのデザインもするのだけれど、この本の文章はものすごく丁寧で論理的。デザイナーやアーティストのイメージではなかった。なるほど、アートディレクターという彼の仕事は常にクライアントと向き合い、相手のニーズを引き出して形にするという作業。彼はあくまでもディレクター。デザインは手段であって目的ではないのだ。デスク周りや室内の整理整頓に役立つHACK集ではなく、整理する道筋とその先にある効果を教えてくれる一冊。面白くためになった。


佐藤可士和の超整理術 (日経ビジネス人文庫)

作者: 佐藤可士和

出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社

発売日: 2011/04/09

メディア: 文庫

2012-01-21

『大阪船場おかみの才覚 〜ごりょんさんの日記を読む〜』

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 今のように住まいと職場とが別々であるのが普通になる以前の話。商家には店主家族の他に、住み込みで働く従業員たちが寝食をともにしていた。明治、大正の時代では当たり前、昭和に入っても残っていた習慣だ。そんな商家の夫人を東京では「おかみさん」と言い、大阪では「ごりょん(寮)さん」と呼んでいた。この本は明治16年に生まれ、17歳で大阪船場の商家に嫁いだ杉村久子の残した日記を中心に、当時の商家の姿、ごりょんさんの日常を紹介している。

 夫とともに店を切盛りし、丁稚や女中たちに指示命令をするごりょんさんは、当時の少女たちのあこがれの的でもあったという。若い頃は家業の手伝いや奉公人に与える着物をこしらえる裁縫がその仕事の中心だが、歳をとるにつれ、来客の接待をするようになり、やがては夫とともに経営に携わるようになる。夫の没後、トップとして商家の経営を引き受けることも少なくなかったようだ。この本で取り上げられている杉村久子の場合は店と住まいとが別であったが、店員の着物のための反物を調達し、女中の採用を受け持ち、節分には女中とともに50本もの巻き寿司を作っている。住み込み店員吾助の結婚に際しては、婚礼衣装の紋付羽織、袴を用意し、結婚後の住まいの心配までしているのだ。社員は家族同様であり、ごりょんさんとは母親同然だった時代がこの本からリアルに伝わってきた。

 丁稚奉公、徒弟制度、プライバシーのかけらもない住み込み店員。遠い昔の事のように思っていたが、昭和に入ってもそれは普通に存在していた商家のスタイルだったようだ。そういえば自分の勤め先は戦後にできた会社だが、以前は事務所の上に社長宅があり、住み込みの社員が何人もいた。自分が入社した時にはさすがにそういう制度はなくなっていたが、住み込みを経験した先輩社員が何人もいた。新入社員だった頃は、当時のエピソードを聞かされるたびに前時代的な古臭さを感じたものだが、商家の原点がそこには残っていたのだろうと今更ながらに思う。そして同時にそういう経験をできなかった事を少し残念に思ったりもする。


大阪船場 おかみの才覚 (平凡社新書)

作者: 荒木康代

メーカー/出版社: 平凡社

発売日: 2011/12/16

ジャンル: 和書

2011-11-01

『心に響く「話し方」』

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 ドキッとするタイトルだ。仕事で、プライベートで、毎日のように誰かと話をするのだが、自分の言葉のどれだけが相手の心に響いているのだろう・・・。著者の青木仁志はブリタニカでトップセールスマンとして活躍した後独立し、人材教育のコンサルタント会社を設立。これまでに27万人の人々に研修を行ったという。自らを「プロスピーカー」と呼ぶ、ビジネストークのオーソリティーだ。

 この本には「相手の目を見て話す」「万人うけする名言やたとえ話をスパイスにする」「特質ではなく、利点を説く」というようなノウハウも数多く書かれていて、それはそれで大いに参考になるのだが、それ以上に大切なものとして「相手の事を思いやる心」が上げられている。最後は話し手の心の問題、口先だけのアレコレではない、やはり心の部分が一番大切なのだ。そこまで踏み込んだ点で、この本は単なるノウハウ集ではない。著者の経験と実績に裏打ちされた、凄みのある一冊に仕上がっている。

 会話における心の持ち方で気をつけていることが一つある。営業という仕事柄、電話でのやり取りは日常的なのだけれど、忙しくてバタバタしている時に限ってお客さんからややこし〜い電話が入る。「あー、何でこんな時に!!」と思うのだが、こちらがバタついていることなど、先方は知るはずもない。ここで大切なのは心のスイッチを切替えること。口のスイッチを切り替えて無理やり丁寧な対応をするのではなく、心のスイッチを切り替えれば自然と対応は丁寧になる。日々気をつけているのだが、果たしてどれだけできているのだろうか。

 時には相手に歓迎されない話をしなければならない事もある。個人的には不本意であっても、避けては通れない。聞く方も辛いが話す方はもっと辛い。そんな時、事を進める唯一の方法が相手の心に響かせることなのだろうなと思う。小手先のテクニックでは何ともならないところでの心と心の真剣勝負。「頭で話せば頭に入る、心で話せば心に入る」この本の中で最も印象深い言葉だ。大切にしたい。

27万人を研修したトップトレーナーの心に響く「話し方」

作者: 青木仁志

出版社/メーカー: アチーブメント出版

発売日: 2011/10/04

メディア: 単行本(ソフトカバー)

2011-10-13

『15分あれば喫茶店に入りなさい。』

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 著者の齋藤孝は明治大学の文学部教授。『声に出して読みたい日本語』や『三色ボールペン情報活用術』を書いた人だ。『15分…』のタイトルが示す通り、ちょっとしたスキマ時間の活用法でもあるけれど、そこから一歩進んで、仕事や勉強をするためにわざわざ喫茶店に行く事を提唱している。喫茶店にはオフィスと自宅、オンとオフの中間的な環境、リラックスできるけれどだらけすぎない雰囲気がある。この環境は何かについて掘り下げて考えるような知的生産活動に向くのだという。そしてこの「ちょっとだらけた公共性」の中に身を置くことで自分自身にスイッチが入るので、それを見越して言わば戦略的に喫茶店に行き成果を上げることを「喫茶店タクティクス」と呼ぶのだそうだ。ナルホド。

 タイトルの「喫茶店」には「カフェ」とルビがふってある。確かにスターバックスやドトール、サンマルクカフェといった「カフェ」では書類に目を通すビジネスパーソンの姿が少なくない。テキストやノートを広げる学生さんも見かける。自分は営業という仕事柄、社外に出る機会は多い。実際に仕事の合間に「カフェ」を利用してみると、次の訪問先での面談に備えて頭を切り替え整理するのに丁度よい。前の仕事のアレコレと一時決別し次の仕事に目を向ける。懸案事項をおさらいし、臨戦体制で次の仕事に臨むことができる。時間ギリギリで駆けつけて「えーっと、何の話だったっけ…」などという状態とは雲泥の差だ。アポイントの時間に余裕をもたせ、喫茶店での15分をはさむ事は仕事の効率を上げると思う。

 朝夕の通勤途中に喫茶店で勉強時間を確保するのも良いそうだ。毎朝1時間スターバックスで勉強して司法試験に合格したサラリーマンの例が上げられていた。さて、わが身を振り返ったとき、朝はともかく夕方はどうだろうか?自分には他に行かなくてはならない所があるのだが…。齋藤先生の教えは酒飲みにはチト厳しい。

15分あれば喫茶店に入りなさい。

作者: 齋藤孝

メーカー/出版社: 幻冬舎

発売日: 2010/09

ジャンル: 和書

2011-09-26

『大阪学』

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 大阪生まれの作家であり帝塚山大学元学長、大谷晃一の『大阪学』を読んだ。大阪で暮らすのならぜひ読んでおいた方が良いと取引先の方が進めてくれた。大阪単身赴任の先輩だ。

 『大阪学』とはその名の通り大阪についての学問で、帝塚山大学で88年から6年間、著者の大谷晃一によって行われた正式な講座。序章によると、大学の文科系の学問があまりに縦割りで細分化・専門化しすぎた結果、社会の役に立たないものになってしまっている。そこで「大阪」という横線で割ってみたのが「大阪学」なのだそうだ。当時としては先例のないことだったらしく、実に広く無数の学問が必要となり、形をつくるのが難しかったという。そりゃそうだろう。

 この講座の内容を元にした本書には、全部で12の章がある。「お笑い」「きつねうどん」と、ごく身近なテーマの章もあれば、「不法駐車」「スーパー」など現代大阪を論じる章もある。「古代ベイエリア」「都市の誕生」では大阪が町として発展してきた過程と背景を追い、「中世の近代人」では楠正成、「大阪人写実」では井原西鶴と上田秋成を論じている。史学・文学・社会学…。確かにに幅広い学問が総動員されている。大学の講座として継続していくのはさぞかし大変だったろうとお察しするが、本として読む分には気楽に楽しめる。

 大阪という土地について語ることは、大阪人について語ることになる。大阪人の特徴は、権威に媚びず、名より実をとる。現実を直視し、先を読む才覚がある。建前より本音をぶつけ合うけれど、相手に対する「気ぃ遣い」は忘れない。一般的に言われていることだし、実際大阪に暮らしていると日々体感するものでもある。そんな大阪人気質についてあれこれ書かれているのも面白い。古くは仁徳天皇の時代、人柱になれとの神のお告げに反駁し、見事助かった大阪人の話が日本書紀に載っているのだそうだ。大阪人気質は一朝一夕にできあがったものではない。年期と筋金が入った伝統なのだ。

 昔、「好きやねん」というインスタントラーメンが発売され、TVで盛んに宣伝されていたことがあった。いかにも大阪弁らしいネーミングだなぁと思っていたのだけれど、あれはお笑いタレントによって誇張された大阪弁であって、実際は少し違うらしい。都会人である大阪人は、このコトバにいくらかの恥じらいを込める。それが小さな「っ」になって、「好っきゃねン」とつぶやくのだそうだ。驚いた。そして何となくわかる気もした。大阪弁について書かれた「好っきゃねん」という章は面白かった。


 タイトルに「学」とあるけれど、内容は全く堅苦しくなかった。「実証と自由と」という章に書いてあるのだが、学問を堅苦しくとらえず、身分の上下を超えて広く門戸を開くというのが江戸時代から続く大阪学問の伝統なのだそうだ。なるほど、表紙がいしいひさいちの四コマ漫画というのも頷ける。

大阪学

作者: 大谷晃一

メーカー/出版社: 経営書院

発売日: 1994/01

ジャンル: 和書

2011-08-08

『三匹のおっさん』

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 有川浩の『三匹のおっさん』を読んだ。彼女の作品は昨年秋に『阪急電車』を読んで以来。タイトルに惹かれて思わず…のタイトル買いだ。三匹のおっさんとは、定年後系列のアミューズメントパークに嘱託勤務となった剣道の達人キヨ、居酒屋の元店主で柔道家のシゲ、そして機械いじりが高じて脱サラし、小さな町工場を一人切り盛りするノリの三人。武闘派二人と頭脳派一人、子供の頃「三匹の悪ガキ」と呼ばれた三人が自警団を結成し、町内に起きるトラブルに立ち向かう。高校生の二人組、キヨの孫祐希とノリの娘の早苗も加わって、全部で6つの事件を解決する。痛快!

 勧善懲悪正義の味方、おっさんパワー炸裂の活劇。実際にはあり得ないようなお話なのだけれど、それぞれの事件は妙に現実味がある。恐喝、痴漢、詐欺に動物虐待…、今の日本、どこの町でも一度や二度は起きているような事件だ。正直、ニュースになっても驚かないし、翌日には忘れてしまう。この文章を書いていて、知らぬ間に慣らされてしまっている自分に気がついた。いつの時代でも悪い事をする奴はいるのだろうけど、それを普通の事と思ってしまうのは良くないことだ。いちいち心を動かしていたらもたないので、他人事として処理する防衛本能が働いているのかもしれないが…。しばし反省し頭をたれる。

 三匹のキャラクターがいかにもいかにもで、それぞれの見せ場もちゃんと用意してあって楽しめる。祐希と早苗の存在はストーリーに厚みをもたせると同時に、若い読者への橋渡しにもなっているのだろう。祐希と早苗よりはずっと三匹に近い世代の自分としては、双方に憧れるような気持ちで読ませてもらった。自分は還暦まであと十数年。高校時代には戻れないけれど、正義のおっさんにはなれなくもない。しかし武道の心得はないし、機械いじりの腕もない。仕方が無い、彼らの心意気だけでも見習うとするか。悪漢十数名を向こうに回してのノリのセリフ「俺たちのことはジジイと呼ぶな。おっさんと呼べ」何のこっちゃ・・・でもこのオトコゴコロ、分からなくも無いな。

三匹のおっさん

作者: 有川浩

メーカー/出版社: 文藝春秋

発売日: 2009/03/13

ジャンル: 和書

2011-05-22

『こうして会社を強くする』

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 「働く日本人の8割はサラリーマン」と言われる。星の数ほどある会社の一つひとつが強くならなければ、未曾有の大惨事からの復興もあり得ない。そんな気持ちで手に取った一冊。社員8名で創業した京都セラミックを世界の京セラに育て、名経営者の誉れも高い稲盛和夫氏が主宰する「盛和塾」という塾がある。若手経営者のための経営塾だ。この本はその盛和塾での勉強会の内容をまとめたもの。塾生から投げかけられた34の質問に一問一答式で答えている。

 先行投資のタイミングはどう考えるべきか?低収益から脱却するには?といった具体的な質問もあれば、トップの器になるには?名経営者の条件とは?燃える闘魂をどう体得するか?といった抽象的な質問もある。進出・撤退を決断する物差しとは?中小企業の世襲制は是か非か?といったいかにも経営者の悩みといったのもある。そのそれぞれに塾長稲盛和夫が丁寧に回答しているのだが、あるときは細かく分析的であり、あるときは思想的、哲学的な切り口で塾生に道を示す。

 印象的な言葉を一つ。企業の最終決定者である経営者は何をもって意思決定するのか。それは「心の中の座標軸」だという。何を是とし何を非とするか、ぶれない判断基準を稲盛氏はこう言い表した。そして、稲盛氏自身は創業の頃、「人間として何が正しいのか」「原理原則に基づいて経営する」ということを心の座標軸に置いたのだという。

 ともすれば自身の欲望やその時その場の状況に流されてしまうのは人の常だ。自分を振り返れば、部下に指示を与えた後で矛盾を感じ、一人自己嫌悪に陥ることが何度もあった。ただ一生懸命に働くだけではなく、常に持ち続け立ち返る「心の中の座標軸」。それは経営という仕事だけではなく、生きて行く上で誰もが持っているべき、大切なものなのだと思った。

新版・実践経営問答 こうして会社を強くする (PHPビジネス新書)

作者: 稲盛和夫, 盛和塾事務局

メーカー/出版社: PHP研究所

発売日: 2011/03/19

ジャンル: 和書

2011-05-01

『9割がバイトでも最高のスタッフに育つディズニーの教え方』

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 ディズニーとは開園から四半世紀を経ても人気の衰えない、東京ディズニーランドのこと。著者の福島文二郎は東京ディズニーランドがオープンの年に入社した正社員の第一期生、今は社員研修プランニングなどを行う会社を経営している。

 東京ディズニーランドで働く人達は「キャスト」と呼ばれる。様々なアトラクションやショー、ショップや園内清掃に携わるキャストのほとんどがアルバイトで、その数は1万8000人にもおよぶという。アルバイトなので入れ替わりも激しく、毎年9000人程は辞めていくというから、質の高いサービスを提供し続けるには教育が何より大切なのだろう。キャスト達の明るい笑顔と嫌味のないハイテンションを育成する方法とは何なのか?興味深く読ませてもらった。

 ディズニーランドにはさまざまな研修やトレーニングが用意されている。カリフォルニアにディズニーランドがオープンした1955年以来、練り上げられ、精査され続けててきた結果だという。中でも特徴的なのは、キャスト同士が教えあうシステム。後輩の指導に適任と思われたキャストが選ばれ、特別な研修プログラムを受けた後、トレーナーとして後輩のキャストを育成する。アルバイトがアルバイトを教えるわけだ。本書でもその実例がいくつか紹介されている。しかし、このような仕組みが機能するのは「すべてのゲスト(お客さん)にハピネスを提供する」というミッションがキャストの一人ひとりに浸透して、伝わっているからだろう。それを伝えることが教育の第一歩だ。

 子供たちが小さかったころ、東京ディズニーランドには何度も遊びにいった。いつも夜中に出発し、開園から閉園まで丸一日、子供と一緒になって、いや子供以上に楽しんだ。真夏に訪れた時、照りつける太陽の下で当時保育園児だった娘がのぼせて鼻血を出した。幸い近くに医務室を見つけ、手当てをしてもらうことができた。しばらく休ませてもらうと出血もおさまり、礼を言って医務室を出ようとすると、「また鼻血が出るといけませんから」と小袋を渡された。中には脱脂綿とガーゼで作った、小さなテルテル坊主のようなものが数個。子供の小指の先ほどの大きさだ。熱さで鼻血を出す子供が多いから、あらかじめ手作りで用意していたのだろう。小さな気遣いがありがたく、嬉しかった。この本の中で「ホスピタリティー・マインド」という言葉が出てきた時、あの時のあれもそうだったんだと思い出した。

 ただのアルバイトを「夢の国」を演出するキャストに育成する・・・。考えてみれば大変なことだ。企業側には並々ならぬ努力が必要だろうし、アルバイト側にも恐らくギャラ以上の負荷がかかる。真剣で根気強い教育への取り組みが東京ディズニーランドの人気を支えてきたのだ。キャストの質の低下は「夢の国」の崩壊につながる。これはおそらくどんな企業にも当てはまることだ。

9割がバイトでも最高のスタッフに育つ ディズニーの教え方

作者: 福島文二郎

メーカー/出版社: 中経出版

発売日: 2010/11/25

ジャンル: 和書

2011-04-10

『誰も教えてくれない 男の礼儀作法』

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 日本人なら一度は耳にしたことのある「小笠原流」というコトバ。何だかよくわからないけれど、昔から伝わる作法みたいなモノ、どちらかというと敬遠したくなるけれど、本当はきっと大切なんだろうな・・・などと思う人は多いのではなかろうか。礼儀作法というと女性のたしなみ、という印象があるが、小笠原流はそもそも武士のための礼法なのだそうだ。室町時代から700年ほどの歴史を持つ小笠原流の、門外不出とされていた古文書に記された男の礼儀作法を、広く一般に伝える一冊。非常に興味深く読ませてもらった。

 本書ではまず小笠原流古文書の一文を引用し、その後に現代人にも解るようにその意味を解説し、続いてそれを現代において実践するとしたらこういうことですよ、と言及する。例えば「先ず我が馬を道下へうちおろして礼すべし」と記したあとで、「武士の間では、たとえ相手より自分の身分のほうが高かったとしても、道を譲ってもらうことが当然だという考えは存在していなかった」と解説した後、こうした上から下に対する礼は、オフィスにおいて毎日お茶を運んでくれる人に対して、ありがとうの一言を心から言うことにつながる、と言及する。お辞儀の仕方や立ち居振る舞いについても書かれているが、「こうすべし」といったハウ・ツーよりも、なぜそうするべきなのかという理由や心の持ち方にウエイトを置いて優しく丁寧に書かれている。そうだよなぁ、そうあるべきだよなぁ・・・・反省すべき点多数。

 子供の頃の我が家は、礼儀作法にはうるさい方だったと思う。もちろん小笠原流礼法の足元にもおよばないが、箸の上げ下げ、茶碗の持ち方、立ち居振る舞いなどなど、母親は口やかましかった。扉をバタンと乱雑に閉めると叱られたし、ランドセルをポイと放り投げようものなら大目玉だった。楽しく漫画を読んでいても姿勢が悪いと叱るのには閉口したものだ。現在の勤め先の社長も礼儀作法を大切にする人だ。取引先と食事をする機会の多い商社ということもあり、箸づかいや宴席でのマナーには特にうるさい。慰安旅行の宴会など、社長に見られていると思うとオチオチ酔っ払ってもいられない(笑)。母親と社長、いずれも一生ものの財産を与えてくれたと思うと感謝の念に堪えない。

 それにしてもこの本のタイトルのとおり、いい大人には礼儀作法を誰も教えてくれない。人前で恥をかくことはまずないと上に書いたが、実は知らぬ間に恥をかいていたこともあろう。そんな不安がこの本を手に取らせたのは間違いない。まずはコーヒーを運んでくれる部下に対し、心をこめて「ありがとう」と言わなくては。

誰も教えてくれない 男の礼儀作法 (光文社新書)

作者: 小笠原敬承斎

メーカー/出版社: 光文社

発売日: 2010/10/15

ジャンル: 和書

2011-02-16

『僕とおじいちゃんと魔法の塔(1)』

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 去年読んだ『妖怪アパートの幽雅な日常(1)』の著者、香月日輪(こうづきひのわ)による児童文学。小学六年生の陣内龍神(たつみ)には秘密がある。両親にも兄弟にも絶対内緒の秘密とは、天神の磯にある古い塔に自転車で通っていること。その塔で龍神はなんと、おじいちゃんの幽霊と会っているのだった。龍神のお父さんはいわゆる堅物だ。非科学的なことを認めず、『ハリーポッター』さえも嫌っている。市役所に勤めていて、子供達に対しても、コツコツ真面目に勉強して皆の役に立つ仕事に就く事を願っているのだが、彫刻家だったおじいちゃんは正反対の人(幽霊)だ。生前はかなり変わり者で、ハチャメチャな芸術家だったらしい。龍神はそんなおじいちゃんの幽霊から、今まで思いもしなかった生き方や考え方を教わることになる・・・。

 子供向けの易しく分かりやすい文章なので一気に読み終えた。『妖怪アパートの幽雅な日常(1)』同様、生き方は人それぞれ、決められたレールを歩くのではなく、自分の頭で考え、自分の生きたいように生きれば良いのだ、と教えてくれる本だ。

 父親は子供に対し、今の時代を乗り切っていく能力を身につけてくれるよう願い導く。現役世代なのだから当然といえば当然だ。一方、一歩離れたところにいる「おじいちゃん」は父親よりいくらか高い目線から物を見るのだろうから、孫への教育というのは子へのそれとは一味も二味も違ってくるはず。生憎おじいちゃんの気持ちはかなり想像力を働かせても実感できないのだが、それはおそらく年の功というやつに裏打ちされた力なのだろう。自分の父方の祖父は、はるか昔に亡くなってしまったので会えなかったが、母方の祖父の姿は目に焼きついている。いつも陽気に笑い、真剣な顔つきで碁を打ち、正月は初日の出に柏手を打ち拝んでいた。そんな祖父から知らず知らず受けた影響は少なくないはず。いつの日にか、立派なおじいちゃんになれるよう、自分磨きを怠らないようにせねば・・・などと思ったりして。

 話を『僕とおじいちゃんと魔法の塔』に戻そう。龍神が幽霊のおじいちゃんによって人生の新しい扉を開かれ「学校の勉強がすべてじゃないんだ」と気付き成長するお話は、子供にとってたいそう魅力的だろうと思う。文章も綺麗だ。しかし偏屈な自分としては少しひっかかった。それは、この小説が通信添削で有名な教育企業、ベネッセコーポレーションの「チャレンジキッズ5年生」に連載された小説であるということ。掲載されたのは2000年なので「ゆとり教育」的な考えだろうが、国語算数理科社会を教える教育企業が、「勉強がすべてじゃないんだよ」とは如何なることか?「教育とは総合的な人間づくりなのだ」と言われれば反論の余地はないが、どこか自己矛盾のようなものを感じてしまう。1970年代の受験戦争、受験地獄には弊害もあっただろうが、分かりやすく真っ直ぐだ。ゆとり世代は「君の生きたいように生きればいいんだよー」「自分らしさを大切にねー」と優しく大切に育てられ、いざ卒業してみるとグローバルな競争社会に放り込まれる。なんだかかわいそうな気がしてきた。

僕とおじいちゃんと魔法の塔(1) (角川文庫)

作者: 香月日輪, 中川貴雄

メーカー/出版社: 角川書店(角川グループパブリッシング)

発売日: 2010/01/23

ジャンル: 和書

2011-02-05

『ストーリーとしての競争戦略』

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 「おまえに何ができる?偉そうなことを言うな!」著者の楠木建は一ツ橋大の教授なのだが、ビジネスの実務家に戦略論を説く際、こんな言葉が頭をよぎり、時には面と向かって言われることもあるそうだ。「経営学と経営とは違う」「学者の話を聞いてよくなった会社はない」「机上の空論」・・・。実際のビジネスの現場では勘や運や経験、スピードや根性がモノを言うことが少なくない。実際それらが勝敗の鍵となることは多いと思うが、こと「戦略」となると様子は異なる。「優れた戦略の『論理』は確かにある」と著者はいう。理屈で説明のつかない部分が大半を占めているとしてもだ。とても共感を覚える考え方、こういう人好きだ。

 どのような市場で、何を強みにして勝ち残っていくかを考えるのが戦略なのだが、具体的にどのような打ち手を打っていくのかが問題になる。「こうなったら良いな」ではないし「ぜったいこうする!」という気合・根性論でもダメだ。こうすれば当然こうなる。次にこうすると必ずこうなる。論理的に納得のいく形で一つひとつの打ち手を打っていく。そして本書の主題である「ストーリーのある戦略」とは、個々の打ち手が組み合わさって連動し、ダイナミックな流れを生むような戦略のこと。「ビジネスモデル」が静止画であるのに対し、ストーリーのある戦略は動きのある動画にたとえられる。

 世の中には色々な企業がある。半導体メーカー、ラーメン屋さん、エステティックサロン、養鶏業、音楽教室・・・。各企業はそれぞれに強みがあって存続しているのだが、その一方で戦略も打ち手も自然と限定されてくる。閉塞感ただよう現代においてはなおさらだ。しかし、自分の職業である商社の営業の場合、そういった限定が極めて少ない。何処に行っても良い、誰に何を売っても良い。本当に自由な仕事だ。それだからこそ戦略の大切さを痛感している。限られた時間と資本をどこに投下し、最大の収益を得るか。それを考え行動に移すのが商社の営業の仕事。営業マン個々についてもそうだが、部門として、会社としての戦略はなおさら重要だ。

 本書によると優れた戦略ストーリーの必要条件は、思わず人に話したくなるストーリーであること。シッカリした論理に基づき現実味があり、なおかつワクワクするような夢のあるストーリー。そんな戦略を描き誰かに語ってみたいものだ。

ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)

作者: 楠木建

メーカー/出版社: 東洋経済新報社

発売日: 2010/04/23

ジャンル: 和書