神サマの忘れ物 第8話

『彼女とぶつかった老人、その人が落とした大切なものは彼女が持っている。俺は神様と名乗る人物と出会いお使いを頼まれる。そこで手に入れた三つの能力。俺の存在を受け入れてくれた彼女。して俺は彼女の家に転がり込むことにした。……そして俺は人と100回話すと消えてしまう……』








「ただいま〜」

美鈴が玄関のドアを開けると母親さんが待っていた。

「今、何時だと思ってるの? ……それに美鈴もこの子も汚れちゃって」

母親さんは全身が汚れている美鈴をあきれた様子で見ていた。

「ごめんなさ〜い」

美鈴はそういいながらケージの中から俺を出し抱き上げた。

「家の中が汚れるといけないから、夕飯の前にこの子を洗ってきなさい」

「は〜い」

美鈴は生返事でそのまま洗面所に向かった。

そして、洗面所のドアを荒く閉めた美鈴は風呂場の床に俺を置くと無言のまま洗面器にお湯を溜め始めた。何処と無く寂しそうな美鈴に俺は心配そうに見ていた。

「じゃあ……洗うよ……」

その暗い顔のまま、俺にお湯をかけ石鹸で荒く全身をゴシゴシと洗い始めた。俺は不快だったもののおとなしくしていた。暫くすると俺にお湯をかけ石鹸を流し、すぐにタオルで体を拭いてさらにドライヤーで完全に乾かしてくれた。

「ちょっと待っててね、着替えてくるから」

美鈴は洗面所から出て、ちょっとしてからパジャマに着替えて帰ってきた。

「行こうか……」

相変わらず元気の無い声で俺を抱きかかえて二階にある美鈴の部屋に向かった。部屋には夕飯がお盆に乗せてあった。俺はサッと床に降りると元の姿に戻るため目を閉じた。

「わっ!!」

突如、美鈴が叫ぶもんだから目を閉じている十分な時間も無く目を開けてしまった。

「ったく、何だよ!」

35回目。俺が叫ぶと同時に美鈴は俺に近づいてきた。

「わ〜、かわいいよ〜」

輝く目で俺のことを見ている。それを不審に思った俺は美鈴の背後の壁に立てかけてある姿鏡を見て愕然とした。あろうことか姿が変わる十分な時間無く目を開けてしまったので耳と尻尾はウサギのまま、さらには瞳の色は赤く口の形も人間の形というよりはウサギっぽく実に中途半端だ。これはバニーガールならぬバニーボーイと呼ばれても可笑しくない。

「特にこの耳が……」

美鈴はお構いない感じに俺の耳の観察をしている……頼むからやめてくれ。

さらに部屋のドアが開いたと思いきや入ってきたのは母親さん。タイミングが悪すぎる。俺も美鈴も母親さんを直視したまま動かない。

「ど、どうも」

36回目。とりあえず俺は母親さんに挨拶をしてみたが母親さんは何故か冷静に挨拶を返してきて俺に近寄ってきた。

近寄ってきたかと思いきや母親さんは俺の口めがけて苦手なにんじんを押し込んだ……しかも、丸々一本。俺はにんじんを外そうとするが母親さんが手で固定をしてくれちゃってるため、もがく程度のことしか出来なかった。

「好き嫌いしないで食べなさい」

まさかの母親さんの対応及び真面目な顔でこちらを見てきている……怖い。仕方が無いので少しずつ処理をしていく……俺。

「さぁ〜て、ここで問題。何で私が君を見て驚かないのでしょう?」

母親さんはにんじんを固定していた手を離し、意地悪そうな声で言った。

「な、何故ですか?」

37回目。俺は口の中にに刺さっていたにんじんを外して答えた。

「私の寝室はこの部屋のすぐ横、しかも欠陥で壁が薄くてね、ぜ〜んぶ盗み聞きしてました」

「……」

俺は開いた口が塞がらなかった。まさか、全部聞かれていたとは……ただ、昼頃の出来事の謎が解けた。

「じゃ、ごゆっくり……美鈴、アレをそろそろ返してあげたら?」

母親さんはそう言い放って部屋を出て行った……そして、俺に何を返すのだろうか?

「美鈴……アレってなんだ?」

38回目。俺がそう言うと美鈴は黙って机の引き出しから黄色いカチューシャのようなものを取り出した……そう、それはまさに……