HODGE'S PARROT

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愛称「トラビ」、東ドイツの国民車



東ドイツ(DDR)の国営レコード会社について書いたが、関連するニュースがあった。同じく東ドイツ国営企業 VEBザクセンリンク(VEB Sachsenring Automobilwerke Zwickau)による「プロレタリア階級のための」自動車トラバンドに関するものだ。


旧東独国民車「トラビ」が半世紀=工場の街で記念イベント [Yahoo!ニュース/時事通信]

旧東ドイツの国民車「トラバント(愛称トラビ)」の生産開始50周年を記念して、工場があったツウィッカウで10日、各種イベントが催された。
 当時の東独政府は、西独で人気を博していたフォルクスワーゲンVW)の「カブト虫」のような大衆車の開発を計画。1957年11月7日にドイツ語で「衛星」の名前を持つ第1号車が誕生した。
 18年前に「ベルリンの壁」が崩壊した際には、車列を成して西側に流れ込んでくる映像が世界を駆け巡り、トラバントは一躍有名になった。だが、競争力のなさから91年4月に、通算約300万台で生産中止となった。


Trabbi GO Werbespot


Could Germany's Trabant ride again 50 years after its birth? [AFP]

How many workers does it take to make a Trabant? Two. One to fold and one to paste, went the old joke.

Still, the Trabant, named after the German word for satellite, allowed East German families to travel to Bulgaria and Hungary for summer holidays and was later immortalised in the post-reunification road movie "Go Trabi Go".

Impressed with the proletarian cars, some eastern bloc countries even imported the Trabant.

trabant





→ トラバント [ウィキペディア]

ベルリンの壁崩壊の直後からは、最新式のフォルクスワーゲン・ゴルフと古色蒼然としたトラバントが、肩を並べて走るようになり、双方のドライバーとそれらを見比べた者に強烈なカルチャーショックを与えた。東側諸国の人々がトラバントに乗って国境検問所を続々と越える光景は、東欧における共産主義体制終焉の一つの象徴的シーンともなった。


→ Trabant vehicles [Wikimedia Commons]


ドイツレベルスロットルカー 1/32 トラバント 601Sレーシング Ver.B 08388 完成品

ドイツレベルスロットルカー 1/32 トラバント 601Sレーシング Ver.B 08388 完成品

スーパーナチュラル「闇と戦う旅出」



ジェンセン・アクレス/Jensen Ackles とジャレッド・パダレッキ/Jared Padalecki のアクションが愉しい『スーパーナチュラル』の第二話「闇と戦う旅出」(Wendigo)を観た。

なかなか面白かった。登場する妖怪はウェンディゴウィキペディアによれば

人跡まれな土地に住むとされる、北米先住民アルゴンキンに伝わる精霊の呼び名(地方によって多くの呼び名がある)、若しくは、文化依存症候群のうち、北アメリカのオブジワ族やアルゴンキアン族などごく限定された部族にのみ見られる精神疾患の一つとして名づけられた名称である。

もともと人間であったが、飢えで仲間の人肉を喰ったことから、モンスターとなり「無性に人肉を求める」ようになってしまった。この伝説の妖怪が、キャンプにやってきた青年たちを襲うところからストーリーが展開する。
面白いのが、やはり「現代アメリカ」に妖怪が出現することだ──キャンプの青年たちは携帯やPCで写真や動画を頻繁に家族に送信している、そこに「妖しい影」が映っているのをディーンとサムが見つける。さらに革ジャンのディーンが魔方陣を描いて「魔除け」をし、それが本当に「効く」のだ。
また、ディーンが「食料もなしに山に登るの?」と尋ねられたとき、ニヤっとして大きなM&Mチョコレートの袋を出す場面には、笑った。

東独の音 ゲヴァントハウス弦楽四重奏団のフランク



歴史あるオーケストラ、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のメンバーで構成されたゲヴァントハウス弦楽四重奏団によるセザール・フランク弦楽四重奏曲を聴いた。

フランク:弦楽四重奏曲 ニ長調

フランク:弦楽四重奏曲 ニ長調


フランクの音楽は年がら年中聴いているのだが、しかしめっきり寒くなったこの季節には、フランク唯一の──といってもフランクは寡作なので、ほとんど唯一の、なのだが──弦楽四重奏を聴くのは似つかわしいと感じる。ベートーヴェンの後期作品にも匹敵する内容と規模を誇り、しかも大器晩成型作曲家の最右翼であるフランクの、まさに最晩年に書かれた弦楽四重奏曲
重厚で緻密な構成を誇る作品でありながら、どこか官能的な響きが湧き上がるのもフランクならではだ。約40分間、息の長い旋律の変奏と絶妙な和声の変化という魔術に酔わされる。やっぱりフランクの音楽はいいな、と思う。



演奏、というかCDについても書いておきたい。このCDはキングレコードが出しているドイツ・シャルプラッテンレコード(VEB Deutsche Schallplatten*1というレーベルのものなのだが、ドイツ・シャルプラッテン社自体はもはや存在しない。というのもドイツ・シャルプラッテンは東ドイツ唯一の国営レコード会社であって、したがって東ドイツという国家がなくなってしまった以上、その国営企業であるシャルプラッテンもなくなってしまったからだ。
そのことに関して、徳間ジャパンコミュニケーションズのプロデューサーでドイツ・シャルプラッテンを担当していた清勝也氏のインタビューがキングレコードのウェブサイトに載っており、貴重な証言となっている。

僕たちの社会では、まず売れなきゃならないでしょ。ところがドイツ・シャルプラッテンというのは東ドイツに一つしかない国営会社ですから、ライバル会社がない。売れなかったら、という発想がなかったんですね。


ドイツ・シャルプラッテンの人たちは、ディレクターもトラックの運転手さんも、よく生の音楽会に行ってたんです。全員がいつも生の音楽聴いてる。だからみんな、レコードが生の音楽の良い媒介であるという意識を持っていた。音楽が空気を通して皮膚に伝わってくる、それを全員が知ってたレコード会社。だから、ものすごく音楽がふくよかなんです。
 今回発売されるシリーズが録音された頃は、東ドイツが血気盛んだった時代でした。それが後に、ベルリンの壁が一気に崩壊して、国が消えちゃった。本当に青天の霹靂でした。ドイツ・シャルプラッテンの人たちも、統一は20年先か、それとも永遠にないか、と思ってたんじゃないかな。


セザール・フランク弦楽四重奏曲は「人気曲」では決してない。「売れない」曲かもしれない。でも、素晴らしい音楽だ。それは断言できる。

*1:VEB は Volkseigener Betrieb(英 "People-owned enterprise")。キングレコードのレーベル紹介によれば、ドイツ・シャルプラッテンは最盛期には1000人以上の従業員を要し、西側の音楽家達からも羨ましがられる優秀な制作・録音チームを抱えていたという。外貨を稼ぐトップクラスの公団として「カール・マルクス勲章」を授与されたほどだった。

マクベスは犯人じゃない! 好きな短編小説2



前回に引き続き、15編を選んでみた。

  • クルト・クーゼンベルク「秩序の必要性」(国書刊行会『壜の中の世界』)
  • グスターボ・アドルフォ・ベッケル「ミゼレレ」(岩波文庫『緑の瞳・月影』)
  • ハンス・エーリヒ・ノサック「海から来た若者」(岩波文庫『死神とのインタビュー』)
  • ジョヴァンニ・パピーニ「きみは誰なのか?」(国書刊行会『逃げてゆく鏡』)
  • マイケル・ブラムライン「器官切除と変異体再生──症例報告」(白水社『器官切除』)


とくにジェイムズ・サーバーの「マクベス殺人事件」について書いておきたい。だって、こんな抱腹絶倒の小説はなかなかお目にかかれないからだ。
ストーリーは……アガサ・クリスティの大ファンの女性が、推理小説と間違えてシェイクスピアの『マクベス』を買ってしまったのだが、他に読むものがなかったので、彼女は『マクベス』を「推理小説として」読んだ。すなわち国王を殺したのは誰なのか? 彼女は推理する──マクベスがやったとはとても考えられない、と。

「あの人が王様を殺したなんて全然考えられないわ」と相手は言った。「それからマクベスのおかみさんがグルになっているとも思えないわね。もちろん、だれでもあの夫婦が一番あやしいと思うでしょう、ところがあやしいのにかぎって絶対シロなのよ──ともかくシロであるべきなのよ」
「ぼくにはどうも、その──」
「おわかりにならない?」と、このアメリカの婦人は言った。「だって読んですぐ犯人だとわかってしまったら話はぶちこわしだわ。シェークスピアは利口よ、そんなヘマをするもんですか。あたし、前になにかで読んだけど、『ハムレット』の謎を解決した人はまだ誰もいないんですってね。そのシェークスピアが、あなた、『マクベス』を書くのにそんな見えすいた手を使ったりしないわよ」私はパイプにタバコをつかめながら、もう一度考え直した。
「犯人は誰です?」と私はいきなり切り込んだ。
「マクダフです」と彼女はズバリと答えた。






ジェイムズ・サーバーマクベス殺人事件」(鳴海四郎 訳、早川書房『虹をつかむ男』より) p.60

虹をつかむ男 (異色作家短篇集)

虹をつかむ男 (異色作家短篇集)