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アンデルシェフスキのカーネギーホール・ライブ


Live at Carnegie Hall

Live at Carnegie Hall


ポーランド出身のピアニスト、ピョートル・アンデルジェフスキー(Piotr Anderszewski、b.1969 - )のカーネギー・ホールでのライブ『Piotr Anderszewski at Carnegie Hall』を聴いた。
収録曲は、


最初に『拍手』という演奏会場における聴衆の拍手を収録したトラックがあり、最後のバルトークはアンコールである。実際の、現実に行われたコンサートの雰囲気をできるかぎり忠実に再現、アンデルシェフスキというピアニストの「ある日の」ドキュメンタリーという体裁にもなっている──こういうところは、ブリューノ・モンサンジョン/Bruno Monsaingeon と組んで映像作品を発表したアンデルシェフスキならではのこだわりだと思えてくる。
演奏も「その日の」熱気が伝わってくる素晴らしいものだった。まず、情感に訴えるロマンティックな、そしてピアニスティックな J.S.バッハの《パルティータ》。短調作品であるが、バッハの短調は喜びに満ちている──それがアンデルシェフスキの演奏によって、より一層伝わってくる。即興的に弾かれる装飾音も愉悦に満ちている。
だからバッハの後に、シューマンの活気溢れる《ウィーンの謝肉祭》になっても全然違和感がない。《謝肉祭》の奇数曲では低音が大胆に鳴らされ、とてもダイナミックな表現になっている。そして第4曲「インテルメッツォ」──この曲集のみならず、シューマンの全作品の中でも僕の大好きな曲の一つ──の暗い情熱に突き動かされたような気分が、この「やるせなさ」が、たまらない。
ヤナーチェクも気性の激しい作曲家だ。静と動が、シューマンのオイゼビウスとフロレスタンのように、一方が現れては一方が消え、また再び現れる。聴き手を慰めると思いきや、挑発する。そんな気分の変化それ自体が魅力だ。
最後はベートーヴェンの後期ソナタ。なるほど、バッハに始まった「この日の」の最後のプログラムは、フーガが組み込まれたこの曲でなければならなかった、と思わせる。しかも穏やかな第1楽章と激情的な第2楽章のコントラストは、シューマン的でありヤナーチェク的でもある。第3楽章に現れる「嘆きの歌」のやるせなさは、シューマンの「インテルメッツォ」のようにグッとくる。そして喜びに満ちたフーガ。感動的であった。
アンコールのバルトークは、前衛的な作曲家の作品というよりもメランコリックな憧憬に満ちていた。ピョートル・アンデルシェフスキはハンガリー人とポーランド人の混血であった。先にふれたモンサンジョンの映像作品『Unquiet Traveller』(『アンクワイエット・トラベラー』)*1は、アンデルシェフスキがポーランドからハンガリーへと、一つの故郷からもう一つの故郷へと列車で旅をするドキュメンタリーであった。

Piotr Anderszewski: Unquiet Traveller [DVD] [Import]

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