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2011-11-20

エコロジカル・フェミニズムについて

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大越愛子フェミニズム入門』より「エコロジカル・フェミニズム」について記しておきたい。エコロジカル・フェミニズムエコフェミニズム、Ecofeminism)とは、人間自然的なもの階層を置く近代自然観を最も先鋭に問題化にしているフェミニズム思想・運動である人間による自然支配、その構造は、男性による女性支配、その構造リンクしている──そのような認識においてエコロジーフェミニズムは接点を見いだすことになる。その先駆者としては、環境科学者エレイン・スワロ*1と『沈黙の春』の著者レイチェル・カーソンが挙げられる。

シャーリーン・スプレトナクによれば、現代のエコフェミニズムの源泉は以下の三つの線に由来している。

  1. ラディカル・フェミニズム。家父長制の女性支配は、男性原理自然支配と一体的である。したがって、女性自己解放自然との親和感の回復は同一の問題である、と。
  2. 霊的体験。女神の宗教とされる自然宗教は、人間による自然支配を肯定するユダヤキリスト教伝統とまったく異質な形態を取る。それは女性の身体感覚の覚醒、霊的自己表現運動と結びつく。
  3. 環境保護運動環境学を学ぶことを通じて、こうした領域における女性実践的な役割に目覚めていくこと。

エコロジカル・フェミニズムに特徴的なのは女性原理」という用語の使用、その位置づけである。一般的に「女性原理」は、構造主義ユング心理学で使用される用語で、多くの文化の支配原理ひとつである理性的能動的、競争である男性原理」に対して、自然的、受動的、平和的なものであると捉えられる*2

女性原理」を「男性原理」中心的二元論を補完する原理とみなすか、あるいは「男性原理」に対抗し、それを転覆する可能性をもつ原理とみなすか──後者立場立脚するのが女性原理エコフェミニズムであり、女性原理に霊的な力の源泉をみる女性神学と類縁性をもっている*3

女性霊性は、西洋的な一神教男性原理において抹殺されたか封じ込められた、異教の女性信仰起源をもつとされる。それは二元論伝統によって無化されていた、女性の身体感覚の覚醒、霊的自己表現運動と結びついている。女性神学者キャロルクライスト*4は、女神崇拝の伝統と現代女性霊性運動とのつながりについて、次のように述べている。

今日霊性をもった女神シンボルの源泉となるのは、女神礼拝伝統と、今日女性経験である古代地中海人種キリスト教以前のヨーロッパ人、アメリカ原住民、中央アメリカ人、ヒンズー教徒アフリカ人その他の伝統は、女神シンボリズムの豊かな源泉である。しかし、これらの伝統は、今日女性たちの経験を通したものであり、女神の伝統──たとえば、男性神への従属──は無視されている。古代伝統は取捨選択されているが、今日意識権威をもつとは考えられていない。女神シンボル過去数年間に、国中の多くの女性たちの夢や空想、思考の中に自然発生したのである。」

クライストによれば、女性にとっての女神シンボル重要性は、それが外的自然との一体化のみならず、女性の内的自然、つまり女のからだとその周期のイメージ生命力の復活をあらわすという点にある。父権一神教の下で抑圧されていた女性の心と身体を癒すこと(healing)、自分たちの隠れた力を発揮すること(empowerment)が、そこで提起されるのである



大越愛子フェミニズム入門』(ちくま新書) p.70-72 *5



エコロジカル・フェミニズムに対する批判

女性霊性運動による異教や先住民の女神に対する過剰な思い入れに対しては、先住民の厳しい生活現実無視した白人観念運動にすぎないという批判が提起された──それは一種のスピリチュアル・ツーリズムである、と。

また、女性自然と捉え閉鎖的なゲットー化を重ねる女性原理エコフェミニズムに対して、それは新たな従属の罠、二元論的な陥穽に陥ることだ、という批判も起きた。

日本におけるエコロジカル・フェミニズム提唱者、青木やよひは、文明化のプロセスを「自然の抑圧=身体の疎外=性の蔑視=性差別の発生」と解読、女性原理的でエコロジカルな身体論の復活──自然破壊的な生産中心原理に対して、自然宥和的な差異生産原理の復活──を唱えた。「その母性機能ゆえに、女性はみずからの身体に関心度が高く、男性よりも身体感覚に敏感たらざるをえない条件をそなえている」と*6。しかしそこに見られる女性=再生産原理とする本質主義的傾向が激しい批判に曝される。とりわけマルクス主義フェミニズム立場に立つ上野千鶴子は「女は世界を救えるか」で──”女性原理は、もしかして世界を救う〉かもしれない。しかし現実女性は、女性原理文化によって配当されてきただけであり、女性原理の枠内に封じこめられる理由もなければ、それを気負いこんで引き受ける理由もない現実の個人としての女性は、男性と同じく、それ以上偉いわけでも劣っているわけでもない。ただの男に救えなかった世界が、ただの女に救えるはずもない”*7

現実主義者上野は、女性が象徴体系の一部にすぎない「女性原理」に囲い込まれて、現実社会に数多くある女性差別問題を不問に付すことに警告を発したのである特に女性原理」が母性と結びつけられることに敏感に反応した。当時チェルノブイリ原発事故への危機感から、「子供を守る母性」の強調が反原発運動において盛り上がってきた状況もあった。



フェミニズム入門』 p.138



ディープエコロジーに対するエコフェミニストたちの警戒感

現代文明──近代人間中心主義に対する反省、そしてその反動から自然中心主義を唱えるディープエコロジーDeep ecology)の思潮が広まってきた。

現在地球環境問題は、近代以降、人間自然に対して誤った態度を取ってきたことに由来する。自然とは、近代人が考えてきたような「征服すべき対象」ではない。人間自然とはそもそも一体である自然のなかで、自然に支えられて生きる人間という、正しい世界観をわれわれが再発見することなしに、環境問題はけっして解決しない。そのためには、われわれ自身がまず変わる必要がある。われわれは見失ってきた「自然の声」、「地球の声」を聞くことのできる感受性をとりもどし、それらと呼び合うことのできるような人間へと、われわれ自身が変わってゆかねばならない。このような意識変革(自己実現)があってはじめて、真の自然保護が可能となる。この自然観は、人間中心主義ではなく、人間非中心主義(nonanthropocentrism, biocentrism)である自然に対するそのような態度を実戦するために、われわれは自分たちが住む足下の地域自然もっと真剣まなざしを向け、その地域独自の自然に即したやさしいライフスタイル模索してゆかねばならない




森岡正博ディープエコロジー派の環境哲学環境倫理学の射程」*8

エコフェミニストは、ディープエコロジストに対して、

といった点を問題化している。メアリ・メラーは述べる。「そのアンチヒューマニズムの傾向は、人々にエコロジーの問題について訴えかける適切な政治的基盤がない、ということも意味している。エコロジー的危機の責任無差別的に〈人間〉一般にあると非難することは、北の人々と南の人々、富める者と貧しいもの黒人白人男性女性に等しく責任を負わせることになる。……私たちにできることは、性、人種階級といった隠されたバイアス考慮することなのだ。」*9



今日世界で、反二元論革命の担い手は女である

エコフェミニズムに対する批判、エコフェミニズムの内部に起こっている分裂を憂慮しながらも、その自らが依拠する自然-文化という二元論を超克する地点での新たなエコフェミニズムの形成が模索されてきている。また、ヴァンダナ・シヴァ/Vandana Shiva のように第三世界エコフェミニスト提言も活発になされてきている*10

イネストラ・キング(Ynestra King)は「傷を癒す」の中で述べる*11。「エコロジカル・フェミニズムの任務は、真の反二元論的で弁証法的な実践理論の有機的形成である。これまでフェミニズムはこの問題を問わなかったからこそ、エコフェミニズムが必要なのである

ニヒリズムペシミズム、理性と歴史終焉に屈することなく、歴史に入り、真に倫理的な思想をもとうではないか──ものごとを〈である〉ではなく〈べき〉で考えて、人間を内外の自然調和させるために精神歴史を使うのである。これがエコフェミニズムの出発点だ。





[関連情報]

  • Ecofeminism: Prescribed Strategies

D


*1:エレン・スワロー/Ellen Swallow参考書籍としてロバートクラーク著『エコロジー誕生 エレン・スワローの生涯』(新評論)がある。

*2大越によれば、科学史家キャロリン・マーチャントにおいては、科学の「男性原理」的支配をとくに強調する戦略的用語として使用されており、その言葉の実体化は回避されているという。

*3キリスト教、とりわけカトリック神学における「霊性」の在り方には三つの構成要素がある──絶対者に向かう超越(あるいはその動き)、無私、受動性(絶対的なもの自分の内に生じるままにするという意味において)。増田祐志 編『カトリック神学への招き』より 

カトリック神学への招き

カトリック神学への招き

*4Carol Patrice Christ。邦訳にキャロルクライスト/ジュディス・プラスカウ編『女性解放キリスト教』(新教出版社)がある。

*5

フェミニズム入門 (ちくま新書 (062))

フェミニズム入門 (ちくま新書 (062))

*6青木やよひ「女性性と身体のエコロジー」(『フェミニズム宇宙』所収) http://www.amazon.co.jp/dp/B000J7908M/

*7

女は世界を救えるか

女は世界を救えるか

*8http://www.lifestudies.org/jp/deep02.htm 
PDF http://www.journalarchive.jst.go.jp/jnlpdf.php?cdjournal=kisoron1954&cdvol=21&noissue=2&startpage=85&lang=ja

*9:『境界線を破る! エコ・フェミ社会主義に向かって』

*10:『生きる喜び イデオロギーとしての近代科学批判』

*11

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