融けた鉄に磁石を近づけるとどうなるのですか?気になって仕事に集中できません、助けて。

アンケート はてな 融けた鉄に磁石を近づけるとどうなるのですか?
結局磁石につくのか、つかないのか分からないまま質問終了なので、id:kanata_ailさんは仕事に集中できるのか心配で心配で仕方ありません。ジョンブル(英国紳士)は人のお節介を焼くものではないのですが*1、少々金属工学を齧った身なので自身の向上の意も含めて考察してみたい。

さて、金属工学を齧った身なのに実際のところ溶融した鉄が磁石につくのかわからない。公開されている回答を見ても素人ばかりが答えているようで決定打が無い。唯一KAGAKUDOJIN BOOKS ELLにおける山崎昶先生の回答が専門的な答だが、そもそも、強磁性、常時性にキュリー温度と専門過ぎて素人には良く分からない。実際私も直感的に納得できない。本来は実験をするのが分かりやすいのだが、溶鉱炉にでも行かないと不可能+危険というわけで今回は思考実験をしてみよう。

そもそも何故鉄は磁石につくのか?
磁石で鉄製のクリップを擦るとクリップが磁石になり、他の磁石とくっつくようになります。つまり、磁石で鉄を磁石にすることが出来るのですがこれこそが鉄が磁石につく理由です。つまり磁石により鉄が磁石になり(磁化され)磁石にくっつのです。では、より根源的に磁石とは何なのか?
電磁気学という学問の名前が示すように、電気と磁気は密接な関係があります。電気は電子(-)や陽子(+)などの粒子に由来します。対して磁気は電気にような粒子は存在せず*2電荷の流れによって発生する力です。原理的にはコイルを巻き付けた電磁石と同じで、永久磁石は電子が原子核内を回転することで磁性が発生します*3。この回転方向をスピンの向きと言い、スピンの向きが原子の磁石の向きつまりN極、S極の向きに相当します。通常の物質はスピンの向きを打ち消しあうように電子が配列しますが、鉄はスピンが打ち消されずに余ったスピンが存在するため、原子そのものが磁石となります。通常鉄は原子の向きがバラバラに配列しているので磁石になっていませんが、磁石を近づけるとその原子の向きが揃う為(磁化する)自らが磁石となり(自発磁化し)磁石にくっつくのです。このような性質を強磁性と言います。
鉄はキュリー点である770℃以上になると熱振動でスピンの向きが保てなくなり、自発的に磁化することが出来なくなります。つまり常磁性体になります。鉄の融点は約1540℃なので、融解した液体の鉄は常磁性体です。常磁性体はスピンがバラバラに配列していて、自発的にスピンを配列することが出来ないので磁石になる事はできませんが、磁石を近づけると弱く磁化するので非常に弱い力で磁石に引き寄せられます。例えば、常磁性体である液体酸素(約-180℃以下)は磁石に引き寄せられます。しかし、これは極低温であるため液体であってもスピンが揃うため磁石に引き寄せられるのです。液体の鉄は1540℃と非常に高温なので、磁石を近づけて一部分が磁化したとしても熱振動の影響が遥かに大きいために磁石にはつかないと考えられます。熱振動の影響が非常に大きいため鉄原子数個分だけ盛り上がるという事もないでしょう。
というわけで、実際に実験したわけではないですが液体の鉄では原子の磁石であるスピンの向きが保てないほど熱振動しているので磁石にはくっつかないが正解だと思います!id:kanata_ailさん。

と今回は、ありえないほど真剣に答えました

*1:例えば、ジョンブルが鞄を持たないのは鞄持ちの仕事を奪うお節介だから

*2:磁気単極子、所謂モノポールは理論的には存在すると考えられているが観測はされていない

*3:地球の公転のようなイメージで良いが厳密には違う